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私は藍樹
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私の名前は“ランジュ”。
皆が声にする発音とは違う響きで“伽藍”は私を呼ぶ。“藍樹”と。
その度に私の中の扉が閉まる。
それは伽藍が意図してしていると理解していたのでされるがままにする。
“伽藍”は、集落の皆に“ガラン”と呼ばれている。私と同じ二つの響きを持っている。
伽藍を知っているのは、私とオビィだけだと思う。
だから特別なのだと私は“伽藍”と呼ぶ。多分、伽藍は気付いてないけど。
私は、
どんなことも忘れない。
どんなことも覚えている。
それは私の魔力のせいなんだと思う。封じられていても、その機能は変わらないらしい。
私は私に生まれた時から全てのことを覚えている。
こんなのは特別で、誰にも言えないのも知っていて、だから伽藍にも言わない。
伽藍と出逢った時のことも鮮明に思い出せる。
三匹の小鳥を肩に乗せた伽藍の驚いた顔。心の底から恐怖を感じてる気配。
だけど、黒い小鳥が私の傍に来て、訴えてくれたから抱き上げて貰えて……安心したんだ。
私は生みの親に捨てられた。
それは不安で、どうしてか混乱して、赤子なのにそんなことを考えてる自体が今思えば変わってるんだけど、それは魔力のせいだと今は解ってる。親のことも自分のことも。
理由を籠の中から伽藍とオビィの会話を聞いて居たから。
そんなの、誰もが出来ることじゃないってオリビアとリインとセインを観察して理解出来た。
普通を覚えるにはいい家族。
それに、私が見てる伽藍の姿と、他の人が見てるガランの姿が違うのも知っている。
あの、古木のじーさん───彼はオビィに名付けられて嬉しかったみたい───の優しい洞の中で、伽藍と出逢ったのは奇跡だったと思う。
優しい面差しに赤い眼と黒い短髪。少年の見姿の伽藍が、実は見た目と年齢が違っているのもすぐに判った。その姿が変わらないのは“魔物”だから。
オビィも本当の見姿は変わってないけど、ゆっくりと歳をとってる。確実に老い、いつか死ぬんだろう。
伽藍は歳を重ねても、私が視てる姿は変わらない。何事も無ければ
死なない。それが魔術師と魔物の違いなのかもしれない。
オビィが初めて私に干渉して来た時、それを敢えて拒否しなかった。
私の伽藍から貰った響きの名前を魂に刻まれたことが嬉しかったから。
そして魔力を閉じて暮らしても、何ら私には影響しなかったのでこのままで良いと思ってた。
気を付けていることと言えば、子どもらしく在ること。
私は凡そ他の子どもとは違って居たから、だからリインと育てられることには感謝をしていた。
リインは平均的な子どもだ。両親の影響で優しい性格をしていて、穏やかで性別の違いでか、どうやら私を守ろうとしてくれてる。それは好感が持てた。
そうして今の家族は私にとって大切な存在になった。
溢れる愛情を惜しみなく向けてくれる家族。
だけど、一番は伽藍。
一番大切で大好きな人。
私にはオビィも、私と他の人から見えてる姿が違うのを知っている。考えて、考えて。その理由が魔術師だからってこと。その理由を本当の意味で解ったのが死んだと聞いた時、そんな訳ないと知ってても、生きる為の選択なのだとそうしないとならないのだと瞬時に解った。
何故なら、歳を取らない人など居ないのだから。
伽藍が泣いた。
空っぽのお墓の前で。
死んでないのに、別れるしかなかったのが悲しかったんだろう。
伽藍が悲しむから私も悲しくなって一緒に泣いた。
繋いだ手を強く握って、護って上げたいと、その時思ったの。
伽藍はいつも苦しそうで、だけど小鳥達がそれを癒してくれてる。私もその一旦で在ると分かってるから嬉しくてたまらない。
私は伽藍の特別で、伽藍は私の特別だ。
これは変わらない関係だと思ってた。
なのに、それは相当気を付けなければ崩れてしまうって、ある時知った。
秋祭りの準備をしてる時、ザーイが怪我をした。間違って斧で腕を切ってしまって、それで薬師の伽藍が呼ばれたの。
来た時、いつもの伽藍と違ってることにすぐに気付いたけど、私の仕事とばかりに、井戸から水を持って来ていて反応が遅れた。
ザーイの手当をする伽藍の眼が黒色から赤色に変わっていた。
