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第二章 新天地と始まり

第三十二話 昇格は裏技で

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 バーベキュー大会の次の日、俺たち三人は守護者ギルドに向かっていた。それも朝一で。

「眠いね、ヴァルー!」

「ガル……ガル……」

 まだ日が昇りきっていないうちからギルドに向かっているせいで、ヴァルはうとうとしながらリアに抱かれている。

「今日だけだからさ。仕事があるうちに稼いでおかなきゃいけないしな」

「お肉エネルギー補充したから大丈夫だよ。それよりも一人の上限は決まってないの?」

「一度に受けられるのは三個までだけど、達成したら三枚取ってを繰り返せば大丈夫だよ。それに兵士ソルジャーから上の採取依頼は一体で一セットなんだけど、何セットでも可能って書かれているものを選んでいけばいいって本に書いてあったよ」

「じゃあ私のスキルで依頼書を取りまくるね。まずは二枚かな!」

 ビッグボアの討伐の他に二つ受けられるからだ。そのあとは次から次へと三枚ずつ取ってくればいいだけだ。

「おはようございます。今日はどうされましたか?」

 ギルドに着いた俺たちは、いつもの優秀な受付嬢を探して列に並んだ。ギルド内には見習いスクワイアと思われる少年がいるだけだったから、さぞかし目立ったことだろう。

「依頼達成の報告に来ました」

「ビッグボアのですか?」

「それもありますが、他にもあります」

「分かりました。奥の会議室で報告を伺いますね」

 以前にもこんなことがあった気がするが、とりあえず言っておくことがある。

「でも奥に行ったら依頼書を取りに来るのが遅れてしまいます。三つだけではありませんから、だいたい四十くらいですかね」

「はぁ!? ……失礼……。いつどのようにか伺っても?」

 優秀な受付嬢はカウンターの下から魔道具のような物を取り出し、カウンターの上に置き質問してきた。おそらく嘘発見器のようなものだろう。盗賊の買い戻しのときにも使ってもらいたかった。

「一昨日ビッグボアを狩りに行ったらモンスターが山ほどいましたので、リアと協力して討伐しました。昨日は解体に一日を使ってしまいましたので、今日依頼達成の報告をしに来ました」

「本当のようですね……」

「このままだと時間がなくなってしまうので、まとめて処理することは可能ですか? 時間がかかりそうだと思ったから早起きして来たんですが……」

 疑われたから時間がなくなったと言っているのだが、疑っても仕方がないのも分かる。でも何故この時間に来ているのかを分かって欲しい。

「分かりました。必要な依頼書を外してから奥の会議室に向かいましょう」

「ありがとうございます」

 俺とリアは新兵ノービス兵士ソルジャー戦士ウォリアーの採取依頼に重点を置いて依頼書を依頼ボードから外していく。

「すげぇ……」

「何で採取依頼ばっかり……?」

「討伐と常設ばっかになってるぞ」

 などなど。小さな声で見習いたちが話しているのが聞こえてきたが、ギルド職員たちはそれどころではないらしい。

 どうやら俺が裏技を使うことを気づいたらしい。裏技と言っているが、やることはモンスターの使い回しである。使い回しと言っても同じ素材を繰り返し使うのではなく、モンスター一体を部位ごとにして利用するのだ。

 例えば今回のビッグボアは、肉、牙、皮、魔石が主な素材だ。売却すればかなりの高値がつくだろう。

 ただし、売却が可能なのは討伐依頼のときだけだ。討伐証明部位の尻尾を出せばいいからである。でもポイントは討伐ポイントの十ポイントに階級ポイントの五ポイントが加算されるだけ。

 しかし採取依頼は素材の売却ができないため利益は少ないが、指定された素材を提出するごとに採取ポイントの三ポイントと階級ポイントの五ポイントが加算される。一体の一部位だけのポイントだ。最低でも四ヶ所あるため一体で三十二ポイントになる。

 つまり、お金を取るかポイントを取るかだ。

 だが、普通の守護者には無理な方法である。高ランクになるほどモンスターの階級が上がり、装備が疲弊したり消費したりとお金が必要になる。だからこそ、お金にゆとりがある者が早くランクをあげるための裏技とされているようだ。

「ビッグボアはいい依頼だよな。討伐もあるし採取もあるし。両方でもらえる」

「こんな感じでいい?」

「一応ブッシュサーペントの肉の依頼も持って行こう」

「えっ!? お肉ーー?」

「蛇はいっぱいあるから一個くらい大丈夫だろ? ポイント足りなかったら使うだけだからさ!」

 ぶっちゃけ蛇肉を焼きたくないのだ。減らせるのなら減らしておきたいし、ポイントも稼げるなら一石二鳥である。

「三体分全部はダメだからね。一体は残しておいてね!」

「……はい」

 紙の束を抱えた俺たちは一番大きな会議室に通してもらった。そこには優秀な受付嬢だけではなく、数人の職員が書類などを用意して待っていた。

「では出していただいてもよろしいですか? 何もお持ちではないですが、持ってきていらっしゃるのでしょう?」

「スキルについてのことなので、他言無用でお願いしますね」

「もちろんです」

 返事を聞いた俺は【異空間倉庫】から大中小で分けた木箱などを取り出した。山のように詰まれた素材を見た職員たちは引きつった笑みを浮かべた後、手早く素材の処理を行っていった。結局、当初の予定から三ポイント足りず、ブッシュサーペントの肉を一体手放すことで合計が千ポイントを超えた。

 一人当たりの必要ポイントは五百ポイントだから、今回の狩りだけでランクアップ試験の受験資格を獲得できたのだ。あと報酬金額は安い採取依頼がほとんどだったのだが、金貨六枚くらいになり、残った肉以外の素材を売却したところ大金貨二枚くらいになった。

 一回の成果だと高額に思えるが、本来なら一回では無理でありパーティー数人で分割するので余計に少なくなるのだ。それ故、討伐依頼の方が人気が高くなるのである。

「えー……パーティーの本登録も終わり、ポイントの計算も終了しました。このモンスターもリア様の従魔として登録いたしました。『三銃士トライデント』のポイントは千三ポイントになりましたので、近日中には盗賊討伐試験を受けてもらいます。それに合格すれば戦士ランクになります」

「長期的な目標だったのに意外と早く達成しそうだな」

「盗賊討伐はモンスター討伐とは違う難しさがありますよ。油断されない方がよろしいかと」

 あれ? 盗賊討伐をしたって知らないのか? 副ギルドマスターにも会ったのに。

「御忠告ありがとうございます。ですが、先日盗賊の討伐をしたと報告したはずですが? 規則でしょうから試験は受けます。でもすでに討伐の経験はありますから油断はしていません」

「えっと……。証明するものは? それと買い戻しの手続きはどうされますか?」

「嘘発見器を使えばいいのでは? 盗賊の身分証もありますし盗品もありますが、両方とも出す気はありませんよ。すでにここでは拒否されていますから。副ギルドマスターには不正を疑われましたよ。その愛人の受付嬢にも。ですから、別の街で買い戻し手続きをしたり売却したりすればいいかと。幸いお金には困っていませんからね」

 これが被害者にバレたとき地獄だろうことが予想できる。盗賊が討伐された太陽教国から一番近い街で買い戻し手続きが拒否された場合、被害者の手に戻って来るのがさらに遅くなる。

 結論、責められる未来しか見えない。

 盗賊の話をそこそこにホールに戻ると、ホールは地獄と化していた。



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