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第二章 冒険者
第三十三話 御招待
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この施設は、観客には嬉しい、半透明で出来ているため、きっと楽しんでもらえるはず。
一生懸命逃げようとするが、そこそこの深さがあるため、無理だ。磔のまま、大風呂に入れて、服を焼いた。多少の火傷はご愛嬌。それに、火傷ならば、すぐに冷やして、あげなければならない。
――流水魔術《渦潮》――
――暴嵐魔術《鎌風》――
風の刃を含んだ渦潮が、グルグル回り、薄い切り傷を作っていく。渦が収まる頃合いを見て、水を操り滑り台へ。グルグル回ったせいで、方向感覚も分からず、逃げられない。ウォータースライダーのようなもので、なかなかの速度もある。体は、うっすらと、鮮血が滲んでいるようだ。
そして中風呂へ。
もう分かると思うが、傷に毒が入り痒いのだ。しかも始めから全裸だ。全裸隊長の比ではないだろう。痒みで、気が遠くなりそうになりながら、掻こうとするが、させない。
――森羅魔術《操樹》――
――重力魔術《重岩》――
――暴嵐魔術《旋風》――
まず、毒が飛び跳ねないように蓋をして、動かないように重石もする。その上でグルグルに、かき混ぜるのだ。そして、ぐったりした彼女に、スペシャルなプラネタリウムを見せてあげるのだ。
最後の小風呂へ、ドボンと入れた。ちなみに、液体は入ってない。深さもそこまで深くない。最後に、黒い丸薬を一つ取り出し、一声掛ける。
「痒みの解毒剤です。是非宝探ししてください。良ければ、友達と一緒に」
一瞬、観客の何人かは、まさか俺も? と、言いたげだったが、そうではない。
――召喚魔術《黒星》――
そして、丸薬を一つ落とし、蓋をした。蓋をする直前には、絶叫が聞こえたが無視した。彼女の目には、満点の星……ではなく、虫が見えたことだろう。黒い光を放つアイツだ。死にはしない。気をしっかり持てば。
さて、やっと終わった。
まだ昼なのに、疲れ具合が前日と同じである。ふと、宿を決めなければと、憂鬱な気分になっていたのだが、王女の元へ行くと、救いの手が差し伸べられたのである。
「私の家に来ませんか? 王都に家を持っていますから、そちらに泊まって頂ければと思っています」
と、エルザさんに提案されたのだ。ここで王女が、初めて気付く。
「エルザ。お主まさか……。嘘じゃよな? まさか抜け駆けなんてこと……しないじゃろう?」
と、焦りだした。
だが、エルザさんは、目を決して合わせず、返事をする。
「もちろんです。殿下を置いて抜け駆けなど……しません」
「では、目を見て言って欲しいのじゃ。エルザー!」
と、叫ぶ王女。
先ほどまで一人で、ボムのモフモフを楽しんでいた、天罰であろう。完全に抜け駆けされるのだった。そして、誰もが言いにくいことを言ったエルザさんは、この中では、一番肝が据わっていたのは、間違いない。
「お世話になるぞ。カルラも懐いてるし、風呂もあるのだろう?」
そこでエルザさんと王女は気づいた。このモフモフと一緒に、お風呂に入れるということに。王女は血の涙を流した。だが、そんな王女に天使降臨!
