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第五章 生命の試練と創造神解放

第百十話 冒険終了

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 色は深い緑色で瞳の色は桃色をしている。他の体の特徴は、太くて長い尻尾を持つデブ猫である。決して、言葉には出さないが。子どもの方は、毛皮が少し薄い緑色で小さいということ以外は変わりはなかった。きっと父親は薄い色なのだろう。

 そのちょっと丸い母親が話し出した。

「……お初にお目にかかります。私は妖精種のユグドランです。世界樹のお世話がお仕事です。生命のダンジョンには、聖獣の長の命令で来ました。攻略隊の魔術要員として。ですが、この階層で大地竜に遭遇すると、身重であった私を囮にして攻略隊は逃げてしまいました。私は何とか逃げ伸び、今日まで子どもと一緒に暮らして来ました。このダンジョンの外までで構いませんので、助けてもらえませんか?」

 モフモフが悲しそうな顔を浮かべながら、ガルーダに懇願している。俺の横ではボムとソモルンが、モフモフの話しを聞いて涙を浮かべていた。

「――それはできない。「何でだよ!」」

 ガルーダの答えにボムが抗議の声をあげる。ソモルンもボムの横で、抗議に加わっていた。

「待て。以前プルーム様も言っていたが、俺は居候の身だ。故に、頼む相手が違うぞ。危機的状況でも聖獣だからという、下らないプライドを振りかざすなら結構。話しはそれまでであり、あとは好きにするといい。俺は人間であるラースに世話になっているし、神獣とか聖獣は関係ないと思っている。それで一度痛い目に遭っている者もいるしな」

 と言いながら、ヘリオスを見るガルーダ。ヘリオスは気まずそうに目をそらした。

「いえ。プライドなど過去に置いてきました。仲間を平気で見捨てる者たちと同じだと思いたくありません。思われたくもありません。ラースさん。助けてください!」

「もちろん。俺は可愛いモフモフの味方だからな! カルラのお姉ちゃんになってもらうのもいいな。じゃあ危ないから、お家に入っててくれ!」

「お家……?」

 ――時空魔術《亜空間》――

「これはバロン用に創った空間なんだ。中におかしな女がいるけど、害はないから離れて生活してくれればいいよ」

「おい。時空魔術は使えないんじゃなかったのか?」

 ボムが疑問に思うのも当然である。確かに転移魔術は座標が安定しなかった。だが、《亜空間》は俺が創った空間で、俺の周囲十mの範囲しか入口を創れない魔術だ。つまり、座標は関係ない。その仮説を立て色黒エルフで試してみたのだが、見事に成功して仮説が裏付けられたのだ。

 それを説明すると、納得と同時に色黒エルフのことも納得されてしまった。

「バロン。情報を確認したら、亜空間の案内をしてあげてくれ!」

「うん……」

 すでに小さくなったバロンが、返事をしたのだが元気がなかった。少し疑問に思うも、ボムたちには桶の中の魔物のことを頼み、バロンが集めた情報を共有する。

「――カルラ?」

 バロンの記憶の中には、カルラが血塗れで俺の名前を呼んでいる姿があったのだ。その瞬間、自身の体の奥底で何かが弾けた気がした。

「おい! ラース! そんなに殺気を放ってどうしたんだ!?」

 ボムが心配そうに走ってきたのだが、可愛いボムの姿を見ても、俺の中の怒りは収まりそうもなかった。

「カルラが……」

「カルラがどうした?」

「カルラが……死にそうだ……!」

「何ぃぃぃぃぃぃー!!」

 ボムは濃密な殺気を放ちながら、俺の肩を掴み問い質してきた。

「どういうことだ!」

「プルーム様を馬鹿にされたから言い返したんだ。それが気に入らなかったクソ天使に蹴られ続け、最後に尻尾を掴んで壁に叩き付けられていた」

「無敵スキルは?」

 そう。俺もそれが気になった。星霊シリーズは無敵スキルがあるから、管理神に次ぐ実力なのだ。創造神様が創ったスキルに勝てる者は、神しかいないなずである。

「……相手は天使なんだな?」

 突然話に割って入る怒りの表情のフェンリル。俺は肯定を表し頷く。

「そうか……。天使の位にもよるが、神力っていうものを使える。ここを含むダンジョンを造っている力も、神力が関係している。その神力での攻撃ができれば、ソモルンたちの無敵スキルを崩すことができる。逆に言えば、この神力を使えるから神々はソモルンたちに勝てるんだ。それに、カルラちゃんはまだ幼いからな」

 ヘリオスは、まだ会ったことがないメンバーが多いから分からないだろうが、すでにできている輪に入ることはかなり難しい。フェンリルも同様で、なかなか馴染めずにいた。さらに、プルーム様がいることで緊張してしまい、余計に馴染めそうになかったのは言うまでもない。

 ただ、ガルーダはラッキーだった。普通なら馴染めずに苦労するのだが、先に来た者の印象が悪かったせいか、少し誠実に対応したことで好印象を持たれ、様々な事件のおかげもあって苦労することなく馴染めた。このことはガルーダもよく話しており、ヘリオスに心から感謝していると、ダンジョンに来てからも本人に言っていた。

