ルドウ

なぁ恋

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出逢い編

恋②

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***

*凌児side*


「さっむ―――――!!!!」

病院の屋上で、美剣が叫ぶ。

「風が強いな」

しれっと言いながら、ルドウは、俺を引き寄せる。
美剣よりは、温かい。

「何で屋上なんだよ」

体を震わせる。彼を見ていて気の毒になってきた。

「邪魔するから……」

呟いたルドウの言葉に、思わず吹き出してしまった。

「意地悪、のつもりなんだ?」

そんな事するなんて。

「まぁ、いいや。
伝言。預かってるんだ……」

肩をすくめ、美剣は自分で体を抱くと、

「尾崎から、転院するって」
「転院?」

聞き直すルドウに、

「北海道に行くそうだ」
「どうして?」

肩を抱く腕に力が入る。

「あっちに土地を持ってるそうだよ。
……実はさ、今回のおにぃの家や、パチンコ屋の事件で、変な動きをする奴等がいてさ」

フェンス際のベンチに座り、

「昔の、昔の事件。
放火殺人の事、掘り起こそうとしてるみたいなんだ。
新聞記者だか、雑誌記者だか知らないけどさ」

寂しい表情。

「おにぃの為なんだよ」
「……いつ?」
「うん。
一週間もないかな?」

あんな事をされたけど、何だか憎めない二人。

寂しい、と思う気持ちがある。
ルドウは、特にそうなんじゃないかな?

「あぁ、寂しいな」

答える様にルドウが呟く。

「寂しいな……」

美剣も、頭を抱えて下向く。
重い雰囲気。
風に煽られる洗濯物の音が、大きく聞こえ、遠くの空で、鳥の泣き声が響いて来る。

「なぁに、揃って暗い顔してんのさ」

澄んだ凛とした声。
おにぃが、洗濯カゴを持って立っていた。

「北海道に行くって?」

思わず口を開いてた。

「うん。行くよ」

にこやかにほほ笑みながら、洗濯を干して行く。

「……寂しい?」

訊かれて、

「「寂しいよ」」

答えたのは、俺と美剣。
声が重なってしまった。

「ぷっ……ありがとね。
あんた達は、昔はそんな感じで、とても仲良かったよねぇ
覚えてるか、知らないけど」

そう、ほとんどを、一緒に過ごしてた。
おにぃが、俺達を優しく見守って居る。
そんな感じで、よく三人でいた。
懐かしい、柔らかな想い出。

良い想い出は無くならないんだな。



*龍side*


坊主に近い短くなった髪。
変わらない綺麗な顔。

好きだったな。

太陽光に照らされて……
いや、凌児に照らされてルドウは幸せそうに見える。

でも。

「ルドウ……」

呼ぶと、すんなりとこちらに来る。

凌児は直人の横に座って話し出す。
想い出話しを―――

シーツの影に連れて行き、

「解ってる?」

それだけで通じる。
頷くルドウは、

「今だけかもしれない」

きっぱりと言う。

「そうだよ。
凌児は、ただ流されているだけかもしれない……」
   
彼は、とは違う。
同性が好きな訳じゃない。
まだ、恋愛に無知なだけ。

「流されるままに、彼を抱いてはイケない」
「……離したくはない」

切なく眉根を寄せる彼の本音。

「そうだね」

人の心は、思い通りにならないモノだから……難しい。

僕は、僕はルドウを通して、自分を愛してた。

「俺も、そうかもな」
「不器用同士」
「似た者同士」

顔を見合わせて笑う。

「……“炎”を、連れてった?」

フェンスに体を預けた、ルドウが、指を鳴らす。

―――小さい炎が指先で揺れる。

「吸収したらしい」

出来た炎を握り潰す。

「ありがとう……」

心底安心し、自然と浮かぶ笑み。

「今からの北海道は寒いな」
「リンと居るから、温かいよ」

本当に、
「戸籍上は親子だけど、僕たちは……」
結婚したのと同じ。

「リンを頼むな」

こちらを見ながらルドウが頭を下げる。

「なら、直人を頼むね……彼は、ちゃんと愛されてるから。
美剣の祖父は、頑固にも見えるけど、僕に謝ってくれたんだ……」

空を見上げて、

「でも、直人を守る為に、悪役を買って出てくれた」

殺人者の兄を持つ幼子。
当時は、新聞記者やテレビ局で酷い取り上げ方をされた。
だから、僕から遠ざけた。

それから一年後。

祖父の計らいで時々を直人と過す事が出来た。

「皆優しい……
ひねくれてたのは、僕だけ」

リンから注がれる愛情を失くしたくなくて、独り善がりで暴走した。

“愛情”を知らずに育ったから、どうすれば良いのか解らなくて、“負”の感情は、中々抜け出せず。
疑心暗鬼に捕らわれるまま自分の内に“能力”をみつけ爆発させた。

結果が、リンの眼。
 
「僕の視力を上げてよ……ルドウなら出来るんじゃない?」
「……いや、それは無理だ」

表面の傷は治せない。
火傷の痕は治せず、切り傷は止血なら出来る。

まだ、探れば出来る事があるのではないか?
手にした“龍の炎”も、不思議に心地良く。

でも、“俺は何者なのか?”
今更ながら、頭を過ぎる疑問―――

一層強く風が舞う。

「寒い――中に入ろう!」

凌児の声が合図となって院内に入る。


***


もう一度、リンを“診る”目を重点的に。

「薫……良いんだ。もう……」

リンが手を取り制する。

「見える方が良い」
「……お前の寿命を縮めているみたいで嫌なんだ」

思わぬ事を言われる。

「命を削っている訳じゃないから、安心して委ねて欲しい」

本当の事。
右手を目の前に、左手を頭の後ろに。

探る。
深く―――

そうか。左の光を、すべて右側に。

「熱い……」

リンが呟く。

「出来たと思う。目を開けて」

ゆっくりと目を開く。

「……見える」
「左は、完全に失明した事になる」

頭を深く下げながら

「ありがとう」

リンは、何度もお礼を口にする。

「……俺の方が、礼を言わないとならない。
あの時、リンが居たから正気を保てた。
リンが愛情を与えてくれたから、人を愛する事が出来るんだ」

それは、ココロの底に根付いたモノ。
だからこんなにも、
凌児を愛しいと想えるんだ。

「ありがとう、リン」

とびっきりの笑顔を貴方に。
安心した様に笑みを返すリン。

「今、幸せか?」

リンの言葉に、

「あぁ、幸せだよ」

心底から思う。

凌児が居る。俺の傍に。

凌児を愛している。
彼に愛されている。

……それが、凌児の一時の気の迷いだとしても、手放すつもりはない。

彼は、俺のモノ。

愛する気持ちは優しいのに、
彼を求めるココロは、獣の様に貪欲で、
きっと―――

「苦しそうな顔をしているぞ」

きっと、

「不安なんだよ」
「それが、恋するって事だ」

きっと。
傷付けてしまう。

求め過ぎて、
俺の手から、逃げてしまうかもしれない。

「……それが、恋をしてるって事だ。
俺だっていつも不安だ。そして卑怯だ。
龍を手放せないから、連れて行く。
誰も、知人の居ない場所へ」

人を想う気持ちは厄介で、それでいて、止められない。

皆、そうなのだろうか?
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