鼓動

なぁ恋

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夢のまた夢

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“あまねく黒き魔女”

魔女には二つ名が与えられる者がある。
魔術師も然り。“闇堕ち魔術師”も言えばそれだ。

“あまねく”
広く、全てを視る眼を持った黒髪の魔女。

私はオリビア。
オビィとついとなる魔女。
生まれた時、私とオビィは腰まで髪が生えていた。それも、髪の下辺りで二人の髪は繋がっていた。

オビィは見事な黒髪で、私は焦げ茶の髪。
見た目はオビィはタレ目で右目の端にホクロがあった。
私はツリ目で左目の端にホクロがあった。
鼻と唇の形はとてもよく似ていた。 

育つ過程で、自然と髪は解け、オビィは黒に下辺りが焦げ茶。
私は焦げ茶で下辺りが黒。
離れても、離れきれないような色合いに二人も、両親も笑ったものだ。

眠る時、いつも二人で眠りに落ちる。
すると、視えるものがある。
それが“予知夢”と言われるものだと両親から教えられた。
“予言”とも言うらしい。

“不確か”で、けれども“確実”に起こることの行先に触れてしまう。そんな能力。

何を視ようと、両親の他には誰にも言えず、二人で共有することで慰め合っていた。

ある時、二人して叫びながら目覚めた。
その予知夢はあまりにも信じられないものだったから……

優しい両親が死んでしまう夢。
だから抗った。
両親に話し、それらを回避して過ごす。
けれど、毎年同じ頃。
何度も何度も何度も何度もーーー……

夢は追いかけて来るように、死んでしまう結末を視せる。
何度も何度も何度も何度も何度もっ!

そして、とうとう両親を連れて行かれた。

最初の夢を視てから、それでも十三年は過ぎていたけれど……幸せで、疲弊した年月だった。


それからは二人で生きて来た。

ある時、まだ少年の魔術師と出逢う機会があった。
それは最も魔術師に対して憎しみに似た感情が渦巻く街での出来事。
彼の幼なじみの家から火事が起きた。
それこそ死にそうになっていた。
だから躊躇せず、魔術で火を消し幼なじみを助けた。
その結果は、幼なじみと共に彼は撲殺された。

火事も元は魔術師が起こしたのだろう。
助かった者は魔術師に魅入られている。
本当は死者でゾンビなのではないか?!

疑心暗鬼の渦は大きな暴動を起こす。

撲殺後、更に火を付けられ、骨も炭化するまで燃やし尽くされた。


心底恐ろしかった。
大多数の恐怖の連鎖。それは炎のように、瞬く間に広がり、瞬時に燃え上がった。
そして何事も無かったように鎮火する。


後に残ったのは、ただ風に舞い上がって空に消え行く人で在った灰。

私達は助ける力が有るけれど、自分達を護る為に沈黙し、ただ見て居た。


それ以降、その話も魔術の縛りを持った伝承と成った。

魔術師は連帯し、身を守る為に度々こうした伝承を増やして行く。
顔を合わさずとも、魔力で、魔術で、其処此処に痕跡を残し、それらを拾っては生き残る為の布石としたのだ。

現在では上手く立ち合って、何も知らないであろう魔力持ちの子どもも誘導し、近くの魔術師が保護する。
そう言う連携が取れるまでになっていた。


今の世界では、魔術師は悪だ。
昔は平等と言うよりも魔術師の方が上で取り仕切る立場で在った。
それでも能力故の身分差や、人は唯人であることへの劣等感、それらを凌駕してでも生活の豊かさ故に暮らせていた。
それが生命を摘み取る凶器に成り得ると根本から覆されれば、豊かさよりも、生きることの方が大事なことだ。

例え、死者の魔物から護り、助けたとしても、それを生み出した者の仲間で在る魔術師を、唯人は恐れ、排除し尽くしたいと考えても、何も言えないのだ。

それでも、生きることは辞められない。増えることも仕方ない。
唯人の中に、微かに混じった魔力の血脈が生まれることも仕方ないことで、それを排除出来ない母性に父性が在ることに安堵し、我慢し、隠すそれらを救い出すことも仕方ないことなのだ。

