河童様

なぁ恋

文字の大きさ
上 下
23 / 118
人間と妖怪と生

しおりを挟む
 
*朗side* 


「うらやましい?」

そう言った優月がこちらを振り返り目が合った。

「“想い”はどこから来るんだろうな?」

「想い?」

おうむ返しの優月の真っ直ぐな視線がしっかりと私を見つめる。

「正直言うと、私は優月に呼ばれて目覚めたんだ」

「え?」

「10年前のこの時刻頃だ。必死に祈る優月の声が聞こえた」

それはゆっくりと身体の感覚の目覚めを誘い、眠って居た事実を一瞬で忘れさらせてしまったのだ。

「思い出した。私は父を見送った後、徐々に眠りに入ったんだ」

それは何故か?

「水先の話を聞いている内に思い出した」

この場所この離れ。それに、天井の傷。

「父はやはり、母を探しにこちらに来たんだ」

それもやはり、想う気持ちが為せる業だと今なら判る。
 
 
眠った後、水を通して自分に話し掛ける声があった。
それはまるで子守唄の様に淡々と口づさむ声で、河童の“いろは”も眠りながら聞き学習した。

「それって、おばあちゃんかも」

優月が興奮した声で起き上がり話し出した。

「おばあちゃんはいつも池のほとりで歌ってたんだよ!
僕はずっと傍に居たから覚えてる」

優月も近くに居たのか。

「さらわれたって朗のお母さん……僕のひいおばあちゃんの従姉妹だったって母さん言ってたね」

「血族」

「“河童様”と親戚!」

身を起こし、優月の目線に合わせて話す。

「何か興奮しているな」

解るような気はするが。

「ん~……。一日だよ。一日で色んな事が起こって……母さんは座敷わらしだったし、父さんは目がほとんど見えてなくて、姉ちゃんは龍の先輩と大変で。
僕は河童に成った」

一気にまくし立て深呼吸する。

「そして、クロスは可愛い」

自分の横で丸まっていた化け猫の頭を撫でると、小さく溜め息を吐いた。
 
 
「ニィ……」

寝惚けた化け猫が小さく鳴いた。
この状況下でよく眠れる。

「混乱するのも判る」

月明かりが障子を明るく照らし、畳に影を作る。

「私の代わりに混乱しているのか?」

捕まった母を、それを追い掛けた父を。

「優月の母の話で確信したんだが、私達河童は自分の契約者、呼出人が亡くなると人界には来れなくなるんだ。
父が居なくなったのは、先の契約者である節子が亡くなると、母を探す事が出来なくなるから帰って来なかったんだ。
あくまでも推測だが、否。父は母を探して居た」

自分の命こそ危険な世界に身を置いてまで、何故そこまでして母を探そうとするんだ?

「朗のお父さん、すっごくお母さんの事愛してたんだね」

愛?

「“愛”とは何だ?」

優月は首を傾げて、困った顔をした。

「それは、ごめん。正直よく解んないよ。
“好き”が沢山増えたら“愛”に成るんじゃないのかな?」

優月の事を想って過ごした日々を思い起こす。
朝、優月の声で目覚め、夕、優月の話を聞く。
それが、とても楽しく幸せで、迎えに行くのが待ち遠しかった。

これは、好きな気持ち。
愛なのだろうか?
 
 
*優月side* 


「私は優月を愛している」

「え?」

はい?
何か聞きなれない言葉が朗の口から零れた。

「私は優月が好きなんだ」

朗を見る。
冗談だと思った。

けど、僕を見る瞳は、朗の瞳のキラキラ光る星が冗談じゃないと、無言で語ってる。

姉ちゃんや母さん達にやけにこだわると思った。
だから変な学習しちゃったんだ。

それに、
ずっと一人できっと淋しかったんだ。

―――って思うけど、真剣な朗の視線が、痛い。

そんなに暑い訳じゃないのに、汗が吹き出す。

何かヤバイ空気感。

「キスをしても良いか?」

はいぃ―――?!

