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仄暗い焔の先に
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しおりを挟むその焔は消える事無く、
仄暗い場所を照らし出す。
それは絶望の光。
それは希望の欠片。
誰か。
助けて―――。
それは紛れもない、
誰かの叫び声。
*********
結局あの後、朗を足蹴にして逃げ出した。
朗の想いが伝わり過ぎて、胸が痛くなったから。
そしてそれから三日。
同じ夢を見る。
...
確か、あの時聞こえた声が聞こえる。
何度も“助けて”と悲痛な叫び。
暗闇に炎と高い声。
助けて―――。
助けて。
眠れないでいた。
「大丈夫かニャ?」
クロスが布団から顔を覗かせる。
「うん。平気。てか、ずっと心配させてるね」
クロスが首を傾げる。
……可愛いっ!
黒い子猫姿のクロス。
思わず抱き締めた。
「うニャあっ! ゆづきっ」
苦しがりもがくクロスを一撫でし、布団から出る。
「ん―――……」と、背伸びをして、窓から“河童の池”を見る。
平たいお供え岩。
朗が来てからキュウリのお供えはしなくなった。
思えば何でも話していた。それこそ友達の様に。
離れに視線を移す。
朗はそこで寝起きしていた。
窓に額を当てる。キュキュキュ……と音を立て窓枠に顎が着き止まった。
夢。
夢。
助けを呼ぶ声は、
日に日に強くなって居る様だ。
朗に言った方が良いかもしれない。
それは判ってるんだけど、近付くのが怖い。
「優月?」
「ん? あぁ、下に行こうか」
事実を知ってから、朝食を食べながら母さんと話す。過去の話や妖怪の事。
暑い筈の夏。
今まで思ってもなかったけど、僕の家は冷暖房なくても心地好かった。
それは何故か?
「うん。座敷わらしだった頃の名残かしらね。家族に心地好い生活をって思ってるだけでそう言った空間を作れるみたいね」
母さん曰く、水先家が在る場所に限って発揮出来る能力らしい。
「母さんは人間?」
「限りなく人間。身体はね。ただ、魂は長い歳月を妖怪として生きたから、最初はただの幼い幽霊でしかなかったのだけど……元は人間で座敷わらしって妖怪に変化したんだから……人間側に近いのかしら?」
ややこしくなって来た。って頭を抱えた母さんに笑った。
疑問だらけで話は尽きない。
「優月、あんた朗くんと話さなきゃならないんじゃない?」
突然振られた言葉に喉が詰まった。
「あいつは危険ニャ」
足下で猫まんまを頬張ってたクロスが呟く。
「クロスちゃん。貴方が最初にした事は忘れたのかしら?」
「……ニャんの事だか」
「今は、そうね。飼い主を慕う可愛い子猫ちゃんだけど、私はちゃんと知ってるわよ」
うちで起こった事は、特に家族の危機は“家”が教えてくれる。これも名残の能力だと教えてくれた。
「飼い主じゃないニャ。優月は俺の“命”だからニャ。文字通りの意味“一蓮托生”の関係ニャんだから」
大層な物言いに小さく笑うと、
「それは真剣にとらないとダメよ」
母さんが言った。
考えなきゃいけない事が有りすぎて、息が詰まった。
朗が言っていた。
クロスはボクの生気で生きて居る。
『お前がその黒猫に自身の生気を分け与えたんだ。
優月と少しでも離れると、途端に肉片へ変わるだろう』
朗の言葉が鮮明に思い出された。
「そうだね。“一蓮托生”だ」
これは“責任”僕に何かあれば、クロスも死んじゃう。
「せめて相手が朗なら良かったのにね」
「優月だから良いのニャ!」
「うん」嬉しくてクロスの頭を撫でる。
“一蓮托生”
これは朗と僕にも、姉ちゃんと先輩にも通じる言葉。
朗と話さなきゃ……。
気持ちについては、置いといて、夢について、朗の名を呼ぶ女の人の話をしなきゃいけない。
もしかしたら違うかもしれないけど、あの女の人は……朗のお母さんかもしれないんだから。
**
話さなきゃ。と、離れの入り口に立ってもう十数分。
何て話し掛けよう?
素直に、夢で見た事だけを話そうか?
勇気を出して引き戸に手を掛ける。と、いきなり開かれた。
「優月?」
長い髪を垂らした朗が、顔半分を髪で隠した状態で現れた。
「あ……朗。元気?」
何て間の抜けた質問。
「まあ、ぼちぼちだな」
まるで人間みたいな答え方。
「そう。あの……」
「どうぞ、入って」
朗の後ろに着いて入る。
馴れ親しんだ離れが、何だか違う家に見えた。
朗の出してくれた座布団に向かい合って座る。
「こっちの生活にも慣れた?」
「ああ。空気には慣れたな」
他愛のない話。
「あの……」
両拳を握り、緊張して舌が回らない。
けど、話さなきゃ!
「優月、すまない。そんなに固くならないでくれ」
言われて、弾かれた様に頭が上がる。
朗の顔、見えてる右半分は笑ってる。でも、隠れた左側は?
泣いてる様な気がした。
「僕も……ごめん」
気付きたくなくて一気に喋る。
「夢を見るんだ。
暗くて、それでも明るく感じる場所。そこに一つの炎が見える。
そして“声”が聞こえて来るんだ……」
『助けて。
誰か、朗!』
「女の人の声で、朗って何度も呼ぶんだ」
『助けて。
この子を……あの人を!』
脳内に響く声。
「始まりは、朗に傷を治して貰った時。意識が無い時に声が聞こえたんだ」
『助けて……』
「今も、聞こえる。幻とか幻聴かとも思ったんだけど、違う」
『朗!』
声は強く、心を揺さ振る。
「この女の人は、朗のお母さんだよ。きっと!」
朦朧として、座ってるのも辛くて、朗に伝えた。と安心した瞬間、意識が遠退いて行った。
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