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第二章 冒険者

第三十三話 御招待

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 この施設は、観客には嬉しい、半透明で出来ているため、きっと楽しんでもらえるはず。

 一生懸命逃げようとするが、そこそこの深さがあるため、無理だ。磔のまま、大風呂に入れて、服を焼いた。多少の火傷はご愛嬌。それに、火傷ならば、すぐに冷やして、あげなければならない。

 ――流水魔術《渦潮》――

 ――暴嵐魔術《鎌風》――

 風の刃を含んだ渦潮が、グルグル回り、薄い切り傷を作っていく。渦が収まる頃合いを見て、水を操り滑り台へ。グルグル回ったせいで、方向感覚も分からず、逃げられない。ウォータースライダーのようなもので、なかなかの速度もある。体は、うっすらと、鮮血が滲んでいるようだ。

 そして中風呂へ。
 もう分かると思うが、傷に毒が入り痒いのだ。しかも始めから全裸だ。全裸隊長の比ではないだろう。痒みで、気が遠くなりそうになりながら、掻こうとするが、させない。

 ――森羅魔術《操樹》――

 ――重力魔術《重岩》――

 ――暴嵐魔術《旋風》――

 まず、毒が飛び跳ねないように蓋をして、動かないように重石もする。その上でグルグルに、かき混ぜるのだ。そして、ぐったりした彼女に、スペシャルなプラネタリウムを見せてあげるのだ。

 最後の小風呂へ、ドボンと入れた。ちなみに、液体は入ってない。深さもそこまで深くない。最後に、黒い丸薬を一つ取り出し、一声掛ける。

「痒みの解毒剤です。是非宝探ししてください。良ければ、友達と一緒に」

 一瞬、観客の何人かは、まさか俺も? と、言いたげだったが、そうではない。

 ――召喚魔術《黒星》――

 そして、丸薬を一つ落とし、蓋をした。蓋をする直前には、絶叫が聞こえたが無視した。彼女の目には、満点の星……ではなく、虫が見えたことだろう。黒い光を放つアイツだ。死にはしない。気をしっかり持てば。

 さて、やっと終わった。
 まだ昼なのに、疲れ具合が前日と同じである。ふと、宿を決めなければと、憂鬱な気分になっていたのだが、王女の元へ行くと、救いの手が差し伸べられたのである。

「私の家に来ませんか? 王都に家を持っていますから、そちらに泊まって頂ければと思っています」

 と、エルザさんに提案されたのだ。ここで王女が、初めて気付く。

「エルザ。お主まさか……。嘘じゃよな? まさか抜け駆けなんてこと……しないじゃろう?」

 と、焦りだした。
 だが、エルザさんは、目を決して合わせず、返事をする。

「もちろんです。殿下を置いて抜け駆けなど……しません」

「では、目を見て言って欲しいのじゃ。エルザー!」

 と、叫ぶ王女。
 先ほどまで一人で、ボムのモフモフを楽しんでいた、天罰であろう。完全に抜け駆けされるのだった。そして、誰もが言いにくいことを言ったエルザさんは、この中では、一番肝が据わっていたのは、間違いない。

「お世話になるぞ。カルラも懐いてるし、風呂もあるのだろう?」

 そこでエルザさんと王女は気づいた。このモフモフと一緒に、お風呂に入れるということに。王女は血の涙を流した。だが、そんな王女に天使降臨!

『リアも一緒でしょ? 違うのー?』

 という、カルラの願いは、親馬鹿によって叶えられるのだった。

「娘。カルラがお主も一緒がいいそうだ。一緒に来い」

 ぱぁっと、笑顔になる王女。
 それにシュバルツが何かを言おうとしたが、ボムが肩に手を置き、諭し始めた。

「なぁ。分かってるよな。出会って二日目だもんな。お前は、ラースの言うところの、真面系騎士だよな。まさか、あの施設を使いたいわけでは、ないよな?」

 黙るシュバルツ。ビビる馬たち。若干威圧が漏れていたからだ。

「おかしいな。返事の仕方を忘れたのか?」

「もちろん行かせて頂きます。護衛は継続ということで、お願いします」

「おう。任せておけ。やっぱり真面だったな。安心したぞ」

 という、シュバルツとボムの会話に、馬たちはまだ解放されないことに気付き、絶望するのだった。そして、安心したと言ったボムだが、安心したのは、シュバルツである。この惨劇を見た後なのに、一番怖いのは、やはりボムだった。喉がカラカラになりながら、このあとの予定を、俺に尋ねたてきたことは、賞賛に値する。

「このあと、すぐ家に行きますか? 彼女の家は上級貴族なので、中央層で、ここから少し離れています。行くなら早めの方がいいでしょう」

「そうですね。とりあえず、結界を解除してからですね。外に暗部と騎士がいるみたいなので。ただ、結界に触れて、使い物にならなくなったものが、多数いるみたいですが。冒険者の皆さん。今障壁を消します。でも、騎士に囲まれているみたいなので、どうするかは、任せます。ちなみに、人のことを売る人は、あの施設の無料利用券を差し上げますよ」