『リアも一緒でしょ? 違うのー?』
という、カルラの願いは、親馬鹿によって叶えられるのだった。
「娘。カルラがお主も一緒がいいそうだ。一緒に来い」
ぱぁっと、笑顔になる王女。
それにシュバルツが何かを言おうとしたが、ボムが肩に手を置き、諭し始めた。
「なぁ。分かってるよな。出会って二日目だもんな。お前は、ラースの言うところの、真面系騎士だよな。まさか、あの施設を使いたいわけでは、ないよな?」
黙るシュバルツ。ビビる馬たち。若干威圧が漏れていたからだ。
「おかしいな。返事の仕方を忘れたのか?」
「もちろん行かせて頂きます。護衛は継続ということで、お願いします」
「おう。任せておけ。やっぱり真面だったな。安心したぞ」
という、シュバルツとボムの会話に、馬たちはまだ解放されないことに気付き、絶望するのだった。そして、安心したと言ったボムだが、安心したのは、シュバルツである。この惨劇を見た後なのに、一番怖いのは、やはりボムだった。喉がカラカラになりながら、このあとの予定を、俺に尋ねたてきたことは、賞賛に値する。
「このあと、すぐ家に行きますか? 彼女の家は上級貴族なので、中央層で、ここから少し離れています。行くなら早めの方がいいでしょう」
「そうですね。とりあえず、結界を解除してからですね。外に暗部と騎士がいるみたいなので。ただ、結界に触れて、使い物にならなくなったものが、多数いるみたいですが。冒険者の皆さん。今障壁を消します。でも、騎士に囲まれているみたいなので、どうするかは、任せます。ちなみに、人のことを売る人は、あの施設の無料利用券を差し上げますよ」
そう言って微笑んだ。
そして、結界を解除して、穴から女を出した。虫は、送還した。冒険者風阿呆共全員が、目の前の全裸の女を見ているが、恐怖しか感じていないようだった。まるで死人かのように、ぐったりしていたからだろう。時間もないため、生活魔法で綺麗にし、冒険者風阿呆に丸薬と失敗ポーションを渡して飲ませ、布を巻いて置いた。
ぐったり中の女と、モブ中のモブを横に並べ、ギルドマスター風阿呆を横に置いた。全裸隊長は、現在忠実な僕状態である。率先して仕事をしている。そんな彼に、特別ボーナスをプレゼント。
腰布である。これで多少、マシになっただろう。彼も喜んでいる。そして、ボムも喜んでいる。しばらくすると、ついに役立たず共が来た。
「何事だ? ……魔物がいるぞ! 抜剣! 構え! 突撃!」
――雷霆魔術《召雷》――
もう面倒だった。
阿呆しかいないのか?
ランクCまでなら瞬殺する、広範囲雷霆魔術を喰らって、大丈夫だった奴と話そう。
◇◇◇
元々のラース一行以外は、茫然自失である。蒼い狼も含めてである。今まで、お仕置きくらいで、実質誰も、殺していなかった。殺していたのは、ボムだけである。決して舐めていたわけでは、なかった。ボムに比べれば、常識的で話も通じたため、どこかボムと見比べていたのだが、違った。
確かに騎士の行動は、早計過ぎた。
従魔の証もある。
そして、新しく従魔になったであろう、蒼い狼にもいつの間にか、赤いスカーフのようなものがついていた。それなのに、抜剣後の突撃である。反撃されても仕方がないが、こんな高威力な魔法を使うとは、思ってもみなかった。
ちなみに彼らは、魔術を見たことないため、魔法だと思っている。年齢に引っ張られているのもあるだろう。こんなに若い子が、高威力の魔法を使うだけでも異常だった。それに、ラースが無詠唱で発動しているのも、理由の一つだろう。今の世界では、無詠唱で魔術を発動できるものは、いないのである。
そして、蒼い狼も本能で、強いと思っていたが、自分と同じで、ボムに付き従っているのだろうと思っていたのだが、考えを改めた。ボムと同じくらい、ヤバいやつだと。
もし、シリアスな場面でなかったら、腹を見せていたことだろう。ラースは、仮にもボムの相棒だ。当然の強さである。そして、ボムは満足した顔を浮かべ、カルラは強い兄ちゃんが自慢なため、ドヤ顔だった。
◇◇◇
さて、どうやら全滅である。暗部も含めて。
「全裸隊長。あとは任せた。冒険者諸君も世話になった。次があれば、そのときもよろしく」
そう言って、ローションだけを焼却して、地面を元に戻して、エルザ宅に行くことにした。行くのは、真面系冒険者以外である。彼らは、このことを主に、報告するようだ。ただ、俺を売ると、あの施設を利用しなければならなくなるため、一部伏せるそうだ。頑張って欲しい。
ちなみに、蒼い狼にはプモルンが、子機を渡してくれたようで、赤いスカーフが巻かれていた。コイツにも、獅子王神様とプルーム様の素材で、何か作ろうと思う。あとは、名前だ。
