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鬼のゆくえ
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しおりを挟むそれが、こんな形で再会するなんてな。
卒業ぶりだし。て、思いに耽ってる場合じゃなかった。
「あのさ。この状況が何なのか判らないけど、何があったんだ?」
問い掛けると、一生懸命何かを伝えてくる。だけど、最初と違ってはっきりと聞こえない。
「「血の臭いがする」」
蛇達が声を揃えた。
「“扉”を作るよ」
羅刹が静かに言った。
言われて神社の事を思い出す。
バスの入り口がこの島へ直通の扉になった。
どう言う原理か解らないけど、それが羅刹の“能力”。
入って来た扉を閉めて、そこに手の平を当てる。暫く目を瞑ると、扉に沿って光が溢れて来た。
「はい。繋がったよ」
って、にっこり。
素直にスゴいって思う。
迷う事なく、光の消えた扉に手を伸ばしてノブを回した。
果たしてそこは、どこかの玄関先のドアだったらしく、出た先は長いコンクリート造りの廊下。周りを見て、まだ見えないけど、むせる臭いに足がすくむ。
「ほら、血の臭い」
「死の臭い」
後から来た羅刹にくっついたままの蛇達が得意気に頭を傾げた。
いきなり恐怖が頭を過る。
血の臭い。
恐怖の臭い。
鼻腔に記憶された、死の臭い。
気付くと駆けていた。廊下の突き当たりを曲がると、そこには血だまりに突っ伏した死体と、白目を向いて横たわる死体。二人の男の死体があった。
それを見下ろす様に立ち竦む地雲を見付けた。
気配を感じたのか、上向いてこちらを見た。その顔に驚く。
左頬に横長な切り傷があって血が滴っている。
「どうしたんだ??」
心配で、駆け寄ってその傷を見る為に顎を持って頬をよく見る。
表面に焼けた感じが見てとれた。
地雲の目線の先に、血だまりにある拳銃が見えた。
「撃たれたのか?!」
更に心配になって、身体中を確認する。
「大丈夫……私は。だけど。だけどっ」
って、地雲が抱き着いて来た。
えええええ??? どぎまぎしながら、だけど、震える肩に怖かったんだと改めて感じて抱き返す。
「何があったんだ?」
背中を撫でながら訊く。
「母さんが……化け物に成った」
その言葉だけで十分だった。
「鬼に成ったんだね」
羅刹が踊り場から外を覗いて言った。
「怒気を含んだ“鬼気”を感じる。あの、山の麓辺りだよ」
羅刹が言った山は、見間違え様がない。
「“鬼神山”だ」
あの山は鬼門なんだろうか?
昨日の今日で、また人死にが起こるなんて。
「あそこには、私が住んでた家があるの。そこに、異母兄弟が居る。母は、父のところへ行った」
淡々と語りながら、その両眼から涙が溢れ落ちた。
「止められなかった」
言いながら、手に握り締めていたケータイを耳元に当てた。
「……父さん」
操作した感じはない。
“言葉”が繋げてる。
ケータイから光が飛び出す。
宙に浮かぶ映像。
“鬼”が男を捩じ伏せていた。
*
† 桃太郎side
扉の向こうの気配に“角”が反応する。
扉が開かれて、鼻に付く濃厚な血の臭いにむせる。
蛇達の言った通りで嫌な予感しかしない。尋常じゃない強い鉄の血の臭い。
先に飛び出した不二丸の後を羅刹と足早に追い掛けた。
まず目に飛び込んで来たのは、床の血だまりに突っ伏した事切れた男二人。
傍に佇む地雲君子の姿が在った。
不二丸は躊躇わず近付いた。
「どうしたんだ?? 撃たれたのか?!」
左頬に出来た傷から血が滴っていた。
不二丸に身を預ける様に倒れ込んだ地運の瞳に光る涙が見えた。
「大丈夫……私は。だけど。だけどっ」
「何があったんだ」
「母さんが……化け物に成った」
朱色の鬼。
「鬼に成ったんだね。怒気を含んだ“鬼気”を感じる。あの、山の麓辺りだよ」
羅刹の言葉通りなんだろう。
そして、羅刹が指差した山を、「“鬼神山”だ」不二丸が、呟いた
昨日。鬼に目覚めた場所。
まだ、一日も断ってない。
「あそこには、私が住んでた家があるの。そこに、異母兄弟が居る。母は、父のところへ行った」
上向いた顔に涙の筋が出来ていた。
「止められなかった」言いながら、ケータイを耳に当て「……父さん」と、呟いた。
途端にケータイから飛び出した光が、宙に映像を映し出す。
鳥の様な姿をした“鬼”が男を捩じ伏せて居た。
鬼は大きな躰で大人の男を押し潰し、大きな嘴を男の頭に振り下ろした。
瞬間、プツ。と、映像が消えた。
「父さんっ」
泣き削れる地雲を、不二丸が抱き留めた。
「道を開くよ!」
羅刹が宣言し、傍のドアに手を当てた。
ドアの中から光りが輝く。
「繋がった」
ドアの向うには鬼が居る。
少しも恐怖は感じない。
恐怖どころか、躰に滾る力が今にも溢れ出しそうだ。
ノブを回すと、勢い良く飛び込んだ。
「キャアアァ!!」
耳に飛び込んで来たのは、子どもの悲鳴。
床には映像が途切れたその後があった。
男は、父親は、手遅れだった。
だけど、まだ助けられる者が居る!
