暗殺者から始まる異世界満喫生活

暇人太一

文字の大きさ
上 下
28 / 97
第一章 居候、始めます

第二七話 森の外で熊に出会った

しおりを挟む
 子分ウサギの討伐は比較的早く終わった。
 一番時間がかかるはずの血抜きも、吸血効果を持つ魔剣を使用することで十数秒で終えられた。
 おかげで、内臓を捨てるときも血が飛び散らずに済んだ。

 しかし、現在進行形で抱えている問題が一つ。

「どうやって持って帰ろう……」

 あからさまに【念動】を使えないため、無属性魔法の《念動》程度で済ませる必要がある。
 その場合、持てるのはボスウサだけになってしまう。

「国の管理局に送られるということがなければなぁ」

 神法師や奇跡使いと呼ばれる重要な戦力を、みすみす他国に渡したくはないと国のお偉方が考えたのだ。そのせいで、強制ではないと言いながらも、強制的な選択を迫る機関が作られた。
 登録すると住所がある領地以外には出られないし、どうしても外出したい場合は監視がつく。

 住所も王都になるし、仕事の褒美は監視付きの外出になる。
 それに登録した後にデメリットを伝えられる卑怯さに、拒否すれば反逆罪だとも言われる始末だ。
 メリットは貴族になれることらしいけど、本物の貴族からしたら半端者だから、すごく肩身が狭いらしい。

 他にもあるらしいけど、これだけでも十分登録したくない理由になる。
 だからこそ、【念動】の使用は比較的控え、疑いを持たれる前に目撃者を始末する必要があるのだ。
 隠すことが自由への道だというのは、暗殺者を卒業できたことが証明している。俺が利用価値の高い神法師だと分かっていれば暗殺なんてことは、いくら頭がパーの王弟でもしなかったはず。

「仕方ない。大八車でも作るか」

 蔦の網を落下防止対策に使えば、多少雑な造りの大八車でも宿屋まで持つと思う。

 車輪は丸太を輪切りにして使い、車軸は太くて硬い棒を探して車輪の中央に差し込む。車輪から車軸が抜けないようにストッパー噛ませ、車輪部分は完成。
 次は荷台部分だ。
 二本の長い棒を見つけて来て、一番外側に配置する。荷を引くための持ち手と、外枠の役割を担う部分だ。

 追加で二本の縦棒と、荷台にする横棒を数本探す。
 蔦を一部バラして荷台を作ったり、車軸と荷台を固定したりした後、網で包んだウサちゃんをまとめて荷台に載せる。

「動く気がしない……」

 習熟度が低い技能スキル〈木工〉で造った割には、そこそこ見栄えがいいけど、丸太の車輪って動くのだろうか。という疑問は拭えない。

 まぁそこは【念動】を使わせてもらうけど。

「さて帰るか」

 なお、槍は壊れたから捨てていく。

「次来たときは中型魔獣用に投擲槍を量産してもいいなぁ」

 遅めの狩りだったが、夕方になる前に宿屋に戻れそうだと気分良く歩いていた。
 ダンジョンに挑戦できない今、俺の主戦場は森になるわけで、そこでの活動計画を練る時間が楽しくて仕方がない。特に、異世界を満喫してるって感じがあって良い。

「──ん? 死体?」

 少し遠回りになるけど、歩きやすい街道を歩いている最中に道に横たわる獣人を見つけた。
 死体なら荷物とお金を貰う代わりに埋葬してあげよう。
 寝ているだけなら無視でいいだろう。
 ちなみに、女性の場合は完全無視だ。
 ほぼ罠だからな。

「それ」

 落ちている石を股間に向かって投げてみた。
 唯一堪えられない場所だから、生きていれば反応があるはずだ。

「ングッ」

「なんだよ……。返事しちゃったよ」

 臨時収入が手に入ると思ったのに、残念だ。

「おやすみ」

 そこそこ危険な場所で寝ている獣人を避けるように街道を進んでいたら、獣人が突然起床した。

「──待ってくれっ」

「嫌だ。さよなら」

「待ってくれよぉぉぉっ」

 正直言って、ドン引きだ。
 明らかに俺よりも年上の大柄獣人が、子供に縋りついて地べたに這いつくばっている姿は衝撃的すぎる。

「…………何?」

「腹が減ったんだよっ」

「もうすぐ町があるし、森があるから食べ物には困らないと思うけど?」

「腹が減って動けないんだよぉぉぉっ」

「やればできる。じゃあさよなら」

「待て待て待てっ。可哀想だと思わないのか?」

「別に。いい年したおっさんが子供にたかるなよって思う」

「おっさんじゃねぇよっ?! 成人したばっかりだよっ」

「十分おっさんだね。僕、まだ未成年」

「んぐっ……」

 成人したばかりと言うと、十五歳ってことか。
 全然見えないけど、種族特性なのかな。

「話は終わり?」

「じゃあ、飯が美味い宿屋はどこだっ!?」

 ここに来て初めて目の前の獣人に疑いを持ち、【神字:審理】と技能〈副音声〉を使うことにした。

「その前に何でこっちの街道を通って来たの? こっちの森方面は北部に行く意外に滅多に使われないし、この道をよく使う人は領都に行きつけの宿屋を持っている人が多いんだけど?」

「え? そうなのか? 俺は北部に行ったことねぇし、領都では宿屋に泊まったことはないんだ。知り合いの家があるから、そこに泊めてもらってる」

「じゃあ今回もそこに泊まれば?」

「それは無理なんだっ! 俺の知り合いじゃなくて親父の知り合いなんだっ!」

「その知り合いに聞けば?」

「そしたら泊まっていけって言われるだろ? 本当は泊めたくないのに無理言ってるみたいだろ?」

「その気遣いを僕にしようとは思わないの?」

「ん?」

 おい、気づいてないのか?
 本当は帰りたいのに、お前が足止めしてるんだぞ?

「気づいてないのか……。じゃあ、何でその父親と来なかったの?」

「……俺は王都の学園を卒業した帰りだからだ」

 今のは若干嘘っぽいな。
 父親と帰らなかった理由が他にもありそうだが、犯罪者ってことは限りなく低くなった。

 なぜなら、こいつはただのお坊ちゃんだから。

 王都の学園は、入るのも出るのも金持ちにしか許されていない特権だ。
 最低でも裕福な坊っちゃんで、予想通りなら貴族の坊っちゃんである。知り合いの家って言うのも、領主館のことだろう。

「道が分からなかったの?」

「そんなわけないだろっ! いつもと違う景色が見れると思ったからだよ」

「空を見てたじゃん」

「は?」

「寝てたでしょ?」

「ここまでの道中ってことだよっ」

「分かってるよ」

 ヤバい、楽しい。
 空腹で動けないって言う割に、リアクションが大きくて面白い。
 ルイーサさんに会わせたら面白そうだ。

「僕も最近町に来たばかりだから宿屋の良し悪しは分からない」

「でも住んでるんだろ? そこでいいからさ」

「僕は宿屋の善意でお世話になっていんだよ。今は人手が足りないから、冒険者活動の傍らで狩りもしてるの。おっさんは何すんの?」

「これでも腕っぷしには自信があるんだ。俺も狩りをするっ」

「じゃあ今獲ってくれば?」

「今は無理。獲ってきても飯は作れないからなっ」

 いや、できないことをドヤられても……。

「変なことをしないなら、僕がお世話になっているところに連れて行くよ」

「変なことって?」

「誘拐とか」

「するかぁっ!」

「まぁ例えばの話だよ」

「ったく。幼気いたいけな青年に向かって失礼なヤツだ」

「言葉を理解して使ってる? 全然可愛くないよ?」

「熊だぞ? 可愛らしさの象徴的存在だろっ」

「熊と熊獣人は別だから。それに、可愛らしさの象徴なら宿屋にいるから」

「はぁ!? お前、ぬいぐるみを知らないのか?」

 テディベアのことだろうか。
 あの三頭身くらいしかないデフォルメされた熊と、熊耳と尻尾がついただけのゴツいおっさんが同列なわけないだろ。

「熊のことはもういいから、行くよ」

「よくねぇっ」

 と言いながらも、空腹熊獣人は素直についてくるのだった。



しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

こう見えても実は俺、異世界で生まれたスーパーハイブリッドなんです。

若松利怜
ファンタジー
【こう見えても実は俺、異世界で生まれたスーパーハイブリッドなんです。――覚醒編――】  十九歳に成長した霧島悠斗は、自分の出生の秘密を聞かされた。  その後、地球存亡の危機を知った彼は、その日を境に加速的に覚醒していくのだった。 【あらすじ】  霧島悠斗は十九歳の誕生日間近、幼馴染(影浦悠菜)とその母親(影浦沙織)から、かなりぶっ飛んだ話を聞かされた。  その母子と彼の母親(霧島啓子)は、悠斗が生まれる前からの友人でもあり、その頃から家族同然の付き合いをしていたのだが、実は沙織が異世界(エランドール)で意図して誕生させた子供が悠斗だと言う。  沙織は以前、子供の出来なかった啓子の願いを叶える為に、彼女の子供として悠斗をこの世界に連れて来たのだった。  その後、異世界人の二人は悠斗の幼馴染とその母親になりすまし、異世界人と地球人との混合種(ハイブリッド)である彼を、これまでずっとその事実を隠したまま保護観察していたのだ。  突然のカミングアウトに戸惑う悠斗ではあったが、思い当たる節も幾つかはあったのだ。  視界の片隅に現れる家族の位置情報や、瞬発的に身体能力が上がったりと、まるで自分の身体に何か別の何かが居る様な感覚。  その告白を境に悠斗のそれらの能力は目まぐるしく成長し、更に新たな能力が次々と芽生え始めた。  そんなある日、悠斗は地球存亡の危機を知り困惑する。  保護観察をしていた異世界の二人は、悠斗の保護の為エランドールへ行かないかと打診してきた。  だがこれまで知り合った人達や、育ったこの世界を絶対に護ると心に決めた時、悠斗の能力が遂に覚醒する。  そしてそれは、彼の間近で保護観察を続けていた異世界人達であっても想定外であり、誰もが驚く程の超混合種(スーパーハイブリッド)だったのだ。  【登場人物】  霧島悠斗:啓子の染色体と異世界人数名の染色体を使用して、異世界《エランドール》で創られた混合種。  霧島啓子:悠斗の母親。染色体提供者の一人。  霧島圭吾:悠斗の父親  霧島愛美:悠斗の妹  影浦沙織:悠斗が生まれる前からの啓子の知り合い。悠菜の母親。エランドールではルーナ。染色体提供者の一人。  影浦悠菜:沙織の一人娘。悠斗の幼馴染。エランドールではユーナ。染色体提供者の一人。  セレスティア・リリー・カルバン:エランドールの将軍。ラ・ムー王の血族。染色体提供者の一人。  鈴木茂:悠斗の同級生。高校に進学してからの友達。  五十嵐未来:悠斗の同級生。  西園寺友香:悠斗の同級生。

異世界で生きていく。

モネ
ファンタジー
目が覚めたら異世界。 素敵な女神様と出会い、魔力があったから選ばれた主人公。 魔法と調合スキルを使って成長していく。 小さな可愛い生き物と旅をしながら新しい世界で生きていく。 旅の中で出会う人々、訪れる土地で色々な経験をしていく。 3/8申し訳ありません。 章の編集をしました。

【完結】ポーションが不味すぎるので、美味しいポーションを作ったら

七鳳
ファンタジー
※毎日8時と18時に更新中! ※いいねやお気に入り登録して頂けると励みになります! 気付いたら異世界に転生していた主人公。 赤ん坊から15歳まで成長する中で、異世界の常識を学んでいくが、その中で気付いたことがひとつ。 「ポーションが不味すぎる」 必需品だが、みんなが嫌な顔をして買っていく姿を見て、「美味しいポーションを作ったらバカ売れするのでは?」 と考え、試行錯誤をしていく…

異世界は流されるままに

椎井瑛弥
ファンタジー
 貴族の三男として生まれたレイは、成人を迎えた当日に意識を失い、目が覚めてみると剣と魔法のファンタジーの世界に生まれ変わっていたことに気づきます。ベタです。  日本で堅実な人生を送っていた彼は、無理をせずに一歩ずつ着実に歩みを進むつもりでしたが、なぜか思ってもみなかった方向に進むことばかり。ベタです。  しっかりと自分を持っているにも関わらず、なぜか思うようにならないレイの冒険譚、ここに開幕。  これを書いている人は縦書き派ですので、縦書きで読むことを推奨します。

異世界転生!俺はここで生きていく

おとなのふりかけ紅鮭
ファンタジー
俺の名前は長瀬達也。特に特徴のない、その辺の高校生男子だ。 同じクラスの女の子に恋をしているが、告白も出来ずにいるチキン野郎である。 今日も部活の朝練に向かう為朝も早くに家を出た。 だけど、俺は朝練に向かう途中で事故にあってしまう。 意識を失った後、目覚めたらそこは俺の知らない世界だった! 魔法あり、剣あり、ドラゴンあり!のまさに小説で読んだファンタジーの世界。 俺はそんな世界で冒険者として生きて行く事になる、はずだったのだが、何やら色々と問題が起きそうな世界だったようだ。 それでも俺は楽しくこの新しい生を歩んで行くのだ! 小説家になろうでも投稿しています。 メインはあちらですが、こちらも同じように投稿していきます。 宜しくお願いします。

おもちゃで遊ぶだけでスキル習得~世界最強の商人目指します~

暇人太一
ファンタジー
 大学生の星野陽一は高校生三人組に事故を起こされ重傷を負うも、その事故直後に異世界転移する。気づけばそこはテンプレ通りの白い空間で、説明された内容もありきたりな魔王軍討伐のための勇者召喚だった。  白い空間に一人残された陽一に別の女神様が近づき、モフモフを捜して完全復活させることを使命とし、勇者たちより十年早く転生させると言う。  勇者たちとは違い魔王軍は無視して好きにして良いという好待遇に、陽一は了承して異世界に転生することを決める。  転生後に授けられた職業は【トイストア】という万能チート職業だった。しかし世界の常識では『欠陥職業』と蔑まされて呼ばれる職業だったのだ。  それでも陽一が生み出すおもちゃは魔王の心をも鷲掴みにし、多くのモフモフに囲まれながら最強の商人になっていく。  魔術とスキルで無双し、モフモフと一緒におもちゃで遊んだり売ったりする話である。  小説家になろう様でも投稿始めました。

転生した体のスペックがチート

モカ・ナト
ファンタジー
とある高校生が不注意でトラックに轢かれ死んでしまう。 目覚めたら自称神様がいてどうやら異世界に転生させてくれるらしい このサイトでは10話まで投稿しています。 続きは小説投稿サイト「小説家になろう」で連載していますので、是非見に来てください!

神に異世界へ転生させられたので……自由に生きていく

霜月 祈叶 (霜月藍)
ファンタジー
小説漫画アニメではお馴染みの神の失敗で死んだ。 だから異世界で自由に生きていこうと決めた鈴村茉莉。 どう足掻いても異世界のせいかテンプレ発生。ゴブリン、オーク……盗賊。 でも目立ちたくない。目指せフリーダムライフ!

処理中です...