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第一章 ミスで始まる異世界転生

第六話  称号のせいで苦難決定

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 遺品を回収する前に、まずは二体との契約を済ませることにした。

「はじめまして。麟慈って言います。お名前をつけた方がいいかな?」

「うん」

 しゃべった……。

 小さい方のキマイラビットさんは話せるのね。
 じゃあ大きい方は?

「き、君は?」

「任せる」

 こっちもか。
 まぁ意思疎通ができるのはありがたい。
 ただでさえぼっちなのに、ブツブツと独り言を言ってたら誰も近寄って来ないだろうしね。

「じゃあ男の子の方は【アポロ】で、女の子は【ティア】にしよう」

「「意味は?」」

 息ぴったりだな。
 双子だからかな?

「どちらも前に住んでいたところで有名な神様から拝借しているんだ。アポロは太陽神から、ティアは月女神からね」

「「ふーん」」

 気のない返事をしている二体。
 でももじもじニヤニヤしている様子で喜んでいることが窺えるから、名付けは成功だと確信できた。

「じゃあティア、宝箱をもらってもいいかな?」

「うん。どうぞ」

 可愛い。
 返事する度に揺れる耳が可愛さを増幅させている。

 ちなみに宝箱の中身は、虹色の【創造】メダルが一枚、金色の【商店】メダルが一枚、黒鉄色の【ガチャ】メダルが一枚、〈付与魔法〉のスキルスクロールが一つに魔法陣図鑑が一冊の、全部で五つだった。

「宝箱はどうなるの?」

「時間が立つと消えるよ」

「そうなのか。それじゃあ空間収納具をもらって入れておこうかな」

「それが良いと思う」

 俺とティアは宝箱の中身について話しているのだが、アポロは何故か話に加わって来ない。
 もしかして嫌われている?

「早く出ようぜっ! オレ、ここ嫌いなんだっ!」

 転生前の記憶でもあるのか、俺にというよりも空間自体が嫌いらしい。
 そしてティアにはその理由が分かるようで、ギュッとアポロを抱きしめていた。

「死体を全裸にするから待っててね」

「……何で全裸にするんだ?」

「全裸の方がダンジョンに処理される速度が早いらしいよ。他の道具を貰って行きたいから、現場から完全に離れられるまでどこかで生きていると思ってもらいたいんだよね」

「もらっても大丈夫って言われてただろ?」

「人間は欲深いからね。問題ないことでも難癖つけるだけで奪い取れるなら行動に移すものなんだよ」

「やっぱり人間なんか嫌いだ」

 おっと……。
 俺も人間なんだけど……?

「契約は無理させちゃったかな?」

「はっ?」

「俺も人間なんだよ?」

「違うだろ」

「えっ?」

「使徒なんだろ?」

「…………ち、違うよ」

「仮採用中って聞いたぞ」

「誰にかな?」

「生命神様」

「さっきの方?」

「違う。あの方は創造神様だ」

 新キャラか……。

「仮採用期間は終了してね、不採用になったんだ」

「そんなはずはない」

「な、何で?」

「仮採用期間は最低でも一〇年って言ってたぞ。気軽につけていい称号じゃないから、つけるには何回もの確認と承認作業があって、外すのも一〇年くらいかかるほどの称号だから、その者は信用していいと言われた」

 ──おいっ。確信犯かっ!?

「じゃあバグじゃないじゃん」

「バグが何かは知らないけど、担当の神様がいても手続きはできるけど外れるのは一〇年後だってよ」

 面倒事から逃れられそうにない絶望感がすごいけど、使徒でなければ信用できないほどの人間不信及び人間嫌いなアポロと契約できたことは、本当に不幸中の幸いだったなと思う。

「……【使徒(仮)】は内緒だからね」

「外ではしゃべらないから安心しろ」

「そ、そうなんだ」

 まぁただでさえ目立つ珍獣で、その上話せるとなったら従魔泥棒と毎日「こんにちは」しそうで嫌だもんね。

「収納腕輪ゲットーーッ」

 右手に着けて、遺品の槍や盾などを片っ端から収納してく。
 転生して初めて魔法らしい、意志だけで出し入れできることが楽しくて、空間収納具を入手できたことだけでも攻略に来たかいがあるというものだ。
 その後、ダンジョンで見つけたスライムを死体の上に落として行き、火葬もといスライム葬を行った。