子どもを庇う母親の背中に嘴が落ちるところだった。
思いっきり膝を曲げ跳躍する。
鬼の横腹に、頭から追突した。
手応えは有った。
「「ギャアーッ!!」」
鬼が悲鳴を上げながら壁に激突し、ズルズルと落ちた。
俺の“角”が横腹を抉っていた。
“角”と言うよりは“鬼気”が吹き飛ばした感覚。
「「ふふ。ふふふふ」」
笑ったのは“鳥の鬼”。
悲鳴と笑い声が混ざった様な声色は、やがて辺りを震わす音に変化する。
声は高く高くなって、まるで、超音波だ。頭の中、脳に直接響いて来る。
周り中ガラスの割れる音、脳内に響くのがガラスの壊れる音なのか、声なのか判らなくなって来て、クラクラと意識が遠のいて行く。
この感覚……。
前もそうだった。
“千里眼”の発動。
ゆっくりと目を閉じた。
*
▲
━━━……
視えて来たのは、一人の少女。
幼い少女は、一人の男に夢中になった。
男は幼さを愛しんだ。
少女はただ愛されていると思っていた。
それは、自身の家族を捨て去る程に。
そして、娘を授かった。
それは可愛く母親に良く似た娘。
問題は、男は息子が欲しかった。
そして、少女は大人になってしまった。
男の理屈の中では遠退く理由がいくつもあった。
少女の中では離れる理由等なかった。“家族”が出来たのだから。
少女は求めた。求め続けた。
男は避けて、避け続けた。
結果、少女は病んで、男は元の鞘に戻る事となった。
少女は大人になってもココロは少女のままだった。
成熟したのは、鬼の血の部分。
自身の躰を傷付ける度に、人で在る部分が流れ出た。
その度に欲求が強くなる。
男を求める。
その欲求が……。
しかし、現実を突き付けられた。
捨てられたと言う現実は、少女を狂わすには十分な引き金となった。
最悪を知らせに来た男達。
憎しみは増幅する。
目前の男達が最初の対象になる。
男を殺し、その血肉を喰らった。
少女の中の鬼は、完全に覚醒した。
少女の欠片はそれでも残っていた。
娘の能力に気付き、強要する。
男を探す術を持つ我が娘。
だが、目的の男を探し当ててからは、少女の欠片は摩耗し、その手で息の根を止めた瞬間には、砕け散った。
少女は、狂う鬼と成る。
最早、人間は彼女の食料に過ぎず、止める術は───……。
“朱色の血”を破壊する事。
少女の躰は、朱色の血に満たされている。
破壊するとは、即ち“殺す”事。
救えない鬼。
───……
わんわんわん……と、音の波が戻って来た。
割れる音。
パンパンパリン
家の窓ガラスが一斉に割れた。
「母さん!」
地雲が力の限りに叫んだ。
途端に、超音波がピタリと止まった。
母さん。
鳥の鬼“少女”は、地雲の母親。
“母性”は、辛うじて残っていたのか、嘴をカチカチと鳴らして娘を見つめる。
赤い瞳がぎょろりと娘を凝視した。
「もう、止めて」
絞り出す声は震えていた。
だが、地雲の背後に在る存在に気付いた鬼は、クェ───ッと、奇声を上げた。
地雲は背後に男の子を庇う様に隠していた。
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