確か、何処かの言葉で、空のことを表す言葉で、セルというのがあったはず。コイツは毛の色からも分かるが、雷霆属性が使えるから、雷と蒼……青で空。これ以上は無理だ。
ただ一つ疑問がある。
コイツに名前をつけたら、聖獣になるのだろうか? そう考えながら、やっと着いた。
王族の馬車の周りには、渋滞は存在しない。そして、王城へ向かわず、エルザ宅に到着。バトルホースは、王城へ行きたかっただろう。ボムから離れられるからだ。エルザ宅に来るまで、ずっと観察されていた。次のターゲットは、バトルホースのようだった。そして、何か起きる前に、到着出来たのである。
そして、王族の馬車に驚く門番に、事情を説明するエルザ。晩ご飯は、俺が提供することで、宿代とした。本当に、換金に行かなければと思うのだが、中央層にあるギルド本部は、常に忙しいため、なかなかアポが取れない。
残った中間層だが、貴族の子弟が多く、絡まれる確率が非常に高いのである。しかもボムはSランクでなければ、いらないと言っているのだ。それも、カルラを味方につけて。
それならばと、近くにあるダンジョンの近くに、ギルドの出張所がある。そして、まだ未踏破のそのダンジョンで、踏破後に転送される場所には、常にギルド員が詰めている。つまり、ダンジョンを踏破すれば、自動的に実績になるのだ。ちなみに、この国のいう実積とは、完全踏破なので、コアを壊しても構わないのである。
だが問題もある。現在護衛中なのだ。そのダンジョンは、全二十層らしいので、頑張れば、一日で駆け抜けられるだろう。ただ、宝探しもしたい。そこで一人で行くと言ったら、悲しむカルラと怒るボム。そして、ビビる馬と狼。エルザ宅に来るまでに話したため、馬も当然いた。
そして、結論。王女も連れて行く。ちなみに、パワーレベリングはしない。宝探しは、プモルンに全任せの、スキャナと探査の合わせ技で、各階層を駆け抜けるのだ。ボムが王女を背負って。
あと、全二十層ということを、何故知っているかというと、数年前に辿り着いた冒険者が、ボス戦は無理だと思い、引き返したのだ。
ちなみに、色竜だったそうだ。ぶっちゃけ、肉と内臓以外いらない。内臓は薬になるが、鮮度が高ければ、絶品なのだ。ライトニングドラゴンも旨かった。
そして、現在エルザの父親の、ルドルフ・フォン・ガイスト・フェスティオ辺境伯と、対面している……ボム。
この人は、なかなか肝が据わっているようだ。さすが、エルザの父親。ボムを間近で見上げ固まりつつも、意識を保っている。しかもボムは、若干威圧していた。
「気に入った。俺の威圧に耐えるとは、見所あるな。俺の組み手相手に、いいかもしれない。最初は、バトルホースにしようと思ったけど、剣術が使える方がいいもんな」
未だ外のため、バトルホースも馬もいる。バトルホースは、何故観察されていたのか、初めて知ったのだった。そして、危機から脱した。
ちなみに、この国の貴族の名前の構造は、名前+領地持ちの一家がつける名称+姓+領地名である。だから、王族や領地を持っていない貴族は、名前と姓だけである。王族も直轄領を持っているが、あれは国のものであって、彼らのものではないため、領地とは言えない。
「お父様、お客様の前ですよ。第三王女殿下と、その護衛の方達が、しばらく御屋敷に逗留します。食事は彼らに用意していただきます。むしろ、そうでなければ困ります。護衛含めて、くれぐれも、失礼のないようにお願いします」
自分の父親に言う台詞ではないだろう。だが、昨日と今日の二日で、濃い地獄絵図を見たばかりである。しかも、最後の雷霆魔術は、ライトニングドラゴンの、雷のようだった。放浪癖のあるライトニングドラゴンがいるため、よく目撃されている。そして彼らは、天災級である。そのため、慎重になるのも頷ける。まあ、モフモフにいなくなられるのが、困るというのもある。
そして、娘の声によって動き出す、辺境伯。そう。娘の声でだ。いろいろありすぎて、忘れている人もいるだろう。実際、俺は忘れていた。彼女は昨日まで、声が出せなかった。
「……エルザ、お前……声が……。声が戻ったのか?」
嬉しさに涙を流す辺境伯。
実際、彼はいろいろな方面に、手を回して、娘を治療してきた。結果は思わしくなかったが。それ故、目の前の光景は、奇跡と言っても良かった
。おそらく、この護衛が関係しているのだろうが、本人もエルザも、何も言わないため、聞くのは野暮だと思い、感謝だけを述べた。
「本当にありがとう。娘を治してくれて、本当にありがとう」
