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第一章 神託騎士への転生

第三話 モフモフ従魔を入手する

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 窓に貼り付くモフモフが可愛い。
 ブーツを持って《コンテナ》を閉め、モフモフに会いに庭に行く。

「どうよ、どうよ? 大丈夫そうでしょ?」

「だからぁぁぁーー!」

「分かった! 説明するから! 簡単に言えば固有スキルなんだって。前世に両親が創ったゲームを、こっちの世界で使えるようにしたらしいよ。今は武器を装備してないけど、武器も強力だから戦闘能力は心配いらないと思う!」

「それはMMORPGというヤツか?」

 虎のドラドくんからまさかの言葉が飛び出した。

「え? 知ってるの?」

「主の能力も主たちが遊んでたゲームが元だったからな。それで、その能力はおれたちにも使えるのか?」

「え? 両親の能力は使えたの?」

「使えなかった」

 じゃあ無理なんじゃないのか? ――いや、待てよ。認証したときにナノマシン登録をしたな。ナノマシンが鍵になってるなら……。

「ちょっと待ってて!」

 ――《コンテナ》

 武器庫のうちの一つを選択して、サバイバルナイフを一つ取り出す。

「これを持ってみて。……持てるなら」

 虎の姿でナイフを持てるのかという疑問が、ナイフを渡した後に湧いてしまった。もっと早く気づくべきだった。

「持てばいいのか?」

「……持てるなら」

 ドラドくんは二足歩行になりナイフを持とうとするも、ナイフはドラドくんの手に当たるとスッと消えてしまう。
 でも俺はそんな予想していたことよりも、二足歩行になったドラドくんの方が気になって仕方がない。

「おい、消えたぞ!」

「――ドラドが……立った!」

「それはもう主のときにやった! おれもティエラも妖精種のケットシーとクーシーだから、二足歩行もサイズ変更もできるし話せるんだよ!」

「なるほど! あと、消えたのは予想してたから大丈夫!」

「……じゃあ無理なのか」

「いや、まだ検証は終わっていない」

 刷り込まれた知識によると、スマホのアンテナ部分からマイクロチップを射出できるらしい。
 これを打ち込めば従魔にできるらしく、ナノマシンの情報が打ち込まれれば【世界の境界】も一部使えるようになる気がする。
 違った場合は問い合わせをしなければ。ペット問題が解決していないと。

「俺は魔力がないんだ」

「知ってる」

「魔力がないと従魔を持てないんだ」

「それも知ってる」

「従魔を持つ方法が小さい機械を埋め込むことなんだ」

「それをすれば能力が使えるのか?」

「可能性は高い」

「やる」

 ドラドくんは即答したけど、怖くはないのかな?

「じゃあ首の付け根に打たせてもらうよ」

「やってくれ」

 神様製だから痛くないと思うけど、俺もやったことないからな。

「じゃあ失礼して……」

 首元をモフモフする。手を包み込むフワフワモフモフの虎毛が俺の手を喜ばせている。俺の手が、細胞レベルで喜んでいる!

「……おい!」

「すまんね。つい……」

 ジト目を向けられて注意されたことで、なんとか我に返る。あのまま進んでいたら全身をモフモフしていたことだろう。危ない危ない。

 気を取り直してマイクロチップを射出する。

「まだか?」

「え? 終わったよ。今はスキャンしてるみたいだから、少しそのままで待ってて。というか、痛くなかったの?」

「全く! 何も感じなかったぞ!」

「そうなの? まぁ痛いよりはいいか!」

 スキャンは本当だが、別にくっついている必要はない。ただモフモフしたいだけだ。

 ――ピーーッ!

 どうやら幸せの時間は終わりを迎えたらしい。画面に「終了」の文字が表示され、二足歩行のドラドくんのアイコンが追加された。
 何気に家族以外で初めてのアイコン登録である。班員登録時に使用するので、ボッチには不要の機能だった。

「じゃあもう一度ナイフを持ってみて」

「……分かった」

 ドラドくんは不安そうにナイフを受け取る。

「き……消えないぞ!」

 今度は消えなかった。

「ナイフはクリアだね! じゃあ次――」

 次々に《コンテナ》を出して武器のグレードを上げていったり、コンテナ内に入れるかを試したりした。
 結果、神スマホの操作ができないから補給は俺を経由するしかないけど、基本的な機能は全て使えることが判明する。

「これでマイクロチップがあれば、能力の貸与が可能になると分かったわけだけど、ドラドくんたちはどうする? 何かやりたいことある? 俺は神様が言ってた両親が勇者と賢者であるということと、はめられて処刑されたことを調べたいんだけど」

「お前の親が勇者と賢者っていうのは本当だ。はめられたってのはよく分からないけど、待ち合わせに来ない主たちを捜しに行ったら、一緒に行動してた『聖騎士』が主たちを断崖から突き落とすように命令していた! おれたちは隠れていて、落ちる直前に主たちを掴んでここまで逃げてきたんだ! あの時、おれに戦う力があれば……!」

 虎さんなのに? 事情があるのかな? だから能力が手に入るなら、マイクロチップくらいどうってことないと思ったのかな?

