河童様

なぁ恋

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仄暗い焔の先に

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「この三日間。夢を見てた……」

待って。
“視る”前に朗に伝え様としてた事って、

助けを求める夢。

でも助けに行くって事は、あの鬼が居る所へ行かなきゃならないって事。

あれは邪悪だ。

「何だ?」
「お父さんとお母さんを、助けに……探したいと思う?」

長い髪を無造作にまとめた朗が、本当に困惑した顔をしていた。
      ..
「何故優月にだけ聞こえたんだ?」

「え? 何かチャンネルが合ったみたいな感じで聞こえたとか?」

「三日間、声と場所の夢を視た?」

ただ頷いて見せた。

「私は10年ここを見て過ごした。何も聞こえなかった」

一度口を閉じて、頷いた朗が、
「優月は家の記憶を視た。それはいわゆる座敷わらしの能力じゃないか?」

言われて納得した。
母さんが言ってた事を思い出す。

“家は座敷わらしに記憶を視せる”

「能力も遺伝するのかな?」
 
 
*朗side* 
 


優月。
目の前に座る優月が母の事だとまくしたてた言葉。

それは、助けを求める言葉。

言いながら突然意識を失った。

一気に深い眠りについた様な、揺すっても呼んでも目を開けない。

それは時間にすると数分だったろうか?
それでも私にとっては長い時間で不安に押しつぶされそうになった。

揺すり続けてやっと目を開けた優月が、今度は父も視たと言い出した。

優月が訊く。
「お父さんとお母さんを、助けに……探したいと思う?」

そんな事は考えていなかった。
私は優月を連れて帰りたかっただけだ。

初めからそれだけが目的だった。

母の声。
      ..
「何故優月にだけ聞こえたんだ?」

何故視えた?
父の母の出来事が。

答えは簡単に思えた。

家は“座敷わらし”に記憶を視せる。

優月が“遺伝”だろうかと呟いた。だが、果たして魂の能力が遺伝したりするものだろうか?

判らないが、水先の血は他の人間とは違うのだろう。
 
 
「朗?」

考え少し黙してた私を心配して、首を傾げてこちらを見る優月。

「助けられるなら助けたい」

だが、実は両親については現実味がないのだ。

「……三日、眠れなかったのか?」

玄関先に立つ優月の疲れた顔が気になっていた。
目の下に隈が見えたから。
悩ましたと思った。

ずっと私から身を隠す様に顔を見せなかった優月に、悲しくて、それ以上に辛くて……。

「私のせいか?」

優月と一緒に居たい。
今の私の気持ちはそれだけで占められて居た。

「……違う、よ」
言いながらも目線を反らす優月の頬に触れる。

「朗」

その私の手を掴んだ優月が、顔をこちらに戻し溜め息を吐く。

「僕は……判らないんだ」
優月の困った顔。
「このままじゃ、一緒に行けないよ」

「優月!」
叫びたくなった。
私は、ただひたすらに優月を待って居た。

それが否定する言葉を口にした。
待ち侘びた者に否定された。
 
 
「朗が僕を好きだって言う事は判ったよ。
けど、僕は判らないんだ」
「判らない?」

受け入れるだけで良いのに?

「人の気持ちは難しいんだよ。そりゃ何かしらの好意は感じてるけど……それだけだし……」

“好意”私の想いとは違う。と安易に示した言葉。

「そうか……」

私こそ、こんな想いに囚われたのは初めてで、何か間違っていたのかも知れない。

「それで、朗は助けに行くの?」

「いや。状態が判らなければ手の出し様がない」

母が呼ぶ声は私には聞こえていない。
何か手を加えられた可能性も否定出来ない。

「もうしばらく様子を見よう。優月は辛いかもしれないが」

「また夢を見るかもって事?」

「そうだな」

あの時死にかけた優月の魂に離れに在った“想い”が繋がった結果、夢を見て“視る”事になって居るのだろう。

一度繋がった糸はそうそう切れる事はない。

何をするにしても、操られた情報なのかそうでないのか、真意を確かめなければならない。
 
 
「“一蓮托生”なんだよ。僕達は」
優月が呟いた。
「クロスと僕は命を共有してて、朗と僕は血を共有してる」

“一蓮托生”
行動や運命を共にする事。

そう言う意味だったか?

「何をするにしてもさ。
僕は手伝うよ。出来る事は限られているけど、てか。あんまり役に立てないかもしれないけど」

頭を掻いて苦笑う優月。

どうしても、優月を愛おしいと想う気持ちを抑えられない。

それは、同じ血の為せる業なのか。

“想う気持ち”を少し学ばなけれはならない。

そう切に思う。
優月を想う気持ちがどう言ったものか見極めねば、優月に逃げられてしまう。

それだけは、耐えられない。

「一蓮托生か」

言葉を噛み締める。
 
 
**

夜になり、水先の父が帰って来た。

そして皆が揃った夕食後に優月が視て聞いた事を話す。

水先の父母、優星、化け猫も黙って聞いて居た。

「じゃあ、河童様のご両親はその鬼に捕まってるって言う事?」

優星の問いに優月は首を傾げる。

「鬼の姿は見えなかったんだ」

「でも、家が見せた記憶は本当よ」
母、璃世は、私の誕生やさらわれた母の事を記憶で視たのだと告白した。

「私がまだここに座敷わらしとして居た頃、兎に角あの三本の爪痕はまがまがしい妖気を発して居た。
節子は、“櫂”こそ持ってはいなかったけれど、離れで生活する事でその妖気が外へ出るのも、妖気の持ち主がここへ再び入るのも防いでいたの」

一度黙り、話は続く。

「優月の視た離れの記憶。その時私は転生していたから直接は見ていないけどね。
優月より少し長めに視たわ。
優良が結界を施した一ヶ月後に節子は息を引き取った。
河童は呼出人が居なくなると、こちら側には来れなくなるからその前に出て来たのよ。結局帰っては来なかった」

静かになる室内。

「でも、生きてるならさ、どうにか探せるんじゃないかな?」

優月が気遣ってくれているのは判る。だが、探す事が最良とは限らない。

「危険が潜んでいる」

私の言葉に眉をひそめた優星が、
「まるで会いたくないみたい」
と、見透かした様に言った。
 
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