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第一章 居候、始めます

第二六話 真剣勝負

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 数日ぶりの森だ。

 森に来るまでは途中の草原で採取をしている赤銅級カッパーの少年少女や、朝から討伐依頼をしていたであろう黒鉄級アイアンの少年少女たちとすれ違った。
 俺はまだ雑用依頼しか受けられないペーペーの石板級ストーンだけど、年齢的には黒鉄級と同じだから何も言われることはなかった。
 平民の多くは十歳になった瞬間に冒険者ギルドに登録するらしいから、十二歳で登録した俺より年下の先輩は少なくない。

 冒険者ランクを理由にマウントしてくることは多々あり、絡まれたときの言い訳も考えておいたのだが、使うことがなくて本当によかった。

「さて、確か黒鉄級が狩れるくらいの魔物や魔獣だっけ」

 魔物や魔獣のランクは、脅威度によって十段階に分けられている。
 上から四つは横に置いといて、下から六つまでは人間が討伐できるという考えの元、一等級から六等級までランク付けをされている。
 それぞれ上下に分かれているから、同じ等級だからといって自分の実力が見合うかどうかは見極める必要があるらしい。

 そして黒鉄級が討伐可能な等級は、四等級の上までらしい。
 具体的な例を挙げるなら、俺が服と交換に提供した猛猪ワイルドボアが相当するらしい。

 しかし、今日の獲物はうさちゃんだ。

 定番のホーンラビットの上位種であるコンバットラビットという、角がスローイングナイフのような形状をしており、ホーンラビットと同じく突進攻撃が得意らしい。
 でも、コンバットラビットは掠ったとしても、その鋭い角で切り裂かれるため危険度は増す。

 ホーンラビットは六等級の上だが、コンバットラビットは単体で四等級の下になるらしい。
 後ろ姿が似ており、ホーンラビットだと思って攻撃したのに、実はコンバットラビットだったっていう事故は新人あるあるらしい。

 俺が美味しいと分かっている猛猪をやめてまでうさちゃんを狙う理由は、その危険な角が欲しいのだ。
 一般的に強力な放出系魔法がない無属性魔法しか使えないことになっているし、そう思わせることがアドバンテージだと思うから、代わりの遠距離手段が欲しい。
 暗殺者時代も投擲ナイフを使っていたのだが、あのときは申請すれば無限に補充されていた。

 反対に、今はお金がない。

 だから低コストで使えるものがないかと思ってゴミ捨て場に行ったのだが、期待していたよりも使えるものが少なかった。
 そこで目を付けたのが、うさちゃんの角だ。
 魔物の角だからきっと魔力の通りもいいだろうし、肉のおまけだと思えば使い捨てにしても懐が傷まない。

 まさに完璧だ。

「ということで、早速探すか」

 ──《無属性魔法:探知》
 ──〈索敵〉
 ──〈生命感知〉

 追加で【神字:処理】を意識する。

 魔力で広範囲を走査スキャンし、敵対反応を探る。
 魔物や魔獣だけをピックアップして、猛猪よりも魔力が小さいものだけに絞り込んだところ、それらしい反応があった。

「群れか……。探す手間が省けたかな」

 上位種も含まれるため、最低でも四等級の上にランクアップを果たすが、探す手間と時間を考えればリスクをリターンが上回ると思う。

「討伐方法をどうするかだよなぁ」

 できるだけ多くの角と肉が欲しいから、【念動】で首をへし折るのが無難だろう
 しかし、群れだと逃げる可能性がある。
 魔力糸で首チョンパでもいいけど、ズレて胴体がチョンパとかはもったいないよなぁ。

「面倒だけど、ドーナッツかな」

 作戦を決定した後、コンバットラビットの群れがいる場所に向かう。

 技能で動いていないことを確認した後、土属性魔法の《掘削》森の中を円形に掘り進めていく。
 技能〈多重魔法〉を使用し、【念動】で作った魔法陣を次々に発動させていき、うさちゃんが気づく前に空堀を作ることができた。

 これで仮にうさちゃんが逃げても行動が制限され、逃走確率が下るだろう。
 まぁ後日、森にミステリーサークルができたって言われるかもしれないけど。

「せっかく空堀を作ったから、ここを森内で活動する基地にしてもいいかも」

 ドーナッツ基地の再利用法を考えながら、俺は蔦で網を作り続けている。
 この網は捕獲用の網ではなく、空堀の外側に設置する檻代わりだ。うさちゃんの跳躍力で空堀を飛び越えられた時のために、頭が通らない大きさで作ってある。
 丸などの硬いもので作ると大切な角が折れてしまうだろうから、うさちゃんの突進を跳ね返すだけの弾力があり、それでいて傷つけない蔦の網にしたのだ。

「一周させる必要はないし、もうすぐ終わるね」

 樹木の枝に固定したり倒木を利用したりして作った蔦の檻は、そこそこの出来映えだった。
 ただ違和感がすごいけど。

 いきなり森の中に壁ができたように見えなくもない。

「よし、行こう」

 唯一網で覆っていない方向から進み、一番手前にいるうさちゃんから討伐していく。

「──ギュイィィィッ」

 一体だけ以上にデカいボスウサが指示を出し、逃走組と殿組に分かれていく。

「これは確かに新人には無理だわ……」

 蔦の網を作っているときに拾った石と棒で短槍を作ってあったのだが、意外にも活躍の場がありそうだ。

「折れないといいな」

 ──《心眼》
 ──《身体強化》
 ──《痛覚遮断》

「逃さんっ」

 俺が戦闘態勢に入り、空堀を飛び越えた瞬間、殿組が一斉に半包囲状態で突撃してきた。

 ──《無属性魔法:障壁》

 角を折らないように上から穴の中に叩き落とすように《障壁》を発動させ、同時に別で発動させた《障壁》を蹴って空堀の外に対比する。

 そう、殿組を釣るためのフェイントだったのだ。

「ギュイィィィッ」

「すまん、怖くて下がっちゃった」

 ちなみに、空堀の底に罠を仕掛けているわけではないので、その内うさちゃんが唯一の入口であるこの場所に殺到することだろう。
 だから、その前にボスウサを討伐しておきたい。

 だが、【念動】で討伐するという無粋な真似はあまりしたくない。
 ということで、短槍と得意な格闘術で相手をしようと思う。

「行くぞっ」

「ギュイッ」

 槍の最大攻撃である刺突は、俺の石器槍には不向きだ。
 しかし、だからといってやらないわけにもいかない。
 喉を狙い放った突きを、ボスウサは角で防御しようと頭部を動かした。

 ──させるかぁっ!

 その角は俺の戦利品だ。
 傷はつけさせない。

 当たる瞬間に体の重心を無理矢理後ろに移し、角への接触のタイミングをずらす。
 結果、頭は少し下がった状態になり、槍は頭上を通る形で終わる。が、そのまま後頭部を叩くことで追い打ちを掛け、ボスウサの顔面を地面に擦り付けた。

 ボスウサは頭部を叩きつけられたときの衝撃を利用して、角で刺そうと首を動かす。
 しかし、そこに俺はもういない。
 とっくに接近していて、《無属性魔法:波動》を待機させた状態で殴りかかっていた。
 そして、拳が当たると同時に魔法を発動。

「──ギュッ……」

 頭部が揺れて立っていられなくなったボスウサは、首と腹を晒して横たわった。
 俺は最後まで油断することなく、解体用ナイフで介錯をした。

「命に感謝を」

 よし、あとは子分たちだけだ。
 もう一踏ん張りするか。


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