 そう言って微笑んだ。
 そして、結界を解除して、穴から女を出した。虫は、送還した。冒険者風阿呆共全員が、目の前の全裸の女を見ているが、恐怖しか感じていないようだった。まるで死人かのように、ぐったりしていたからだろう。時間もないため、生活魔法で綺麗にし、冒険者風阿呆に丸薬と失敗ポーションを渡して飲ませ、布を巻いて置いた。

 ぐったり中の女と、モブ中のモブを横に並べ、ギルドマスター風阿呆を横に置いた。全裸隊長は、現在忠実な僕状態である。率先して仕事をしている。そんな彼に、特別ボーナスをプレゼント。

 腰布である。これで多少、マシになっただろう。彼も喜んでいる。そして、ボムも喜んでいる。しばらくすると、ついに役立たず共が来た。

「何事だ? ……魔物がいるぞ! 抜剣! 構え! 突撃!」

 ――雷霆魔術《召雷》――

 もう面倒だった。
 阿呆しかいないのか?
 ランクCまでなら瞬殺する、広範囲雷霆魔術を喰らって、大丈夫だった奴と話そう。




 ◇◇◇




 元々のラース一行以外は、茫然自失である。蒼い狼も含めてである。今まで、お仕置きくらいで、実質誰も、殺していなかった。殺していたのは、ボムだけである。決して舐めていたわけでは、なかった。ボムに比べれば、常識的で話も通じたため、どこかボムと見比べていたのだが、違った。

 確かに騎士の行動は、早計過ぎた。
 従魔の証もある。
 そして、新しく従魔になったであろう、蒼い狼にもいつの間にか、赤いスカーフのようなものがついていた。それなのに、抜剣後の突撃である。反撃されても仕方がないが、こんな高威力な魔法を使うとは、思ってもみなかった。

 ちなみに彼らは、魔術を見たことないため、魔法だと思っている。年齢に引っ張られているのもあるだろう。こんなに若い子が、高威力の魔法を使うだけでも異常だった。それに、ラースが無詠唱で発動しているのも、理由の一つだろう。今の世界では、無詠唱で魔術を発動できるものは、いないのである。

 そして、蒼い狼も本能で、強いと思っていたが、自分と同じで、ボムに付き従っているのだろうと思っていたのだが、考えを改めた。ボムと同じくらい、ヤバいやつだと。

 もし、シリアスな場面でなかったら、腹を見せていたことだろう。ラースは、仮にもボムの相棒だ。当然の強さである。そして、ボムは満足した顔を浮かべ、カルラは強い兄ちゃんが自慢なため、ドヤ顔だった。




 ◇◇◇




 さて、どうやら全滅である。暗部も含めて。

「全裸隊長。あとは任せた。冒険者諸君も世話になった。次があれば、そのときもよろしく」

 そう言って、ローションだけを焼却して、地面を元に戻して、エルザ宅に行くことにした。行くのは、真面系冒険者以外である。彼らは、このことを主に、報告するようだ。ただ、俺を売ると、あの施設を利用しなければならなくなるため、一部伏せるそうだ。頑張って欲しい。

 ちなみに、蒼い狼にはプモルンが、子機を渡してくれたようで、赤いスカーフが巻かれていた。コイツにも、獅子王神様とプルーム様の素材で、何か作ろうと思う。あとは、名前だ。

 確か、何処かの言葉で、空のことを表す言葉で、セルというのがあったはず。コイツは毛の色からも分かるが、雷霆属性が使えるから、雷と蒼……青で空。これ以上は無理だ。

 ただ一つ疑問がある。
 コイツに名前をつけたら、聖獣になるのだろうか? そう考えながら、やっと着いた。

 王族の馬車の周りには、渋滞は存在しない。そして、王城へ向かわず、エルザ宅に到着。バトルホースは、王城へ行きたかっただろう。ボムから離れられるからだ。エルザ宅に来るまで、ずっと観察されていた。次のターゲットは、バトルホースのようだった。そして、何か起きる前に、到着出来たのである。

 そして、王族の馬車に驚く門番に、事情を説明するエルザ。晩ご飯は、俺が提供することで、宿代とした。本当に、換金に行かなければと思うのだが、中央層にあるギルド本部は、常に忙しいため、なかなかアポが取れない。
 残った中間層だが、貴族の子弟が多く、絡まれる確率が非常に高いのである。しかもボムはSランクでなければ、いらないと言っているのだ。それも、カルラを味方につけて。

 それならばと、近くにあるダンジョンの近くに、ギルドの出張所がある。そして、まだ未踏破のそのダンジョンで、踏破後に転送される場所には、常にギルド員が詰めている。つまり、ダンジョンを踏破すれば、自動的に実績になるのだ。ちなみに、この国のいう実積とは、完全踏破なので、コアを壊しても構わないのである。

