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龍の呪い
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しおりを挟む*響夜side*
「龍は気に入った異性を“龍の宝珠”にする」
何度繰り返したか判らない言葉。
優星にまた鱗が生えた。
俺の印。
自分の鼓動が普通では有り得ない程に脈打ってる。
解る。
興奮しているんだ。
心よりも深い本能の部分が宝珠を欲しがって暴れそうだ!
だが、ダメだ。
拳を握り、深く息を吸い込む。
「“鱗”を壊さないと」
呟いて、優星の額に手を伸ばす。
驚いた。いきなりその手を掴まれたから。
弱々しい小さな手が俺の手首を掴んでいた。
「……ダメよ。」
あの幼い頃と変わらない瞳が俺を見ている。
「ダメ。龍神さま。私は……もう忘れたくない」
弱々しい声とは裏腹にその瞳は力強く、俺を留めた。
「俺は、お前を失いたくない」
本音を吐く。
「誰を失うって?」
優星の言葉に口吃る。
強い声色に瞳の光も強くなって。
「私は龍神さまが大好き」
唐突に言われて動きが止まる。
「俺は……神じゃない」
「そうなの? でも、私の記憶を奪って、大好きだった神社のお祭りに行けなくした」
弟の腕から勢い良く体を起こした優星が俺ににじり寄る。
「響夜くん。私は思い出したの。おばあちゃんが死んだ夜、貴方に会ってる」
もう、会うつもりはなかったんだ。
優星の額に光る鱗がきらりと光る。
でもそれ以上にその両の瞳に惹き寄せられて、気付いたら、口付けていた。
柔らかな唇。
触れた事で落ち着いて、躰が戻るのを感じた。
そっと離れると、見開いた瞳が俺を見つめていた。
「あ、すまない」
「きょ……響夜くんも、私の事……」
驚いて真っ赤になった顔。
それが可愛くて。嘘はつけない。
「俺は龍と人間の混血。母親は龍に呪われて死ねない躰になった。
それに、龍羽神社にある宝珠は、おそらくは響夜の女性が成ったもの。
今は大丈夫でも、いずれは優星を龍の宝珠にしてしまうかもしれない。
だから……」
「だから?」
真っ直ぐに俺を見る優星。
「響夜くんは私の事好き?」
好き?
「だから、龍の宝珠は気に入った異性が形作るんだ。
俺の傍に居たら……」
続く言葉を閉じ込める様に口が塞がれていた。
柔らかい、優星の唇で。
「私の事、好き?」
少し隙間を作った唇が俺の唇を掠めながら囁く様に訊く。
「―――だから……」
唇に息がかかる。
強い瞳は俺の目を放さない。
「好きだ!」
素直に言うしかなかった。
優星の体が離れて行くのが切ない。
「ふふ」
え?
優星の満面の笑み。
「私、響夜くんの珠に成ってあげてもいいわ」
何を言ってる?
「お前がお前じゃなくなるんだ。触れる事も、話す事も……その笑顔も見れなくなるんだ。
そんなのは嫌だ!」
こんな、子どもじみた事を言うなんて初めてだ。
俺の頬を伝う涙も。
これまで自分にこんな感情があるなんて知らなかった。
*優星side*
キスされて、離れた響夜くんの姿が、いつもの彼に戻ってた。
された事に驚いて、でも本当ならこんな幸せな事はない。
ポ~と響夜くんの話を聞く。龍についての話。
そんな事どうでも良いの。肝心な事は、
「だから?」
響夜くんを見つめる。
一番大事な事は一つ。
「響夜くんは私の事好き?」
彼の表情が変わる。こんな顔初めて見る。
「だから、龍の宝珠は気に入った異性が形作るんだ。
俺の傍に居たら……」
うだうだ言う。そんなの良いから!
ストレートに聞きたいのは私をどう想ってるか。
いつも喋らない彼がこんなに話す姿に嬉しく感じながら、動く唇を私のそれで塞ぐ。
「私の事、好き?」
少し唇を放して訊く。
「―――だから……」
彼の瞳はとても澄んでいて綺麗。
「好きだ!」
叫ぶ様に告白された。
「ふふ」
嬉しくて自然と浮かぶ笑み。
「私、響夜くんの珠に成ってあげてもいいわ」
本気でそう思った。
「お前がお前じゃなくなるんだ。触れる事も、話す事も……その笑顔も見れなくなるんだ。
そんなのは嫌だ!」
一気にまくし立てた響夜くんが、肩を震わせて―――涙を流してた。
泣かないで?
簡単に言った言葉で彼が泣いてしまった。
私は響夜くんが好き。
私の為に泣く彼を愛おしく想い、私だって響夜くんの笑顔が見たい。
なら簡単な事だと思った。
「意思を持った“珠”になれば良いんじゃない?」
間抜けた顔をした響夜くんが口を開く。
「それは無理だ」
「何で? それは確かなの?」
「いや……」
そう言って黙り込んだ。
「そもそも、何故“龍の宝珠”が必要なの?」
「それは、父親龍を倒す為に成人する必要があるからだ」
そうして淡々と自分の出生について、あのおばあちゃんが母親である事と、龍の呪いだと言う“龍の宝珠”の事を教えてくれた。
「ふ~ん。気持ちは解る。なら取り敢えずは、お母さんが治れば良い訳よね?」
ゆづの傷を治した河童の力。
響夜くんはだから先生に会った時嬉しそうだったのね。
「ね? 先生?」って河童さまを振り向くと、真っ赤な顔したゆづと目が合った。
「姉ちゃん……キスした」
あら。そう言えば、色々重い事情を訊いていたから忘れてた。
ファーストもセカンドキスも響夜くんと。
一気に頬が熱くなる。
「そんな事いいからっ。用事があるのは河童さまなの! 先生。話は訊いてたでしょう?」
ゆづを抱き留めて座る先生に視線を向ける。
う。
どう見ても綺麗過ぎる生き物ね。
イメージする“河童”とは違い過ぎて、ゆづが小学校の時必死に説明してたのが頷けるわ。
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