 そんな苦労するフェンリルがセルと仲良くなり、俺たちとも仲良くなれたのは、全てカルラのおかげと言っても過言ではなかったのだ。カルラが一番最初に懐き、セルと一緒にチビッ子たちと遊ぶようになると、あっという間に受け入れられることになった。

 だからこそ、フェンリルもカルラを溺愛するカルラ依存症の一人であった。そのカルラが死にそうだと聞き、初めて神獣だと意識させる魔力を放っていた。プルーム様の怒気に慣れていなければ、ユグドランの子たちと同じように膝を屈していただろう。

「じゃあ、ニールもかよ!」

 バロンにニールも大怪我をしたと聞いたガルーダが怒り、何やら行っていた。

「我が眷属共よ。我が道を塞ぐ者を調査し、場合によっては排除せよ!」

 羽根をばたつかせ命令を下すと、羽根が炎を纏う巨大な鳥となり飛び立った。

「おい、ガルーダ! リオリクス様に手出し無用だと言われたのを忘れたのか?」

 ヘリオスがガルーダに注意するも――

「それは、お前に言ったことだろ? 俺たちは聞いていないし、命令も受けていない。直属の上司である火神様にも、何も指示を受けていない。俺は俺の意志の下、行動させてもらう。ニールやカルラちゃんが危機に瀕している以上、遊んでいるときではない。それに考えてみろ。カルラちゃんがお前の邪魔のせいで死んだら、プルーム様はお前とリオリクス様を殺すぞ? そしたら、管理神三体の三つ巴の戦争になるぞ? いいのか? きっかけが生命のダンジョンで。守護神獣として看過しても」

「……眷属を戻せ」

 ガルーダの説得に対して、ヘリオスの答えは眷属を戻させることだった。

「――お前……」

 その答えに対して怒るガルーダだったが、ヘリオスは手をかざし話を中断させた。

「勘違いするな。大地竜アースドラゴンよりも下層にいる魔物を相手にするには、お前の眷属では実力が足りんし速度が遅すぎる。全員小さくなれ。俺が属性纏と【光転道】を使って運ぶ。この際、財宝は後回しにしろ。ドロップ品を回収しなければ次に進めないところもあるだろうから、ドロップ品のみ最速で回収しろ。分かったら乗れ!」

 桶に入ったドラゴンたちを回収したセルとソモルンが、大きくなったヘリオスに飛び乗る。ユグドランにはバロンとともに亜空間に入ってもらい、フェンリルたちも全員でヘリオスの背中へと乗っていく。

 全員乗ったことを確認したヘリオスは全員に防御を施し、体験したこともない速度で走り始めた。この速度があれば、大陸を短期間で移動できるのも頷ける。

 そしてどうやらボス部屋が近いらしく、今までの階層とは違い、一階層丸々ボス部屋となっていた。第七十一階層は一面海だった。なんとなく嫌な予感がしていたが、予想通り見事に的中した。

 この階層のボスは聖獣のリヴァイアサン。すでに規格外認定されており、竜種と同様に災害認定されていた。別名は【海龍】。海の龍なので、当然ブレスが使える。このブレスは沿岸から放っても、大陸中央の国に甚大な被害をもたらすと言われており、竜種よりも攻撃的で嫌われていた。

 その他にも部下なのかクラーケンやシーサーペントなど、有名どころの海の魔物もいた。それらを足場のない海で相手をしなければいけないところに、上空からも色竜カラードドラゴンやシーバードが襲ってくる。ちなみに、シーバードはランクBの雑魚だが、群れの数が数千単位で来るため、格上も喰える魔物であった。

「ふむ。少し時間がかかりそうだな。ガルーダは上空をやれ。背中にラースを乗せて、狩りと一緒に回収もしていけ。フェンリルと他は宝を取れるだけ取ってこい。どうせ遅れているんだ。プルーム様に渡す土産は多い方がいいだろ?」

 ヘリオスの的確な指示に、誰も異を唱えることなく行動に移していた。今までと唯一違う点は、誰も言葉を発さずに作業をしているところだろう。もはや冒険ではなく、単なる作業となっていた。

 チラリとヘリオスを見ると、あのプルーム様を怒らせたときとは違って光の速度で爪を振るい、牙を使って切り裂いていた。そして、怯えるリヴァイアサンの横をすり抜けた直後、リヴァイアサンの頭が胴体からずり落ちた。

 さらに、俺から見てすごいと思うところは二つ。一つは光が瞬く速度で動いているのにもかかわらず、死体を全てストレージにしまっているところ。確実に殺したと思っていなければ、子機を押しつけたときに隙ができてしまう。それが一切なかったのだ。

 次に飛行魔術を使っているわけではないのに、空中に立っているところだ。普通の地面と変わりなく、踏ん張りもきいているようで、見ているだけでも重い攻撃だと分かる。

 あの夜は油断していたのだろうと、今になってやっと分かったのだ。そのヘリオスが全力でびびるプルーム様は、やっぱり一番怖い存在なんだろう。カルラに会いに行きたいけど、プルーム様に会いに行くのは嫌であった。