まだ小鳥達が肩に居ればそんなことにはならなかったんだろうけど、人の多いところでは不自然なので近くで控えてる。
手当してて、ザーイが呟いたから伽藍も気付いてすぐに黒色に戻してた。
魔物は赤い眼。それは人の間では常識だ。
動物の魔物は毛が赤い。
人型の魔物は眼が赤い。
そんな言葉もあるくらいに。
誤魔化せたか判らないから、ザーイの後ろから着いて行って、耳を澄ます。
「気のせいかなぁ……ガランのさ」
首を傾げながらザーイが父親に話そうとした。
「ザーイ!」笑顔で話しかける。
見下ろして来るザーイに、
「ザーイの目の色って、何色って言うの?」と、訊いてみる。
「榛色って言うんだよ」
何の疑問も持たずに答えてくれる。
「私は青い空の色って言われるんだけど、伽藍は真っ黒なの。少しは似てればいいって思うのに。ザーイはお父さんとおんなじ色なのね。羨ましいな」
「そう……だな。うん。母さんも同じ色だからね」
榛色した眼が少し揺らいで、一瞬止まる。
「伽藍の真っ黒な眼、私は好きなのよ」
重ねがける。
「そうだな。けど、俺もランジュの空色の目、いいと思うぞ!」
これで、大丈夫。
「ありがとう!」
これで安心。踵を返して伽藍の元へ。
ガランがなんだ? って、おじさんが訊いてるけど、ザーイは、え? なんだっけ? って首を傾げてる。
“重ねがける”のが大事だって、伽藍が教えてくれたから、初めてだったけど上手く出来たわ。
嬉しくなって、鼻歌にステップ踏んで、伽藍の力になれたことに上機嫌になった。
大好きな伽藍を護れて嬉しい。
私はまだ7歳だから、出来ないことも多いけど、普通の子どもよりは知識があるから大丈夫。
これからはオビィの代わりに伽藍を護るの。
私の傍で永遠に笑ってて欲しいもの。
だって、伽藍は魔物だから、それは叶うって判ってるから。
私も永遠を手に入れることって、出来るのかしら?
伽藍が名付けて縛ってくれたからここに存在してられるの。
伽藍。私の名前を呼んで?
私は藍樹。
私は現在は藍樹。
ずっと縛って愛してて欲しい。
私も伽藍を愛してるから。
永遠って素敵ね。
永遠は苦しいことばかりだと思ってた。
そんなことないって、伽藍に教えて欲しい。
秋祭り。楽しみだ。
私を見ててね。
伽藍。
皆が声にする発音とは違う響きで“伽藍”は私を呼ぶ。“藍樹”と。
その度に私の中の扉が閉まる。
それは伽藍が意図してしていると理解していたのでされるがままにする。
“伽藍”は、集落の皆に“ガラン”と呼ばれている。私と同じ二つの響きを持っている。
伽藍を知っているのは、私とオビィだけだと思う。
だから特別なのだと私は“伽藍”と呼ぶ。多分、伽藍は気付いてないけど。
私は、
どんなことも忘れない。
どんなことも覚えている。
それは私の魔力のせいなんだと思う。封じられていても、その機能は変わらないらしい。
私は私に生まれた時から全てのことを覚えている。
こんなのは特別で、誰にも言えないのも知っていて、だから伽藍にも言わない。
伽藍と出逢った時のことも鮮明に思い出せる。
三匹の小鳥を肩に乗せた伽藍の驚いた顔。心の底から恐怖を感じてる気配。
だけど、黒い小鳥が私の傍に来て、訴えてくれたから抱き上げて貰えて……安心したんだ。
私は生みの親に捨てられた。
それは不安で、どうしてか混乱して、赤子なのにそんなことを考えてる自体が今思えば変わってるんだけど、それは魔力のせいだと今は解ってる。親のことも自分のことも。
理由を籠の中から伽藍とオビィの会話を聞いて居たから。
そんなの、誰もが出来ることじゃないってオリビアとリインとセインを観察して理解出来た。
普通を覚えるにはいい家族。
それに、私が見てる伽藍の姿と、他の人が見てるガランの姿が違うのも知っている。
あの、古木のじーさん───彼はオビィに名付けられて嬉しかったみたい───の優しい洞の中で、伽藍と出逢ったのは奇跡だったと思う。
優しい面差しに赤い眼と黒い短髪。少年の見姿の伽藍が、実は見た目と年齢が違っているのもすぐに判った。その姿が変わらないのは“魔物”だから。
オビィも本当の見姿は変わってないけど、ゆっくりと歳をとってる。確実に老い、いつか死ぬんだろう。
伽藍は歳を重ねても、私が視てる姿は変わらない。何事も無ければ
死なない。それが魔術師と魔物の違いなのかもしれない。