 だが問題もある。現在護衛中なのだ。そのダンジョンは、全二十層らしいので、頑張れば、一日で駆け抜けられるだろう。ただ、宝探しもしたい。そこで一人で行くと言ったら、悲しむカルラと怒るボム。そして、ビビる馬と狼。エルザ宅に来るまでに話したため、馬も当然いた。

 そして、結論。王女も連れて行く。ちなみに、パワーレベリングはしない。宝探しは、プモルンに全任せの、スキャナと探査の合わせ技で、各階層を駆け抜けるのだ。ボムが王女を背負って。

 あと、全二十層ということを、何故知っているかというと、数年前に辿り着いた冒険者が、ボス戦は無理だと思い、引き返したのだ。
 ちなみに、色竜カラードドラゴンだったそうだ。ぶっちゃけ、肉と内臓以外いらない。内臓は薬になるが、鮮度が高ければ、絶品なのだ。ライトニングドラゴンも旨かった。



 そして、現在エルザの父親の、ルドルフ・フォン・ガイスト・フェスティオ辺境伯と、対面している……ボム。

 この人は、なかなか肝が据わっているようだ。さすが、エルザの父親。ボムを間近で見上げ固まりつつも、意識を保っている。しかもボムは、若干威圧していた。

「気に入った。俺の威圧に耐えるとは、見所あるな。俺の組み手相手に、いいかもしれない。最初は、バトルホースにしようと思ったけど、剣術が使える方がいいもんな」

 未だ外のため、バトルホースも馬もいる。バトルホースは、何故観察されていたのか、初めて知ったのだった。そして、危機から脱した。

 ちなみに、この国の貴族の名前の構造は、名前+領地持ちの一家がつける名称+姓+領地名である。だから、王族や領地を持っていない貴族は、名前と姓だけである。王族も直轄領を持っているが、あれは国のものであって、彼らのものではないため、領地とは言えない。

「お父様、お客様の前ですよ。第三王女殿下と、その護衛の方達が、しばらく御屋敷に逗留します。食事は彼らに用意していただきます。むしろ、そうでなければ困ります。護衛含めて、くれぐれも、失礼のないようにお願いします」

 自分の父親に言う台詞ではないだろう。だが、昨日と今日の二日で、濃い地獄絵図を見たばかりである。しかも、最後の雷霆魔術は、ライトニングドラゴンの、雷のようだった。放浪癖のあるライトニングドラゴンがいるため、よく目撃されている。そして彼らは、天災級である。そのため、慎重になるのも頷ける。まあ、モフモフにいなくなられるのが、困るというのもある。

 そして、娘の声によって動き出す、辺境伯。そう。娘の声でだ。いろいろありすぎて、忘れている人もいるだろう。実際、俺は忘れていた。彼女は昨日まで、声が出せなかった。

「……エルザ、お前……声が……。声が戻ったのか?」

 嬉しさに涙を流す辺境伯。
 実際、彼はいろいろな方面に、手を回して、娘を治療してきた。結果は思わしくなかったが。それ故、目の前の光景は、奇跡と言っても良かった
。おそらく、この護衛が関係しているのだろうが、本人もエルザも、何も言わないため、聞くのは野暮だと思い、感謝だけを述べた。

「本当にありがとう。娘を治してくれて、本当にありがとう」

 と頭を下げる辺境伯に、カルラが「キュイ」と、鳴いた。エルザさんと王女の視線は、ボムに向く。

「どういたしまして、と言っている」

 そして俺達は、厩舎に馬を預けて、屋敷の中に入った。馬はやっと解放されたのだった。家の中に入ると、笑顔の引きつる使用人がいた。

 当然だろう。デブで巨大で二足歩行で歩く熊と、小さい子竜に、そこそこデカい蒼い狼である。そして、何故か第三王女殿下も、一緒にいる。

 この屋敷には、他にエルザさんの母親と、ちょっと阿呆気味の、学園に通っている弟がいる。エルザさんは、それを心配していたが、さすがにお世話になる家では、やらないつもりだ。

 そして、現在エルザさんの母親の下に、全員で向かっている。理由は病気だからだ。エルザさんの本当の狙いは、こちらだった。騙したようで、申し訳ないと言っていたが、カルラが詳しい話をボムに聞き、状況を理解したことで、お願いをしてきた。

『母ちゃんが病気なの? カルラも、母ちゃんが病気は心配なの。治せないの? 治してあげてほしいの』

 と、悲しそうに言ってきた。
 ちなみに思ってしまった。
 プルーム様は、病気には絶対に、ならないだろうと。だが、口にしなかった自分を、褒めてあげたい。おそらく、折檻が待っているのは、間違いない。そして、そんな悲しむカルラを放置しておく、ボムはいないのである。

「やらないとか言わないよな? カルラが泣いたら、母ちゃん飛んでくるかもな」

 本当に飛んでくるだろう。
 比喩とかでなく。
 そして、チクる気なのだろう。カルラに毒を吐いただけで、折檻を受けたのだ。泣かせたと知ったら、想像するだけでも、恐ろしい。

「もちろん。やらせて頂きます」

 こうして、エルザさんの母親に会いに行くのだった。



 
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