「終わったぞ。次に行く。乗れ!」

 ヘリオスに乗って少し進むと、回収を終えたボムたちと合流した。その後、フェンリルが風の防壁を作り海中にある通路へと向かう。そして次の階層への入口が見えた。

「また森か……。さっきと同じ作戦だ。ここは馬の聖獣のようだな」

 先ほどの階層よりも聖獣の数が増えている。一体はユニコーン。万能薬を作れると言われている聖獣だ。処女しか乗せないようで、俺を見て顔をしかめていた。こいつにプルーム様を乗せてみたい気もしないでもない。

 こいつから少し離れた場所には、プライドの塊であるペガサスがいた。空を飛べる聖獣なら、グリフォンの方が可愛く好きである。ちなみにこいつは、処女非処女かかわらず単なる女好きである。唯一の条件は美しいこと。不細工はノーサンキューだということだ。わがままな馬だ。

 当然こいつも俺を見て顔をしかめている。俺もお前らが嫌いだ。ヘリオスはユニコーンの方から討伐を開始しているため、ちょっとくらい攻撃してもいいだろうと思い、上空に行く前に一撃喰らわせることにした。

 ――魔印《雷霆》――

 ――幻想魔術《纏狸》――

 神双剣【天獄】を構え、魔印と幻想魔術を発動させた。《纏狸》を使うと、魔印の維持が安定しやすくなるのだ。

 踏み込む力を斬撃に乗せ、ペガサスの首に向かって振るうと、思ったよりも簡単に首が飛んだ。これなら全部やってもいいかと思ったら、ガルーダに上空に連れて行かれてしまった。

「いいか? 簡単すぎて驚いているだろうが、大地竜の老竜を討伐できた時点で、聖獣の聖地にいる年長者以外は問題ないだろう。ヘリオスがやってもラースがやっても変わらない相手だが、速度の問題と魔力の問題がある。この先には天使がいる。天使の他にも誰かいる可能性がある。そのときのために、魔力を温存させているんだよ。この中メンバーで生命魔術を使いこなしている者は、ヘリオス以外でラースしかいないからな。魔力の回復に努めろ!」

「なるほど。分かった」

 全部を自分でやる必要はなく、できる者に任せることも重要であるということか。俺には俺にしかできないことをやろう。

 次の七十三階層は聖獣はいなかった。代わりにランクSのエルダーリッチ率いる、アンデッド軍が並んでいた。屍竜ドラゴンゾンビ屍獣ビーストゾンビなど、教国の聖戦にも参加していたアンデッドもいた。

「ふっ……」

 ヘリオスが鼻で笑うと、ヘリオスの体が発光する。そこには、金色の虎を象った魔力に覆われているヘリオスの姿があった。その金色の虎が動き出し、虎にアンデッドが触れた瞬間、アンデッドは次々に消滅していった。

 金色の虎は、強力な浄化の力を持っているのだろう。苦戦することもなく、あっという間に終わった。むしろ、ドロップ品を回収する方が時間がかかっていた。

 この各ボス部屋階層は、ヘリオスが言っていたようにドロップ品を回収しないと、次の階層に進める階段や通路が現れなかった。最後の一つを拾うまで、次の階層へ進めないのだ。

 そして七十四階層に降り立ったのだが、今までの階層よりも遥かに拾い割には、宝はなかったのだ。しかし、ここが拾い理由はすぐに分かった。ここのボスがランクSであり、初めての巨人の魔獣であるタイタンだからだろう。

 さらに、ランクBの亀の魔物であるアーケロンと、ランクAのミスリルゴーレムがいた。ランクBで海の魔物であるアーケロンが、何故ここにいるのかは臨戦態勢になってから判明した。

 タイタンは右手にアーケロンを持ち、自身の左手をアーケロンの口に突っ込んだのだ。その姿は、戦士が持つラウンドシールドのようだった。とすると、当然ミスリルゴーレムは、剣として使うのだろうとおもったのだが、棍棒のように使うようだ。ゴーレムの足を持ち構えていた。

 強そうに見えるが、やっていることは鬼畜の所業である。元々人ではないが。アーケロンは俺たちが討伐しなくても、勝手に死にそうだったのだ。

「うぉぉぉぉぉぉぉーー!」

 まるで戦士の雄叫びのような声を上げているが、鬼畜の雄叫びだと分かっているからか、何の感情もわかない。

 ヘリオスは雄叫びを上げた瞬間、爪を縦に一振りした。タイタンはそれだけで、真っ二つになって絶命した。ミスリルゴーレムは俺が核を取り出し、ミスリルゴーレムも回収した。亀はすでに死んでいた。

 七十四階層のボスは一番馬鹿で阿呆だった。これだけは間違いない。

 そして七十五層の扉を開くと、そこには白い羽根を持った天使と思われる者がいた。殺したいほど憎い相手だが、カルラがいる証明となる者だったのも事実だ。だからこそ、愛すべき妹の名を呼んだ。

「カルラ!」


 

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