と頭を下げる辺境伯に、カルラが「キュイ」と、鳴いた。エルザさんと王女の視線は、ボムに向く。
「どういたしまして、と言っている」
そして俺達は、厩舎に馬を預けて、屋敷の中に入った。馬はやっと解放されたのだった。家の中に入ると、笑顔の引きつる使用人がいた。
当然だろう。デブで巨大で二足歩行で歩く熊と、小さい子竜に、そこそこデカい蒼い狼である。そして、何故か第三王女殿下も、一緒にいる。
この屋敷には、他にエルザさんの母親と、ちょっと阿呆気味の、学園に通っている弟がいる。エルザさんは、それを心配していたが、さすがにお世話になる家では、やらないつもりだ。
そして、現在エルザさんの母親の下に、全員で向かっている。理由は病気だからだ。エルザさんの本当の狙いは、こちらだった。騙したようで、申し訳ないと言っていたが、カルラが詳しい話をボムに聞き、状況を理解したことで、お願いをしてきた。
『母ちゃんが病気なの? カルラも、母ちゃんが病気は心配なの。治せないの? 治してあげてほしいの』
と、悲しそうに言ってきた。
ちなみに思ってしまった。
プルーム様は、病気には絶対に、ならないだろうと。だが、口にしなかった自分を、褒めてあげたい。おそらく、折檻が待っているのは、間違いない。そして、そんな悲しむカルラを放置しておく、ボムはいないのである。
「やらないとか言わないよな? カルラが泣いたら、母ちゃん飛んでくるかもな」
本当に飛んでくるだろう。
比喩とかでなく。
そして、チクる気なのだろう。カルラに毒を吐いただけで、折檻を受けたのだ。泣かせたと知ったら、想像するだけでも、恐ろしい。
「もちろん。やらせて頂きます」
こうして、エルザさんの母親に会いに行くのだった。
一生懸命逃げようとするが、そこそこの深さがあるため、無理だ。磔のまま、大風呂に入れて、服を焼いた。多少の火傷はご愛嬌。それに、火傷ならば、すぐに冷やして、あげなければならない。
――流水魔術《渦潮》――
――暴嵐魔術《鎌風》――
風の刃を含んだ渦潮が、グルグル回り、薄い切り傷を作っていく。渦が収まる頃合いを見て、水を操り滑り台へ。グルグル回ったせいで、方向感覚も分からず、逃げられない。ウォータースライダーのようなもので、なかなかの速度もある。体は、うっすらと、鮮血が滲んでいるようだ。
そして中風呂へ。
もう分かると思うが、傷に毒が入り痒いのだ。しかも始めから全裸だ。全裸隊長の比ではないだろう。痒みで、気が遠くなりそうになりながら、掻こうとするが、させない。
――森羅魔術《操樹》――
――重力魔術《重岩》――
――暴嵐魔術《旋風》――
まず、毒が飛び跳ねないように蓋をして、動かないように重石もする。その上でグルグルに、かき混ぜるのだ。そして、ぐったりした彼女に、スペシャルなプラネタリウムを見せてあげるのだ。
最後の小風呂へ、ドボンと入れた。ちなみに、液体は入ってない。深さもそこまで深くない。最後に、黒い丸薬を一つ取り出し、一声掛ける。
「痒みの解毒剤です。是非宝探ししてください。良ければ、友達と一緒に」
一瞬、観客の何人かは、まさか俺も? と、言いたげだったが、そうではない。
――召喚魔術《黒星》――
そして、丸薬を一つ落とし、蓋をした。蓋をする直前には、絶叫が聞こえたが無視した。彼女の目には、満点の星……ではなく、虫が見えたことだろう。黒い光を放つアイツだ。死にはしない。気をしっかり持てば。
さて、やっと終わった。
まだ昼なのに、疲れ具合が前日と同じである。ふと、宿を決めなければと、憂鬱な気分になっていたのだが、王女の元へ行くと、救いの手が差し伸べられたのである。
「私の家に来ませんか? 王都に家を持っていますから、そちらに泊まって頂ければと思っています」
と、エルザさんに提案されたのだ。ここで王女が、初めて気付く。
「エルザ。お主まさか……。嘘じゃよな? まさか抜け駆けなんてこと……しないじゃろう?」
と、焦りだした。
だが、エルザさんは、目を決して合わせず、返事をする。
「もちろんです。殿下を置いて抜け駆けなど……しません」
「では、目を見て言って欲しいのじゃ。エルザー!」
と、叫ぶ王女。
先ほどまで一人で、ボムのモフモフを楽しんでいた、天罰であろう。完全に抜け駆けされるのだった。そして、誰もが言いにくいことを言ったエルザさんは、この中では、一番肝が据わっていたのは、間違いない。
「お世話になるぞ。カルラも懐いてるし、風呂もあるのだろう?」
そこでエルザさんと王女は気づいた。このモフモフと一緒に、お風呂に入れるということに。王女は血の涙を流した。だが、そんな王女に天使降臨!
