82 / 88
<やまねこのふえ>のお話
60 協奏曲 第三楽章
しおりを挟む
短い休符を感じた後、
インコ先生が、羽根を振り下ろします。
冒頭から、打楽器と管楽器の破壊的なフォルテッシモが、落雷を表現します。
嵐が来るのです。
クラリネットとフルートが、風のメロディーを吹きます。
雨雲を呼ぶ、しめった風が、
長いフレーズで吹き抜けてゆきました。
やまねこは、崖の上にたち、
森と空のようすをみています。
灰色と黒い雲のうずが、
だんだんと、迫ってきました。
ホルンと管楽器の低音メロディーに、
バイオリンがアクセントをつけて不穏な空を表現します。
かつてないほどの、
とてつもなく大きな嵐です。
また、しめった風が吹き抜けます。
ぽつぽつ、と雨が降り始めました。
森の動物たちは、嵐にそなえます。
ここから逃げなければならないものもいます。
弦楽器の継続的なスタッカートが、
危機感をしめしています。
小鳥たちは、雨がひどくならないうちに、この森から逃げることにしました。
でも、ヒバリは、やまねこのそばを離れなかったため、強い風にあおられて翼を痛め、
風の中を飛べなくなってしまいました。
悲鳴のようなフレーズを
テンくんが演奏します。
雨が、激しくなってきました。
やまねこは、崖の上に立ち、
嵐に去るように頼みました。
ニノくんがふえを吹く姿は、
崖の上で雨と風に打たれて、嵐と対話する、そのものに見えました。
どこかの森で見たような気さえしてきますね!
嵐は、やまねこに答えます。
嵐の声は、チェロが演奏します。
チェロの音は、声のように聴こえるときがありますね!
配役にピッタリで、ほんとうにすてきです。
嵐は、ここを去るかわりに、
やまねこの命を欲しがりました。
やまねこは、戦います。
ニノくんの演奏は、鬼気迫るものでした。
ニノくんの奏でる音の振動が、
肌に、心に、伝わります。
息づかいまでもが魅力的で、
自信に満ちた音色の芯に、青い炎の色が見えてくるようでした。
ふえは、
ニノくんがほんとうに連れていかれると感じました。
ふつうのふえなら、なんでもないクライマックスの演奏です。でも…、
今日のニノくんは違いました。
喜びを知った1stのふえを吹いているのです。
どこまでも、どこまでも、
ニノくんの表現が、伸びていきます。
もちろん、あの魔の音を、たくさん使います。
でも、ランの2ndがカバーしているので、
聴いている動物たちには影響ありません。
ただ、一度勢いを失った銀色トウヒは、
どんどんダメージを受けていきました。
しかし、銀色の森の動物たちは、
だれひとり席を立ちません。
ここにいるだれもが、
このニノくんの演奏は、いま、ここでしか聴けないことをわかっていたのです。
たとえ、また次に同じ曲を聴く機会があったとしても、
それは、まったく違う状況の、
まったく違う演奏なのですから。
全身全霊をかけて、
演奏する喜びを、
ニノくんは、1stのふえに吹きこんでいました。
ふえが好きで、
最高のふえとめぐり合って、
いま、ここに、
演奏している。
みんな、ありがとう。
ぼくは、ふえが好きだ。
ぼくは、幸せなんだ。
連れていかれる!
