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第七章 氷雪の試練と友情

第百三十九話 失言

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 巨大蛇を窒息死させることに成功したのだから、【無限収納庫】を下に発動して上からスルスルと落とせばいいだけなのだが、とあることに気づいたのでボムたちに仕事を作ってあげることにした。

「ボム。ボムたちはダンジョンではお宝回収班だったよな?」

「そうだぞ。なぁソモルン!」

「……」

 賢く危険に敏感なミニ怪獣は何かに気づいているようで沈黙を貫いている。しかし、このミニ怪獣も逃がすつもりはないのだ。

「ソモルンも回収班だったよな?」

「そうだぞ! 俺とソモルンにとって来れない宝はない! なっ!」

「……ボムちゃん……。そうだけど……そうじゃないんだよ……」

 言質は取った。これで言い訳はできまい。

「さすがだ。じゃあ俺の仕事は終わったから、怪獣兄弟にはお宝回収をして来てもらおうかな。詳しい場所はガルーダくんに聞いてくれ!」

 プモルンを持って探索していてガルーダなら気づいているだろう。怪獣兄弟に仕事を振っている間、ずっと悪魔でも見る視線を俺に向けていたのだから。

「ガルーダ、どこなんだ?」

「全部で三ヶ所ある。谷底と谷の途中の洞窟、それからあの巨大蛇の中だ」

「えぇぇぇぇーー! 空飛べない上に蛇の中だと!?」

「やっぱり……。ボムちゃんが返事しちゃうから……」

 俺が気づいたことはお宝のことではない。窒息死した巨大蛇の本当の使い方だ。夢に出そうだったから巨大蛇を見ようとしなかったが、プモルンにお宝のことを聞いて【神魔眼】で鑑定をしたところ判明した。

 巨大蛇を橋として利用する場合は体の上を通るのではなく、口から入って体の中を進むらしい。お宝は本当の利用方法に気づいた賢き勇気ある者への褒美だったのだ。当然褒美というくらいだから、氷雪のダンジョンのお宝で三指に入る物らしい。是非とも手に入れたいと思ったからこそ、俺はお宝回収のプロに依頼をしたのである。

「今、巨大蛇を真っ直ぐにするから準備しといてね。--心の」

「おぉい! 蛇はお前の担当だろう!?」

「違うぞ。阿呆と蛇のお仕置きや退治が俺の仕事で、あれはすでに大きな宝箱に姿を変えた。ということは、お宝回収班の仕事じゃないか!」

「お前のギフトでバラバラにすればいいだろ!」

 やっぱり気づいてしまったか。確かにバラバラにしてしまえば簡単に取り出せる。でも再利用したくて窒息死させたのに、バラバラにしては無意味になってしまう。つまり、答えはノーである。

「それはできない。中のお宝もバラバラになってしまうかもしれないからな。--プルーム様、どうします?」

「さっさと先に進みたい。怪獣兄弟含むお宝回収班は仕事をしろ!」

「卑怯だぞ!」

「卑怯で結構! さぁフェンリルくん、ガルーダくん、セルさん、怪獣兄弟と一緒にお仕事ですよ。いってらっしゃい」

 フェンリルとセルの狼コンビが気配を消して逃れようとしていたのだが、見逃すことはするはずもなく地獄に叩き落とすことにした。

「俺はソリを牽かなきゃいけないんだぞ!」

「わ、私はラースの愛狼なんでしょぉー!?」

「フェンリルくんの仕事を全うしようという気持ちは素晴らしいと思うが、誰も乗っていないソリの心配はしなくてもいいんだよ。それよりもボムたちを背に乗せてあげてくれ。そしてセルさん、戦闘は終わったから足手まといを気にしなくていいんだよ」

 俺は説明しながらフェンリルをソリから解放してあげ、ボムたちを降ろして【無限収納庫】にしまった。

「ほら、いってらっしゃい」

「「「「この悪魔ぁぁぁぁぁーー!」」」」

 無限魔術《籠手操作》で再び巨大蛇を伸ばし、ボムたちに開いた口を向けた。赤々とした肉が視界いっぱいに広がり、巨大蛇の口内を見たボムたちはいつも通り四つん這いの姿で嘔吐いたのだった。

「ソリ、出してあげようか?」

「……すまなかった。巨大蛇を押しつけてすまなかった……。フルサイズの俺と巨大化したソモルンとのモフモフサンドをするから……これはやめてくれぇぇぇーー!」

「ラース……ごめんね……。許して……」

「悪かった。だから……頼む!」

「お願いよ。許して……ねっ!」

 釣りのときの限界突破を俺が羨ましそうにしていたのを覚えていたようで、賢い巨デブの熊さんは謝罪しながら取引材料として提示した。今回の取引は魅力的な内容である。

 普段のボムとボムと同じ大きさのソモルンでも、モフモフが限界突破をしていたのだ。フルサイズボムと巨大化ソモルンのモフモフサンドはもはや神話級なのでは? と予想される。そしてたぶん俺はモフ死する。

