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chapter3
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夕暮れの太陽は休む事無く町中を熱している。
「暑・・・い・・・」
焼ける程の日差しがジリジリと秀一の背中を射しているが、ドアを前に考え込んでしまう。
届けなければ行けないのは当然なのだが、あの沢山の人形達にまた見詰められるかと思うとノブに手を掛ける事がどうしても出来ずに居た。
「はぁ・・・」
とは言えこのままでは配達の規定時間を過ぎてしまい、保温バックの中に入ったピザもふやけてしまう。
(う・・・っし!)
意を決してドアに手を掛けようとした瞬間、ドアの方が勝手に開いてしまい転げそうになる。
「おわっ!」
見ればスーツ姿の若い女性がちょうど中から出て来る所だった。
慌ててその場から一歩下がると、女性は不思議そうに秀一を見たがそのまま階段を下りていってしまった。
「客って、来るんだ」
女性の後姿を見ながら思わず不謹慎な事を言ってしまう。
あの薄暗い室内は店かどうかも判断し難い。
(まぁ、妖しい店ではあるか・・)
いや妖しいと言うのは不気味な、と言う意味で決して一部のマニアがよろこびそうなオトナな店と言う訳では無くて。
そう言えば人形相手に興奮する人種もいるとかいないとか・・・・・
(いやいやいやいや・・・)
そんな事を思いながら入ってしまったため、何時もの決まり文句を言うのを忘れてしまった。
「いらっしゃいませ」
その為、客だと思われたらしくメイの方が営業口調で迎えた。
彼女は秀一に背を向けて人形を数体抱えて、それを棚に戻している所だったからかもしれない。
相変わらず室内は薄暗いが今日はBGMを付けているらしく、何処からともなく不規則なオルゴールの音色が聴こえて来た。
「ご注文のミックスピザLサイズとサラダ2つです」
慌ててそう告げると人形達が一斉に自分に視線を向けた様な気がした。
(うぅ・・・)
早くこの場から逃げ去りたい。
居心地の悪さに体がむずむずするが、メイはそんな事に気付く筈も無くのんびりとカウンターの方へ歩いて行く。
それでも今日は予め用意してあったらしく、引き出しから財布を取り出すと秀一の方へ戻って来た。
「4200円になります」
そう言って改めて目を合わせると、メイはやはり背が高い。
彼女と視線を合わせるには自分が視線を少し上げなければならない。
それでいて彼女の体型は猫背になることも無く、スラリと足が伸びて腰の位置も高い。モデルとしても食べていけそうだ。
「はい、ちょうど」
代金を受け取ったその瞬間、
本当に止せばいいのに、
この前自分の背中に落ちて来た、棚の上の―
あの人形を見てしまった―。
「・・・・・」
「ひぇっ・・・・・・!」
人形と目が合った。
まるで人形の方もこちらを見ていた様だ。
恐怖で頭が混乱する。
一刻も早くここから逃げ出したい、震えだしそうになる足をどうにか押さえるが目が逸らせない。
「気になる子がいた?」
清んだ川の様なメイの声が耳に届くと、金縛りにあっていた体がほどける。
「いえ・・・っっ!」
秀一は目が回りそうなほど思い切り頭を振る。
それが失礼に当るほどの拒絶した態度だとか、男なのに人形に興味があると思われて嫌だとか、そんな事は考えられない程気味が悪かった。
とにかく、ここにある人形は何かがおかしい。
「おかしい!」と言うしか表現が見つからないがおかしいのだ。
「そう。見たい子がいたら遠慮なく言ってね」
それは営業用の文句だったのかもしれない。
けれども目が合ったメイの瞳から炎の様な光が見えた。
「・・・」
それは・・・・・・・・・
ここに居る人形達と同じ光?
「ありがとうございました!」
確かめる事なんて出来ない、それだけ言うのが精一杯だった。
後で苦情の電話が来ても構わない、秀一はドアまで駆け出すと勢い良く閉めた。
転げ落ちるように階段を駆け下り、息が続く限り全力疾走した。
「はぁっ・・・はぁっ・・・!」
ちょうどこの前と同じ角の所まで来ると、肺が痛くなる位思い切り息を吸い込んだ。
何気無く触れた自分の頬は凍り付く程冷たく、血の気が失せていた。
(もう、絶対に行くもんか・・!)
二度も怖い目に合わされた場所に、もう行く勇気など無い。
次に頼まれても絶対に嫌だと言おう。それが駄目ならバイトを辞めるしかない。
帰宅途中の会社員達が、ピザ屋の従業員姿の秀一を怪訝そうな目で見ながら通り過ぎて行った
(そう言えば)
タオルで額の汗を拭いながら先程ポケットに慌てて突っ込んだ代金を専用のケースに仕舞う。
Lサイズのピザとサラダ2つ分の代金。
(あのピザ一人で食べるのかな?)
4~5人前はあるサイズだ、細身のメイが全部食べるとは思えない。
それに前回の注文から日も経っていない、いくらピザが大好きでも間を置かずに注文するだろうか?
店内にはメイしか居ない風に感じたが、あの奥のドアの向こうに別の誰かが居るのだろうか?
それともこれから来るのだろうか?
