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第二章 冒険者

第三十七話 礼儀

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 錚々たるメンバーだったことを知って、ボム達動物組以外は、全員驚愕で顎が外れそうだ。

「ということは、その人たちの病気も治っておらず、様々な阿呆貴族が、蔓延っているようですね。しっかりと、手綱を引いてもらいたいものですね。それよりも、現在政務は、誰がやっているんですか? 確か立太子式は、やっていなかったはずです。それに、この国は指名制で、女王も可能という話でしたね。それだと、そこでボムをモフっている子にも、可能性があるということですか。なるほど。暗部を動かせるわけですね」

 全員が、気づいてしまったのだ。今回の一連の事件は、王位継承問題が、原因だった。第一王女と第二王女は、既に嫁に行っているため、継承権はない。残ったのは、脳筋すぎて、学園国家にある学園に入れなかった、脳筋風阿呆王子。学園国家にある学園に入れたのに、実技が苦手で進級出来なかった、ガリ勉風阿呆王子。モフリ大好きっ子風真面王女の、三人だけとなっている。

 もちろん、モフリ大好きっ子に、期待を寄せているのだが、まだ幼く学園にも、行かなくてはならない。それに、この王女が頭を使っているところは、未だにモフモフ関連しかない。基本、間抜けな娘である。そして、意外にも図々しい。

 最初は、遠慮がちにしていて、今日もSランク冒険者になれなかったから、モフモフ権を取得していないはずなのに、ボムが座っている足の間に入り込み、カルラを抱いて寝転んでいる。コイツの両親の話をしているのにだ。だが、ボムは既に諦めたのだ。そして俺も諦めた。

 話を戻すと、脳筋風阿呆王子とガリ勉風阿呆王子は、この間抜けな娘が怖いのだ。脳筋風阿呆王子は、暗部含めた軍部を取り込んだようだ。そして、ガリ勉風阿呆王子は、アハト公爵率いる阿呆貴族を、取り込んだということだ。だが、今回の王女襲撃事件には、暗部も公爵のメイド風阿呆もいた。ということは、手を組んだのだろう。

 どうやら、シュバルツとエルザさんも、始末する予定だったそうだ。理由としては、王が寝込んだ状態でも、他国が攻めて来ないのは、アインス侯爵がいるからだ。彼は、この国の宰相で、現在も重要な案件は全て、彼が捌いている。この宰相は、国王派の重鎮だ。

 そして、この国王派というのが、辺境伯が所属する派閥であり、真面系冒険者が主としている、ノイン伯爵の所属する、派閥でもある。
 もう分かるだろうが、アハト公爵は継承権など、どうでもいいのだ。国家転覆を、狙っているのだから。おそらく、他国とも連絡を取り合っているのだろう。

 この国は三カ国に囲まれている。だが、その内の一つは、学園国家なので大丈夫である。学園国家は中立故に、攻め込まれない。残るのは、北に【獣王国リオール】。名前通り獣人国で、脳筋風に思えるが、比較的常識はある。もう一つは、東の【オーロスパーダ帝国】である。

 この国は、はっきり言ってクソである。種族差別はしないが、完全な実力主義なため、平民は家畜扱いで、奴隷も山ほどいる。さらに、欲しいものは、奪い取ればいいと、考えている者たちである。現在大陸で、一番大きい国であり、あの狂信者共の国と、小競り合いを繰り返している国でもある。

 そんな二カ国の内、一番可能性が高いのは、やはり帝国だろう。世界統一が目標らしいからだ。夢ではなく目標なのは、達成するつもりだからだそうだ。どうやら、皇帝風阿呆がいるようだ。そして、それに気づいた辺境伯が、顔を青ざめて、話し出した。

「私の本来の嫡男とエルザの妹が、現在行方不明なのだ。エルザの妹は、第三王女殿下と同じ年で、学園国家に、一緒に通うことになった。そのため、長男は私の代わりに、準備を手伝ってもらっていたのだが、ある日帰って来なくなり、先に学園国家に行ったのだろうと、思っていたのだが……」

 帝国が攻める上で、一番邪魔なのが、この辺境伯である。この国の南側は、魔境になっており、大陸唯一の、未開地である。そして、東側は帝国である。

 帝国も南側のルートは、使えない。帝国の北側は、創世の塔がある、魔境の森である。普通の魔境が、可愛く思えるほどの、魔境であるため、使えない。必然的に、東側からしかないのだ。

 そして、敵国と魔境から、国境を守っているのが、この辺境伯とその部下たちである。よって、賢い系真面貴族筆頭の彼は、邪魔貴族筆頭でもあった。さらに、嫡男は学園国家にある学園を、主席で合格し、卒業した秀才で、次期邪魔貴族筆頭だった。