 結論、俺は取引を行う決意をした。

「絶対やってもらうからな!」

「分かった。ありがとな!」

「じゃあ少し下がってくれ」

 ボムと固い握手を交わした後、籠手を操作して巨大蛇の口を地面に向けるように縦に持ち替えた。

 --暴嵐魔術《風弾》--

 二つの口のうち、上を向いている方の口から空気の塊を入れて体内にあるものを押し出す。取り残しがないようにプモルンに確認してもらいながら、巨大蛇の体内にある全てのお宝を回収した。

「「「「オ……オゥェェェーー……」」」」

 ボムたちは巨大蛇のゲロがお気に召さなかったようで、今なお嘔吐き続けている。ちなみに、カルラはプルーム様に見れないようにされているようで、『母ちゃん、どうしたの? 何かあったの?』としきりに聞いていた。

「か、可愛いぃぃぃー!」

「お前……アレを見て可愛いと思ったのか……!?」

「違う。カルラに決まっているだろ!」

「そ、そうだよな……。よかった……。もっとおかしくなったのかと思ったぞ!」

 『もっと』ということはすでにおかしいと思われているということだ。不本意だが仕方がないと思い、ボムたちに次の指示を出す。

「蛇のお宝は綺麗にしてしまっておくから、谷底と洞窟のお宝を回収してきてくれ。フェンリルなら空を飛ばなくても壁ぐらい走れるだろ?」

「まぁな」 

「私は無理よ。ねぇ、私が危ない目に合わないようにするから背に乗せてって言ってたじゃない。約束を破ることはしないわよね? テミスちゃんは約束破るヤツは嫌いだと思うわ。一度人間に裏切られているからね!」

 この調子のいい狼め。いつもは俺のことを悪魔だと言っているくせに、テミスを引き合いに出すときだけ人間扱いするとは……。でもセルは独自の通信方法を持っているようで、俺が約束を破ればすぐにテミスに伝わってしまうだろう。そしてテミスに嫌われると。

「セルさんは好きなだけここにいていいんだよ。俺のお手伝いしてもらおうかな」

「求められたなら仕方がないわね。蛇関係以外のお手伝いをさせてもらおうかな」

「じゃあ谷底を照らしてあげてくれ」

「はーい」

 激務が予想される部署からの異動が嬉しかったようで、尻尾を激しく振って喜んでいた。まぁ当然ボムたちからは文句の声が上がっているのだが、ボムたちからの文句はいつものことで、セルは最強の対処方法を持っている。

「カルラ……主が……主が酷いの……」

『姉ちゃん、どうしたの?』

 そう、カルラに泣きつくというものだ。

 セルは度々カルラを盾にして逃げるが、確実に逃げたいときはいつもカルラに泣きつくのである。これに関しては何故かプルーム様は何も言わない。「妹に泣きつくな!」とか言いそうだけど笑っているだけなのだ。

『父ちゃん、姉ちゃんに何かしたの?』

「えっと……修業したらどうだ? と言ったんだ。でも無理強いはよくなかったな。反省してるぞ!」

『そうなの? 父ちゃんも姉ちゃんのこと思って言ったのかー。姉ちゃん、父ちゃんは怒ってないよ。父ちゃんは優しいから怖がらなくてもいいんだよ。ねっ! 父ちゃん!』

「そ、そうだぞ!」

「ありがとう。カルラのおかげで怖くなくなったわ」

『どういたしましてなの』

 悔しがるお宝回収班は全員がカルラ中毒患者であるため、今回も当然のように敗北していた。そしてカルラ中毒患者を相手にした場合のみ常勝無敗のセルは、今回も当然のように勝利してカルラと喜びを分かち合っていた。

「……行ってくる」

「いってらっしゃーい」

 渋々谷底に向かうボムたちにセルはにこやかに手を振り見送っている。でも今回はカルラたちチビッ子も応援に来ていたおかげで、ボムたちもにこやかに出発することができたのだ。

「それで橋の代わりはどうするんじゃ?」

 叫び声を上げているボムたちのことなど気にせず、今後の予定について質問をしてくるプルーム様。少しは心配してあげてもいいんじゃないかと思わないでもない。

「さっきの角棒を橋代わりにしますが、ソリは怖いのでヘリオスたちに乗って一気に渡ろうかと」

「ふむ。まぁ良いが後始末はしっかりな」

「もちろんです」

 プルーム様との話し合いを済ました後、先に進むための準備を始めて行く。と言っても、お宝やソリの片付けと角棒を架けるだけである。

「帰ったぞー!」

「早かったな」

「ガルーダのおかげだな。谷底はガルーダが行ってくれたから俺たちは洞窟まででよかったんだ!」

 その大活躍したガルーダは大魔王陛下にお宝を献上していた。お宝の質が良かったからか、大魔王陛下は満足そうに頷きガルーダの頭を撫でている。

「あいつ……プルーム様に忠誠を誓ってるぞ。神獣って管理神に忠誠を誓っていいのか?」

「いや、ダメだろ。一応直属の上司というか創造主とうか分からんが、主となる者は自分の属性の神だけだ。俺なら【風神・ラニブス】様が主だな。でもな……、ガルーダの上司はボルガニス様だからな。いいって言うかもしれないな」

