上 下
45 / 56
第三章 始まりと報復

第三十八話 初めては奇跡の二連続

しおりを挟む
 鍛冶職人のおじさん改めヴェイグさんは、素材がないせいで本来の鍛冶という仕事を満足にできないでいた。それならば、素材を取りに行けばいいだけだ。そのことを提案してみると予想外の答えが返ってきた。

「無理だな。この近くにある鉱山は守護者ギルドが管理している。緊急時は代官が優先的に使用できるが、基本的に発見者が所有権を主張でき、依頼の最中での発見ならギルドに報告してギルドの所有になる。そして守護者ギルドは半永久的に護衛仕事を作り出すことができるわけだ。俺たちは守護者に護衛してもらう代わりに、割引した武具を提供しなければならん。だからほとんどの職人は鋼材商会から買うんだよ。それに職人ギルドから守護者ギルドに圧力がいっているだろうしな」

「じゃあ大丈夫そうですね」

「……話聞いてたか?」

「え? だって依頼じゃなければいいのでしょ? 俺たちも盗賊討伐試験待ちで暇と言えば暇なんですよ。ヴァルに運動もさせてあげたいですし、そもそもギルド所有の鉱山に入らずギルドの依頼として護衛しなければいいのでしょ? というよりも俺たちも護衛依頼受けれないし、元々強い戦士であるヴェイグさんにはそこまで気を遣う必要もないですしね。あと魔鉱石っていうのが宿に来る前に手に取っていたキラキラ光る石なら、最近別の場所で見つけましたから、こっそり取っちゃいましょう。俺のスキルなら手ブラで行けますしね。まぁ偽装で荷車を引いて狩りをしてきた風にしてもいいですけど」

 あの『戦乙女ヴァルキュリア』たちがズタボロになった洞窟を通り抜けるときに、洞窟の奥にキラキラ光る紫色の石があるのを見つけた。あれが魔鉱石ならかなりの量になることだろう。

「……だがそんなことしても利益はないだろ」

「それがあるんですよ。あの近くで甘い物が採れる場所を見つけたので、ついでに採取してジャムとかを作ろうかと思っているんです」

 甘い物と聞いて、お腹をパンパンにして苦しんでいた肉好きトリオが飛び上がった。実際には飛び上がったリアにつられて他の二人も飛び上がっただけだが。

「甘い物が食べられるの!?」

「任せろ! 前回は肉とヴァルを優先したけど、今回は甘い物と果物狩りだ。いっぱい取って帰ろう。それに行く前に本屋によって植物図鑑を買っていくから、安心して食べられる物を爆取りできるはず」

「やったー!」

「……グルゥゥゥ……」

 何故かションボリするロック。もしかして行きたいのかもしれないが、さすがにルドルフさんは行けないだろう。宿があるしな。

「ロックの分も取って来るから、それで我慢してくれな」

「……グルッ!」

 いい子だ。安全な森なら連れて行ったかもしれないが、あの巨大蛇がいた森である。気軽に一般人を連れて行ける場所ではない。

「では決まりですね。明日でどうです? 投擲武器はそのあとでいいので」

「……よろしく頼む」

 そのあと詳細な打ち合わせをしてお開きとなった。そして今はというと、俺にとってメインイベントとなる心臓の吸収を部屋で行うところだ。まずはホーンブルの心臓からである。

 ーー《吸収アブソープ》。

 名前  アルマ
 年齢  十五歳
 加護  創造神の加護
 スキル 魂霊術・言語・異空間倉庫・槍術
     感知EX

 ん? EX? 初めて見る表示に驚きと疑問が湧く。とりあえず、蛇の心臓を吸収してから詳細を確認してみよう。

 ーー《吸収アブソープ》。

 名前  アルマ
 年齢  十五歳
 加護  創造神の加護
 スキル 魂霊術・言語・異空間倉庫・槍術
     感知EX・探知EX

 おぉぉぉぉ! 奇跡の二連続!

