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出逢い編
狂③
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*リンside*
白い肌に、その傷跡は炎が燃え上がる様なカタチを成している。
無数に燃ゆる炎。
触れると、火傷をしそうな程に激しく、そのココロの内を現している様な傷跡。
火龍。
「……龍」
傍らで眠って居る愛し子の背中の傷跡にそって唇を這わす。
「んッ……」
龍が、悩ましい声を上げ始め、
「ル……ドウ」
名を呼ぶのは、彼の想い人。
それでも良い。
代わりでも、
この腕に抱けるなら。
「龍。愛している」
「ん?」
唇を塞ぎ、抱きしめる。
「……ぁん。リン?」
目を覚ました龍は、どこか冷めた瞳をして、
「また、寝込みを襲うの?」
離れて行く体。
「ボクに触れて良いのは、ボクが許した時だけ」
ベッドから出て、月の光りが入る窓辺へ立つ。
龍。
愛している。
狂いそうな程に―――。
窓を開け、
「ボクは誰のモノでもない……ボクは、ボクだけのモノ……」
呟いて、
その“炎の裸体”が、月光に照らし出される。
「……綺麗だ」
満月は、龍の美しさを照らし、俺を惑わす。
こんなに近くに居るのに、手に入らない。
「お前が望むなら、何でもしてやる」
哀願する。
龍は、優しく、冷たい瞳でほほ笑み。
「なら、連れて来てよ。ボクの前に“盗人”を……」
言いながら、傷付いた細い指を差し出して来た。
狂っても良い!
お前の為ならば、
俺は“罪人”になっても構わないんだ。
***
*ルドウside*
気を抜いていた。
学校で“ココロ”は閉じていたから、
「一ツ橋、家から電話だ」
授業中に先生からの呼び出し。
「はい」
一人で良いと、制され素直に引き下がった。
それから、授業が終わっても凌児は帰っては来ず、不安が頭をよぎる。
職員室に行く。
「一ツ橋なら、帰ったぞ。兄さんが事故にあったとかで、迎えが来たんだ」
嫌な……予感がする。
「どんな奴でした?」
先生を“視る”
アイツ。
尾崎 倫太郎!
凌児を連れて行ったのは、アイツか!
踵をかえし、美剣のクラスに行く、
「美剣!! 尾崎の家、知ってるか?」
「どうした?」
クラスがざわつく。
足早に美剣が近寄り、耳元で、
「凌児がさらわれた」
伝えると、
「俺も行く」
そのまま、二人で学校を抜け出した。
嫌な予感がする。
タクシーに乗り、尾崎の家まで行く。
家、と言うよりは、マンションの一室の事務所で。
「俺が知ってるのはここだけなんだ」
すまなそうに頭をうなだれた美剣を一瞥し、ドアを蹴破る。
ガラスの割れる音だけが響いた。
土足で室内に入る。
乱雑な室内。
その中でも、整理されている机に近寄り、重なって置いてある写真を見つけた。
俺と凌児の戯れている姿。
自分が、こんな風に笑えてたのかと驚いた。
写真の凌児を指でなぞる。
胸の辺りが、痛い。
アイツに、何かあったら……。
俺は耐えられない。
龍が、何かしたとしたら。
きっと、許せない。
思い切り机を叩き、気持ちを発散させ、
「龍の所へ行く」
噛み締めた唇が切れ、口内に広がる鉄の味。
“ココロ”が、ざわつく。
美剣が、顔をしかめている。
「すまん。“ココロ”を抑えるのが難しい。俺の近くに居たら、ヤバいかもしれない……」
「この頭痛が? ……そんな事も出来るのか?」
懺悔かもしれない。
「俺のこの“力”が、凌児の母親を殺したんだ。もし、もしも、凌児に何かあったとしたなら……」
それが、龍だとしても、
「俺は……また、殺してしまう」
握る拳は、震えが止まらず。
それは“怒り”の為なのか。
自分に対する“恐怖”から来るのか。
判らない。
***
*凌児side*
暗い……?
ここは、どこだろ?
軽い頭痛がして、手足に違和感を感じる。
目隠しをされているとすぐには判らなかった。
手足は、縛られている感覚。
何が、あった?
学校。
電話。
兄貴の事故。
迎え。
見知らぬ男に着いて行った自分。
情けない。
ルドウは、危険を警告していた。
なのに簡単に騙されて時間も判らない。
ここが、どこなのかも……。
身を起こすと、乾いた空気に、響く音。
大きな場所に、居るのは判る。
「静かにしていろ」
不意に声が聞こえて驚いた。
「誰?」
それが誰かは分かる気がする。
「尾崎……?」
近付く足音が聞こえて来て、目隠しを取られる。
光が眩しくて、一度、目を瞑り尾崎を見る。
「知っていたのか?
あぁそうか。同じ中学に龍の弟が居たな」
タバコに火を点けながら、ぼんやりと言う。
体勢を正し、壁に寄り掛かり座る。
手は後ろに縛られていた。
「どうなってる?」
「……………」
尾崎は答えない。
タバコを咥えたまま、じっとこちらを見ている。
「俺を……どうするつもり?」
ギィッと、扉が開く音。
「さあ、どうしようかな?」
高い靴音と共に、おにぃが現れた。
「おにぃ……」
「凌くん。びっくりしたよぉ。まさか君が盗人だったなんてさぁ」
柔らかい顔つきで、指を伸ばして頬に触れられる。
親指で唇をなぞられ、
「! ッつぅ」
唇を引っ掻かれ、その部分が、熱く、ジンとする。
反射的に舌先で舐めると鉄の味がした。
「なんで……おにぃ?」
見上げて、見えた彼の顔は、
ほほ笑んでいる、けれど、冷たい瞳で、身震いがした。
思わず、恐怖を感じてしまう瞳。
視線。
「あんなに、可愛がってやったのにね。ボクのモノを盗るなんて」
口元に、ほほ笑みを浮かべたまま、
「リン。ありがと」
冷たい瞳のまま、振り返り彼に近付き、口付けた。
「……ん…」
ただ、濡れた音だけが響いて、顔を背けるしかなかった。
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