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出逢い編
想と光
しおりを挟む* 想 *
*ルドウside*
巡り合えた奇跡は偶然?
それとも必然?
惹かれ合うのは当然で、
触れ合うのは自然な事?
“憎む”のが本当なんだろう。
あの光景は消える事のない、俺の“悪夢”だ。
その息子は、本人は気付いていないのだろう。
ずっと、俺の事を“想って”いた。
それは“恋”に似ている。
あの“鈴の音”は、俺への“想い”の現れと気付いた。
だから“心地良い”
俺に向けられた、俺だけの“音”
こんなに、強い想いを寄せられたのは初めてで……憎めない。
それどころか、このまま行くと離れられなくなる。
それが分かるだけに……。
「……ん。ルドウ、まだ起きてるの?」
上半身を起こし、龍が目をこする。
「眠れないだけだ」
唇に触れるだけのキスをしてやる。
「まだ足りない?」
俺より年上の龍は、そうは感じない程、幼い笑顔を向けて来た。
「お前が、し足りないんだろう? 素直に言えば良い」
起き上がり、覆い被さる。
「ルドウは、ズルいよ―――」
そうだ。俺はズルい人間だ。
俺を“必要”としてくれるなら、誰でも良い。
夢中にさせて、離さない。
始めは拳で“仲間”を作り、今は“躰”で龍を繋ぎ留め。
これからは……。
凌児。
近付くなら覚悟する事だ。
***
*凌児side*
シャワーを浴びる為に、服を脱ぐ。
鏡に映る体。
小さい体。
160cmに満たない背丈。
体重も50キロもない。
胸に痣がうっすらと浮かび上がっていた。
ルドウがつけた痕。
触れてみる。
「痛い」
あれだけのスピードで体当たりされたら、痣も出来るだろう。
躊躇なく、飛び込んで来た。
まるで、俺を待ってたみたいに。
温かいお湯を頭から浴びる。
いつも独り。独りで居た。
寂しい?
小さい頃から、いつも独り。
泣くのを諦め、話すのを諦め。
ただ、毎日を生きて居た。
それは無意味に過ごす日々で、本当に生きて居るのか解らなくなる事もあった。
その中で、見つけた。
ルドウ。
俺だけの“白い光”
頭からかかる湯が、ルドウに触れられた唇を流れ落ちる。
初めてだった。
あんな風に、人から触れられたのは……。
あんな事になったのも。
思い出し、頬が熱くなる。
ルドウ。
彼の存在は、俺にとって何だろう?
火照る体は、湯のせいなのか、それともルドウのせいなのか?
これからを想像する事も出来なくて。
***
* 光 *
光りの様に輝いている。
そんな人間が居るなんて、想像もしていなかった。
花が光りを求める様に、惹かれる気持ちを抑えられない。
いつもの時間に目覚め、いつもの様に用意をする。
昨夜の事は、まるで夢の様に感じられて……でも、確かにあった事。
体のダルさは、胸の痛みのせい?
昨夜あの窓は開けておいた。
いつでも、帰って来れる様に。
鍵を持っているのだから、関係ないんだろうけど。
あの光景は、忘れられるモノじゃない。
美しい“白い光”あの白い髪は……。
目を瞑り、自分の体を抱く。
昨夜の余韻が、ココロに残っている。
大きく息を吸い、下に降りる。
台所から良いにおいがする。
朝、家政婦さんは居ない筈?
扉を開けて驚いた。
ルドウがイスに座っていた。
テーブルには朝食が並べられて居る。
「おはよう。凌児」
名前を呼ばれ、やっと現実なんだと理解出来、視線を向ける。
白い光。
「おはよう。ルドウ」
それが当たり前の様に席につき、用意された食事を食べる。
「今日から学校へ行けるのか?」
ルドウの声。
昨夜の事を思い出し、頬が熱くなる。
「いつでも行ける様に手配してある。俺と同じ、クラスになってる」
彼には、説明なんてしなくても、すべてを知っている様で。
口を紡ぐ。
「直接声を聞きたいんだけど。それとも、ココロに触れて欲しい?」
飲んでいた珈琲を詰まらせ、むせる。
「ゴホッ……止めろ!」
涙目になりながら、やっとの事で言う。
ルドウは、澄ました顔をして、珈琲を飲んでいる。
「―――っもう!」
立ち上がり、差し出されたタオルで濡れた制服を拭く。
ルドウは笑っていた。
小さい声で、肩を震わせて。
何だか、それだけで嬉しくて。
「制服はまだ用意してないけど。今日から、行く?」
「お前が望むなら」
ほほ笑みながら答えたルドウに、ココロが震えた。
男女共学の、
私立「海里中学校」
朝からずっと、クラスがざわついている。
白い長髪の転入生。
容姿端麗。
私服。
体も大きいので、とても目立った。
「まるで珍獣扱いだ」
どこか不機嫌なルドウが呟く。
「う~ん」
いきなり学校へ、は、辛かったかな?