生きる為に産まれて来る。
それが“生”と言うものだから……。

オビィとオリビア。
私達は魔術師がまだ身近で在った頃に生を受け、魔術師が伝承言い伝えの存在に成るほどの時間を生きて来た。
これほどの長寿の魔術師は、魔女は他には居ないだろう。
闇堕ち魔術師以外では……。

まるで“最悪の監視者”で在った私達。

の道を辿るように、“永遠の闇”に囚われた魔物と化した人の復活に遭遇する。

魔術に護られた棺が、魔都まと──最古の魔術師の都──の遺跡から出土したと言う。
調べる為に訪れて、解除した棺を開けると、ミイラが横たわっており、その薄い肉の隙間、干からびた肌から透けて見える赤い心の臓は“鼓動”を刻んでいた。
生きているのだ。
生きては居ても動けず、だが、恐らく意識も有る。
閉じた瞼が微かに動いているのでそれが判る。
夢を見ているのだろうか?

だが、このミイラは魔術にも魔力にも縛られていない。どうしてやることも出来ない。

と、そこへ小さな蛇が棺の影からズルリと中へ入って行った。蛇は本能で、半開きになっていたミイラの口に入り込む。隙間に逃げ込んだのだ。
すると、ゆるゆると乾いた唇が閉じ、ギチリ と、食む音。そして口端からとろりと赤い血液が一筋零れた。小さな蛇は、そのまま呑み込まれたのだろう。

次の瞬間、カタカタと、ミイラが小刻みに揺れ震え、ほんの少し肉に水分が戻る。
瞼が震え、ゆっくりと開く。
不思議と眼球はふっくらと艶やかで、魔物の証の赤い眼がゆらゆら揺れ、ピタリと私達に視線が留まる。

「……も……と、血……を」

かさ着いた唇から言葉が零れる。
すると、辺り一面の長い草むらの四方八方から、ザワザワ 草を揺らしながら沢山の線が集まってくる。

それは蛇の群れ。
堪らず棺から身を起こすと、我先にと、棺に飛び込む蛇。あっと言う間にすしずめ状態に、それらがゆるゆると萎み、皮と骨だけに変化し、反対にミイラが肉付き、人の姿へと変化して行く。

蛇の血を呑み、復活を遂げた。
闇堕ち魔術師の被害者の一人。
彼は静かに身を起こすと、ほろほろと涙を零した。
アイバンと言う、元は人で在った“不死者の魔物”から“吸血鬼”に変化出来た。解放されし者。

彼は、狂わずに居られたことに安堵し、救われたことに感謝を述べた。

そして“永遠の闇”や、“闇堕ち魔術師”のことを素直に詳しく教えてくれた。
その上で“血の呪縛”は絶たれたが、この世のどこかに居る闇堕ち魔術師を恐れ、自身は“血の呪縛”で捕らえた蛇に姿を変え、人の世には戻らないと断言し、草むらに溶けて行った。
この魔都跡には、多くの同じ血族の蛇が群生していたのだ。それ故に、アイバンは言葉通りにこの地で生きて行けるだろう。

そして、これが始まり。

“永遠の闇”から目覚める者達が少しずつ増える中、それに重なるように断片的に視る夢が、はっきりと姿を現して来る。

いずれ、“闇堕ち魔術師とが現れる”。

それはいつとも判らない、それでも確実なこと。
合わせて、“闇堕ち魔術師にが誕生する”。


二人で視る
それは、予言。

オビィと私。二人手を取って旅をして、そして運命の土地に根を下ろす。
私は伴侶を、そしてオビィは一人、運命が近付いて居ることを知っていた。

夢のまた夢。

私はもう見れないけれど、
オビィの、姉の見る夢が、ただ華やかで有ればいいのにと願う。
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