『リアも一緒でしょ? 違うのー?』
という、カルラの願いは、親馬鹿によって叶えられるのだった。
「娘。カルラがお主も一緒がいいそうだ。一緒に来い」
ぱぁっと、笑顔になる王女。
それにシュバルツが何かを言おうとしたが、ボムが肩に手を置き、諭し始めた。
「なぁ。分かってるよな。出会って二日目だもんな。お前は、ラースの言うところの、真面系騎士だよな。まさか、あの施設を使いたいわけでは、ないよな?」
黙るシュバルツ。ビビる馬たち。若干威圧が漏れていたからだ。
「おかしいな。返事の仕方を忘れたのか?」
「もちろん行かせて頂きます。護衛は継続ということで、お願いします」
「おう。任せておけ。やっぱり真面だったな。安心したぞ」
という、シュバルツとボムの会話に、馬たちはまだ解放されないことに気付き、絶望するのだった。そして、安心したと言ったボムだが、安心したのは、シュバルツである。この惨劇を見た後なのに、一番怖いのは、やはりボムだった。喉がカラカラになりながら、このあとの予定を、俺に尋ねたてきたことは、賞賛に値する。
「このあと、すぐ家に行きますか? 彼女の家は上級貴族なので、中央層で、ここから少し離れています。行くなら早めの方がいいでしょう」
「そうですね。とりあえず、結界を解除してからですね。外に暗部と騎士がいるみたいなので。ただ、結界に触れて、使い物にならなくなったものが、多数いるみたいですが。冒険者の皆さん。今障壁を消します。でも、騎士に囲まれているみたいなので、どうするかは、任せます。ちなみに、人のことを売る人は、あの施設の無料利用券を差し上げますよ」
そう言って微笑んだ。
そして、結界を解除して、穴から女を出した。虫は、送還した。冒険者風阿呆共全員が、目の前の全裸の女を見ているが、恐怖しか感じていないようだった。まるで死人かのように、ぐったりしていたからだろう。時間もないため、生活魔法で綺麗にし、冒険者風阿呆に丸薬と失敗ポーションを渡して飲ませ、布を巻いて置いた。
ぐったり中の女と、モブ中のモブを横に並べ、ギルドマスター風阿呆を横に置いた。全裸隊長は、現在忠実な僕状態である。率先して仕事をしている。そんな彼に、特別ボーナスをプレゼント。
腰布である。これで多少、マシになっただろう。彼も喜んでいる。そして、ボムも喜んでいる。しばらくすると、ついに役立たず共が来た。
「何事だ? ……魔物がいるぞ! 抜剣! 構え! 突撃!」
――雷霆魔術《召雷》――
もう面倒だった。
阿呆しかいないのか?
