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なぁ恋

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夢を夢見て

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「教えて欲しいことがある」

戸口に現れた黒い短髪赤眼の少年は小鳥三匹を従え、白金髪の赤子を抱いていた。


夢に視た光景。

目の前に現れた。
やっと現れた。

待ちに待って居た日。





私とオリビアの視た最大の“予知夢”。

闇堕ち魔術師に対峙出来る者。
闇堕ち魔術師に関係する女性。
共に現れる。

古木のじーさんから助けを呼ぶ声が聴こえて、夜に行こうと思っていた。

赤子は彼の生気を帯びている。赤子はあの温かなうろに守られていたのだろう。
親もあそこへ捨てたなら愛情が有るからだ。

名を訊けば、少年はガラン。
赤子はガランに名付けさせ、ランジュと成る。
ガランは他国語の真名持ちで、名付けたランジュも真名を授けられた。

そうすることで、やっと二人と三匹を招き入れることが出来た。

彼は、闇堕ち魔術師に魔物へと変化させられた者。彼の傍に居る小鳥達が“血の呪縛”の動物。訊けば本当の意味で吸血はしたことが無いと判る。

だが、吸血鬼は吸血鬼。家主が招き入れなければ家には入れない。
魔術の縛りで、そうした加護を人々は例外なく受けていた。
それは誰もが一度は言葉にする、「“愛”」この言葉に加護が与えられているのだ。
それは、どんな環境でも、生まれた時に誰もが自然と愛しい気持ちが生まれる。
もし、生まれが不幸でも愛せる誰かと出逢うこともある。
故に、その言葉なら、誰もが一度は掛けて貰えるであろうと想定してのこと。

“吸血鬼が家屋に入るには家主(家の中に居る者)が招かなければ不可能”

そう言う縛り。
魔術は解くまで永久保存される。

あくまで、家屋にのみに縛られているので野外では効力は無いが、それでも安心して眠れる場所が在るのが一番だ。

そして、ランジュを見るとその空色の瞳に彼女は既に考えることが出来ていると悟る。
ふやふやと泣き始めた彼女を見て、 ふと感じた疑問。
“闇堕ち魔術師に関係する女性”
そこで深く視ることにする。
母乳を与える。それはヤギの乳と繋げればいい。それに魔術をかけて、私の一部をランジュに潜らせる。

そこで感じられたのは、彼女は“最古の魔女”で在ると言うこと。
闇堕ち魔術師の、ただの魔術師で在った頃、彼の心の一番近くに居た女性。その魂の輪廻転生者。
まだ赤子だから無防備で在る魂は素直に視せてくれた。
視えたのは、それだけだったけれど、それが一番大切なこと。

出来る限り見守ることにする。

まずはガランにランジュをどうしたいかを訊き、それに沿う形で魂に鍵をかける。
人で在る為に魔力を縛る。
それはすんなり成功した。
それをランジュが良しとしたからだ。

まだことは始まったばかり。

けれど、私はただの傍観者でしかない。
巻き込まれるのは、オリビア。

それも判って居た。

だけど、オリビアはこの地で最愛の人を見付けて根付くことを望んだ。

それも分かって居た。

これが運命と言うものなのかもしれない。
両親の死を思う。
逃れられても追って来る。
それが運命。
嫌というほど思い知らされた。

だからもう夢に身を委ね、傍観者で在ろうと決めたのだ。
どんな最悪が訪れようと。

オリビアと魔力を分かつ時、気付いたことがある。
オリビアは私が寂しくないように、辛くないように、強くなる為に、強くなるまでを共に生きる対の魂だった。
本当の意味で私の半身ソウルメイトだったのだ。
私の、ただ幸せで在りたいと言う望みを叶える者。
私の“家族を持ちたい”と言う密かな願いをオリビアが叶えてくれる。
そして、人として死ぬことさえ……。