あ。心臓がバクバク言い出した。

朗が自分の布団から抜け出して、こっちに来る。
そんなに離れてないからすぐ傍に来た。

朗の顔。
整った顔立ちに綺麗な長い黒髪。
……息が掛かる程に朗の顔が近付いて、逃げる事が出来なくて。
身体が言う事聞かなくて。

朗の綺麗に輝く瞳に圧されて、ギュッと目を瞑る事しか出来なかった。
 
 
ふさふさしたものが唇を擦る。
目を開けるとクロスが僕らの間に居て、二股尻尾が朗と僕の唇を隔てていた。

「ニャぁにやってんだニャ」

止めていた息を大きく吐く。安堵して肩から力が抜けた。

「好きだから“キス”をしようとしていた。邪魔をするな」

見るからにムッとした朗がクロスを睨んでる。

「はぁ~。お前は世間知らずだニャ」

溜め息と言葉を同時に吐いたクロスが、僕の膝に腰掛け身体を伸ばして朗を見上げた。

「第一に、同性でキスニャんてしないニャ。
第二に、普通は人前でするもんじゃニャい」

右眉端を上げた朗が本気で驚いた顔をした。

「好きならしても良いじゃないか! 人前? お前は寝ていたぞ。それに“人”じゃない」

見た目の大人っぽさが嘘みたいに駄々っ子みたいな朗の姿に、堪らず吹き出してしまった。

「何だ?」

朗が拗ねた顔をした。

何だか人間らしい表情をする朗を愛おしく感じて、
「僕も朗が好きだよ」
考えなしに口にしてしまっていた。
 
“後悔先に立たず”って言葉があったのを思い出したのは、柔らかい唇が重なった後だった。

ファーストキスが、男。

姉ちゃんみたいにセカンドまで……何てなりません様に。と願いつつ、意識が遠退いて行った。
 
 
 
 
 
 
今まで思った事なかったけど。


生きる事って、
愛する事と比例して居るって思った。


愛するものが居るのと居ないのじゃ全然違う。


大好きだったおばあちゃんが居なくなってから、どこか心にぽっかりと穴が開いたみたいだった。

けれど、それを埋めてくれたのは河童様。

朝夕と河童の池にキュウリを届けて話をする。

それがどんなに心の支えになって居たか。

小学生の時、同級生に河童様の事を話してものすごく悪く言われた。

いじめられた事実より、河童様を……僕が想う河童様、朗を悪く言われた事が許せなかったんだ。






これって。
“好き”な気持ち?

好き=恋?

“恋”?








これは悪夢かもしれない。

次の日、目覚めて最初に思った事。
 
 
 
 
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

男色医師

虎 正規
BL
ゲイの医者、黒河の毒牙から逃れられるか?

離したくない、離して欲しくない

mahiro
BL
自宅と家の往復を繰り返していた所に飲み会の誘いが入った。 久しぶりに友達や学生の頃の先輩方とも会いたかったが、その日も仕事が夜中まで入っていたため断った。 そんなある日、社内で女性社員が芸能人が来ると話しているのを耳にした。 テレビなんて観ていないからどうせ名前を聞いたところで誰か分からないだろ、と思いあまり気にしなかった。 翌日の夜、外での仕事を終えて社内に戻って来るといつものように誰もいなかった。 そんな所に『すみません』と言う声が聞こえた。

