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河童の薬
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しおりを挟む「あの……先生。大丈夫ですから」
確かに挙動不信でしたけど。
「“朗”だ。朗と呼びなさい。優月」
「!」
やっぱり。やっぱり?!
「河童様!!」
不満げに綺麗な眉端をぴくりと上げて、「朗。だ」と、重ねて言う。
「ろ……ろう様……」
「“様”はいらない」
河童様譲らない。
「ろ……う」
今度は満足げに笑顔になった河童様。
その瞳は、あの夏に見たままにキラキラと星が輝いて居た。
で、気付いたら“保健室”に居た。
「えと。保健医なんですか?」
河童様が、保健医なんて、似合いすぎてる。
「優月に会う為に人間の形を取った」
僕に?
「約束の時が来た」
“約束”?
「嫁に来い」
ん?
嫁?
約束?
「あの。僕は男の子ですけど?」
この後、河童様のイケメン顔が、凍り付いたのが判った。
僕はベッドに座って居て、河童様は何か考えているみたいに右手で頬杖付き、長い足を組んでイスに座って居た。
静かに流れる時間。
今なら疑問に思ってた事が訊けそうな気がした。
「河童……「朗。」
凍り付いてたのが嘘みたいに柔らかい笑顔でまた言われて、
「朗。に、訊きたいのですが?」
恐る恐る口を開く。
*朗side*←河童様改め
小首を傾げる優月。
予想外だった。性別を間違えるなど……まぁ、無理もないか。と自分を慰めてみる。
元々“女”と言う生き物を知らないのだから。
自分で言って滑稽だと小さく笑う。
さて、どうしたものか?
「河童……「朗。」
優月がたどたどしく言葉を発するのを制し、自然と浮かぶ笑み。
性別はどうであれ、自分は待ち望んで居た。
優月と言う個人を私は待って居たのだから。
「朗。に、訊きたいのですが?」
おずおずと口を開く。見姿は可愛らしく成長した優月。
「遠慮なく。私に答えられる事ならば何でも答えよう」
眼鏡越しにこちらを見る優月の瞳に悲しみが垣間見えた。
「あの時僕は、死んだのかな?」
「覚えていたのか?」
一瞬見開いた眼。
「やっぱり……何となくそんな気がしてた」
「だが、今生きて居る。それが大事だろう?」
俯いた優月が、小さく呟いた。
「僕を生き返えらせたから、おばあちゃんは死んだの?」
肩が、声が震え出す。
十年前のあの時の様に、泣き出した優月に何故か胸の中の方が熱くなった。
「いや。あの時も言ったが、お前の祖母は寿命で逝った」
優月の隣りに座り直し、肩を抱いて揺する。
「優月のせいじゃない。だから悲しまなくていい。それに、死者は長い間悲しまれると、成仏出来ない」
顔を上げた優月が急いで涙を手の甲で拭った。
「成仏出来ないって事がどんな意味を持つのかよく判らないけど、おばあちゃんが苦しいのは嫌だ。」
眼鏡を外して、また目を擦る。
「そんな拭き方をしたら痛くなる」
そっとその手を取って、やめさせる。
優月の左目に“河童の皿”と一体と成った証が見て取れた。
私と言う“元”が近くに居ると、黒目の中に星が輝く。
河童の証。
優月を迎えに来るのをどんなに楽しみにして居たか。
どうしても高ぶる気持ちを抑えられない。
「話して置かなければならない事がある」
眼鏡を掛け直した優月が姿勢を正してこちらを向く。
幼い優月が岩の上で懸命に願う姿を思い出す。
どうしても緩む頬。
こんなに楽しく嬉しい気持ちになれるのは優月が居るから。
「何ですか?」
言われて見とれて居た事に気付いた。
“種の存続”の為にと考えたが、そんな事はどうでもいい。
女でなくとも、男だとしても、
優月が欲しい。
「先程も確認したが、優月は自分が一度死した事は自覚しているな?」
「はい」
「生き返らせたのは、薬ではない。“河童の万能薬”は、死者には利かないからな」
不思議そうに瞬きした優月が、それでも静かに続きを待っていた。
本題に入ろうと口を開けた時、ガシャンッ と、派手な音を立ててドアが開いた。
「ゆづ!!」
黒い長い髪の娘が飛び込んで来て、優月に飛び付く。
「大丈夫なの??」
「姉……ちゃん」
抱きすくめられた優月が苦しげに呼んだ言葉に納得した。
あの時寝入った優月を見守っていた。優月を家に連れて帰ったのが、この娘。あの時の匂いがする。
だが、優月に触れている事が気に入らない。
その額に手を置き、グイッ と、押し戻す。
「なっ?! 何すんのよ!」
よく顔を見ると、どことなく優月に似て居た。
それだけで不思議と優しい気持ちになれて笑みになる。
娘の顔が赤くなる。
人間は、何と判りやすい種族だろう。
「あ。優月は、大丈夫ですか?」
「あぁ。もう少し休んで居た方がいいと思うが大丈夫だ」
早く優月と話したくて言葉を続け様としたが、娘が矢継ぎ早に話し出す。
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