1stのふえは、ニノくんが天に連れていかれるのがわかりました。
だから、
割れたのです。
冬桜の枝でつくられた横笛の、
吹き口からヘッドの方に向かって、
き裂が入りました。
ニノくんを連れていかないで。
ダメだよ。
ニノくんは、そっちにいっちゃ、
ダメなんだ。
1stのふえが演奏不能になったのがわかり、
すかさず、ランが代吹きに入りました。
嵐は、やまねこの音楽の美しさに感動し、
命を取るのをやめて、去っていきました。
雨は止み、雲の間から光がさします。
森の動物たちは、助かったことを知ったのです。
コンサートマスターの演奏するヒバリが、
傷んだ羽根で、ぎこちなく、やまねこのもとに飛んできて、
優しく、安堵の歌を歌います。
さわやかな風。
そして、虹です。
ここも、弦楽器に加えて、オルガンが助演し、
これが終曲となりました。
銀色の森の動物たちは、
音がきつ立して、舞い上がるのを見ました。
虹の音は、カサカサになった銀色トウヒの葉を払い落として、
まっすぐに空に向かったのです。
虹が通ったところから、
さんさんと強い光がさしこみ、
音楽堂は、かつてない明るさをたたえて、終演を伝えました。
ブラーーボゥ‼︎
タヌキのグラハムさんが、声を飛ばしました。
虹の後を追って、空を見ていた動物たちは、我にかえってワァッと拍手をしました。
割れんばかりの
拍手喝采でした。
インコ先生が、羽根を振り下ろします。
冒頭から、打楽器と管楽器の破壊的なフォルテッシモが、落雷を表現します。
嵐が来るのです。
クラリネットとフルートが、風のメロディーを吹きます。
雨雲を呼ぶ、しめった風が、
長いフレーズで吹き抜けてゆきました。
やまねこは、崖の上にたち、
森と空のようすをみています。
灰色と黒い雲のうずが、
だんだんと、迫ってきました。
ホルンと管楽器の低音メロディーに、
バイオリンがアクセントをつけて不穏な空を表現します。
かつてないほどの、
とてつもなく大きな嵐です。
また、しめった風が吹き抜けます。
ぽつぽつ、と雨が降り始めました。
森の動物たちは、嵐にそなえます。
ここから逃げなければならないものもいます。
弦楽器の継続的なスタッカートが、
危機感をしめしています。
小鳥たちは、雨がひどくならないうちに、この森から逃げることにしました。
でも、ヒバリは、やまねこのそばを離れなかったため、強い風にあおられて翼を痛め、
風の中を飛べなくなってしまいました。
悲鳴のようなフレーズを
テンくんが演奏します。
雨が、激しくなってきました。
やまねこは、崖の上に立ち、
嵐に去るように頼みました。
ニノくんがふえを吹く姿は、
崖の上で雨と風に打たれて、嵐と対話する、そのものに見えました。
どこかの森で見たような気さえしてきますね!
嵐は、やまねこに答えます。
嵐の声は、チェロが演奏します。
チェロの音は、声のように聴こえるときがありますね!
配役にピッタリで、ほんとうにすてきです。
嵐は、ここを去るかわりに、
やまねこの命を欲しがりました。
やまねこは、戦います。
ニノくんの演奏は、鬼気迫るものでした。
ニノくんの奏でる音の振動が、
肌に、心に、伝わります。
息づかいまでもが魅力的で、
自信に満ちた音色の芯に、青い炎の色が見えてくるようでした。
ふえは、
ニノくんがほんとうに連れていかれると感じました。
ふつうのふえなら、なんでもないクライマックスの演奏です。でも…、
今日のニノくんは違いました。
喜びを知った1stのふえを吹いているのです。
どこまでも、どこまでも、
ニノくんの表現が、伸びていきます。
もちろん、あの魔の音を、たくさん使います。
でも、ランの2ndがカバーしているので、
聴いている動物たちには影響ありません。
ただ、一度勢いを失った銀色トウヒは、
どんどんダメージを受けていきました。
しかし、銀色の森の動物たちは、
だれひとり席を立ちません。
ここにいるだれもが、
このニノくんの演奏は、いま、ここでしか聴けないことをわかっていたのです。
たとえ、また次に同じ曲を聴く機会があったとしても、
それは、まったく違う状況の、
まったく違う演奏なのですから。
全身全霊をかけて、
演奏する喜びを、
ニノくんは、1stのふえに吹きこんでいました。
ふえが好きで、
最高のふえとめぐり合って、
いま、ここに、
演奏している。
みんな、ありがとう。
ぼくは、ふえが好きだ。
ぼくは、幸せなんだ。
連れていかれる!