「じゃあ行こうか」

「うむ」

「楽しみ」

 チラッと横目に二体を見ると、二体は手を繋いで歩いていた。
 ほのぼのする光景にほっこりするも、どこか混ざってはいけない雰囲気が漂い、寂しく感じるのだった。


 ◆


 ダンジョンの外にあった物資や馬車の残骸は、ティアが魔法を使って回収してくれた。
 どうやらティアは空属性の魔法が使えるらしい。
 空間収納具の補助をしてくれる存在は大変に助かる。
 可愛いし有能。言う事無しだ。

 そして回収後、森の中を通って被害を受けているであろう町の様子を窺いに行く。

「うわぁ……ボロボロ」

「燃えてるね」

「ふんっ。ざまあみろだ」

「……何で人間が嫌いかを聞いてもいいのかな?」

「どうしてかははっきり分からん。でもモヤッとするんだ」

「記憶を取り戻す旅、する?」

 真っ先に表情を変えたのはティアだった。
 それは嫌だとでも言うかのように、そわそわと動揺していた。

「いらん。すでに生命神様が教えてくれたから。人間に酷いことされたんだと。でも神様はとても感謝しているから、生まれ変わってみないかと」

「でも人間と行動するのは楽しくないんじゃない?」

「だから人間じゃないって」

「いや、いつか俺と行動する人間が現れるかもしれないだろ?」

「そっか……。まぁそのときはまた考えればいいさ。そ、それに今は……」

「ん? なぁに?」

 急にもじもじし出すアポロ。
 チラチラとティアの表情を窺い、視線が合うと俯いてニヤけている。

「もしかして……」

「な、何だよっ」

 一目惚れしちゃったのかぁ。
 珍獣のお嫁さんは探すのが難しそうだから、アポロからしたらティアを逃した場合絶望するしかなさそうだしね。

「何でもないよ」

「ふんっ。ティア、お腹空かないか?」

「お腹空いた」

「そうだよな。おい、メシっ」

 亭主関白か。
 というか、この場合は家政夫かな。

「ここからだと町から見えちゃうから、もう少し離れてからでいいかな?」

「見られて何か問題でもあるのか?」

「町から見てこちら側はダンジョン方面でしょ? ダンジョンの被害を受けている場所の近くでのほほんと食事をするっていうのは、何かしらの疑いを向けられる行動だよ」

「面倒くさいんだな」

「もっと面倒くさいことにならないようにするためだよ」

「まぁ良いけど、そろそろ足が痛いぞ」

「……野生はどこに行った?」

「オレたちは野生だったことはない。それに生まれたての赤ちゃんだぞ」

「……じゃあご飯はミルクで良いかな?」

「知らないのか? 魔獣はミルクで育たない」

 横でティアが声を殺して爆笑している。
 俯いていて表情は分からないが、耳が小刻みに揺れているから笑っているのは間違いない。

「じゃあ人参で良いのかな?」

「良くない」

「何で? 兎は草食動物でしょ?」

「見た目は兎、心は狼なんだぞ」

「見た目も狼だよ。顔だけだけど」

「おっと。心境は表情に出るというが、本当だったんだな」

「表情ってレベルじゃないけどね」

「それよりも必須アミノ酸って知ってるか?」

 逆に何で知っているんだよ。

「生命神様がおかしな人間が言っていたと教えてくれたのだが、成長期に摂る必要がある栄養素のことを言うんだってな。オレたちはまだまだ成長期だぞ? 何を食べるか分かるよな?」

「お肉かな?」

「おめでとう。よくぞ答えに辿り着いた。だが、何事もバランス良くだからな」

「はい」

 負けた……。

 あとおかしな人間って、絶対勇者のことじゃん。
 もう神様を困らせてるの?

「ゴソゴソ何しているんだ?」

「おやつ食べるの?」

「おやつ食べるのか!?」

「いや、スキルを覚えておこうと思ってね」

「「ふーん」」

 興味なさそうな二体を横目に、〈付与魔法〉のスクロールを広げて魔力を込める。

 魔法陣がスッと体内に入っていき、その後スクロールはボロボロと崩れ去った。




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