オビィが初めて私に干渉して来た時、それを敢えて拒否しなかった。
私の伽藍から貰った響きの名前を魂に刻まれたことが嬉しかったから。
そして魔力を閉じて暮らしても、何ら私には影響しなかったのでこのままで良いと思ってた。
気を付けていることと言えば、子どもらしく在ること。
私は凡そ他の子どもとは違って居たから、だからリインと育てられることには感謝をしていた。
リインは平均的な子どもだ。両親の影響で優しい性格をしていて、穏やかで性別の違いでか、どうやら私を守ろうとしてくれてる。それは好感が持てた。
そうして今の家族は私にとって大切な存在になった。
溢れる愛情を惜しみなく向けてくれる家族。
だけど、一番は伽藍。
一番大切で大好きな人。
私にはオビィも、私と他の人から見えてる姿が違うのを知っている。考えて、考えて。その理由が魔術師だからってこと。その理由を本当の意味で解ったのが死んだと聞いた時、そんな訳ないと知ってても、生きる為の選択なのだとそうしないとならないのだと瞬時に解った。
何故なら、歳を取らない人など居ないのだから。
伽藍が泣いた。
空っぽのお墓の前で。
死んでないのに、別れるしかなかったのが悲しかったんだろう。
伽藍が悲しむから私も悲しくなって一緒に泣いた。
繋いだ手を強く握って、護って上げたいと、その時思ったの。
伽藍はいつも苦しそうで、だけど小鳥達がそれを癒してくれてる。私もその一旦で在ると分かってるから嬉しくてたまらない。
私は伽藍の特別で、伽藍は私の特別だ。
これは変わらない関係だと思ってた。
なのに、それは相当気を付けなければ崩れてしまうって、ある時知った。
秋祭りの準備をしてる時、ザーイが怪我をした。間違って斧で腕を切ってしまって、それで薬師の伽藍が呼ばれたの。
来た時、いつもの伽藍と違ってることにすぐに気付いたけど、私の仕事とばかりに、井戸から水を持って来ていて反応が遅れた。
ザーイの手当をする伽藍の眼が黒色から赤色に変わっていた。
まだ小鳥達が肩に居ればそんなことにはならなかったんだろうけど、人の多いところでは不自然なので近くで控えてる。
手当してて、ザーイが呟いたから伽藍も気付いてすぐに黒色に戻してた。
魔物は赤い眼。それは人の間では常識だ。
動物の魔物は毛が赤い。
人型の魔物は眼が赤い。
そんな言葉もあるくらいに。
誤魔化せたか判らないから、ザーイの後ろから着いて行って、耳を澄ます。
「気のせいかなぁ……ガランのさ」
首を傾げながらザーイが父親に話そうとした。
「ザーイ!」笑顔で話しかける。
見下ろして来るザーイに、
「ザーイの目の色って、何色って言うの?」と、訊いてみる。
「榛色って言うんだよ」
何の疑問も持たずに答えてくれる。
「私は青い空の色って言われるんだけど、伽藍は真っ黒なの。少しは似てればいいって思うのに。ザーイはお父さんとおんなじ色なのね。羨ましいな」
「そう……だな。うん。母さんも同じ色だからね」
榛色した眼が少し揺らいで、一瞬止まる。
「伽藍の真っ黒な眼、私は好きなのよ」
重ねがける。
「そうだな。けど、俺もランジュの空色の目、いいと思うぞ!」
これで、大丈夫。
「ありがとう!」
これで安心。踵を返して伽藍の元へ。
ガランがなんだ? って、おじさんが訊いてるけど、ザーイは、え? なんだっけ? って首を傾げてる。
“重ねがける”のが大事だって、伽藍が教えてくれたから、初めてだったけど上手く出来たわ。
嬉しくなって、鼻歌にステップ踏んで、伽藍の力になれたことに上機嫌になった。
大好きな伽藍を護れて嬉しい。
私はまだ7歳だから、出来ないことも多いけど、普通の子どもよりは知識があるから大丈夫。
これからはオビィの代わりに伽藍を護るの。
私の傍で永遠に笑ってて欲しいもの。
だって、伽藍は魔物だから、それは叶うって判ってるから。
私も永遠を手に入れることって、出来るのかしら?
伽藍が名付けて縛ってくれたからここに存在してられるの。
伽藍。私の名前を呼んで?
私は藍樹。
私は現在は藍樹。
ずっと縛って愛してて欲しい。
私も伽藍を愛してるから。
永遠って素敵ね。
永遠は苦しいことばかりだと思ってた。
そんなことないって、伽藍に教えて欲しい。
秋祭り。楽しみだ。
私を見ててね。
伽藍。
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