1stのふえは、ニノくんが天に連れていかれるのがわかりました。
だから、
割れたのです。
冬桜の枝でつくられた横笛の、
吹き口からヘッドの方に向かって、
き裂が入りました。
ニノくんを連れていかないで。
ダメだよ。
ニノくんは、そっちにいっちゃ、
ダメなんだ。
1stのふえが演奏不能になったのがわかり、
すかさず、ランが代吹きに入りました。
嵐は、やまねこの音楽の美しさに感動し、
命を取るのをやめて、去っていきました。
雨は止み、雲の間から光がさします。
森の動物たちは、助かったことを知ったのです。
コンサートマスターの演奏するヒバリが、
傷んだ羽根で、ぎこちなく、やまねこのもとに飛んできて、
優しく、安堵の歌を歌います。
さわやかな風。
そして、虹です。
ここも、弦楽器に加えて、オルガンが助演し、
これが終曲となりました。
銀色の森の動物たちは、
音がきつ立して、舞い上がるのを見ました。
虹の音は、カサカサになった銀色トウヒの葉を払い落として、
まっすぐに空に向かったのです。
虹が通ったところから、
さんさんと強い光がさしこみ、
音楽堂は、かつてない明るさをたたえて、終演を伝えました。
ブラーーボゥ‼︎
タヌキのグラハムさんが、声を飛ばしました。
虹の後を追って、空を見ていた動物たちは、我にかえってワァッと拍手をしました。
割れんばかりの
拍手喝采でした。
0
お気に入りに追加
67
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
父が死んだのでようやく邪魔な女とその息子を処分できる
兎屋亀吉
恋愛
伯爵家の当主だった父が亡くなりました。これでようやく、父の愛妾として我が物顔で屋敷内をうろつくばい菌のような女とその息子を処分することができます。父が死ねば息子が当主になれるとでも思ったのかもしれませんが、父がいなくなった今となっては思う通りになることなど何一つありませんよ。今まで父の威を借りてさんざんいびってくれた仕返しといきましょうか。根に持つタイプの陰険女主人公。
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
異世界定食屋 八百万の日替わり定食日記 ー素人料理はじめましたー 幻想食材シリーズ
夜刀神一輝
ファンタジー
異世界定食屋 八百万 -素人料理はじめましたー
八意斗真、田舎から便利な都会に出る人が多い中、都会の生活に疲れ、田舎の定食屋をほぼただ同然で借りて生活する。
田舎の中でも端っこにある、この店、来るのは定期的に食材を注文する配達員が来ること以外人はほとんど来ない、そのはずだった。
でかい厨房で自分のご飯を作っていると、店の外に人影が?こんな田舎に人影?まさか物の怪か?と思い開けてみると、そこには人が、しかもけもみみ、コスプレじゃなく本物っぽい!?
どういう原理か知らないが、異世界の何処かの国?の端っこに俺の店は繋がっているみたいだ。
だからどうしたと、俺は引きこもり、生活をしているのだが、料理を作ると、その匂いに釣られて人が一人二人とちらほら、しょうがないから、そいつらの分も作ってやっていると、いつの間にか、料理の店と勘違いされる事に、料理人でもないので大した料理は作れないのだが・・・。
そんな主人公が時には、異世界の食材を使い、めんどくさい時はインスタント食品までが飛び交う、そんな素人料理屋、八百万、異世界人に急かされ、渋々開店!?
お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?
すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。
お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」
その母は・・迎えにくることは無かった。
代わりに迎えに来た『父』と『兄』。
私の引き取り先は『本当の家』だった。
お父さん「鈴の家だよ?」
鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」
新しい家で始まる生活。
でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。
鈴「うぁ・・・・。」
兄「鈴!?」
倒れることが多くなっていく日々・・・。
そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。
『もう・・妹にみれない・・・。』
『お兄ちゃん・・・。』
「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」
「ーーーーっ!」
※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。
※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。
※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)
王が気づいたのはあれから十年後
基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。
妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。
仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。
側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。
王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。
王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。
新たな国王の誕生だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる