河童様

なぁ恋

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各々個の真面目

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人界。妖界。冥界。

それらを隔てる最初の壁を造ったのは隠れ神の小さな良心と泉守道者の命をした願いの賜物。

それぞれの、
各々の、
個々の、

そのもののもつ本来の姿と力。

本当の“真面目しんめんもく”とは、何で在るのか?
 
 
 
 
*********
 
 
 
*朗side* 


視界が明ける。
途端に身体中脱力感に見舞われた。

ここは、離れの部屋。
徐々に感覚が戻って来た。

自分は何者で、
自分は誰か?


疑問にも思ってなかった事。
思う筈もなかった事。


「ここ、は?」
聞こえた声は、優月の声。

現在いまだ」
答えて、こちらを見る優月の視線とぶつかる。

「朗」
      ...
この響きは、私の事を呼んで居ると解った。


泉守道者。
閻魔。
河童。


自分が辿った“生の軌跡”。

その中には、必ず優月が居た。


男だとか女だとか関係なく、優月と言う存在、その魂を愛おしく想って居たんだと、だからこんなにも惹かれたのだと理解した。

生まれた意味は、優月に逢う為だったのだと。


「私はずっと、優月を求めて居た」

確かめる様に口にした。

それが確かなる真実だと、言葉にすると更に理解出来た。

言えずに終わり。
求める想いに性急過ぎて傷付け、擦れ違いを重ねた結果が、現在の関係。
 
 
魂の記憶の全てが自分。

過去も現在も……未来。これからの未来も、それら全てが私のもの。

目の前に佇む優月。

藍色に輝く星屑の光る黒い両眼は、瞬きもせず私を見つめて居る。

知らず、伸びる手が、互いに伸ばしていた手が触れた。
触れて躰を寄せ、互いを抱き締め合う。

「僕は、きっと恐かったんだ」
優月が、胸に顔を擦り付ける。
その躰から立ち上る、桃の匂い。
それは自分自身からも発せられて居た。


「本当に悪いのは私」
優良が静かに口を開いた。
「愛しい者を呪った私」


その姿は河童。
けれども、魂の輝きはイザナミの強さが滲み出て、仄かに輝いて居た。

「閻魔帖は私の想いの、力の詰まった書。
その歴史を視た。
私の知らぬところはその時々の者の記憶が付け足されたのだろう」

菊理媛で在る優月。
泉守道者で在る私。
その記憶と想いが触発されたと解る。

私の理解に、小さく頷いた優良が更に続ける。

「やり直させたかった。菊理媛の、優月との約束を叶え、幸せになって欲しかった」

だが、と、私と同じ瞳をキツく閉じた優良が「すまない」と頭を下げた。
 
 
 
*優良side*
 

こちらを見る皆の視線に、全てを語る覚悟を決め、口を開く。

「最初の輪廻は、“私”と“ゆうつき”が融合したままの転生となった」

主体はゆうつきで在り、気付いてからは大人しく眠りについて居た。
それがゆうつきが“生け贄”となり、あの世、冥界への道筋に着いた時、私は目覚めた。

冥界と現世(人界)との狭間で“地獄”を肌に感じた時、警告と危険を読み取った。
私が居た“黄泉の国”現名を“地獄”そこから立ち上る異質な空気。
... .
あちらも私の存在に気付き、捕らえ様と餓鬼を寄越した。

力は有ったがゆうつきでは上手く使えない為、本当にあの時は危うく、ダメだと諦め覚悟した時、颯爽と現れたのが、閻魔の朗。

その魂の輝きに“泉守道者”を見、それに“ヒルコ”の気配も感じた。

何よりも、ゆうつき、菊理媛の魂が反応したのだ。
泉守道者の魂も、痛い程に惹かれ合う魂の“愛”を感じた。
 
 
あの時、閻魔の力で一度は逃れた。
けれども、気付かれた事で、不安な気持ちは拭えず、現に、地獄の追跡は人界へ向かう二人の後を着いて来た。

だが、壁に締め出され、追跡者もそこで留まった。

閻魔の朗は、力の籠もった壁を潜り抜け、その躰を変えた。
隙間の出来た壁はそこからひび割れ、追跡者の侵入を容易に許した。

その不穏な空気を、持って居ない筈の肌で感じ、焦りが生じた。

そうして“力”を求めるが故に、また、ゆうつきと朗の気持ちを利用し“優良”を、私の“器”を産み出させた。

「それが、混血の産まれた理由」

その時の追跡者は、イザナミの子どもの雷の一人。

それら雷の兄弟は天を走り、大地を震わせ壁を崩して行った。

人界と妖界とが交差した瞬間。

百鬼夜行がはびこる時代を引き起こした原因。

生まれ落ちた優良は、力を付けるまでに成長し、その力の詰まった躰を賭して先に泉守道者の造った壁を造り直した。
 
 
*優月side*
 

僕“ゆうつき”が産み落とした娘。

優良。


あの時、朗との間に生まれた命を僕は恐ろしく感じた。
意味もなく恐ろしくて、でも愛おしくて……。

「優月」
..   .
現在いまの僕を呼ぶ朗の声に、面を上げた。

その星屑輝く綺麗な瞳は、真っ直ぐに僕を見てくれる。

頭を掠めたのは、ただ謝って居た事。
そして、閻魔の朗から離れた自分。

朗の体に縋りつく。
離れまいと必死になって……。

「大丈夫だ」

朗の包み込む様な優しい声と手は、僕を安心させた。

共有する二人の記憶。


「私はもう、優月がどう言おうと離れるつもりはない」
.... .
ゆうつきと朗みたいには。

擦れ違い。
離れ、二度とは出逢えなかった二人。

「―――僕も」

反射的に朗を抱き竦める。
これ以上はくっつけないくらいに、ぴったりと抱き合う。

今まで無意識に恐れてた。
朗の想いが怖くて。
僕の想いが怖くて。
 
 
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