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第一章 神託騎士への転生

第二十話 偉い覗き魔を発見する

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「前方では戦闘が始まっているようだな」

「そのようです。どうしますか?」

「ここで少し待機して斥候を向かわせろ! 報告次第で撤退する!」

「はっ! かしこまりました!」

 ふーん……させないけどね。

「では失礼しま――」

「ん? どうした? ――だっ」

 部下らしき男の首に背後からブレードを突き刺し、右手でHK45Tの引き金を引く。
 人気がない馬車から処理しに来たけど、いきなり部隊長の箱馬車に当たるとは思わなかったな。てっきりもう一つの豪華な方に乗っていると思ったのに。

 人が来ないうちに隊長の死体から補給物資を回収して馬車上荒しをする。
 書類、金銭、魔石、魔具などが隠してあった。もちろん全ていただいていく。この馬車はすぐに棺桶にするから、今回収しておかないと取り出せなくなるのだ。
 終わったら部下の死体から装備などの補給物資を回収し、死体を棺桶に入れて後続の幌馬車に向かう。

 豪華な紋章入りの箱馬車は中も外も一番人が多いから後回しだ。

 それにしても、輜重部隊の人数が少なくないか? 助かっているけど、護衛の数も少なすぎると思う。

 ――もしかして……アレか? ワイバーン記念日にドラドと一緒に殲滅した部隊が輜重部隊だったのか? ……ありえる。そりゃ少ないわな。

 四台の幌馬車の位置を確認し、御者と護衛の五人の位置を、それぞれ確認していく。

 御者は御者台にいて、護衛は四方を囲んで守っているのか。
 狙いやすい御者から処理していこう。

 ドットサイトを覗き御者の顔面を捉えて引き金を引く。
 予想通り軽装だし、後方にいるせいで油断してくれている。おかげですぐに終わりそうだ。

 そして、本当にあっという間に終わった。

 豪華な紋章入りの馬車には首輪をした二人のエルフが乗っていて、大きなベッドがあった。
 おそらく、開戦直後に死んだデブの馬車だと思う。中隊の隊長なら貴族が務めていてもおかしくないらしいから、あながち間違っていないと思う。

 貴族の馬車に首輪をしたエルフ……奴隷かな?

 エルフの奴隷(仮)たちは、ほぼ裸の状態でグッタリとしていた。
 個人的には他人だからどうでもいいけど、良い人キャンペーンに使えそうだと思い直す。すぐに幌馬車から布を持ってきて包み、最後尾の幌馬車に運び入れる。

 その後、馬車上荒しや死体から補給物資を回収する作業を行った。
 もちろん、豪華な箱馬車も棺桶にリメイクされ、もう一つの箱馬車と分割して死体を載せた。大きい馬車だから、まだまだたくさん載せられそうだ。

 幌馬車からロープを取り出し、六台の馬車を一台に繋げる。御者をすることはできないが、馬を引くことはできた。

 あとは戦場に戻るだけなのだが、二組の白い光点があるんだよな。どうするか対処に悩む。

 まぁ盗み見ている時点で敵か。

 HK417を構え照準を合わせる。

「神の祝福を――」

 直後、白い布が振られて二人揃って近づいてきた。《望遠モード》じゃなかったら気づかなかったな。

「待ってくれ!」

「……祝福を贈ろうと思ったのですが?」

「殺気を……治めてくれないか?」

「それは無理な相談ですね。ここは戦場なのですから。敵は全て平等に神の元に送らせていただく所存です」

 俺の対応に納得がいかなかったのか、白い布を振って話し掛けてきた方ではなく、渋々出てきた方が話に割り込んできた。

「あんた……さっきから不遜だぞ!? よく見たら【落ち人】だし!」

 これが外套がない場合の対応か……。あってもなくてもあまり変化がないのは何故だろう?
 まぁ面倒だからどうでもいいか。

 HK45Tの銃口を【落ち人】発言した方に向けて、間を置くことなく引き金を引いた。

「な――なんてことをッ!」

「何か問題でも? ここは戦場で、味方でもない第三勢力が現れ、助命嘆願の最中に相手を侮辱した。しかもあなた方は、一度は白旗を振って降伏して来たのでは? つまりは、殺してくれって意味ですよね? それに、死ぬ覚悟もないくせに戦場に来るとは笑わせる」

