河童様

なぁ恋

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河童の薬

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*響夜side*

まさか本物の“河童”に出逢えるとわ。

水宝 朗。と言ったか。

俺と同じ妖怪と人間との混血。

龍の父と人間の母を持つ人間に近い存在の自分。


それが、何故だ?
同じ立場なのに、こうまで妖力が違うなど。
拳に力がこもる。

人間界では河童よりも龍の方が立場が上で知られて居る。
河童はどの県でも現れて人間に近しい存在だったのに。
自分にはこの者の半分も妖力はない。

水先 優星の話しに興味を持った。
河童に逢ったと言う弟。

それが嘘とも本当とも思えず、直接会って訊きたくなった。

その約束を取り付けた日、夏休み前日に学校に現れた河童本人。

それが混血と判って幾分かショックを受けた。

「仕方ないか」

呟いて居た。

河童と龍は同じ水に属する妖怪。なのに。扱いは元から違う。


“河童の薬”は、妖怪を助く万能薬。


だからこそ、妖怪の間で河童と言う存在の取合いが生じた。
だから、今現在、河童の数は激減していると聞いている。


「あの。響夜くん?」

優星の声に我に返る。
 
 
「あぁ。考えて居た」
思ったままを口にする。
「水宝先生に顧問になって貰えたらと。
この同好会は主に夏休みに活動しますから」
「それ! 良いかも!!」

いつも笑顔の絶えない優星。この娘は不思議とこちらを柔軟な気持ちにさせる。
その思いから笑顔になる。

「先生、どうでしょう?」

顔を赤らめた優星を横目に河童に訊く。

「……良いだろう。ただし優月も参加する事が条件だ」

「え?」

優星の弟が驚いた声を上げた。
“優月”この者の内に視える力の欠片。
これは河童の妖力。
河童は優月をどうするつもりなのか?
近くに居れば面白いものが見れそうだ。

この夏こそは天へ帰る術も見つかるかもしれない。
 
“希望”など当に諦めていた。
だが、“妖怪”がこぞって欲しがる河童を見つけたのだ。

「じゃあ決まりね!」

優星の言葉に逆らえない弟は、頷くしか出来ないらしかった。

「さて。優月くん。体調の良い時にまた詳しく教えて下さいね」

今日は顔合わせで解散としましょうか。
河童本人と逢えた満足感でゆっくりと眠れそうだ。
 
 
*朗side*

龍が納得した様に頷いて、「明日から、始めましょう」そう言い置いて優星を連れて部屋を出て行った。

「折角の夏休みなのに……」

そう言った優月はつまらなさそうに溜め息を吐く。

「私の事を知りたくはないか?」

優月の驚いた顔。

「そうだ。河童様。さっき話しかけてた事って?」

“河童様”か。
いずれは“朗”と呼ばせてみせる。

「優月には“河童の薬”は使ってはいないって事だったな。」

ふと思う。正直に話して逃げられはしないだろうか?

「―――より先に、お前を連れに来たのは本当だ」

矛先を変えて優月の反応を見る。

「“嫁”ですか?」
「嫁には出来ないとしても、連れて行く」

この気持ちはもう抑えられない何よりの望み。

「それは……。“お供え岩”に僕が居たから?」

「“お供え岩”」

あのキュウリを乗せていた平たい岩。
なるほど。自分が供えられたと思っているのか。
面白い。
 
 
*優月side*
 
河童様の言う事は至極簡単で、助けてくれるなら何でも差し上げるとお供え岩の上で僕は誓ったんだ。
ばあちゃんは救えなかったけど、僕を救ってくれたのはまぎれもない事実。

「どこへ行くのですか?」

それだけは訊きたくて。

「綺麗な場所だ」
「いつ行くのですか?」

河童様が優しく笑う。

「夏休みが終わる頃」


夏。
夏は楽しい思い出は数少なくて。
河童様は僕にとって何をもたらしてくれるのかな?

「そこには“仲間”が居るのですか?」

少し悲しげな顔をした河童様が首を振る。

「もう私しかいない」

その言葉通りにとるなら、たった独りで居たの?

「ばあちゃんが、陽気な河童様が居たって……」

「それは私の父親だ」

「じゃあ、亡くなったんですか?」

眉根を寄せた河童様は、僕の肩を引き寄せた。


「どちら共判らない」

耳元でつぶやかれて肌が粟立つ。

「―――っ! 河童様!?」

誤魔化された感があったけど、目の前に居るこの男性は、まぎれもない事実。

河童様。
  
 

 
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