「そう言えば、火神様は楽しければいいって神様だったからな」

「おい! さっさと次に行くぞ!」

 ボムの言葉に賛成した俺たちはガルーダ以外の背中に分乗して角棒を渡る。一応俺が最後尾になるようにセルに頼み、ヘリオスを先頭に縦列で進んでいく。

「んっ? ラース、何かするのか?」

「ボムも見ていくか? これから橋を落とすんだ」

「そうか。創造魔術で出したものは残るんだったな。それとズル対策か。面白そうだ!」

「そうだろ? ズルはいけないと思うんだ。それに大魔王陛下の勅命でもある」

「大魔王……それは我のことか?」

 先頭を走っていたプルーム様たちが何故か俺たちがいる最後尾まで戻ってきていた。これは噂に聞く「後ろの正面だあれ」なのか? だとしたら怖すぎる。

「滅相もございません! 大魔王陛下というのは俺がお仕置きをするときに助言してくれる精霊のようなもので、プルーム様のことを言っているわけではございません! それよりも何故ここに?」

「ふーん。……まぁいいだろう。それとここにいるのはどうやって後始末をするのか見たいと、ヘリオスやカルラが言うから戻って来たのじゃ。何か問題でもあったか?」

「一切ございません!」

 問題があるとしたら大魔王陛下呼びのことだけだ。しかしカルラが見たいと言うのなら、見せてあげることが兄の勤めである。

「では、いきまーす!」

 --無限魔術《籠手操作》--

 --火炎魔術《火炎剣》--

 籠手に火炎魔術で作った剣を持たせ、角棒の真ん中辺りに突き刺すだけ。あとはじわじわと角棒が溶けていき、真ん中からポッキリと折れた角棒は谷底に真っ逆さまである。

 最初は一撃で真っ二つにするか持ち上げて落とそうかと思ったが、じわじわ感がワクワクを盛り上げてくれそうだと思い、今回は出力を抑えた火炎魔術にしたのだ。

「おっ! 折れるぞ!」

 魔鉄製の角棒の真ん中辺りが赤くドロドロとし始めて少しすると、徐々に角棒の端が上昇していく。普通の鉄よりも魔法耐性がある分時間がかかったが、ようやく真っ二つになった角棒は谷底に落下していったのだ。何故か人の悲鳴とともに。

「さて行くか」

 後始末を見届けた俺たちは再び神獣たちの背に乗り、氷雪のダンジョンを進んでいく。ソリに乗らない理由は道が狭く進みにくいからだ。

「怪獣兄弟、仕事を紹介してやるぞ」

 二回目の大魔王陛下からの指名に先ほどの恐怖がよみがえったのか、ブルブルと震えだしていた。

「な、な、何でしょうか?」

「アレじゃ」

 大魔王陛下が指を向けた先にあった物は、気球についているようなゴンドラだった。よく見てみると、滑車で吊られているようでロープを調節して昇降する仕組みである。

 ゴンドラの向こう側には縦穴がある。さらに、氷雪のダンジョンは上に向かうダンジョンだ。要するに、これを使って上に進めということだ。

「なんかアレに似てるな。フィールドアスレチックや脱出ゲームに」

 でもおかげで裏の試練が分かった。リオリクス様が言っていた意味も納得だ。

「それで……俺とソモルンは何をすれば?」

「ラース、教えてやれ」

 ボムとソモルンはすでに嫌な予感がしているようで、嫌そうな顔を俺に向けてくる。

「ゴンドラは上に行く。ゴンドラに乗っている者よりもロープを引いている者の方が重いか、すごく力持ちかの条件を満たさなければゴンドラは上がらない。では、ロープを掴める者たちの中で最重量なのは誰でしょうか?」

「……それが俺だとでも言いたいのか?」

「言ったのは俺ではなく、プルーム様だぞ!」

 真っ先に思いついたのは大魔王プルーム様である。俺は説明を代弁しただけだ。

「誰が一番重いかは分かっている!」

「誰だ?」

「プ……竜だ」

 ボムが言いたいことは皆が思っていることだ。しかし、言ってはいけないことナンバーワンである。この場にいる者で最大で最重量の者は大魔王プルーム様しかいない。でも狭い場所で巨大化するわけにはいかないから、ボムが最重量だと全員が心の中で切り替え納得したのだ。

 まぁ遠回しにデブって言われたボムは嬉しくないだろうけど。

「プ? それと竜なぁ。……まさか我じゃないよな?」

「……ち、違います……」

 ほとばしる殺気。ボムも遠回しにデブって言われたが、大魔王プルームも遠回しにデブって言われた気がしたからだろう。目の前の大魔王様は女子力が低いくせに、意外にも女の子らしい面が多いのだ。

「ふむ。怪獣兄弟と……ラース、さっさと仕事をしろ!」

「俺も……」

 どうやら心の中の失言がバレてしまったようだ。

「「「はーい……」」」

 プルームチョップを喰らった俺たちは三人は、ゴンドラを動かすために準備に向かうのだった。

 

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