だれが・・・・・?
「どうでも良いだろ」
「暑・・・い・・・」
焼ける程の日差しがジリジリと秀一の背中を射しているが、ドアを前に考え込んでしまう。
届けなければ行けないのは当然なのだが、あの沢山の人形達にまた見詰められるかと思うとノブに手を掛ける事がどうしても出来ずに居た。
「はぁ・・・」
とは言えこのままでは配達の規定時間を過ぎてしまい、保温バックの中に入ったピザもふやけてしまう。
(う・・・っし!)
意を決してドアに手を掛けようとした瞬間、ドアの方が勝手に開いてしまい転げそうになる。
「おわっ!」
見ればスーツ姿の若い女性がちょうど中から出て来る所だった。
慌ててその場から一歩下がると、女性は不思議そうに秀一を見たがそのまま階段を下りていってしまった。
「客って、来るんだ」
女性の後姿を見ながら思わず不謹慎な事を言ってしまう。
あの薄暗い室内は店かどうかも判断し難い。
(まぁ、妖しい店ではあるか・・)
いや妖しいと言うのは不気味な、と言う意味で決して一部のマニアがよろこびそうなオトナな店と言う訳では無くて。
そう言えば人形相手に興奮する人種もいるとかいないとか・・・・・
(いやいやいやいや・・・)
そんな事を思いながら入ってしまったため、何時もの決まり文句を言うのを忘れてしまった。
「いらっしゃいませ」
その為、客だと思われたらしくメイの方が営業口調で迎えた。
彼女は秀一に背を向けて人形を数体抱えて、それを棚に戻している所だったからかもしれない。
相変わらず室内は薄暗いが今日はBGMを付けているらしく、何処からともなく不規則なオルゴールの音色が聴こえて来た。
「ご注文のミックスピザLサイズとサラダ2つです」
慌ててそう告げると人形達が一斉に自分に視線を向けた様な気がした。
(うぅ・・・)
早くこの場から逃げ去りたい。
居心地の悪さに体がむずむずするが、メイはそんな事に気付く筈も無くのんびりとカウンターの方へ歩いて行く。
それでも今日は予め用意してあったらしく、引き出しから財布を取り出すと秀一の方へ戻って来た。
「4200円になります」
そう言って改めて目を合わせると、メイはやはり背が高い。
彼女と視線を合わせるには自分が視線を少し上げなければならない。
それでいて彼女の体型は猫背になることも無く、スラリと足が伸びて腰の位置も高い。モデルとしても食べていけそうだ。
「はい、ちょうど」
代金を受け取ったその瞬間、
本当に止せばいいのに、
この前自分の背中に落ちて来た、棚の上の―
あの人形を見てしまった―。
「・・・・・」
「ひぇっ・・・・・・!」
人形と目が合った。
まるで人形の方もこちらを見ていた様だ。
恐怖で頭が混乱する。
一刻も早くここから逃げ出したい、震えだしそうになる足をどうにか押さえるが目が逸らせない。
「気になる子がいた?」
清んだ川の様なメイの声が耳に届くと、金縛りにあっていた体がほどける。
「いえ・・・っっ!」
秀一は目が回りそうなほど思い切り頭を振る。
それが失礼に当るほどの拒絶した態度だとか、男なのに人形に興味があると思われて嫌だとか、そんな事は考えられない程気味が悪かった。
とにかく、ここにある人形は何かがおかしい。
「おかしい!」と言うしか表現が見つからないがおかしいのだ。
「そう。見たい子がいたら遠慮なく言ってね」
それは営業用の文句だったのかもしれない。
けれども目が合ったメイの瞳から炎の様な光が見えた。
「・・・」
それは・・・・・・・・・
ここに居る人形達と同じ光?
「ありがとうございました!」
確かめる事なんて出来ない、それだけ言うのが精一杯だった。
後で苦情の電話が来ても構わない、秀一はドアまで駆け出すと勢い良く閉めた。
転げ落ちるように階段を駆け下り、息が続く限り全力疾走した。
「はぁっ・・・はぁっ・・・!」
ちょうどこの前と同じ角の所まで来ると、肺が痛くなる位思い切り息を吸い込んだ。
何気無く触れた自分の頬は凍り付く程冷たく、血の気が失せていた。
(もう、絶対に行くもんか・・!)
二度も怖い目に合わされた場所に、もう行く勇気など無い。
次に頼まれても絶対に嫌だと言おう。それが駄目ならバイトを辞めるしかない。
帰宅途中の会社員達が、ピザ屋の従業員姿の秀一を怪訝そうな目で見ながら通り過ぎて行った
(そう言えば)
タオルで額の汗を拭いながら先程ポケットに慌てて突っ込んだ代金を専用のケースに仕舞う。
Lサイズのピザとサラダ2つ分の代金。
(あのピザ一人で食べるのかな?)
4~5人前はあるサイズだ、細身のメイが全部食べるとは思えない。
それに前回の注文から日も経っていない、いくらピザが大好きでも間を置かずに注文するだろうか?
店内にはメイしか居ない風に感じたが、あの奥のドアの向こうに別の誰かが居るのだろうか?
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だれが・・・・・?
「どうでも良いだろ」
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