だから私の心は満たされて、人を影から護る者として、これからも全力を尽くす。
この身が果てるまで。

左目のホクロを触る。
左側にはオリビアの魔力が宿って居る。
だから、私は大丈夫。
傍観者で在ろうと決心出来た。

ガランとランジュと言う運命が訪れたのだ。
それに小鳥達にも未来を託す。
その為に個々に力を着けさせる。
主に名付けられ、魔力を帯び、人格が備わる過程で、定期的に“知恵の実”──魔力と知識を与える最も有効な手段。魔術で創成した実──を与える。
三匹の内ガシャが最も有力だ。魔力が最高値に達すれば人型に変化することが出来るようになる。
ガランを助く手足と成るだろう。

古木のじーさんも、絶えず生気を与えてくれる。それは小鳥達の許容量を超えるほどに。“知恵の実”が許容量を増やす魔力を担っている。

それは、必要なこと。

だが、私が関わるのはここまで。

擬態の年齢に沿うならば、もうこの地から去らなければならない。

予言はここから、私の居ないところで始まるのだ。

私はひたすらに人々の中で彼らを護る救い手でなければならないから……。
魔術師と唯人。
この見た目は同じ異なる種族を護る為に、これからは奔走するのだ。

独りはもう怖くないから……。

もう、予知夢は視ない。
夢でなくとも知りたければ視ることが出来る。
それが、“あまねく黒き魔女”。
広くの闇払う護り手。傍観者。なのだ。

だから、夢は夢らしく、楽しく夢想する。
楽しかったオリビアとの旅の日々を、この集落での人の営みを、ただ休息として見る。
そう形を変えたのだ。
夢では人らしく在りたい。
夢は無限に夢見れるのだから……。


ふと、本当に突然、アイバンを思い出す。
蛇として生きることを決めた彼は、今も元気に暮らしているのだろうか?
、新たに始まる旅の最初の行先は、彼に会いに行こう。

気まぐれに向かう先が、私を求めている場所なのだ。


身支度をすませ、皆が寝静まった時刻に慣れ親しんだ小屋を後にする。

木戸から出たところで、オリビアが佇んで居た。

「オリビア……」
「オビィ……姉さん。行ってしまうのね?」

笑顔であろうとして、それでも声の震えが隠せず、俯いてしまった愛しい妹。
見姿は私よりも若干歳を重ね、落ち着いた母親らしい頼もしさが滲み出ている。

「行くわ。貴女を置いて……私は未来を行くの」
「寂しくない?」
「寂しいわ」

即答してしまえば、もう耐えられなくて、ポロリと涙が溢れ出る。
それはオリビアも同じで、魔力を分とうが、年齢が変わろうが、私達は双子の姉妹だ。
思わず抱き合い、嗚咽する。
私達は互いに唯一無二の存在だ。どんなに離れていても、きっと、オリビアが死んでしまう時は分かってしまうだろう。
だけど、ここでさよならだ。

私は魔女で、オリビアは唯人。
それを選んだのだから……。

「愛しているわ」
「ええ、愛してる。永遠えいえんに、ずっと、オリビアを忘れない」

“永遠”と言う言葉は、これこそが正しい使い方だ。

愛しいオリビア。
私は貴女の居なくなった世界を生きて行かなければならない。
まだ先の、未来のことだけれど、

「そうしてくれると嬉しいわ。たまに……夢に会いに行くから」

それは優しい約束。
最後は互いに笑って別れる。

さようなら、私の半身。

「行ってらっしゃい!」

私の背中にオリビアが叫ぶ。

“行ってらっしゃい”。
“おかえりなさい”って出迎えてくれるみたいに。

「……行ってきます」

私を待っててくれる。
オリビアは私が帰る場所。
いつか、私が使命を全うし天寿を迎える時、貴女は手を広げ迎えに来てくれるのでしょうね。

同じ場所に帰れる。
そんな希望を持たせてくれた。
私は寂しくない。
独りじゃない。
心はこんなにも満たされて温かいのだから。



行ってきます。
幸せな人生を願っているわ。

ありがとう。
オリビア。


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