「興味があったからな。だが、痛いな。この感情の渦は……」
イスに座り、長い足を投げ出す様に机に乗せて頭を反らし、伸びをする。
まだ二時間目も始まらない。短い休憩時間の一コマ。
授業開始のチャイムが鳴る。
「英語だ」
俺の呟きに、
「当てられたら、凌児が教えてくれ」
俺の後ろの席から、静かにささやいた。
だから、その声は止めて欲しい。
知らず赤くなる顔。
……教えるって?!
ココロを読むって事かっ!
さらに熱くなる顔。
あの感覚は、ダメだっ!
何て考えている内に、授業は進んでいて、
「留道くん、転入早々だが、読んで貰えるかな?」
本当に、当たってしまった。
教科書を片手に持ち、皆に習って立ち上がる。
ちらりと、視線を寄越すルドウにドギマギしながら、ココロで読み上げる。
それを完璧に、声に出し朗読する。
皆が、先生まで、うっとりとした顔をして、
「先生、もういいですか?」
ルドウが自分で止め、言われる前に座り直す。
あぁ……疲れた。
でも、これってカンニングって言わないか?
こんな事毎回出来ない!
これから特訓だ。
密かに決意する。
密かに出来ないのがルドウとのやり取りで、
「心配するな。一通りの勉強なら、龍に教えて貰ってる」
だから。
“龍”って、誰だろう?
と、思いつつ、なら、今のは―――からかわれてただけ?
今度は違った意味で、顔が熱くなった。
また、ルドウの小さな笑い声を感じ、ふわりとした優しい気持ちになった。
昼食後の授業は体育で。
ルドウは、長い髪を前髪からすべて後ろにやり簡単に結ぶ。
はっきりと顔が見え、ドギマギする。
てか、皆がそんな感じで見ていた。
ルドウと目が合い、ウィンクされて……後ろで女子の黄色い声が響いた。
体育館で、バスケ。
男女に別れ、さらに2チームになり、試合をする。
俺は、ルドウとは別のチームになった。
ルドウの動きは無駄がなく、Tシャツ越しからでも、筋肉の動きが見える程鍛えてあった。
正直、同じ年には見えない。
見とれて惚けていた。
「凌児!」
見つめてたルドウに名前を呼ばれ意識を自分に戻すと、目の前に影。
ガンッ!
思いっきり顔面にボールを受けて、しりもちをついた。
驚いた。
「大丈夫か?」
駆け寄って来たルドウが、手を引いて立たせてくれた。
「見とれてるから」
にっと、自分だけに向けられた笑顔に頬が熱くなる。
何でこんなに意識してしまうのか。
じん。と熱くなる鼻。
「あ。……鼻血」
ルドウが、また声を上げて笑った。
驚いた。
嬉しくて、こんなに笑ってくれるなら、痛いのもどっかに飛んでった。
「覚えるのに丁度良い。二人で保健室に行ってこい」
先生の一声で、怪我人兼案内役に。
ポタ。と鼻血が床に落ちる。
鼻血って結構大袈裟に出るもので、
ルドウがTシャツを脱ぎ俺の顔に当てる。
何だか周りの声がするけれど。
ルドウのニオイがするシャツに、意識が行ってた。
だから、何で、いつも考えてしまうんだか。
保健室。
先生は居ず、
「鼻血何て勝手に止まるもんだから。ほっとけば良いよ。
ただの場所案内になっちゃったな」
とルドウを見て、言葉を飲み込んでしまった。
シャツを脱いだ裸体の上半身、
……反則だぁ。
絶対。同じ年の体付きじゃない。
胸筋に、腹筋割れてるし。肩から腕の、ムダのない筋肉美。
「筋トレが趣味だから」
とほほ笑みながら、何故かドアを閉めカギまでかけた。
「えーと……。先生も居ないしさ。皆のトコ帰ろ?」
「まだ」
言いながら俺の肩に手をかけ、握ってたシャツを取られた。
そして、顔を上向かせられる。
「止まったか?」
顎に掛けられた手に、顔を左右動かされ、鼻を覗いて来た。
「もう平気だって!」
顔が近過ぎる。
胸を押すが、ビクともしない。
思わず目を閉じる。
「……?」
何も起こらない。
「誰だ?」
俺を離そうとせず、カーテンを引いてあるベッドの一つを睨みながら、ルドウが訊く。
「ちぇッ。野郎同士のラブシーンが見れると思ったのに」
カーテンを開け、出て来たのは、
「美剣……」
美剣 直人
隣りのクラス。
幼馴染みで、俺に事件を教えてくれた奴。
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