上 下
1 / 30
第一章 神託騎士への転生

第一話 サイコパスの騎士になる

しおりを挟む
 俺は月影十蔵、元サラリーマンだ。そんな俺は今、生前贈与でもらった無人島に来ていたはず。

 だが、目の前に広がる景色は白一色。

 無人島って天まで届く塔の上にあるのか? 修業のための部屋に迷い込んでしまったのか?

 ――ねぇ、どう思います?

「誠に――申し訳ありませんでした!」

 目の前で土下座をしている少年に視線を送ると、少年は謝罪の言葉を口にした。

「でも……でも、あなたも悪いんですよ! トロトロ、トロトロと! さっさと扉を潜ってくれなかったから、僕が背中を押してあげたんです!」

 はぁ!? 開き直るとは何事だーー! というか、何で声が出ないんだよ!

「それは……あなたが死んだからですね」

 ――はい? なんて?

「あなたは、コテージごと消滅しました」

 ――復活を希望する!

「無理です。消滅したら奇跡は起きません。ですが、この僕が魂だけ救い出しました! 感謝して下さい!」

 ……殺したのは、あなたでしょ?

「……誰かに操られていたんです!」

 無理だろ、それはっ! さっきトロトロって言ってたじゃないか!

「……そのときも操られていたんです! 信じてください! 僕は無実です!」

 俺はサイコパスの相手をしたくない……。奇跡が起きないなら、さっさと輪廻の輪に加えてください。

「あれ? あれれ? 諦めるのが早すぎですよ?! あなたはやり直せるんです! 一緒に頑張りましょう!」

 言い方! ソックリそのまま返すよ!

「あなたの新天地は、僕の担当施設だから安心していいんだよ! そこでやり直そう! 今は苦しいと思うけど、きっと思い出話にできる日が来るから!」

 俺を殺したヤツが管理している場所とか安心できないし、今苦しんでいるのはどこぞのサイコパスのせいだよ!

「……僕を操っていたヤツのせいだね?! 同じ被害者としてシンパシーを感じちゃった! だから目いっぱいサービスしちゃうぞ!」

 俺はシンパシーを感じない。同じ被害者でもないし、加害者と被害者は同じ立場じゃないし。

「はい! 細かいことはここまで! 建設的な話をしましょう! あなたは、僕が管理する【ハルディン】という世界に転生します。消滅が想定外だったから、体を一から創らなくてはならない状況になりました!」

 自業自得だな……。

「えぇ、えぇ。分かっていますよ。不安なのですよね? 大丈夫です! ちょうどいい死体がありましたので、複製して改造しておきましたから! きっと前世よりは快適に動けますよ!」

 話が噛み合ってない……。しかも死体を複製して改造とか……悪魔の所業じゃないか。

「悪魔と同じにしないでいただきたい! 僕は遊戯を司る神であり、創造神の一柱なんだよ! あのクソ共と同じ扱いは御免被る!」

 めちゃくちゃ怒ってるけど、俺も一応怒ってるんだけどね。そこはスルーするのかな?

「……コホン、コホン! 体に関して質問があるなら受け付けるよ?」

 ……まぁいいか。じゃあ魔法は使えるのか?

「使えません」

 え? 定番の剣と魔法の世界じゃないのか?

「剣と魔法の世界です」

 別に一問一答形式を望んでいるわけじゃないよ? 魔法がある世界に行くのに、何で魔法が使えないのかを教えて欲しい!

「複製した死体が魔力がない種族だからです」

 ……その種族の社会的地位は?

「奴隷です。もしくは引きこもりですね」

 正確には隠れ住むって言わないか?

「そうとも言いますね。……自称ですが」

 それって、サービスって言う? 詫びる気持ちはあるのかな? 地獄への招待なら欠席させてもらうよ?

「まぁまぁ! 転生させるためにはいろいろ条件がありましてね。チート能力をつけるなら、境遇や種族が劣悪な状況でないといけないんです。今回は元々能力を決めていて、転移のときに能力をつけるだけだったんです。その場合は加護という名目が使えたんですけどね……。残念です!」

 つまり、自業自得だと……。そして俺は追加の被害を受けたということか……。

「でもでも! この体はすごいですよ! 僕の世界は、魔法か固有スキルという二種類の力があるんです。魔力がなければ魔法は使えませんが、魔力が少なかったり皆無だったりしても、固有スキルは使える可能性があります」

 魔力がない人は多いのか?

「極少数です」

 クソ……。じゃあ魔力ありは全員どちらかの力を持っているのか? 魔力しかないなら俺よりも立場が低くないか?

「全員ではありませんが、あなたが考えているように魔力がない人は最下層なので、スキルがあっても立場は変わりません。むしろ、付加価値がついた奴隷という認識でしょう。あなたの体は覚醒していませんが、特殊なスキルを持っている種族としての認知度が高いですから。それもあってこの種族を選んだんですけどね。チート能力を使っていても珍しいで済むはず!」

 ……言いたくはないけど、何もできない人間よりも立場が低いのはおかしくないか?