ランクCまでなら瞬殺する、広範囲雷霆魔術を喰らって、大丈夫だった奴と話そう。
◇◇◇
元々のラース一行以外は、茫然自失である。蒼い狼も含めてである。今まで、お仕置きくらいで、実質誰も、殺していなかった。殺していたのは、ボムだけである。決して舐めていたわけでは、なかった。ボムに比べれば、常識的で話も通じたため、どこかボムと見比べていたのだが、違った。
確かに騎士の行動は、早計過ぎた。
従魔の証もある。
そして、新しく従魔になったであろう、蒼い狼にもいつの間にか、赤いスカーフのようなものがついていた。それなのに、抜剣後の突撃である。反撃されても仕方がないが、こんな高威力な魔法を使うとは、思ってもみなかった。
ちなみに彼らは、魔術を見たことないため、魔法だと思っている。年齢に引っ張られているのもあるだろう。こんなに若い子が、高威力の魔法を使うだけでも異常だった。それに、ラースが無詠唱で発動しているのも、理由の一つだろう。今の世界では、無詠唱で魔術を発動できるものは、いないのである。
そして、蒼い狼も本能で、強いと思っていたが、自分と同じで、ボムに付き従っているのだろうと思っていたのだが、考えを改めた。ボムと同じくらい、ヤバいやつだと。
もし、シリアスな場面でなかったら、腹を見せていたことだろう。ラースは、仮にもボムの相棒だ。当然の強さである。そして、ボムは満足した顔を浮かべ、カルラは強い兄ちゃんが自慢なため、ドヤ顔だった。
◇◇◇
さて、どうやら全滅である。暗部も含めて。
「全裸隊長。あとは任せた。冒険者諸君も世話になった。次があれば、そのときもよろしく」
そう言って、ローションだけを焼却して、地面を元に戻して、エルザ宅に行くことにした。行くのは、真面系冒険者以外である。彼らは、このことを主に、報告するようだ。ただ、俺を売ると、あの施設を利用しなければならなくなるため、一部伏せるそうだ。頑張って欲しい。
ちなみに、蒼い狼にはプモルンが、子機を渡してくれたようで、赤いスカーフが巻かれていた。コイツにも、獅子王神様とプルーム様の素材で、何か作ろうと思う。あとは、名前だ。
確か、何処かの言葉で、空のことを表す言葉で、セルというのがあったはず。コイツは毛の色からも分かるが、雷霆属性が使えるから、雷と蒼……青で空。これ以上は無理だ。
ただ一つ疑問がある。
コイツに名前をつけたら、聖獣になるのだろうか? そう考えながら、やっと着いた。
王族の馬車の周りには、渋滞は存在しない。そして、王城へ向かわず、エルザ宅に到着。バトルホースは、王城へ行きたかっただろう。ボムから離れられるからだ。エルザ宅に来るまで、ずっと観察されていた。次のターゲットは、バトルホースのようだった。そして、何か起きる前に、到着出来たのである。
そして、王族の馬車に驚く門番に、事情を説明するエルザ。晩ご飯は、俺が提供することで、宿代とした。本当に、換金に行かなければと思うのだが、中央層にあるギルド本部は、常に忙しいため、なかなかアポが取れない。
残った中間層だが、貴族の子弟が多く、絡まれる確率が非常に高いのである。しかもボムはSランクでなければ、いらないと言っているのだ。それも、カルラを味方につけて。
それならばと、近くにあるダンジョンの近くに、ギルドの出張所がある。そして、まだ未踏破のそのダンジョンで、踏破後に転送される場所には、常にギルド員が詰めている。つまり、ダンジョンを踏破すれば、自動的に実績になるのだ。ちなみに、この国のいう実積とは、完全踏破なので、コアを壊しても構わないのである。
だが問題もある。現在護衛中なのだ。そのダンジョンは、全二十層らしいので、頑張れば、一日で駆け抜けられるだろう。ただ、宝探しもしたい。そこで一人で行くと言ったら、悲しむカルラと怒るボム。そして、ビビる馬と狼。エルザ宅に来るまでに話したため、馬も当然いた。
そして、結論。王女も連れて行く。ちなみに、パワーレベリングはしない。宝探しは、プモルンに全任せの、スキャナと探査の合わせ技で、各階層を駆け抜けるのだ。ボムが王女を背負って。
あと、全二十層ということを、何故知っているかというと、数年前に辿り着いた冒険者が、ボス戦は無理だと思い、引き返したのだ。
ちなみに、色竜だったそうだ。ぶっちゃけ、肉と内臓以外いらない。内臓は薬になるが、鮮度が高ければ、絶品なのだ。ライトニングドラゴンも旨かった。
そして、現在エルザの父親の、ルドルフ・フォン・ガイスト・フェスティオ辺境伯と、対面している……ボム。
