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第六章 ガイスト辺境伯領都フェスティオ
第百二十五話 責任
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プルーム率いる女性陣は料理道具を購入するついでに、旅行道具を揃えるために辺境伯領の領都フェスティオの中心街を歩いていた。女性陣以外には子熊たちとカルラたちチビッ子トリオに、荷物持ちのシュバルツがいる。
そんな彼女たちはモフモフに夢中で、話題は当然モフモフ天国のことだった。
「やりましたね。これでモフモフ天国に一歩近づきました。楽しみです!」
護衛の職務中だというのに、エルザの頭の中はモフモフのことでいっぱいであった。そんな彼女を咎める者は、ここにはいない。何故なら、シュバルツを除く全員がモフモフ好きだからだった。そして残念なことに、シュバルツの言うことを素直に聞いてくれる優しい女性はここにはいないのだ。
強兵を持つことで有名な辺境伯領では、領軍でもないただの警備兵にも優秀な者が多い。それ故、街の治安は他領と比べられないくらい良い。だが、犯罪者や裏稼業の者、スラム街が皆無というわけではないのが現実だ。さらに、中心街という金持ちが集う場所では気を抜くことはできないのだ。特に、珍しい動物が一緒であるプルーム一行は。
しかし、シュバルツが何かを言えるはずもなく、緩みきった空気のまま街を歩くことになっていた。そしていつの間にか人がまばらになり、襲うのに絶好の場所に差し掛かったとき、まさかの人物が口を開いたのだ。
「浮かれているところ悪いが、少し話をしないといけないことがある」
プルームは防音の結界を張り周囲を威圧しながら話し出したことで、プルーム一行に近づこうとしていた者は引き返し、モフモフ天国に浮かれていたモフリスト共は気を引き締め直したのだった。
「うむ。よろしい。まず、お主たちがボムやカルラたちを可愛がっているのは知っておる。カルラたちは可愛いからな。しかし、我らの一行の最終決定権はラースであり、ラースが一番大切に思っておるのはボムじゃ。さらにソモルンやモフモフ天国にいる者たちは、ラースとボムのことを大切に思っている。ラースはボムが本気で嫌がれば、そこがどんな危険な場所でも降ろすだろう。ソモルンもボムをいじめることを許さないだろう。だからといって、機嫌を取れということではない。節度を持って接してやれということじゃ。分かったな?」
全員が頷いたことを確認すると、プルームは話を続ける。
「次に、このまま船に乗るということはラースの秘密が分かるということもある。それを知った人間が利用しないはずもないし、それに伴って危険も増えるじゃろう。そして、ラースは基本的に人をあまり信じていない。それ故、裏切った場合は修復不可能な関係か相応の復讐をされるだろう。もし、モフモフだけのためにラースに近づき騙していたと言うのなら、我が責任を持って許可をしているのじゃから、我が直接折檻をするということじゃ。良いか?」
裏切られるという行為をされることは全ての者が不快に思うからか、プルームを真っ直ぐ見て頷いうことで折檻を含めた了承を示していた。
「それから、モフモフ天国にいるモフモフは人間に迫害された者ばかりじゃ。だからこそ、助けてくれたラースやボムに心の底から感謝し、裏切ることなく好意を向けているんじゃ。それにモフモフ天国は種族間の平等を掲げている。竜王たちを格上とするのではなく、仲間や家族として接している。その結果、竜王たちは家族をいじめた帝国を嫌い山を削り取ったのじゃ。あやつらは帝国のことを資源としか思っておらんかったぞ。欲しい物があれば、帝国からもらってくると言っていたからな。話がそれたが、ボムのことを大切に思っているモフモフたちが、ボムの嫌がることをしている人間を見たらどうすると思う? あやつらは強いぞ? それに嫌われたらモフモフ天国への入国は無理じゃ。あと、モフモフたちは今も隠れて護衛をしているぞ。モフモフたちに糞系阿呆の烙印を押されたくなかろう? セシリアやカトレアも体験したから分かるだろうが、ボムたちモフモフは好意を持った相手ならば、定期的にモフモフをさせてもらえるはずじゃ。いいな?」
「「「「「はい(なのじゃ)」」」」」
シュバルツだけ返事をせず頷いたのだが、シュバルツはそもそもモフモフ天国を目的としていないため、モフモフできるかどうかはどうもいいのである。さらに、シュバルツはボムの組み手相手に抜擢されているほどには気に入られているからだ。
「最後に、浮かれる気持ちも分かるがカルラたちと行動をともにする以上、阿呆な相手が襲ってくるかもしれん。可愛いからな。それに加え、これから行く場所のほとんどは他国であり、十大ダンジョンだ。ダンジョンは実力が足りていない場合はお留守番じゃが、他国では危険がつきものじゃ。だから、危険に対する意識と覚悟は常に持ち続けろ! 良いな?」