 本来は、彼が嫡男となり、あの阿呆予備軍を嫡男としないのだが、あまりに長期間不在だったため、使用人共々諦めていたようだ。そして、今の話を聞き、確定した。やはり希望的観測は、間違いだったと。さらに、子供の安否も、不明になったということを。

 俺なら、探せる上、助けることも出来るが、自分から言うつもりはない。理由としては、ダンジョンに行きたいからだ。鋭い熊さんが、気づかなければ、大丈夫だろう。だが、いつもより難しい話でカルラは、よく分からず、ボムにいろいろ聞いていた。

『リアの父ちゃんと母ちゃんも病気なの? それにエルザの兄ちゃんと妹は、悪い人に捕まっちゃったの? 大丈夫かな?』

 と、悲しげにそう言うカルラ。
 俺は、チラリとカルラを見るが、ボムと目を合わせないようにした。

「おい。こっちを向け。カルラのこの顔を見て、何も思わんのか? どうなのだ? ここに、別の竜の顔が見えないか?」

 はっ! と思い、ボムの方を見てしまった。

「カルラ。カルラは母ちゃんが、突然いなくなったら、助けに行くよな?」

『うん! 行くー! それに母ちゃんだけじゃないよ。父ちゃんも兄ちゃんも姉ちゃんも。いなくなったら、助けに行くのー!』

 と、キュイキュイ鳴いていた。それを見たボムとセルは、嬉しそうに笑いながら、頷いていた。そして、俺をジッと、見詰めて来たのだ。

 お前はどうなのだ?

 と、言われている気がした。
 カルラや家族なら助けに行くが、まだ見たこともない人を助けに行くほど、お人好しではない。それに、昨日みたいに助けたのに、罵倒してきた場合は、アイツらの仲間入りになる。

 だが、辺境伯の家族じゃ、やりにくいのである。それならば、無視をするのが、一番だと思ったのだが、ボムさんは引く気がないらしい。手をチョップの形にしている。ボムチョップは、ぶっちゃけ避けられるが、避けるとしばらく、モフらせてもらえないのだ。

「その前に確認したいことがある。先ほどから、一言も発しないが、王女は両親が病気で、同級生も行方不明なのに、何とも思わないのか? 筋も通さず、助けてもらえるのが、当たり前だと思っているのなら、間違いだ。俺は、この国に仕えているわけではないし、何より正確な報酬の話をしていない、護衛かどうかも、微妙な曖昧な関係だということもある。それなのに、我関せずを通すならば結構。この関係は、終了する。師匠もきっと、分かってくれるはずだ。俺から説明に伺うとしよう」

「それもそうか。今回ばかりは、カルラのお願いだけでは弱い。そもそも、国の政治にも関わることだ。俺らには関係ない。それに、あまりソモルンを待たせたくない。カルラには悪いが、通さねばならない筋も、通せないやつには、助ける筋もまたないのだ。よく覚えておくのだぞ」

 と、俺の言葉に納得し、カルラへと諭していた。カルラは、お願いは自分でするものなのだということが、分かったらしい。

 ここで、思い出してほしい。護衛を依頼したのは、シュバルツだ。エルザを治してほしいと、言ったのもシュバルツで、ローズさんを治して欲しいと、頭を下げたのは、エルザさんである。

 器が小さいとか、言うやつもいるだろうが、それは、頼まれたのに、やらないやつのことを言うのだ。まだ、何も頼まれていない。彼ら真面系騎士は、礼を尽くして、お願いをしていた。王女はただ、それを享受しているだけで、自分では何もしていないのだ。

 親しき仲にも礼儀ありという言葉がある通り、カルラと友達だから、即助けるにはならないのだ。そして、真っ先に動いたのは、王女……ではなく、賢い系真面貴族筆頭の辺境伯だった。
 ある意味さすがである。

「国王陛下並びに、第三王妃様。公爵閣下に公爵夫人。そして、侯爵夫人の病を治して、我が家族を救って頂きたい。面倒な政治の問題は、我らがいたします。報酬も面倒にならないように、配慮いたします。さらに、これを実積として、Sランク冒険者の推薦状を、連名で書かせて頂くことを約束します。どうか、お助け頂けないでしょうか」