 山ほどの心臓を吸収しても一つも入手できなったのに、強さの格が上がったと感じたモンスターの心臓でいきなりの二連続っていうことは、俺が立てた仮説である階級が高いほど確率が上がるっていうのは間違いじゃなさそうだ。

「どうだった? 変化あった?」

「二連続でスキルを獲得できた!」

「ホントに!? やったじゃん! どんなの?」

「【感知EX】と【探知EX】の二つ」

「EX? 普通の感知と探知なら知ってるけど、EXは初めて聞くなぁ」

 もしかしてレアスキルだったりするのか? 早速見てみよう。

 スキル【感知EX】☆☆☆☆☆
 害意感知 嫌がらせなど害意に敏感になる
 気配感知 遮断されてもある程度はわかる
 魔力感知 魔法の発動も含む魔力を感知
 危険感知 罠や殺気に敏感になる
 看破   急所や嘘を見抜く

 スキル【探知EX】☆☆☆☆☆
 振動探知 微振動で方向や速度、数を探る
 熱源探知 温度や熱を視覚化して探る
 生命探知 生き物の存在を探る
 物質探知 知っているものを探る
 心眼   目に見えないものを探る

 これはあれだ。チートだって言いたくなるやつだ。それと最初からレベルMAXだからEXなんだというのが分かるし、仮説も立てられた。

 グリーンオーガのときは【槍術】のレベル一だったが、今回はMAXだ。この違いは技術かそうでないかということだろう。槍術は基本的にどの生物も技術的に成長していくが、感知や探知は特にモンスターの種族によっては本能的なものである。

 これに気づいたのはピット器官を持つ蛇の特性だ。サーモグラフィのような機能だと聞いたことがある。さらにホーンブルはリアの弓による狙撃を全て切り落としていた。これも野生故直感的な感覚が働いたのだろう。

 つまり鍛え上げた二つのスキルをもつ者の心臓をそれぞれ吸収した場合、俺もレベル上げの必要があったが、本能によるモンスターの心臓からスキルを獲得したおかげで最初からMAXで獲得できたというのが、俺の新たな仮説だ。

 それからもう一つ。おそらく俺はこの獲得法でなければスキルを得ることが出来ないのだろう。そうじゃなきゃ、そろそろポールアックスのスキルを得ていてもおかしくないはず。表示がないということは仮説通りなのだろう。あの愉快犯がわざわざこのスキルをつけたときに思いついていればよかったと若干の後悔をするが、それでも俺はポールアックスが好きだから使い続けるつもりだ。そしていつかは斧術か長柄武器術のスキルを持つモンスターからスキルを得てやろう。

「明日試してみようねー。図鑑熟読してね!」

「それいい! 探しものがしやすくなったり、獲物を探しやすくなれば便利だもんな!」

 それに前世というか転移前の人間だった頃の記憶も知っているものの中に含まれるなら、お米とかも探せるかもしれない。過去の勇者は探せなかったようで、この世界では普及していないが、俺が人間に戻ったときに食べれるようにしておきたいし、リアにも食べさせてあげたいと思っている。

「それじゃあ明日に備えて寝るか」

「はーい! おやすみー!」

「……ガル……ル……」

「おやすみ」


 ◇


 翌朝、誰に聞いたのかルドルフさんが採れる果物のことを教えに来てくれた。その後ろには女将さんのアンナさんと一番最初に対応してくれた娘さんのレベッカさんが、瞳をキラキラさせながらニコニコさせていた。

「おはようございます」

「おはようございます。本日は素敵なことをしに行くそうですね」

「グルルッルッ!」

 ルドルフさんの後ろからレベッカさんが楽しそうに、そして嬉しそうに話し掛けてきた。ちなみに、俺たちは商人に絡まれたことと爆買い貴族の疑いをかけられたことで商人の相手を面倒に感じ、さらにできるだけロックと一緒にいたいという全員一致の意見により、宿にいる間は基本的にロックのいる庭にいることにしている。だから今もリアたちと一緒に朝ご飯を食べながら、レベッカさんの言葉に同意しているのだ。

