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第三章 始まりと報復

第四十話 王都は空き缶理論

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◇◇◇


「や……約束が違うぞ!」

「彼らはともかく、あなたたちは面倒なことをしそうなので処理しておくことに決めました。大丈夫ですよ。痛くしませんから、ねっ?」

「うわぁぁぁぁぁ!」

 その日以降彼らを見た者はいなくなるのだが、守護者であった彼らがいなくなっても旅に出たのだろうと思われ気に留める者はいなかった。

「それにしてもー、彼はいったい何者なんでしょうかー? 攻撃範囲に一瞬でも入った瞬間、何やら危険な感じがしましたからねー。関わらないで済むのは個人的にとても助かりますー!」

「へぇー。あんたがそんなに警戒する人物かー。会ってみたいなー!」

「勝手なことをしたら殺しますよー? 繋がりがバレて私が約束を破ったと思われた場合、彼は最大の障害となって私たちの前に現れるでしょう。そしたら、あなた責任取れますー?」

「し……失言失礼しました……。どうかお許しください!」

「次はありませんからねー。自分の命と相談して発言してくださーい。お願いしますねー?」

 突然空気が変わった幼女に、部下と思われる男性がガタガタッと震えながら謝罪をした。震えは許された後もしばらくは収まることはなく、失言をしてしまった自分と興味を抱かせたアルマを恨み始めていた。


 ◇◇◇


 サイコパスがいなくなった頃、森の入口に戻って少し休憩してから再び森に入った。森に入ると危険度が格段に上がるため図鑑はしまい、各々警戒しながら進む。

「へぇー。ヴァルは火と土の魔法が使えるのか。すごいな。でも森では基本的に土だけな」

「ガルッ!」

 何故かリアとガルは意思疎通できており、魔法のことを教えてくれた。これから一緒に戦闘する上で、できることを知っておくのは重要なことだからだ。そして土魔法を使えることはかなり有益なことで、ヴァル本人も状況に応じた使用方法を理解しているようだった。本当に賢い子だ。

 ちなみにサイコパスの話は誰もしていない。口に出すのも思い出すのも嫌な存在であるからだ。もう会うことはないだろう。俺はこれがフラグでないことを必死で祈るが、祈った先が愉快犯だと思い出し後悔した。

「ヴェイグさん、そういえば着く前に聞いておきたいんですけど、ゴーレム関係の本とか資料ってどこに売ってます?」

「ん? ゴーレムか? ゴーレムは基本的に作れない」

「いや挑戦だけでもしたいかなって思っているんですが」

「言い方が悪かったな。お前がどうこうじゃない。ゴーレムはどこの国でも国家事業というか研究という扱いになっている。職人として有名になると、自分で店を持つか国家魔具師となるか選べる。俺も鍛冶もやるが魔具も作れるからな。その国家魔具師の中でも選ばれた職人だけが、国の予算を使ってゴーレムの研究ができるようになる。つまりはだ、資料は各国が秘匿しているわけだ。人型のゴーレムを量産できれば簡単な戦力増強になるからな。だから、魔具作りが盛んなこの国に師匠が視察に来たってわけだ。暇すぎて王都で店をやっているらしいがな」

 マジかよ。資料なしかよ。さすがに何も知らないでやるのは無理だな。それに誰も成功してないと目立つかな?

「仮にゴーレムを作った場合、取り上げられますか?」

「くれとは言うかもしれんが、取り上げはしないだろ。守護者はどこの国にも属さないから、取り上げた場合、周辺国から吊し上げを喰らって情報を開示させられる可能性の方が困るだろ。幸いなことに、この国の今の国王は優秀だ。取り上げようとしたとしても他の王族や貴族だな。危ないのは職人ギルドに所属すると、取り上げられたり情報漏洩したりするから、守護者ギルドをやめた場合は商業ギルドに加入することだな」

「なるほど。じゃあ王都で調べてみようかな」

「なんだ次は王都か。時期にもよるが基本的に王都の中には入れないからな」

 王都に入れないって何? 王侯貴族しか住めないのか?