 辺境伯は、そう言って頭を下げた。さすがである。この一言に尽きる。俺たちが、やりたくないことを示し、興味がありそうな報酬も、しっかりと用意する。

 それほど、デメリットがないということを、アピールしてから、お願いをしてきたのだ。これなら、と思わず思ってしまった。だが、肝心の者の発言は、未だにない。

「辺境伯の家族の救出を、最優先に行いたいと思います」

 そう告げて、初めて王女が頭を下げた。

「すまなかったのじゃ。どうか許して欲しいのじゃ。そして、出来るのならば、両親と臣下、そして、その家族を助けて欲しいのじゃ。もちろん、カトレアもじゃ。親友なのじゃ」

 涙を流してそう言った。

「畏まりました。全力を尽くします」

 そう言ったところ、カルラが抱きついてきた。

『兄ちゃんありがとう。カルラ、我が儘言っちゃったかな? って思った。兄ちゃん困らせてごめんなさい』

 と、謝られてしまった。
 反省しているカルラも可愛いが、悪いのは王女であって、カルラではないのだ。

「カルラは何も悪くない。友達を助けようとしたんだもんな。ただ次からは、一緒にお願いしようと、誘ってあげる方がいいかもな」

『うん。わかったの』

 と、頬ずりしてきた。
 モフモフである。
 そして、恨めしそうに見ているボム。あの親馬鹿は、カルラが好きな人を、連れて来たら、どうなってしまうのだろうか。世の中の娘を持つお父さんは、きっと共感出来るであろう。

 共感繋がりで思い出したが、穴暮らしの阿呆共は、どうしているだろう。水は、生活魔法のことを教えてあげたから、意識があれば、水くらい出せるだろう。もう暗いから、明日の朝にしよう。そして、明日の朝は、治療してあげよう。今夜中に、槍を借りて置こう。

「では、後で契約書を書くとして、まず槍を貸してください。次に風呂ですね。あと、王女がボムと一緒に寝るそうなので、あらぬ疑いがかからないように、護衛としたいので、シュバルツさんとエルザさんも一緒に、寝てください。王女たちが風呂に入っている間に、寝込んでる人たちを、ここに運び治療します。行くのは、俺とセルと辺境伯です。顔が分からないと無理だし、隔離されてる場所も分かりません。辺境伯はセルに乗ってください」

 そう言うと、ローズさんが、セルの乗り心地の良さを、辺境伯に話していた。辺境伯は、適当に話を聞いて、使用人に指示を出していた。護衛は、ボムがするのだ。

「じゃあお前が洗わないのか? 誰が洗うんだ?」

「一緒に入るメンバーだよ。ブラシや石鹸は置いて行くから。水は、俺が帰ってから、弾き飛ばせばいいだろ。ゆっくり入っていてくれ」

 ボムはなんだかんだ、俺に洗われるのが好きなのだ。そのため、少しガッカリしているようだった。

 それから、風呂道具を準備した。そのとき、槍をいつ持ってくるか聞かれたため、帰ってきてからでいいと伝え、城に行くことにした。だが、そこはさすが辺境伯。

「待ってくれ。先に、契約書を作らせてほしい。王女殿下も、先に念書を書くそうだ」

「それなら、この魔力紙を使ってください。魔力を込めながら、このペンで書けば、大丈夫てすからね」

 そう言って、辺境伯は、先ほどの条件の契約書を書き、サインをした。Sランク冒険者の推薦状以外の報酬は、金銭以外の何かにした。人の命を金銭で評価するのは、気持ち悪かったからだ。

 奴隷はどうなのか? と聞かれれば、そう言うものだと思う。矛盾しているだろうが、奴隷商ではないため、俺が値段を設定しているわけではない。

 つまり、今回は報酬はいくらがいいかと、聞かれたということは、助ける人達の値段を決めろと、言われているのと同じである。自分自身が、他人の命の値段を決めるのは、御免被る。自分の価値は、自分で決めるもので、他人が決めるものではない。だから、俺も同じ事はしたくなかった。

 真っ先に考えたのは、カルラの言っていた、王女へのプレゼントの材料だったが、カルラが張り切っているため、やめたのだ。故に、保留である。

 契約書には、書かなければならないため、金銭以外の何かと、書いたのだ。そして、王女の念書の方は、護衛しやすくするため、従魔と騎士含む全員での同室だったことを、明記してもらった。

 それから、城に行くことにした。変更点としては、シュバルツも行くことにした。理由は、真面メンバーで唯一の男。風呂に入れず、暇だった。ボムも男だが、アイツはメインイベントだから、一緒に入るのだ。

 ――属性纏《暴嵐》――

 俺は属性纏を使用し、見つからない程度に、速度を上げ、辺境伯とシュバルツの二人は、セルにまたがった。


 いざ! 王城へ!


 救出ミッションスタート!
 
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