上 下
3 / 7
第一章 ミスで始まる異世界転生

第三話  部下のせいでミス転生

しおりを挟む
 頑張るとは言ったものの、簡単には諦めきれない。
 だって魔法にはロマンが溢れているから。

「なんとか他の属性の魔法を使う方法はありませんか?」

「うーん。契約できれば精霊術が最有力じゃが、適性があることで精霊と親和性を高められるからのぉ」

 チラチラッとこちらに視線を向けていることから絶望的と。
 よし、次っ。

「次点で、なんちゃって魔法が使える魔具かの。事前に設定した魔法しか使えないという柔軟性に欠けるという欠点があるが、そこそこ人気の道具じゃ」

「確か、作るためのスキルを取った気がする」

「そうじゃな。頑張って作るのじゃ。買うと結構するからのぉ」

「じゃあ売ったら大富豪に?」

「なれるが、面倒事もセットで来るが良いのか?」

「でも社会的に無能な僕が未だ嘗て誰も攻略できなかったダンジョンを攻略した方が、色々な面倒事がやって来そうなんですが?」

「……なんくるないさー」

 随分と気の抜けた「なんくるないさー」だったな。
 つまり、何も考えていなかったと。

「いやいや、考えているとも。その証拠に固有スキル〈メダル〉があるのじゃからなっ」

「そういえばありましたね。不思議なスキルが」

「これはダンジョン内専用スキルじゃ」

「えっ? 専用?」

「うむ。制限を設けたからこそ、素晴らしい性能のスキルを最初から最大限のパフォーマンスで使用できるのじゃ。制限を設けなかったら固有スキルなのに、ちまちまとレベル上げをしなくてはならなかったのじゃぞ?」

 スキルを使うためにはダンジョンに行く必要があり、自ずと攻略をするように仕向けるためのスキルか。

「これこれ、穿った見方をするでない。純粋に善意から創ったスキルじゃて」

 地獄への道は善意で舗装されているのだけど、神様クラスの善意の道は果たしてどれほど過酷な地獄へ繋がっているのだろうか。
 考えただけでも恐ろしい。

「話を戻すぞ?」

 スルーされた……。

「メダルは魔物を倒せば、必ず一枚以上落とすことになっている。当然じゃが、基本的にお前さんと従魔等の契約者にしかメダルは見えないし触れない。使うときは魔力を込めて『神よ』と言えば良い」

 ……呪文はともかく、

「お金に交換できるとかじゃないんですね」

「うむ。詳細はホワイトボードで説明しよう」

 と言って再び登場するホワイトボード。
 そこには希少度や簡単な使い方が記載されていた。

 例えば、希少度。
 これは全部で五段階に分かれている。
 さらに各一枚への価値比較も。

 それがこれだ。

 虹色/極上 = 金色/ 5枚
 金色/上級 = 銀色/10枚
 銀色/中級 = 銅色/20枚
 銅色/下級 = 木製/30枚
 木製/粗悪

 何ができるかと言うと、一日一回のデイリーガチャと各種召喚が基本なんだとか。
 なお、デイリーガチャ以外のガチャは存在せず。
 ただし、デイリーガチャのメダルは無料配布となっているらしい。

「有効期限は一日限定で、配布と使用はダンジョン内のみ……」

 つまり、ダンジョン攻略を日課にさせる気満々じゃん。
 せめて貯蓄OKで、五枚で確定ガチャとかなら日課にしても良いけどなぁ。

「良いぞ。それくらいならまだイジれる」

「リソースがないんじゃ……」

「他四人のスキルはまだ未確定じゃ。あやつらも制限付きにしてしまえばリソースの確保は難しくない」

「まあそれなら……お願いします」

「うむ。じゃが、心は痛まないか?」

「いえ、全くっ。ほぼ知らない人なので」

「そりゃぼっちにもなるわ」

「すみません、聞き取れなかったんですが……?」

「独り言じゃ。気にするでない」

「はい……?」

「うむ。それで魔法についてじゃが、メダルで魔法スクロールを召喚することもできるからの。頑張って魔物を倒すと良いぞ」

 結局はそこに辿り着くのか。

「善処します」

「うむうむ。スキルスクロールも召喚できるから、お前さんが泣く泣く諦めた〈鑑定〉も取得できるやもしれんし、空間収納具なるものも用意している。どうじゃ? 少しはやる気が出てきたんじゃないかの?」

「空間収納具は確かに欲しいですね」

 もう一つの〈鑑定〉は、序盤にこそ活躍するスキルだと思うんだよね。
 いつ取得できるか分からないものは期待するだけ無駄だし、代わりに〈直感〉を取ったからなんとかなるはず。

