河童様

なぁ恋

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龍牙咆哮

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*優良side*

参った。
余りの初々しさに黙って見ていたが、一気に上昇した優星の魂の輝きが大雷、白龍を引き寄せ様とした。

咄嗟に優星を土火つちびで包み、その魂の気配を消した。
何をも寄せ付けぬ結界を施した離れも、内に居る者が呼んでしまえば意味を成さない。

『響夜 龍羽。イザナミの血に最も近い龍よ』

「はい。イザナミ様」

イザナミの魂の言霊に触れた龍が、膝をつき頭を下げた。

「あぁ、すまない」

言霊を解いて龍を見る。

「白龍が優星の魂に気付いた」

驚いた龍が立ち上がり、拳を握る。

「龍道が開いたのですか?!」

「顔を覗かす程度にな。
奴は優星に固執している」

魂を捕え、その魂との繋がりを持った。

「奴らは、イザナミの血肉を喰ろうて生きて居た。
それは糧でもあり、奴らの愛情表現でもあった。
一度捕えた魂の、その味わいを知れば、簡単に手放す事はしないだろう」

血肉を喰らう事を、魂をしゃぶる事に置き換えた。
躰の仕組みが変われば、食事の取り方も、愛情表現も変わる。
 
 
 
その愛情表現が度を超すと命を落とす事になりかねない。
龍の母親の様に微量の力を持つ者には対抗出来なかった。
だが、だからこそ龍羽は誕生出来たのだが……。

目の前の土火に包まれた優星を見る。

結界の中に更に結界を張った状態。
そうする事で魂の輝きを押さえ込んだ。

その土火に包まれた優星が切ない顔をする。

文字通り外界と隔たれた空間で、優星の目に姿は見えるが耳に声は届かない。

だが、そうでもしなければ優星の輝きは隠せなかった。

予想通り白龍の気配は消えた。


優太が襖の隙間から外を見る。

「確かに、龍道が開きかけたみたいだね」

彼の座敷わらしの右から情報を得て答え、それは確かなものとなる。

「右くんは大丈夫なの?」
優月が不安げな表情を浮かべる。
優しい子だ。

菊理媛。
ゆうつき。
優月。

魂のそう言ったものの本質は変わらない。
一度愛した者をずっと愛し続けるのも。

「大丈夫。座敷わらしはかくれんぼが得意なの」

璃世が微笑み安心させる。 
 
 
「俺は、気付けなかった……優星を危険にさらしてしまった」

龍は悄気てしまいうなだれた。

「仕方がない。求婚している最中で、こうなる事は予測出来なかった。
そちらに集中していて気付けなかった。私でさえ直前まで判らなかったのだから」
 

龍は頷き、土火を、その中の優星を見て無言で手を伸ばす。
土火はあくまで結界の一つ、優星が望み、呼ぶならその手を取る事は可能で、もちろんその通りになった。
 
互いに想い合う事がどんなに素敵で残酷な事か私は知って居る。

土色の炎は揺れて二人を包み込んだ。
土火の中で二人は手を取り合い、抱き締め合う。

“愛の絆”を、今も昔も私は誰よりも求めて居る。

「白龍を倒す事が出来るのか?」

不意に声を上げた者を見る。
浅黒い肌を持つ若者。
地下で目覚めた時に、ぼんやりと見た記憶がある。
新しい者の一人。

「名は?」
訊くと、黄色に輝く瞳がこちらを見た。
何故か顔を赤らめた若者が、頭上の可愛らしい耳を小さく揺らして頭を下げた。

「クロス。化け猫です」

 
 
 
*優星side*


「龍羽くん!」

何も聞こえない不安に押し潰されそうになった時、龍羽くんが手を伸ばして来た。その手を取ると、一瞬炎が割れて、龍羽くんが中に入って来た。

「龍羽くん!」

再度呼ぶと、笑みを浮かべた彼が私の体を優しく包んだ。

「心配しなくて良い」

その言葉に、龍羽くんに抱き締められて居る事に安堵し、ほう。と、溜め息を吐く。

「優星を、白龍が見付けたんだ。だから隠す必要があった」

ゆっくりと体が離れて、そして、目線が合った。

「隠す?」

頷いた龍羽くんが更に続ける。

「優星は今でも奴の“龍珠”なんだ。だから、優星を……」

一旦言葉を切った龍羽くんが、泣きそうな顔をした。

「……捕まえられたら、二度とは戻れないかもしれない」

言われた事の意味を理解するのに時間は掛からなかった。

「私は貴方のルージュよ。他の誰かのものじゃない」

私の意思はあるのだ。
それに、どの道こちらから出向かなければならない。

「龍羽くんのお母さんを助けなくちゃ!」
 
私の代わりに捕まってしまったあの人を、解放してあげたい。
 
 
 
だから、見付かるも何も、出向くのだから関係ない。

「行こう!」
「どこへ?」
「神社」

驚いたの顔した龍羽くんが、正気か? と訊く。

「お母さんを、助けなくちゃ」
「それは……」

難しい顔をした龍羽くん。

彼の表情がくるくると変わる。
それに気付いて、笑みが零れた。

また、私の顔見て戸惑う龍羽くん。

「大丈夫だよ。私は貴方が居れば無敵なのよ!」

宣言し、キスを贈る。

「これは、誓いのキス。花嫁のキス」

龍羽くんが目を瞬き、笑顔になる。

学校で、初めて彼を見た時、人形の様に無表情だった。
周りが近寄り難い程に冷たいオーラを放ってた。

今ならその理由は解る。
優しい人だから、誰も巻き込みたくなかったのね。

龍羽くんの胸に額を当てる。
温かい鼓動と、力の波動。
それらが私を包み込む。

彼は私の力の源。
愛の塊。
生きる理由。

私の命。
私の全て。

力が身体を満たす。
私は、ルージュ。
 
 
 
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