暗殺者から始まる異世界満喫生活

暇人太一

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第二章 冒険、始めます

第六七話 名探偵ディラン

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 ルイーサさんたちとの関係を捨ててまで使用した根拠が全く使い物にならず、敗北を喫したギルマスを無視して子爵夫人に向き直る。

「さて、お待たせしました。僕に何か用ですか?」

「二点。歓楽街の事件と道路の亀裂について知っていることは?」

「ありませんよ。道具、使いましょうか?」

「その必要はないわ。それよりも何があったか気にならないの?」

 俺は知っているから気にならない。
 でも隣で笑顔を浮かべているルイーサさんは気になるようで、俺に聞くように促してきた。

「道路の亀裂は孤児院の近くのものでしょう? 僕がこの町に来る前からあるものを、僕が知っているはずがないでしょう。何故直さないのかは興味はありますけどね。それから歓楽街の方は、子供ですからそこまで気になりません。大人や貴族の子供が遊びに行くところでしょう? 何をする場所かもよくわからないんです……」

「「「…………」」」

 主に隣からだけど、色々なところから圧力がある視線を向けられている。
 それに対する俺のカウンターは……。

「何をする場所かを教えてもらえますか?」

「……お酒を飲む場所よ」

「この食堂でもお酒を取り扱っています。歓楽街は食堂街ということでしょうか?」

 ──〈無表情〉

 笑うな、俺。
 テオやエイダンさんみたいに笑っては駄目だ。

「……綺麗なお姉さんとお酒が飲めるところなのよ?」

「貴族の子供は法律を破ってもいいんですね。お酒は十二歳以上ですけど、以前いた場所では十歳の誕生日祝で歓楽街行きの許可をもらっていた子供がいたんです。何故かパフパフとか、ポヨポヨっていう謎の言葉を発していたんですけどね。まるで僕の従魔みたいですね」

 と言ってイムレを抱き上げる。

 直後、左隣のテーブルから爆笑が聞こえてきた。
 シスターとカミラさんが呆れ顔でテオとエイダンさんを見ているけど、構わず爆笑する二人。

「歓楽街が不思議な場所ということは理解しました。その不思議な場所で事件が起きたんですよね? 起きるべくして起きたのでは? という印象ですが……」

 これ以上からかっていると、隣の女性から罰を受けそうだったので、ちょうどいいところで切り上げることにした。

「それでも深夜に空から青く発光する剣のようなものが降ってきて、それが大量の水に変わったという異常事態が起きたのよ? 気にならない?」

「すごいなとは思いますが、僕とは関係ありませんね。僕の適性は無属性だけなので」

「──えっ?」

「道具使います? いいですよ。『僕の適性は無属性だけ』。ほら、白に傾いたでしょう? 誤解は解けましたね」

「他の二ヶ所も知らない? 先程のギルマスとの話を聞いていると、ここ最近で一番関係がありそうなんだけど?」

「どこです?」

「シェイドール商会の倉庫街と、冒険者ギルドのサブマスの屋敷ね。サブマスも行方不明だしね」

「僕以外にも関係している人はいますよ?」

「……誰かしら?」

「特別ですよ?」

「……えぇ、ありがとう」

「冒険者ギルドのギルマスと、狼公です」

「「──なっ!」」

 先程の話を持ち出すなら、絶対に外せない二人だろ。
 歓楽街については俺が一番関わりがないだろうし。

「ギルマスは、元々サブマスを処罰するように行動しているって聞いていましたし、冒険者ギルドの受付嬢が情報を渡すほどの関係性でしょう? ギルマスは大人なんだから歓楽街も行きますでしょう? 僕よりよっぽど容疑者に可能性が高いと思いますが、子爵夫人は何故その可能性を排除したのでしょう? 仲が良いからでしょうか? つまりは僕はまた濡れ衣をかけられているということでしょうか? 衛兵の次は領主家自らですか……悲しいです……」

 ルークが前足を膝の上に置いて慰めてくれている。

『可哀想にな。オレの契約者を傷つけるなんて……』

 この言葉に真っ先に反応したのは、ルイーサさんとシスターの二人。
 現在執行猶予中の子爵家は、ルークの気分次第ですぐさま真っ平らにされてしまうのだ。もちろん、王都も一緒に。

「ルーク、扉の外に子虎ちゃんたちが来ているわよ? 何か用事があるんじゃないかしら?」

『んっ? そうか。すぐに戻ってくるからな』

「えぇ、待ってるわ」

 ルークを見送った後、ルイーサさんが体ごと俺の方に向けてきた。

「ディル、本当に悲しい? 怖い夢見るなら、一緒に寝てあげようか?」

 意訳、夜間の外出禁止よ?