 命乞いをしている立場を忘れ、【落ち人】だと侮辱するほどに差別意識が高いのかもな。
 絶対に逆らうはずはない。自分たちが優位な立場だから殺されるはずはない。交渉する必要もない。

 だから不遜だという言葉が出てくるのだろう。

 降伏している時点で、生殺与奪の権利は俺の手の中だ。降伏してきた敵対者にへりくだる必要はない。……少し考えれば分かると思うが。

「……我々が誰か分かっているのか?」

「知らんし、興味もない。覗き魔以外の情報は必要ない。この場でどこぞの誰々って言って意味でもあるのか? 魔境で死んでも事故に思われるだけだろ? ほら、宣誓するか死ぬか選べ」

「私が負けるとでも?」

「試してみるといい。だが、命乞いの機会が続けて二回も訪れる奇跡は起きそうにないが、それでもよろしいか?」

 早くしてくれよ。もう一個の部隊のことが気になるし、時間がないんだからさ。

「……宣誓させていただく」

「そうですか、残念です。では、【絶界の森】に入って以降本拠地に帰るまでに見聞きしたことを、生涯誰にも伝えたり記録に残したりしないと命にかけて誓ってください。それから宣誓後、ただちに本拠地に帰ることを誓ってください。誓う神様は創造神様にですよ」

 高位神官の前でなかったら形式的なものになり、破ったとしてもバレなければいい。
 しかし俺は最高位の神官で、神像やオラクルナイトの留具の代わりに用意した、神器である神スマホで録画中だ。途中で破棄などさせない。

「創造神様に誓いの言葉を。私は……今回の任務を受けて【絶界の森】に入ってから本拠地に帰るまでに見聞きしたことを、生涯誰にも伝えず記録に残さないと、命に掛けて誓います。さらに、ただちに本拠地に帰ることも誓います」

 ぽわっと覗き魔の体が光り、宣誓が成立し記録された。

「なっ――何故っ!?」

「何か問題でも? もしかして破棄するつもりでしたか?」

「い……いや……。しかし……」

「じゃあ気をつけて帰ってください。――あっ! そうそう! 彼の所持品から情報が漏れても困りますから、慰謝料も兼ねてもらっていきます。持ち帰りたいなら、全裸の死体を持って帰ってくださいね」

 呆けているうちに豪華な箱馬車から持ってきた紋章入りの剣を、侮辱した死体の顔面に突き刺す。パワードスーツの出力を最大にして突き刺したから、貫通し深々と突き刺さった。

 別に猟奇的な趣味でやったわけではない。

 死体の傷から攻撃方法がバレないように上書きしたのだ。たまたま顔面だっただけで、他意はない。
 ハンドガードに届くギリギリまで刺すことになったのは愛嬌だ。嫌がらせではない。

 それでも彼は気づかず、頭を抱えてブツブツ言っている。

「そんなっ! クソッ! いったいどうしたら……」

 やっぱり宣誓を破棄する気だったみたいだ。
 本来は専用の契約書がなければできない【神前契約】を、神スマホや留具を使うだけで可能にするとは。――サイコパス神に心からの感謝を。

 ドロップアイテムを回収し終わった後、茫然自失になっている信者に救いの言葉を告げる。

「帰ればいいんですよ。では急いでいるので失礼します」

 無意味な探索、ご苦労様。

 ◇

 変な二人組に絡まれたことで無駄な時間を消費した。
 馬を引いて戦場に向かい、少し離れたところに停めて木に繋ぐ。

 すでに地雷はいくつか起爆されたみたいで、森の近くにも惨劇が広がっていた。
 森に近づくことを早々に諦めたらしい兵士たちは亀のように縮こまっている。多くの犠牲のおかげで攻撃されている方角が分かったのだろう。