「さて、名残惜しいがそろそろ転生してもらおうかの」

「一つだけ質問してもよろしいでしょうか?」

「何じゃ?」

「修羅大陸の西側に送られるのはわかったんですが、具体的にどこに送られるのですか? 設定を考える必要がありますので」

「さすがに転生直後にダンジョンに送るようなことはしないから安心せよ。出来るだけ人里近くの森に送る予定じゃから、森で暮らしてたとか言えば良かろう」

「森ですね。じゃあ〈棍棒術〉の選択は間違いじゃなかったですね」

「うむ。大陸でも種族差別が少なく、実力主義を謳う西側最大国家である【騎士王国ストロボ】に転生してもらう。そこで実力者として認められれば、他の国など木っ端扱いにできるはずじゃ」

「木っ端扱いにしなくていいから、平和にスローライフを送りたい」

「無力なままでいることは、スローライフを送る上で一番の障害じゃ。お前さんの希望に一番近い生活は何じゃと思う?」

「うーん……隠棲した仙人でしょうか?」

「答えは、奴隷じゃ」

「ど、奴隷……」

 言い過ぎでは? 誰にも見つからなければいいだけで…。

「誰にも見つからないのは不可能じゃし、力無き者は常に搾取される側である。お前さんの世界にも上級国民という言葉があったじゃろうが、この世界の上級国民は本当に何をしても良いのじゃ。でも万人共通で怖いものがあるからこそ、力があれば抵抗できるのじゃ」

「怖いものですか?」

「うむ。死への恐怖じゃな。故に、強力な武力を持つ者には阿るのじゃ。せっかく転生するのじゃから幸せな人生の方が良かろう?」

「はい……」

「であれば、力をつけよ。ダンジョンは強さを求める者にとって最高の学び舎じゃて」

「頑張ります」

 質問しておいて良かった。
 話を聞いてやる気が湧いたのは間違いない。

「うむうむ。ではそろそろ送るでの」

「はい。お世話になりました」

「達者での」

「はい」

 直後、意識だけだった自分の周囲が光で照らさられた。
 と同時に、聞いてはいけない言葉が聞こえてきた。

「──こらっ! またミスったのかっ!」

「す、すみません……」

「恋人が亡くなった直後に厳しく言いたくはないが、流石に三連続でのミスは……のぉ」

「バグはわたしではありませんっ」

「そ、そうなのか。それは済まなかったが、転生地点がズレておるぞ。しかもそこは──」

 静かに話を聞いていたが、流石に光っていることが気になったのだろう。神様が振り返った。
 そのときの「お前さん、いたの?」という顔は一生忘れそうにない。加えて言えば、一番重要そうなことを言う直前で止めたことも相まって忘れるどころか気になっている。

「ちょっ──」

 ──待ってっ!

 と思うも、魔法陣に飲み込まれたときと同じく意識が途絶えた。


 ◆ ◆ ◆


「ふぅ~っ。危なかったのぉ」

 麟慈がいなくなった後の神界。
 創造神は一人、額の汗を拭う。

「気持ちは分かるが、関係ない人間を巻き込んだ罰を与えなければ示しがつかないのも事実。さて、どうすべきかな」

 今回ミスをしたのは従属神の一柱で、主に創造神や生命神の補佐をしてくれている精霊神である。
 関係性などから二柱にとっては娘と変わりなく、今回のことで悲しむ姿はとても見ていられないくらい痛々しいものだった。其の上で、さらに罰を与えなければいけないというのは過去最大で過酷な仕事である。

「──そうだっ! アレがあったっ!」

 誰もが幸せに感じるはずだと自信満々に言える罰を思いつき、すぐさま生命神と簡単な打ち合わせをし、麟慈にも根回しを行うことに。

「託宣は無理だから、スキル〈直感〉に働きかけて行き先を指示しようっ!」

 駄賃は虹色メダルにしようと思い、早速準備を始めるのだった。

「……頼むぞ、我が使徒よ」


 ◆ ◆ ◆





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

チートな転生幼女の無双生活 ~そこまで言うなら無双してあげようじゃないか~

ふゆ
ファンタジー
 私は死んだ。  はずだったんだけど、 「君は時空の帯から落ちてしまったんだ」  神様たちのミスでみんなと同じような輪廻転生ができなくなり、特別に記憶を持ったまま転生させてもらえることになった私、シエル。  なんと幼女になっちゃいました。  まだ転生もしないうちに神様と友達になるし、転生直後から神獣が付いたりと、チート万歳!  エーレスと呼ばれるこの世界で、シエルはどう生きるのか? *不定期更新になります *誤字脱字、ストーリー案があればぜひコメントしてください! *ところどころほのぼのしてます( ^ω^ ) *小説家になろう様にも投稿させていただいています

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

マグノロギア

栂嵜ここみ
ファンタジー
ファンタジー創作『マグノロギア』の作品集です

お前らの目は節穴か?BLゲーム主人公の従者になりました!