「魔具がありますから、魔力があれば魔法が使えるんですよ。片や魔法の武器、片や鉄の剣。勝てると思いますか? 魔物もいるんですよ? 足手まといはいらないというのが、彼らの主張です!」

 転生を拒否する! 無理! 生まれる前に転生先の情報が手に入っただけでも良しとしよう!

「ちょっと、ちょっと! あなたは十歳若返った十八歳の姿で、転移門の出口側に送る予定ですよ! 赤ちゃん転生ではありません! それに、話は終わってませんよ?」

 転移門の先って言うと、養父さんたちが知っている場所か。それなら多少は希望が持てるな。

「……なんか引っかかりますが、聞いてくれるならいいでしょう! チート能力は、あなたが生前唯一遊んでいたゲームを神様製のスマホで使用可能にしました。一部変更点はありますが、概ね変更はありません。さらに、その体にはナノマシンも使っています」

 え? あのゲームを使える? データごと?

「データごとです! ほぼ無敵ですね! ただ、リソース不足で一部封印状態ですけどね!」

 おっと……。一部の部分がどこか気になる……。

「基本的な機能は全て使えますから安心してください! それよりもナノマシンのことを説明しますよ。あなたは魔力がないので魔法的な影響を受けません。外傷性の攻撃は受けますが、状態異常は受け付けません。それに加えて回復魔法もです。基本的に能力の治療薬や回復薬を使えばいいですが、魔力的な状態異常以外は対策にナノマシンを使います。解析して分解、そして物によっては吸収します」

 吸収? 何かいいことでもある?

「状態異常には病気も含まれます。ナノマシンが吸収することで新薬が作れるようになるのです。これはあなたが就く予定の職業にピッタリなのですよ。あと、あなたはペットたちのことを頼まれたはずです。魔力なしは従魔を持てません。従魔にしなければ、今までと同じくお留守番ですね。ペットたちにナノマシンの情報を込めたマイクロチップを埋め込むことで、魔力ではなくナノマシンを介した魂の結びつけを可能にします!」

 ドヤ顔がムカつくが、ナノマシンはすごい効果を発揮するようだ。

「血肉を吸収すれば時間はかかりますが、傷も癒やせますよ。回復薬の節約になりますね!」

 差別対象としての扱いを我慢すれば、かなり高い能力を持った体になるということか。……悪くない。ボッチは慣れてるからな。

「最後に、リソース関係なくお詫びとして、クルーザーとコテージを神様製で作り直しました。どちらも不壊、結界能力を持っています。クルーザーは燃料が切れず、コテージは前世で大量購入してきた物資が自動補充されます。それとコテージからのみ、能力の一つである転移門が使用できます。まぁ封印状態ですけどね!」

 詫びる気持ちはあったのか……。生前贈与でもらった物だし、なんとかできないかと思ってたから結構嬉しい。

「封印解除は迷宮核との交換で、【ハルディン】の通貨【ディネ】を【幻想通貨】に両替するのは、各教会に設置されている懺悔室の中だけですからね!」

 何で懺悔室?

「差別対策のために神官騎士の中でも七人しかいない、神託騎士【オラクルナイト】になってもらうからです! 各神が任命する騎士だから、枢機卿相当位を持つんですよ! 差別していい相手ではありません! よって、多少は差別が緩和されるはず! 専用の外套をプレゼントしますから、留具と金色の太陽と銀色の月の刺繍を見せれば、教会関係者は態度を改めるでしょう! ……多分」

 ……代わりに教会関係の仕事をしろと?

「それはお任せします! 自由に行動してくださって結構です! ですが、せっかくですから転生前に一つだけ。あなたの両親は先代の勇者と賢者でしたが、彼らをはめて処刑した者たちがいます。気になりませんか?」

 ――はっ? それはどういうことだ!?

「それでは、いってらっしゃいませーー!」

 おいっ! 待てコラァァァァァ――

「ァァァァーーー! って……ここどこ?」

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

Cursed Heroes

コータ
ファンタジー
 高校一年生の圭太は、たまにバイトに行くだけで勉強も部活もやらず一つのゲームにハマっていた。  ゲームの名前はCursed Heroes。リアルな3Dキャラクターを操作してモンスター達を倒すことにはまっていた時、アプリから一通のお知らせが届く。 「現実世界へのアップデートを開始しました!」  意味が解らないお知らせに困惑する圭太だったが、アプリ内で戦っていたモンスター達が現実の世界にも出現しなぜか命を狙われてしまう。そんな中彼を救ってくれたのは、ゲーム世界で憧れていた女ゲーマー『ルカ』だった。  突如始まってしまったリアルイベントに強引に巻き込まれ、自身も戦う羽目になってしまった圭太は、やがてゲーム内で使っていたキャラクター「アーチャー」となり、向かってくるモンスター達を倒す力を身につけていく。  彼はルカに振り回されながらも、徐々に惹かれていくが……。  学校通ってバイトに行って、ゲームをしつつモンスター退治、それとちょっとだけ恋をするかもしれない日常。圭太の不思議な新生活が始まった。