「耳が早いですね。どなたから聞いたか伺っても?」

「えぇ。ブルーノさんとヴェイグさんに聞きましたよ。というよりもお父さんに話しに来たのを聞いたとも言えますね」

 じゃあしょうがないか。仲が良い友人同士がヴェイグさんを心配して俺たち相談したのが始まりで、お礼と予定を言いたくもなるだろう。ルドルフさんにはホーンブルの肉でお弁当も作ってもらったからな。それに褒めるべきは情報を細大漏らさず広うレベッカさんの耳だ。

「たくさん採ってきますのでお裾分けしますね。もちろんロックの分も採ってくるからな」

「ありがとうございます!」

「グルルルウゥゥゥ!」

 当然だが、朝っぱらからフォレストバイパーのことを聞きつけた商人や代官の小間使いが俺のところに来たが、持っていないの一点張りで追い返した。代官の小間使いがなかなか納得しないせいで部屋の中まで見せたが、どこにもないことを確認したあと悔しそうに謝罪しながら帰って行った。

 そんなことをしていると荷車を引いたヴェイグさんがやってきた。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

長女は家族を養いたい! ~凍死から始まるお仕事冒険記~

灰色サレナ
ファンタジー
とある片田舎で貧困の末に殺された3きょうだい。 その3人が目覚めた先は日本語が通じてしまうのに魔物はいるわ魔法はあるわのファンタジー世界……そこで出会った首が取れるおねーさん事、アンドロイドのエキドナ・アルカーノと共に大陸で一番大きい鍛冶国家ウェイランドへ向かう。 魔物が生息する世界で生き抜こうと弥生は真司と文香を護るためギルドへと就職、エキドナもまた家族を探すという目的のために弥生と生活を共にしていた。 首尾よく仕事と家、仲間を得た弥生は別世界での生活に慣れていく、そんな中ウェイランド王城での見学イベントで不思議な男性に狙われてしまう。 訳も分からぬまま再び死ぬかと思われた時、新たな来訪者『神楽洞爺』に命を救われた。 そしてひょんなことからこの世界に実の両親が生存していることを知り、弥生は妹と弟を守りつつ、生活向上に全力で遊んでみたり、合流するために路銀稼ぎや体力づくり、なし崩し的に侵略者の撃退に奮闘する。 座敷童や女郎蜘蛛、古代の優しき竜。 全ての家族と仲間が集まる時、物語の始まりである弥生が選んだ道がこの世界の始まりでもあった。 ほのぼののんびり、時たまハードな弥生の家族探しの物語

幼い公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~

朱色の谷
ファンタジー
公爵家の末娘として生まれた6歳のティアナ お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。 お父様やお兄様は私に関心がないみたい。愛されたいと願い、愛想よく振る舞っていたが一向に興味を示してくれない… そんな中、夢の中の本を読むと、、、

虐げられた武闘派伯爵令嬢は辺境伯と憧れのスローライフ目指して魔獣狩りに勤しみます!~実家から追放されましたが、今最高に幸せです!~

雲井咲穂(くもいさほ)
ファンタジー
「戦う」伯爵令嬢はお好きですか――? 私は、継母が作った借金のせいで、売られる形でこれから辺境伯に嫁ぐことになったそうです。 「お前の居場所なんてない」と継母に実家を追放された伯爵令嬢コーデリア。 多額の借金の肩代わりをしてくれた「魔獣」と怖れられている辺境伯カイルに身売り同然で嫁ぐことに。実母の死、実父の病によって継母と義妹に虐げられて育った彼女には、とある秘密があった。 そんなコーデリアに待ち受けていたのは、聖女に見捨てられた荒廃した領地と魔獣の脅威、そして最凶と恐れられる夫との悲惨な生活――、ではなく。 「今日もひと狩り行こうぜ」的なノリで親しく話しかけてくる朗らかな領民と、彼らに慕われるたくましくも心優しい「旦那様」で?? ――義母が放置してくれたおかげで伸び伸びこっそりひっそり、自分で剣と魔法の腕を磨いていてよかったです。 騎士団も唸る腕前を見せる「武闘派」伯爵元令嬢は、辺境伯夫人として、夫婦二人で仲良く楽しく魔獣を狩りながら領地開拓!今日も楽しく脅威を退けながら、スローライフをまったり楽しみま…す? ーーーーーーーーーーーー 1/13 HOT 42位 ありがとうございました!