MEIKO
BL
僕、エリオット・アノーは伯爵家嫡男の身分を隠して、公爵家令息のジュリアス・エドモアの従者をしている。事の発端は十歳の時…我慢の限界で田舎の領地から家出をして来た。もう戻る事はないと己の身分を捨て、心機一転王都へやって来たものの、現実は厳しく死にかける僕。薄汚い格好でフラフラと彷徨っている所を救ってくれたのが我らが坊ちゃま…ジュリアス様だ!坊ちゃまと初めて会った時、不思議な感覚を覚えた。そして突然閃く「ここって…もしかして、BLゲームの世界じゃない?おまけにジュリアス様が主人公だ!」 知らぬ間にBLゲームの中の名も無き登場人物に転生してしまっていた僕は、命の恩人である坊ちゃまを幸せにしようと奔走する。だけど何で?全然シナリオ通りじゃないんですけど? お気に入り&いいね&感想をいただけると嬉しいです!孤独な作業なので(笑)励みになります。 ※貴族的表現を使っていますが、別の世界です。ですのでそれにのっとっていない事がありますがご了承下さい。

強引に婚約破棄された最強聖女は愚かな王国に復讐をする!

悠月 風華
ファンタジー
〖神の意思〗により選ばれた聖女、ルミエール・オプスキュリテは 婚約者であったデルソーレ王国第一王子、クシオンに 『真実の愛に目覚めたから』と言われ、 強引に婚約破棄&国外追放を命じられる。 大切な母の形見を売り払い、6年間散々虐げておいて、 幸せになれるとは思うなよ……? *ゆるゆるの設定なので、どこか辻褄が 合わないところがあると思います。 ✣ノベルアップ+にて投稿しているオリジナル小説です。 ✣表紙は柚唄ソラ様のpixivよりお借りしました。 https://www.pixiv.net/artworks/90902111

料理人がいく!

八神
ファンタジー
ある世界に天才料理人がいた。 ↓ 神にその腕を認められる。 ↓ なんやかんや異世界に飛ばされた。 ↓ ソコはレベルやステータスがあり、HPやMPが見える世界。 ↓ ソコの食材を使った料理を極めんとする事10年。 ↓ 主人公の住んでる山が戦場になる。 ↓ 物語が始まった。

ゴミスキル「合法侵入」しか持たない俺「ナーリ・フォン」は、なぜか「ぬらりひょん」という『妖怪の総大将』になりました

フーラー
ファンタジー
『ひたすら明るい、バカな物語』を追求した、ドタバタ・ラブコメファンタジー。 舞台は中世風ファンタジー。 この世界ではサキュバス・ヴァンパイア・エルフをはじめとした西洋モンスターが多数派で、 いわゆる『日本妖怪』は差別を受けている世界だった。 そんな世界に、主人公「ナーリ・フォン」は異世界に転移してしまう。 彼に与えられたスキルは『合法侵入』。 これは相手の家に身分を怪しまれずに上がり込めるというだけのゴミスキルであった。 この能力を使って、他人の家でご飯をご馳走になりながら生きていたナーリだが、 ある日妖怪『あかなめ』にであう。 彼女の話では、 「自分たちが住んでいた砦が、サテュロスの盗賊たちに奪われ、仲間が奴隷にされてしまった」 とのことであった。 そこでナーリは『合法侵入』のスキルを利用してサテュロスたちを退治し、 奴隷たちを助けだす。 さらに、助けた奴隷たちに『妖怪の総大将』として祭り上げられたナーリ。 しかも、ひょんなことから自身の名を、 『ぬらりひょん』 と間違えられて覚えられてしまう。 そして、 ・ナーリの垢が大好きで、いつも体を嘗め回そうとする底抜けの馬鹿「アカナメ」、 ・ナーリのことが大好きでヤンデレ気味だけど、本当は自己評価がすごく低い「雪女」、 ・ナーリを「お兄ちゃん」と慕う、猫のようにかわいらしい幼女「スネコスリ」 ・気さくな性格で、ナーリと親友のように接してくれる男性「手の目」 といった、個性豊かな妖怪たちとともに、日本妖怪をまとめ上げながら、 妖怪たちが差別されない世界を作るため、活躍をしていく。 小説家になろう・カクヨムでも掲載しています!

追放から始まる新婚生活 【追放された2人が出会って結婚したら大陸有数の有名人夫婦になっていきました】

眼鏡の似合う女性の眼鏡が好きなんです
ファンタジー
 役に立たないと言われて、血盟を追放された男性アベル。 同じく役に立たないと言われて、血盟を解雇された女性ルナ。  そんな2人が出会って結婚をする。 【2024年9月9日~9月15日】まで、ホットランキング1位に居座ってしまった作者もビックリの作品。  結婚した事で、役に立たないスキルだと思っていた、家事手伝いと、錬金術師。 実は、トンデモなく便利なスキルでした。  最底辺、大陸商業組合ライセンス所持者から。 一転して、大陸有数の有名人に。 これは、不幸な2人が出会って幸せになっていく物語。 極度の、ざまぁ展開はありません。

処理中です...