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第一章 居候、始めます

第十五話 未来の王をスカウトする

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 宿屋に戻ると、俺とルークはお土産の食材と薬草を布ごと渡し、幼女ことニアの案内で宿屋を探検することに。

「まずはね、さっきまでのところがほんかんなの」

「本館? じゃあ別館があるの?」

「そうなの。となりにあるのが、おばあちゃんのおみせだよ」

「なんの店?」

「わかんない」

「そうか。じゃあ後で聞いてみよう」

「うん」

 転ぶと危ないし、歩く速さが違うから、ニアはルークの背中に乗って移動している。
 おかげで、最初に見た泣きそうな表情は消え、満面の笑みで案内ガイドを務めていた。

「どっちもにかいがあるの」

 そう言えば少しの間だけだったけど、二階で寝たな。
 猛烈な魔力の振動を感知したせいで、すぐに起こされたけど。

「おそとだよ」

「外?」

 裏口の扉を開けると、そこには中庭があった。
 家庭菜園をやっているのか畑や果樹が植えてあり、隅に納屋っぽいものもあった。

「すごい」

「でしょーっ」

 ニアも自慢気だ。

「あっ。あれは?」

 前世のゴミ回収用コンテナみたいなものが畑の一角を占領しており、少し魔物の気配を感じる。

 ちなみ魔物と魔獣の違いは、魔法が使えるか否か。
 魔核を持っているのは変わりないが、魔法を使うための臓器【魔臓】や【魔晶】を持っている魔物は魔獣になる。
 ただし、ゴブリンメイジみたいな道具を触媒にするタイプの魔物もいるから、線引は曖昧らしい。

 他には珍しい魔獣を【幻獣】と呼称したりと、珍しさや脅威度によって分類されているらしい。

 それはさておき。
 今は木製のコンテナが気になる。

「しらないの? あれはごみばこだよ」

「ゴミ箱?」

「そう。ふつうはひろばとか、ごみおきばにおいてあるの」

「何でここにあるの?」

「ごみばこは、じめんのなかにいるスライムにごはんをあげるの。あなをあけられればいいんだって」

「へぇーー。初めて見た」

 少し興味があったから、コンテナによじ登って覗いてみた。
 すると、コンテナに見えていたのは落下防止の柵で、本当のゴミ箱はただの縦穴だった。

「これは……死体処理が簡単なのでは?」

「なんてーー?」

「何でもないよ」

 前職では見せしめの意味も兼ねて死体は処理する必要がなかったけど、これから現れる誘拐犯や敵対者は痕跡を消したほうがいいだろう。

 まるで神隠しのようだと、犯罪者達共通の認識になればいいな。
 神隠しに遭いたくないから、ポットでの仕事は受けないとか、毒父からの依頼は受けないとか考えてくれたら最高だ。

「ちょっとここで待っててくれる?」

「どこにいくの?」

「この穴の中」

「な、なんでー?」

「スライムさんに、お世話になりますって挨拶してくる」

『いらんだろ』

 ルークは、本館から漂ってくる香ばしい香りが気になって仕方がない様子で、頭だけ本館の方に向けて話している。

「すぐ帰ってくるから」

「まだあるんだから、はやくね」

「うん」

 俺は穴の中に飛び込むと、すぐに【念動】を発動した。
 落下するのは同じだが、今度はゆっくりと落下していく。

「臭いな……」

 さすがに地面に降り立つのは抵抗があったため、空中を浮遊状態で停止している。

「それじゃあ〈生命感知〉──、いた」

 一番大きいスライムを探し、可能なら従魔契約を結びたいと思ったのだ。
 この世界のスライムはもっちりとしたわらび餅型で、びしゃっとした水溜り型ではない。だから、普通に従魔にしても可愛いし、能力も育てば優秀だ。

 それゆえ、従魔契約の練習台になることが多い。
 小さいうちは子供でも討伐できる最弱の魔物だから、親も安心できる最高の練習台というわけだ。

 現在孫もいるエルフ夫婦が、一度もスライムの入れ替えをしていなければ、目の前の大型スライムは相当の強さを持っているだろう。

 冒険者ギルドで見た地下道の常設依頼とはなんだろうかと思っていたけど、スライムの間引きというなら納得できる。
 スライムは成長過程で分裂することは常識で、都市クラスのゴミを処理しているなら分裂の速度が速く、分裂する数も多いことが予測できる。
 それを放置していればスライムが地下から溢れ出し、スライムスタンピードという結果を招くだろう。

 ただし、地下道が都市を網羅しているとは言っても、個人宅の地下までは個人で管理しているだろうから、目の前の大型スライムの強さは未知数だ。

「それにしても……結構きれいだな」

 地下道ゆえ臭いはあるけど、ゴミは落ちていない。
 糞尿用地下道とは別だからだろうけど、それを差し引いてもきれいだと思う。

「綺麗好きなのかな?」

「ピギィッ」

「……わからん」

「ピギッ、ピギッ」

 体を上下に揺らして、人間が頷いているように返事をし直すスライム。

「綺麗好きって言ってるの?」

「ピギッ、ピギッ」

「すごい。しかも、可愛い」

 人間の友達は作れそうにないけど、魔獣や魔物の友達は作ろうかなと思える。

「これからここにたくさん魔獣の解体部位とか、人間を落とすからピカピカにしてくれる?」

「ピギッ、ピギッ」

「ありがとう」

「ピギッ」

 可愛い。

 言葉を理解するほど知能が高いところも魅力的なところだけど、巨大なビーズクッションのうような大きさの水饅頭が、プルプルと揺れ動くのだ。

 可愛いに決まってる。

 色は至極色と呼ばれる黒に近い深い赤紫のようで、光源がなかったら黒に見えていただろう。

 最初は従魔契約だけして地下にいてもらおうと思っていたが、今では数分の前の自分を殴り飛ばしたいほど、この子を連れていきたいと思っている。

「一緒に来てくれない?」

「ピギッ」

 大型スライムは、迷うことなく体を上下に揺らしてくれた。

「ありがとうっ」

 ちなみに、残念なことにスライムとは血の契約はできない。
 あれは言語を話せたり血液があったりと、いくつかの条件を満たした魔獣だけが行える秘術の一つだ。
 ゆえに、今回は技能スキル〈従魔契約〉を発動して作った魔法陣の中に入ってもらい、名前を付けて終了となる。

「名前は【イムレ】。素晴らしい王って意味だよ。きっと、この都市のスライムの王になると思うからね」

『イムレ、王になる』

「おぉーーっ! 念話っ!」

 予想よりも上位の魔物だったようで、魔力のパスを繋げた瞬間、すぐに念話の回線も繋がったようだ。

 それにしても可愛い。

「それじゃあ一緒に家に行こう」

『うん、行く』

 イムレを【念動】で持ち上げ、そのまま縦穴を昇っていく。



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