 うーん……。

「じゃあ一緒に調べに行こうか? もちろんそれだけじゃなくて、両親の教えに従って手の届く範囲内での人助けや、冒険なんかもいいんじゃないかな? 俺はドラドくんたちとたくさん遊んで欲しいって言われたからね! どうだろう?」

「……一緒に行ってもいいのか? おれは珍しい個体だから迷惑を掛けると思うぞ?」

「ん? 色が金色っぽいのが? この刺繍の子がドラドくんなの?」

「それは【使霊獣】様で、おれじゃない。金色っぽいのもそうだけど、虎型ケットシーだからだ。普通はもう少し小さいんだ」

「なるほど! 百八十センチくらいある俺より少し大きいもんね! まぁ大丈夫でしょう! 神託騎士の従魔に危害を加えるのは、神罰対象だって言えばいいし、そもそも俺も【落ち人】っていうのらしいからお互い様だよ!」

「……そうか。ティエラともう一体も一緒にいいか?」

「一緒に行きたいならいいけど、無理矢理はダメだよ。両親に怒られてしまう」

 夢に出てくる可能性大である。

「話してくる!」

 ポテポテと走って行く姿が可愛い。ドラドくんはポッチャリ体型だから、可愛さが倍増するのだ。パンダみたく丸くコロコロした動物がたまらなく好きだから、是非とも癒やしのために一緒に来て欲しい!

「連れてきたぞ!」

「早かったね」

「ティエラがすでに話してあったみたいだからな!」

 なるほど! しっかり者のお姉ちゃんって感じがするもんな。飼い主に似るって本当なんだな。ドラドくんは養母さん似の好奇心旺盛な自由人タイプだ。物怖じしないところはいいけど、問題を引き寄せることもあるから注意せねば。

「ティエラからお願いがあるらしいけど……いいか?」

「いいよ」

「主様の子どもが主様がいなくなる前に誘拐されたんだけど、現在も生きているか確認したいの。旅の目的に娘さんの生存確認も加えてもいいかしら?」

「え? こっちに子どもいたの? だから……向こうで子どもつくらなかったのか? 何年前のこと?」

「四十年くらいよ」

「マジか……。最低でも四十歳か……。誘拐も『聖騎士』の仕業なら、目的の一つに含まれるから問題ないよ」

「本当! よかった!」

 銀色狼のティエラちゃんのモフモフもしっかり堪能して、もう一体の子を捜す。どんなモフモフかなと、心躍らせてキョロキョロと辺りを見回す。

「あれ? もう一体いるんでしょ?」

「その子は人見知りなんだ! 今まで勇気がなくて進化しなかったけど、親友のおれたちと一緒に行くために進化してくれたんだ! 人間は怖がるから嫌われたくないと、主たちも姿を見たことないんだ! だから傷つけないでくれよ!」

「まだ見てないから何とも言えないんだけど、進化した理由って銃を使うため?」

「そうだ」

「じゃあ大丈夫だと思うよ。ドラドくんたちは怖くないからね!」

「……だそうだ。出てこいよ!」

「……」

 庭の端にある林に向かって声をかけるドラドくん。少しの間を置いた後、下を向きながら女の子が出てきた。

 一目で女の子と分かるが、姿は人間でもモフモフでもなかった。よく見れば一部モフモフだけど。

「アラクネ……かな?」

「……そうだ」

「アラクネの子どもかな?」

「違う。進化直後だから小さいんだ。蜘蛛歴は長いから十分強いぞ! おれたちをずっと守ってくれてたんだからな!」

「そうなんだ。とりあえず……服着ようか! 上半身裸はちょっと……。子どもの半裸は犯罪臭がする。さっきまで人のことを言えない格好だったけども」

「……何とも思わないのか?」

「何で? ある程度予想してたし、赤い目だけど体や髪の色は白だから親戚の子みたいに感じる。それにドラドくんたちの親友なんでしょ? 一人で置いていくなんて可哀想だよ」

「ありがとな。そうだ! 名前をつけてやってくれ!」

「うーん……。俺の苗字が月影って言うんだけど、月に関係する神様で姫様でもある方の名前をいただこう! 『カグヤ』なんてどうかな?」

 ぱあっと笑顔が浮かんだことを見るに、名前を気に入ってくれたらしい。良かった、良かった!

「お前の名前は何にするんだ? 主は本名はやめた方がいいって言ってたぞ!」

 名前を決めたあとマイクロチップを埋め込みスキャンしていると、ドラドくんに重要なことを聞かれた。
 今まで名前をどうしようかと問題を後回しにしていたけど、答えを出す時が来たようだ。

「やっぱりか。ドラドくんたちしか本名を知らないって言ってたもんね。……『ディエス』にする! 数字の十を意味するからね!」

 両親につけてもらった名前に近いものが良かったから、カッコいいと思って覚えていた言葉を使うことにする。

「良し! これからはお互い呼び捨てな! よそよそしいのはイヤだからな!」

「分かった!」

 握手を交わすついでにモフモフしておく。

「……お前もなのか?」

「……何が?」

「主と同じモフモフが大好きなのか?」

「……大好きです!」

「……気をつけなければ!」

 クソ……。警戒心を抱かせてしまったか。少しずつ近づけば良かった。

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