河童様

なぁ恋

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河童の薬

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 *優月side*
 
 
「この池には河童様が住んでるんだよ。
河童様の作る薬は万能薬で、どんな怪我もたちまちに治ってしまうんだ」

おばあちゃんが話してくれた“河童の伝説”。
僕の家の裏には小さな池がある。
それは江戸より前は大きな沼で、ある時先祖がひょんな事から河童を助け、感謝した河童が沼を澄んだ小さな池に変えた。
それから先祖は池の傍らにほこらを作り河童様を奉った。

何代かは河童様と交流を持ち、万能薬を頂いて、代わりにキュウリを差し上げたりしていた。


でも、そう。
それは、もう遠い昔話。
 
 
6歳の夏。

おばあちゃんが倒れて、お父さんとお母さんが慌てて病院へ連れてった。

僕と姉ちゃんは留守番する事になったけど……。

心配で心配で、窓から外を覗いた。

空には満月。
下には河童様の池。

“河童様の万能薬”

おばあちゃんの話しを思い出し、どうにかして欲しくて階段を駆け降り、玄関を飛び出した。

池の前に立つと、手を合わせて祈る。

『河童様。
おばあちゃんの病気を治して下さい!』

目を瞑り。
一心に祈る。と、不意に体が浮いた。

肌を刺す冷たい水に驚いて目を開けると、池の中に居た。

足を滑らせて落ちたんだ。

「ねぇ……ちゃん!」

叫ぶも、水が口に入って来てうまく声が出ない。

こんなに池が深いなんて思ってもなかった。

『助けて!
助けて!!』

無心に叫んでいた。
助かりたくて。

『おばあちゃん!
死にたくないよっ!』

おばあちゃんの心配と、水の息苦しさと。

そのまま意識が遠のいて行った。

僕は、死んじゃうのかな?

ぶくぶくと、水に沈んで行く。

河童様―――。
 
 
*河童side*


遠く、懐かしい場所から子どもの声が聞こえた。

それは一心に願う純粋な心。
子どもに心を重ね、姿を見ようと意識を飛ばす。

意識が重なり、途端に息苦しくなる。

一度意識を戻し、気になって、水を辿り懐かしい“祖先”の匂いのする小さな池に辿り着いた。

水面に映る揺れる月。
そこに浮かぶ黒い影が見えた。

移動するのはほんの一瞬の出来事。

だが、時すでに遅く、願う子どもは水に浮かんで居た。

息は止まり、青白い顔に生の欠片もない。

触れて、死んでしまった子どもを見る。

祈り願う声は久し振りで……人間は河童を忘れてしまったのだと思っていた。

溺れた子どもを抱き上げ、池を出る。

父は長く生きた。
父に聞いた“人間”の話を思い出す。
初めて自分を呼んだ人間が、私の“呼出人よびだしびと”となる。
いわゆる契約者。
それはこの子どもの先祖と私の先祖が交わした約束。
腕に抱くこの小さな子どもは、私を呼んだ初めての人間。

だが、もう死している。

“万能薬”は死人には利かぬもの。

何より、この地上に来るにはこの子どもが必要。
 
 
古びた祠の傍らにある平たい大岩に子どもを横たえる。

死人を呼び覚ますことわりならいくつか思い浮かぶ。

先祖の恩を返し、互いの束縛を無にするか……或いは、この者を“仲間”にするか。
“仲間”

元居た場所は、河童の聖域。美しいが、面白みのない所。

父が呼び出され、帰る度に聞いた人間の話は、私にとって御伽噺おとぎばなし。子どもながらに興味津々と聞いていた。

父が人間と契約したのは、人間が楽しく、魅力があったから。

それに、
“河童”は既に滅ぶ寸前。
恐らく“生き残り”は私一人。

父が教えてくれた妖術。

“人間を仲間にする方法”

一度のみの術。
“種”の存続の為の術。

死して間もないこの子どもを、その方法ならば助けられる。

見れば可愛らしい顔付きをしている。美しく育つに違いない。

躊躇なく決めた。
..
体内に在る力の源“河童の皿”を一欠片。それを一滴の雫にして、子どもの左目に垂らす。
粘り気のあるその液体が瞼を通り、眼球に浸透する。

子どもの体が白く輝き、瞼がぴくりと動き、その瞳を開けた。
 
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