「「「「「「はい(なのじゃ)」」」」」」
「よろしい。これで安心して連れて行くことが出来るな。妹扱いとするが、我は子ども以外には厳しいぞ?」
と、笑いながら話すプルームだが、カトレアに激甘なところを見ている女性陣は冗談だと分かり笑っていた。しかし、シュバルツだけはラースたちへの行動を思い出したのか、顔を青ざめていたのだった。ラースは子どもであるはずなのに、地獄の折檻を受けたり威圧したりと厳しかったからだ。
話が終わり威圧の防音の結界を解除したプルームは、ご機嫌で買い物を再開する。そして現在は装備を含む衣類を見ていた。そんなとき、ふと店外に目をやると店の外が騒がしくなり、人の流れが領都南側に向かっていく。
「何じゃ? ローズ、南には何があるんじゃ?」
「冒険者ギルドの複合施設がありますわ。……まさか、ラース君たちがまた何かしたんじゃ……」
「面白そうじゃ。見に行こうではないか!」
プルームたちは買い物を一時中断し冒険者ギルドで起こっているであろう事件を、野次馬の一人として見物に行くことに決めたのだった。
事件が起こっているであろう場所に到着すると、すでに人垣が出来ており前の方がよく見えなかった。そこで近くで噂をしている人に何があったかを聞いてみた。
「冒険者ギルドで何があったのじゃ?」
「えっ? あぁ。冒険者ギルドではなくて、隣の解体・買取施設でもめ事が起こっているみたいですよ。一人の冒険者とギルド員三人がもめているみたいで、ギルド員三人が途中でいなくなってしまったようなんです。しかも突然、その場が消えてしまったんですよ! 怪奇ですよ、怪奇!」
途中までプルーム一行の美貌に見とれていた男は、怪奇現象が起こったと興奮気味に話し出したのだ。プルームはラースが何かしたと思っているからか、特に驚く様子もなかった。
すると、セシリアとローズが声を上げたのだ。
「えっ? 何で!?」
「いや、転移を使ったんじゃろ?」
怪奇現象についての答えならばすでに判明しているのに、何故驚いているのか分からないプルームは不思議そうに二人を見る。
「プルーム様違います。フィーア公爵が前の方にいます。正確に言えば、アイリス・フォン・フィーア公爵夫人ですが、現在公爵が床に伏せっているため代理を務めているはず。辺境伯領に来訪しているのならば、私たちが知らないはずはないのですが……。それにしても、何のために?」
同じ公爵夫人という立場であるからか、セシリアが詳しく話してくれたのだが、プルームは不思議そうにセシリアに尋ねた。
「んっ? 旅行ではないのか?」
「えっと、それはないかと。というのも、王国には三大公爵家があります。南のゼクス公爵家、西のアハト公爵家、北のフィーア公爵家ですね。東は基本的に紛争地帯ですので、辺境伯領と部下の伯爵領が多いですね。南は魔境の森の資源、西は鉱山資源、北は豊富な水源と食糧資源があります。西のアハト公爵家はほぼ没落していますが、北のフィーア公爵領は夫人の手腕により健在です。わざわざ危険を冒してまで、南に旅行に来るはずがありません。私たちも子熊がいるから自由行動が出来ますが、お忍びで来るには遠く危険が多いですね。それから、珍しく従魔の姿がいません。いつもベッタリなのに……」
悲しそうな表情でアイリスの周囲を見渡すセシリアを見て、モフリスト仲間故に事情を知っているのだとプルームは考えたのだった。
「どのような従魔なのだ?」
カルラたちが聞きたそうにしているのに気づいたプルームが、カルラたちの代わりにセシリアに尋ねる。
「熊のような水色っぽい子です。女の子ですよ」
「熊ではないのか?」
「えぇ。普段は四足歩行で、たまに二足歩行ですよ」
プルームはセシリアの言葉を聞いて、ある仮説を立てた。
「お主らが思う熊はボムか?」
「そうですよ」
「……やはりか。いいか、ボムは普通の熊ではない。ボムの方が特殊な熊なのじゃ。おそらく、水色っぽい子というのが本物の熊のはずじゃ。お主ら数ヶ月前で熊の定義が変わりすぎじゃ!」
シュバルツ以外のモフリスト共は両目を見開き、貴族令嬢らしからぬ大きな口を開けて驚いていた。当然だが、シュバルツはボムのことを普通とは思っていないため驚いていない。
「まったく……。あんな変わった熊がそこらにいるわけないじゃろ。ちなみに、ボムほどデブった熊もいないはずじゃから、普通の熊を見て痩せていると思うなよ」
「そうじゃったのか……」
王女も見慣れた熊がボムとフランたち子熊だったため、二足歩行の太った熊が本来の熊だと刷り込まれてしまったようだ。