 ドラドの方を向き、その場で屈んで前面に盾を構えて頭と足を守っているのだ。盾の内側に死体を置くことで、盾を貫通した弾丸から身を守っていた。
 後方には輜重部隊しかいないだろうと考えた上での防御姿勢なんだろうが、後頭部がガラ空きである。

 ……せっかく胴体を狙わず、綺麗な状態で母国に帰っていただこうと思ったのに。俺たちの苦労を無駄にしやがって。
 この恨みは『死神』を召喚することで晴らそうではないか。

 HK45Tをホルダーに戻して、振動ブレードも納刀する。

 ドラドが作ってくれたチャンスを活かすために、そのガラ空きの後頭部をHK417で攻撃してあげよう。

 幌馬車に積まれていた手頃な木箱の上に寝具を置いて、バイポッドの代わりとする。《コンテナ》から取り出す手間を省くためだ。……端的に言うなら面倒だったから。

 パシュッ!

 隠れながら撃つも、衝撃と脱力のせいで前の人に倒れ込むせいで異常に気づかれる。

「おいっ! おいっ! どうした――」

 背中に感じた重みで振り返った兵士の顔面に照準を合わせて引き金を引いていく。
 その兵士が次の兵士を地獄に引きずり込み、別の兵士がまた別の兵士へと、地獄の連鎖が続いていく。

「う、後ろだッ!」

 さすがに気づかれたか。

 窮地に立たされた状態で目の前に明確な敵の姿があり、しかも最弱の種族だと分かればどうするか。

「と、捕らえよ! ヤツを捕らえた者には爵位を与えようぞ!」

 ドラドの攻撃を防ぐ盾役以外を捕獲に回したのだ。動きやすいように盾を捨てて。

「貴殿らはもれなく死爵位を賜りますよ。入るのは貴族籍ではなく、鬼籍ですけどね」

「うおぉぉぉぉぉぉーーーー!」

 盾を捨ててくれたおかげでカグヤの狙撃が再開され、俺も足を狙うだけで転倒者を量産することができて楽だ。

 カグヤも転倒者をつくるように狙撃している。単純に俺に近づかせないようにしているからかもしれないけど。

 俺は左手首につけているサブ装備の魔法円盾を最大出力で起動する。
 大きさはタワーシールドほどになり、強度も重機関銃なら一度の使用で数発は堪えられるほどだ。全ては【液体魔力】の残量次第だけど。

『ドラド、M2重機関銃の出番だよ! 薙ぎ払ってしまえ!』

『えっ!? 大丈夫なのか?』

『少しだけなら大丈夫だよ! 攻撃が始まったら逃げるし!』

『分かった! できるだけディエスがいないところを撃つ!』

「攻撃が止んだぞ! 殺して魔具を回収しろ!」

 武器を切り替えるためにミニミでの攻撃をやめたことが、魔具の魔力が尽きたと勘違いさせたのか防御姿勢を解いて攻勢に出るようだ。
 しかも俺とドラドを攻める部隊を分けるという中途半端な作戦である。戦力の分断とか……何を考えているのか。

 ズドンッ!

 試しに撃ってみた! という、ドラドの気持ちが伝わってきそうな銃声が聞こえてきた。
 今までとは違う大きな音が鳴り響き、直後に足が吹き飛んだ。それも数人まとめて。

「う、うわぁぁぁぁーーー!」

 また亀に戻ろうと盾を広いに行くが、肉壁用の死体を集めて積み上げるのに時間がかかり、死神の攻撃を回避することは叶わなかった。

 大音量の銃声に混じり叫び声や命乞いが聞こえるが、無慈悲なる銃撃は立ち上がるための足を引き千切っていく。
 まるで「もう不要だろ?」と言うかのごとく。

 そして、M2重機関銃の攻撃が決め手となり、殲滅戦の第一部は無事に終了した。

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