愛などもう求めない

白兪
BL
とある国の皇子、ヴェリテは長い長い夢を見た。夢ではヴェリテは偽物の皇子だと罪にかけられてしまう。情を交わした婚約者は真の皇子であるファクティスの側につき、兄は睨みつけてくる。そして、とうとう父親である皇帝は処刑を命じた。 「僕のことを1度でも愛してくれたことはありましたか?」 「お前のことを一度も息子だと思ったことはない。」 目が覚め、現実に戻ったヴェリテは安心するが、本当にただの夢だったのだろうか?もし予知夢だとしたら、今すぐここから逃げなくては。 本当に自分を愛してくれる人と生きたい。 ヴェリテの切実な願いが周りを変えていく。  ハッピーエンド大好きなので、絶対に主人公は幸せに終わらせたいです。 最後まで読んでいただけると嬉しいです。

膀胱を虐められる男の子の話

煬帝
BL
常におしがま膀胱プレイ 男に監禁されアブノーマルなプレイにどんどんハマっていってしまうノーマルゲイの男の子の話 膀胱責め.尿道責め.おしっこ我慢.調教.SM.拘束.お仕置き.主従.首輪.軟禁(監禁含む)

成り行き番の溺愛生活

アオ
BL
タイトルそのままです 成り行きで番になってしまったら溺愛生活が待っていたというありきたりな話です 始めて投稿するので変なところが多々あると思いますがそこは勘弁してください オメガバースで独自の設定があるかもです 27歳×16歳のカップルです この小説の世界では法律上大丈夫です  オメガバの世界だからね それでもよければ読んでくださるとうれしいです

もう一度、貴方に出会えたなら。今度こそ、共に生きてもらえませんか。

天海みつき
BL
 何気なく母が買ってきた、安物のペットボトルの紅茶。何故か湧き上がる嫌悪感に疑問を持ちつつもグラスに注がれる琥珀色の液体を眺め、安っぽい香りに違和感を覚えて、それでも抑えきれない好奇心に負けて口に含んで人工的な甘みを感じた瞬間。大量に流れ込んできた、人ひとり分の短くも壮絶な人生の記憶に押しつぶされて意識を失うなんて、思いもしなかった――。  自作「貴方の事を心から愛していました。ありがとう。」のIFストーリー、もしも二人が生まれ変わったらという設定。平和になった世界で、戸惑う僕と、それでも僕を求める彼の出会いから手を取り合うまでの穏やかなお話。

涙の悪役令息〜君の涙の理由が知りたい〜

ミクリ21
BL
悪役令息のルミナス・アルベラ。 彼は酷い言葉と行動で、皆を困らせていた。 誰もが嫌う悪役令息………しかし、主人公タナトス・リエリルは思う。 君は、どうしていつも泣いているのと………。 ルミナスは、悪行をする時に笑顔なのに涙を流す。 表情は楽しそうなのに、流れ続ける涙。 タナトスは、ルミナスのことが気になって仕方なかった。 そして………タナトスはみてしまった。 自殺をしようとするルミナスの姿を………。

少年ペット契約

眠りん
BL
※少年売買契約のスピンオフ作品です。 ↑上記作品を知らなくても読めます。  小山内文和は貧乏な家庭に育ち、教育上よろしくない環境にいながらも、幸せな生活を送っていた。  趣味は布団でゴロゴロする事。  ある日学校から帰ってくると、部屋はもぬけの殻、両親はいなくなっており、借金取りにやってきたヤクザの組員に人身売買で売られる事になってしまった。  文和を購入したのは堂島雪夜。四十二歳の優しい雰囲気のおじさんだ。  文和は雪夜の養子となり、学校に通ったり、本当の子供のように愛された。  文和同様人身売買で買われて、堂島の元で育ったアラサー家政婦の金井栞も、サバサバした性格だが、文和に親切だ。  三年程を堂島の家で、呑気に雪夜や栞とゴロゴロした生活を送っていたのだが、ある日雪夜が人身売買の罪で逮捕されてしまった。  文和はゴロゴロ生活を守る為、雪夜が出所するまでの間、ペットにしてくれる人を探す事にした。 ※前作と違い、エロは最初の頃少しだけで、あとはほぼないです。 ※前作がシリアスで暗かったので、今回は明るめでやってます。

処理中です...