話が一段落すると前の方に向かってみる。だが、野次馬はプルーム一行だけではないため、なかなか進むことができないばかりか、プルーム一行の美女軍団の体やカルラたちを狙った者たちが動き出しことを察知したプルームは、路地裏に移動してから空を飛んで進むことにしたのだ。
そのおかげで阿呆共をまき、騒動の様子が分かる建物の屋上に降り立つことができたのだった。
「何じゃ、あれは? あいつはいったい何をしているんじゃ?」
屋上に来てすぐに目に飛び込んできたものを見て余計分からなくなったプルームは、事情を知っていそうなボムの元に行くことにしたのだった。
◇◇◇
「ここが冒険者区画か。広いな」
冒険者ギルドは領都南側にあるらしい。というのも、領都南側に魔境の森があるため、素材や魔物を街の中心部に運ぶと手間がかかるからだ。さらに、辺境伯領は冒険者の誘致政策を行っており、冒険者ギルドを含む複合施設を建設し、冒険者区画を領都南側に用意したのだ。
区画内容の簡単な内容は、ギルドと解体・買取所と訓練場に素材の直販店や武器防具などの各種販売店、宿泊施設と娼館や酒場なども用意されていた。こうすることで、冒険者による犯罪や問題を監督しやすく、元々の領民も少しは安心できるという配慮である。
といっても、金に余裕がある高ランク冒険者は街の中心部にある宿を使っていた。冒険者区画は低ランクから中堅の冒険者用に、用意した施設と言っても過言ではない。何故なら、低ランクは金に余裕がなく、それを理由に犯罪に手を染めやすく治安の悪化を招くのだ。そして中堅は高ランクに上がれない不満が募り、犯罪組織に入ってしまう者もいた。
反対に、高ランク冒険者での犯罪は皆無ではないが、知名度が高い者が多いせいか表立った悪事は行わない。それに監視もつけやすい上に、上昇志向が強い者たちは扱いやすいのだ。
これらのことは冒険者ギルドも積極的に協力していた。理由は簡単で、管理が楽だったり施設や区画についても優遇してもらったりと利点が多かったからだ。ということで、辺境伯領での冒険者誘致は順調に進んでいるようだ。
「買取はギルドとは別の施設なんだな」
「じゃあ、俺たちはあっちに行くからな!」
俺が買取所に行こうとすると、ボムたちは買い物に行こうとした。
「駄目に決まってるだろ」
「えっ? 僕たち必要?」
ソモルンまでもボムと同様の発言をし、すでに買い物に意識が向いていた。
「俺が大量の素材を一人で出したら騒ぎになるだろ? 皆で少しずつ出せば、少しは驚きが薄まるはずだ。お小遣いと今夜のデザートがなくてもいいのなら、遊んで来なさい! 当然酒もなしだから、不機嫌な大魔王様の愚痴をネチネチと聞かされても知らんぞ!」
「それは……嫌だなー……」
ソモルンの呟きに同意するテイマーズは頷き、お手伝いの参加を同意するのだった。
「すみません。買取をお願いします。少し多いので、外で買取してくれませんか?」
買取所というだけあって広さは王都のギルドよりも大きく、バスケットボールコート二面分の体育館二つ分の大きさだった。さらに、同じ面積の屋外解体場と倉庫も完備しているようだ。受付は二階でカウンターも見える範囲で五つ以上あった。
そのうち、誰も並んでおらず無駄話をしているほど暇そうな受付婆がいるカウンターに向かった。ちなみに受付婆と呼ぶ理由は、他の受付嬢と違って年が離れ過ぎていたからだ。年関係なく受付嬢と呼ぶということは知っているが、受付嬢に美女を置くことは冒険者のモチベーションを上げるという意味もあり、重要な役職であり美女という条件も必須なのだ。
それなのに、他の受付嬢の母親ほどの年齢の女性を置いた上に遊んでいる。婆で十分だろう。
「はっ? 今忙しいので、他を当たってもらえますか? それに……ゴブリンを大量に持ってこられても、昇格できませんよ。ふふふっ」
どこからどう見ても男を口説いているようにしか見えないのに、仕事をしている風に装うとは。しかも、俺を観察した後のゴブリン発言。階段付近で俺の様子を見ているボムたちが、手を叩いて笑っている光景が目に浮かぶ。
「男を口説いているのが仕事ですか? しょうがない。本当の美女の方に並ぶか。早く終わらせるためにゴブリーナの列に並んだけど、やっぱり女神級の美女の顔を見た方が気分がいいからな」
周囲の男性冒険者の中には同意したように頷いている者がおり、女神級の美女と呼ばれた受付嬢はゴブリーナ発言を聞き、肩を震わせ笑いを堪えているようだった。
「良い度胸ね! 良いわ! 屋外解体場に向かいなさい! 担当者を連れてすぐに行くわ!」
「まぁ今回はゴブリーナで我慢しますよ!」
怒り狂った受付婆風阿呆ゴブリーナに返事をしながら、ボムに念話をしておく。
『ボム、距離を開けてついてきてくれ!』
『分かった』
俺はボムの返事を聞きながら屋外解体場へ向かうのだった。
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