この人は、なかなか肝が据わっているようだ。さすが、エルザの父親。ボムを間近で見上げ固まりつつも、意識を保っている。しかもボムは、若干威圧していた。
「気に入った。俺の威圧に耐えるとは、見所あるな。俺の組み手相手に、いいかもしれない。最初は、バトルホースにしようと思ったけど、剣術が使える方がいいもんな」
未だ外のため、バトルホースも馬もいる。バトルホースは、何故観察されていたのか、初めて知ったのだった。そして、危機から脱した。
ちなみに、この国の貴族の名前の構造は、名前+領地持ちの一家がつける名称+姓+領地名である。だから、王族や領地を持っていない貴族は、名前と姓だけである。王族も直轄領を持っているが、あれは国のものであって、彼らのものではないため、領地とは言えない。
「お父様、お客様の前ですよ。第三王女殿下と、その護衛の方達が、しばらく御屋敷に逗留します。食事は彼らに用意していただきます。むしろ、そうでなければ困ります。護衛含めて、くれぐれも、失礼のないようにお願いします」
自分の父親に言う台詞ではないだろう。だが、昨日と今日の二日で、濃い地獄絵図を見たばかりである。しかも、最後の雷霆魔術は、ライトニングドラゴンの、雷のようだった。放浪癖のあるライトニングドラゴンがいるため、よく目撃されている。そして彼らは、天災級である。そのため、慎重になるのも頷ける。まあ、モフモフにいなくなられるのが、困るというのもある。
そして、娘の声によって動き出す、辺境伯。そう。娘の声でだ。いろいろありすぎて、忘れている人もいるだろう。実際、俺は忘れていた。彼女は昨日まで、声が出せなかった。
「……エルザ、お前……声が……。声が戻ったのか?」
嬉しさに涙を流す辺境伯。
実際、彼はいろいろな方面に、手を回して、娘を治療してきた。結果は思わしくなかったが。それ故、目の前の光景は、奇跡と言っても良かった
。おそらく、この護衛が関係しているのだろうが、本人もエルザも、何も言わないため、聞くのは野暮だと思い、感謝だけを述べた。
「本当にありがとう。娘を治してくれて、本当にありがとう」
と頭を下げる辺境伯に、カルラが「キュイ」と、鳴いた。エルザさんと王女の視線は、ボムに向く。
「どういたしまして、と言っている」
そして俺達は、厩舎に馬を預けて、屋敷の中に入った。馬はやっと解放されたのだった。家の中に入ると、笑顔の引きつる使用人がいた。
当然だろう。デブで巨大で二足歩行で歩く熊と、小さい子竜に、そこそこデカい蒼い狼である。そして、何故か第三王女殿下も、一緒にいる。
この屋敷には、他にエルザさんの母親と、ちょっと阿呆気味の、学園に通っている弟がいる。エルザさんは、それを心配していたが、さすがにお世話になる家では、やらないつもりだ。
そして、現在エルザさんの母親の下に、全員で向かっている。理由は病気だからだ。エルザさんの本当の狙いは、こちらだった。騙したようで、申し訳ないと言っていたが、カルラが詳しい話をボムに聞き、状況を理解したことで、お願いをしてきた。
『母ちゃんが病気なの? カルラも、母ちゃんが病気は心配なの。治せないの? 治してあげてほしいの』
と、悲しそうに言ってきた。
ちなみに思ってしまった。
プルーム様は、病気には絶対に、ならないだろうと。だが、口にしなかった自分を、褒めてあげたい。おそらく、折檻が待っているのは、間違いない。そして、そんな悲しむカルラを放置しておく、ボムはいないのである。
「やらないとか言わないよな? カルラが泣いたら、母ちゃん飛んでくるかもな」
本当に飛んでくるだろう。
比喩とかでなく。
そして、チクる気なのだろう。カルラに毒を吐いただけで、折檻を受けたのだ。泣かせたと知ったら、想像するだけでも、恐ろしい。
「もちろん。やらせて頂きます」
こうして、エルザさんの母親に会いに行くのだった。
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ちかず
ファンタジー
久しぶりの早帰りの金曜日の夜(但し、矢作基準)ラッキーの連続に浮かれた矢作の行った先は。
見た事のない空き地に1人。異世界だと気づかない矢作のした事は?
異世界アニメも見た事のない矢作が、自分のスキルに気づく日はいつ来るのだろうか。スキル【備蓄】で異世界に騒動を起こすもちょっぴりズレた矢作はそれに気づかずマイペースに頑張るお話。
鈍感な主人公が降り注ぐ困難もナンノソノとクリアしながら仲間を増やして居場所を作るまで。
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