転生幼女はお願いしたい~100万年に1人と言われた力で自由気ままな異世界ライフ~

土偶の友
ファンタジー
 サクヤは目が覚めると森の中にいた。  しかも隣にはもふもふで真っ白な小さい虎。  虎……? と思ってなでていると、懐かれて一緒に行動をすることに。  歩いていると、新しいもふもふのフェンリルが現れ、フェンリルも助けることになった。  それからは困っている人を助けたり、もふもふしたりのんびりと生きる。 9/28~10/6 までHOTランキング1位! 5/22に2巻が発売します! それに伴い、24章まで取り下げになるので、よろしく願いします。

ちびっ子ボディのチート令嬢は辺境で幸せを掴む

紫楼
ファンタジー
 酔っ払って寝て起きたらなんか手が小さい。びっくりしてベットから落ちて今の自分の情報と前の自分の記憶が一気に脳内を巡ってそのまま気絶した。  私は放置された16歳の少女リーシャに転生?してた。自分の状況を理解してすぐになぜか王様の命令で辺境にお嫁に行くことになったよ!    辺境はイケメンマッチョパラダイス!!だったので天国でした!  食べ物が美味しくない国だったので好き放題食べたい物作らせて貰える環境を与えられて幸せです。  もふもふ?に出会ったけどなんか違う!?  もふじゃない爺と契約!?とかなんだかなーな仲間もできるよ。  両親のこととかリーシャの真実が明るみに出たり、思わぬ方向に物事が進んだり?    いつかは立派な辺境伯夫人になりたいリーシャの日常のお話。    主人公が結婚するんでR指定は保険です。外見とかストーリー的に身長とか容姿について表現があるので不快になりそうでしたらそっと閉じてください。完全な性表現は書くの苦手なのでほぼ無いとは思いますが。  倫理観論理感の強い人には向かないと思われますので、そっ閉じしてください。    小さい見た目のお転婆さんとか書きたかっただけのお話。ふんわり設定なので軽ーく受け流してください。  描写とか適当シーンも多いので軽く読み流す物としてお楽しみください。  タイトルのついた分は少し台詞回しいじったり誤字脱字の訂正が済みました。  多少表現が変わった程度でストーリーに触る改稿はしてません。  カクヨム様にも載せてます。

異世界日帰りごはん【料理で王国の胃袋を掴みます!】

ちっき
ファンタジー
異世界に行った所で政治改革やら出来るわけでもなくチートも俺TUEEEE!も無く暇な時に異世界ぷらぷら遊びに行く日常にちょっとだけ楽しみが増える程度のスパイスを振りかけて。そんな気分でおでかけしてるのに王国でドタパタと、スパイスってそれ何万スコヴィルですか!

趣味を極めて自由に生きろ! ただし、神々は愛し子に異世界改革をお望みです

紫南
ファンタジー
魔法が衰退し、魔導具の補助なしに扱うことが出来なくなった世界。 公爵家の第二子として生まれたフィルズは、幼い頃から断片的に前世の記憶を夢で見ていた。 そのため、精神的にも早熟で、正妻とフィルズの母である第二夫人との折り合いの悪さに辟易する毎日。 ストレス解消のため、趣味だったパズル、プラモなどなど、細かい工作がしたいと、密かな不満が募っていく。 そこで、変身セットで身分を隠して活動開始。 自立心が高く、早々に冒険者の身分を手に入れ、コソコソと独自の魔導具を開発して、日々の暮らしに便利さを追加していく。 そんな中、この世界の神々から使命を与えられてーーー? 口は悪いが、見た目は母親似の美少女!? ハイスペックな少年が世界を変えていく! 異世界改革ファンタジー! 息抜きに始めた作品です。 みなさんも息抜きにどうぞ◎ 肩肘張らずに気楽に楽しんでほしい作品です!

退屈な人生を歩んでいたおっさんが異世界に飛ばされるも無自覚チートで無双しながらネットショッピングしたり奴隷を買ったりする話

菊池 快晴
ファンタジー
無難に生きて、真面目に勉強して、最悪なブラック企業に就職した男、君内志賀(45歳)。 そんな人生を歩んできたおっさんだったが、異世界に転生してチートを授かる。 超成熟、四大魔法、召喚術、剣術、魔力、どれをとっても異世界最高峰。 極めつけは異世界にいながら元の世界の『ネットショッピング』まで。 生真面目で不器用、そんなおっさんが、奴隷幼女を即購入!? これは、無自覚チートで無双する真面目なおっさんが、元の世界のネットショッピングを楽しみつつ、奴隷少女と異世界をマイペースに旅するほんわか物語です。

辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~

Lunaire
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。 他作品の詳細はこちら: 『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】 『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】 『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】

処理中です...