「えー! なんで!?」

 大人しく話を聞いていたリアもご立腹だ。

「本当の王都は今現在の南の辺境伯領のさらに南だったんだが、霊場の拡大が早くて侵食されてしまって、当時の国王が自身の懐刀を辺境伯として旧王都の監視をさせ、国の真ん中当たりにある湖の畔に遷都したんだ。まだそんなに経っていないから、建物や外壁などが人口に対して追いついていないから規制している。それにもうすぐ建国記念日と国王誕生祭があって警備が厳重になる。高ランク守護者なら入れるが、緊急時は強制依頼になる条件をのむ必要がある。それでも一発逆転で王都に行く者は後を絶たないらしい」

「マジかー。魔法具を揃えようと思ったんだけどな」

「完全に入る方法がないわけじゃないぞ。滞在できないだけで。依頼で中に入る仕事を選べばいいだけだ。外にもギルドの出張所があるから、護衛依頼のほとんどは外壁の外までだが、中までの護衛依頼を選べば買い物くらいはできるだろ」

「ちなみに野営する人っています?」

「行けば分かるが、外壁の中に職人街があるんだが、その職人街に一番近い門のすぐ目の前にはゴミ山がある。そこのゴミ山には多くの者が暮らしているぞ。ちゃんと生ゴミとかとは分けていて、魔具関係のゴミが基本だから崩れる恐怖はあっても臭くはない」

 このゴミ山一人がゴミじゃなくて魔具を落としただけで、次の日には小山ができていたそうだ。そのせいで落とした物は見つからず、あっという間に巨大な山といくつかの小山ができ、ゴミ山脈が出来上がったそうだ。今では分別を仕事にする人もいるらしく、国もなかなか手をつけられずに困っているらしいが、貴族街や大使館などから離れた場所にあるため苦情もなく後回しらしい。

 これは計画を早めないと駄目だな。リアをゴミ山で野宿させるわけにはいかない。

「あ! やっと着きました。あの洞窟ですね。ちょっと調べてみます」

 ーー《物質探知》。

 図鑑で見た魔鉱石をはじめ次々にイメージしながら探していく。この体になってから記憶力がよくなったから、ほとんど一発で探せた。まぁ記憶力がよくなったのに忘れたリリーの兄は相当印象が薄かったのだろう。

「ありましたよ。早速採掘しましょう!」

 採掘道具と鉱石樽を出して準備をしていると、ヴァルがトテトテと洞窟に近づいていく。俺を見て洞窟を前足でトントン叩いていた。

「もしかして指示したところを掘ってくれるのか?」

「ガルッ!」

 確かにそこそこ大きな洞窟でビッグボアが何度もぶつかっても崩れなかった強度の洞窟でもあるのに、人力でやってはいつまでかかるか分からない。結果、甘い物が食べれないのだ。

「よし! 指示するからドンドン掘っていってくれ! ヴェイグさんは堀る順番や崩れそうな堀方を教えてください。リアは樽に詰めていって。入りきらなかったら木箱と麻袋を使ってくれ! 早く終わらせて果物狩りだ!」

「おぉぉぉぉーーー!」

「ガルゥゥゥゥーーー!」

「了解だ」

 そこからは早かった。魔鉱石が比較的まとまっている状態だったから丸ごと掘り出し、ヴェイグさんが適度な大きさに割ってから樽に入れて行き、昼頃には洞窟の半分ほどが石と砂になっていた。

「休憩がてらお弁当を食べていて。俺は周辺の警戒をしてるからさ」

「ありがとー!」

「すまんな」

「ガルル」

 もちろん警戒もしているが魂を食べてもいる。計画を早めないといけないし、ゴーレムを作るならそろそろ銀行・・に行かないとな。

「おっ! いいもの見つけた!」

「アルマ、どうしたの?」

「鹿がいたぞ。あいつらもちゃんと探せばいるのにー」

「どうする!? 獲る!?」

 まだ遠いし、警戒しているんだよな。変身セットを解除すれば見つからないかもしれないな。

「ヴァルも狩りしたいか?」

「ガルッ!」

 コクリと力強く頷く姿を見て狩りを行うことに決めた。そして作戦を立てた俺たちは、鹿狩りを開始するのだった。



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