怪物転生者は早期リタイアしたい~チートあるけど、召喚獣とパシリに丸投げする~

暇人太一
ファンタジー
 異世界に召喚された王明賢(おう あきたか)。  愚民呼ばわりが我慢できず、思わず「私は王だ」と言ってしまう。  単なる自己紹介が誤解を生んでしまい、これ幸いと異世界の国王を装うことに……。  その結果、リセマラ転生の生贄から実験体にランクアップして、他国の辺境男爵家のカルムとして第二の人生を送ることになる。  99人分の能力や生命力などを取り込んだ怪物となったが、目指すは流行の早期リタイア『FIRE』!

暇つぶし転生~お使いしながらぶらり旅~

暇人太一
ファンタジー
 仲良し3人組の高校生とともに勇者召喚に巻き込まれた、30歳の病人。  ラノベの召喚もののテンプレのごとく、おっさんで病人はお呼びでない。  結局雑魚スキルを渡され、3人組のパシリとして扱われ、最後は儀式の生贄として3人組に殺されることに……。  そんなおっさんの前に厳ついおっさんが登場。果たして病人のおっさんはどうなる!?  この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。

悪役令嬢日記

瀬織董李
ファンタジー
何番煎じかわからない悪役令嬢モノ。 夜会で婚約破棄を宣言された侯爵令嬢がとった行動は……。 なろうからの転載。

人気MMOの最恐クランと一緒に異世界へ転移してしまったようなので、ひっそり冒険者生活をしています

テツみン
ファンタジー
 二〇八✕年、一世を風靡したフルダイブ型VRMMO『ユグドラシル』のサービス終了日。  七年ぶりにログインしたユウタは、ユグドラシルの面白さを改めて思い知る。  しかし、『時既に遅し』。サービス終了の二十四時となった。あとは強制ログアウトを待つだけ……  なのにログアウトされない! 視界も変化し、ユウタは狼狽えた。  当てもなく彷徨っていると、亜人の娘、ラミィとフィンに出会う。  そこは都市国家連合。異世界だったのだ!  彼女たちと一緒に冒険者として暮らし始めたユウタは、あるとき、ユグドラシル最恐のPKクラン、『オブト・ア・バウンズ』もこの世界に転移していたことを知る。  彼らに気づかれてはならないと、ユウタは「目立つような行動はせず、ひっそり生きていこう――」そう決意するのだが……  ゲームのアバターのまま異世界へダイブした冴えないサラリーマンが、チートPK野郎の陰に怯えながら『ひっそり』と冒険者生活を送っていた……はずなのに、いつの間にか救国の勇者として、『死ぬほど』苦労する――これは、そんな話。 *60話完結(10万文字以上)までは必ず公開します。  『お気に入り登録』、『いいね』、『感想』をお願いします!

おもちゃで遊ぶだけでスキル習得~世界最強の商人目指します~

暇人太一
ファンタジー
 大学生の星野陽一は高校生三人組に事故を起こされ重傷を負うも、その事故直後に異世界転移する。気づけばそこはテンプレ通りの白い空間で、説明された内容もありきたりな魔王軍討伐のための勇者召喚だった。  白い空間に一人残された陽一に別の女神様が近づき、モフモフを捜して完全復活させることを使命とし、勇者たちより十年早く転生させると言う。  勇者たちとは違い魔王軍は無視して好きにして良いという好待遇に、陽一は了承して異世界に転生することを決める。  転生後に授けられた職業は【トイストア】という万能チート職業だった。しかし世界の常識では『欠陥職業』と蔑まされて呼ばれる職業だったのだ。  それでも陽一が生み出すおもちゃは魔王の心をも鷲掴みにし、多くのモフモフに囲まれながら最強の商人になっていく。  魔術とスキルで無双し、モフモフと一緒におもちゃで遊んだり売ったりする話である。  小説家になろう様でも投稿始めました。

処理中です...