「──みんなのおかげで頑張れますっ」

「よかった」

「つ、次は狼公でしたね。シェイドール商会の倉庫街に知人が囚われていたでしょう? サブマスのせいで防衛契約が白紙に戻され、命の灯火が消えかけるきっかけにもなったでしょう? 恨みしかないと思いませんか?」

「それはっ」

「諜報部隊なんだから、知人がどこに囚われていたかくらいとっくに調べがついているでしょう?」
 
 これで調べていなかったら、彼は辺境伯によってクビになるだろう。

「あっ! もう一組いましたっ!」

「そちらも教えてくれる? もちろん、特別っていうことも分かっているわ」

「仕方がないですね。その人物は、御子息とラルフっていう使用人ですよ」

「「──えっ?」」

 ルイーサさんもぐりんっと首が勢いよく俺に向けていた。

「ディル、どういうこと?」

「まずは前提の話をしますけど、シェイドール商会は隣国の諜報部隊です。まぁ狼公ほどの諜報部隊や、ギルドほどの大組織の諜報部門なら知っていると思いますが」

「「「…………」」」

「シェイドール商会は自国に近く、ダンジョンという資源の宝庫であるこの町を橋頭堡のような基地にしたかったみたいです。僕が提案した再開発計画の前に、シェイドール商会も再開発計画を同じ規模で行おうとしていたそうです。その場に住んでいた人を追い出したり、奴隷同然の労働をさせたりと、僕とは方向性が違いますが。それでも僕とは違って、彼らは許可が降りていたみたいですよ」

 人材は自国から工作兵や技術者を喚んで、その他の商会員は自国の兵士を使うという建前で、大量の兵士を越境させていくという作戦だったらしい。
 拾ってきた様々な資料を元に、【神字:推理】で情報を収集しておいたのだ。

 泥の採取依頼のときにどこかで聞いたことがあると思っていたけど、【双竜の楽園亭】の仕入先だったり、盗賊ギルドの依頼者だったり、倉庫街の持ち主だったり。

 そしてトドメに、採取中に思い出した暗殺者時代の記憶。

 俺が暗殺者時代だったとき、王弟の欲しいものをシェイドール商会に買われたから奪って来いという命令を受けた。
 任務は成功したのだが、逃走に失敗して北回りで帰る羽目になったのだ。そのときの帰りに出会ったのが、我らが癒やしのルークである。

 そこそこ昔のことだったから、すっかり忘れていた。
 強奪のときにシェイドール商会のことを調べていたから、彼女たちのことは知っている。

 そう、彼女たちなのだ。

 シェイドール商会の商会長や支店長は全員男なのだが、それは薬と精神系魔法で催眠状態になっている傀儡であって、本当の諜報員はその奥方である。
 この町に派遣されている者も支店長の奥さんだけであり、支店長は常套手段である傀儡にされている。

 そのことに早く気付けたから、報復は嫌がらせのオブジェだけにして、処罰についてはルイーサさんたちに任せることにした。

 話を戻すと、再開発計画の許可を出した人物が子爵家のご子息で、ラルフという人物が実際に動いていたらしい。
 そして冒険者ギルドの窓口がサブマスで、会合場所は歓楽街。
 店の名前は【女郎蜘蛛の館】。

「──ねぇ? 全て繋がっていますでしょう? もちろん、本職の諜報員の情報量には勝てないとは思いますけどね」

「「「…………」」」

「あれ? 睨んでます? ……怖いなぁ」

 隣のテーブルからジト目が向けられている気がする。

「あっ! スラムから人がいなくなったせいで新興組織の情報が入らなくて、どこぞの貴族令嬢が誘拐未遂に遭い、どこぞの貴族令息が拉致された上に暴行までされたんでしたっけ。でも領主家主導の事業で、冒険者ギルドも協賛している大規模な計画による被害だから、奴隷狩りに遭った被害者たちは泣き寝入りですかね?」

「「「…………」」」

「隣のテーブルの被害者は泣き寝入り確定ですね。そのうち一人は狼公の命の恩人なのに……、義理堅い土地柄と聞いていたのですが本当に残念です」

 何も返してくれないなら協力することに意味を見い出せないし、俺も好きにさせてもらおう。

「それで、お話は終わりですか? では、他に用がないなら僕は失礼させていただきたいのですが?」

 ルークたちと違って朝ご飯を食べていないからね。
 少しだけでも何か食べたいんだよ。

「よしっ。誰もいないみたいだな。出番だぞ、ダニエルっ」


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