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第三章 欲望顕現

第百五話 先行からの偽四獣戦

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 第七十話と閑話「期待からの職業授与」の、聖武具以降を一部変更しました。

 以下、本文です。

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 先行しての殲滅は、回収組に合わせる必要がなくなったため駆け足で行っている。
 お金が落ちて音を鳴らす頃には通り過ぎ、次の魔物を《領域》に引き入れており、もれなく一撃死させていた。

「森よ、《樹木兵》。お金を拾って木箱に入れろ。そして別働隊と合流した後、ラビくんの指示に従うように!」

 追加でゴーレムを六体出してお金を回収させる。俺はこれから主要通路沿いにある四部屋を回って殲滅する必要があり、方々に散らばったお金を拾う時間がないのだ。
 決してやりたくないからではない。

「じゃあよろしくー!」

 ゴーレムたちを残してキルゾーンに近い部屋に入った。
 その部屋は魔物部屋だったのだが、通常の魔物部屋とは異なっていた。まるで幻覚でも見ているようで、夢を見たときにように目を擦ったり頬をつねったりと、何度も現実を否定しようとした。……無駄だったけど。

「――あんのっ! 鬼畜天使めがぁっ!」

 魔物部屋に入ったはずなのに、何故か巨大な湖の畔に立っていて、湖の真ん中には二足歩行にした亀が佇んでいたのだ。ガ○ラに似た魔物で、今までの魔物とは格が違いすぎた。

「アーク隊員と言っていたということは……ラビくんも知っていたのか!?」

 いやっ! ラビくんはそんなことしないっ!

 不幸中の幸いなのは、今回は面倒な討伐条件がないことだ。水さえどうにかすれば、お金の回収も問題なくできるだろう。回収組に任せれば大丈夫。

 とりあえず【魔獣闘技】を解除しよう。

「最初から全力で行こう。吼えろ、【玄冥】」

 同時に湖に手を浸けて《創水》を発動する。湖の水に魔力水を混ぜ、湖全体を自分の武器にするために支配下に置く。

 無詠唱でも効率的に高威力を出せるように魔導六角棍や魔導警棒などの魔導発動体を作ったのだが、全部《ストアハウス》の中に入れてあるため取り出せない。
 唯一手元にある魔導発動体はお揃いの指輪だけだ。【玄冥】を発動しながらの魔術の発動は魔導六角棍が最適だが、ないものねだりをしていても仕方がない。

 魔導発動体の質は詠唱で補えばいい。
 属性励起をするだけでも大分変わるだろう。

「水よ、《操水》」

 左手の薬指に着けている魔導指輪を意識しながら左手を挙げる。
 湖の水が徐々に左手の上に集まり、巨大な湖の水は、いくつかの小さな水溜まりを底に作るだけとなっていた。

 もちろん、ここまであからさまな行動をしていて気づかれないはずはなく、巨大亀型怪獣が俺を丸呑みにしようと頭から突っ込んできた。

「頭突きにしか見えんわっ!」

 口を開けているのを見ていなかったら、頭突きと間違えていたほどの勢いだ。

 左手で水を集めた状態で、右手で【玄冥】を動かして貫手を巨大亀型怪獣の口に突っ込んで迎撃した。

「ウゴォォォォーーー!!!」

「氷よ、一撃必殺の巨槍となりて、万物を貫き凍てつかせよ《巨槍氷牙》」

 口に放った貫手を抜かずに身動きを封じ、左手に持たせた氷の巨槍で巨大亀型怪獣の胸を貫いた。傷口から急速に凍結していく効果もあり、ほどなくして大量のお金に姿を変えた。

「……思ったより弱かったな。もしかして……ハリボテか……。基本的に雑魚って言ってたしな!」

 氷の槍は端の方に刺しておけば邪魔になるまい。
 荷車も出たし、回収組が来たら次の部屋に行こう。

「アーク隊員っ! ご無事かっ!」

「ラビ本部長! 雑魚でありました!」

「ざ……雑魚っ!?」

「はっ! ハリボテでありましたっ! 私は次の部屋に向かいますので回収をお願いします!」

「あれぇぇぇぇーーー!? りょ、了解でありますっ!」

 ラビくんに向かって敬礼をしたあと、向かいの部屋に入って察する。

 またか――と。

「次は白虎っぽい狐か……。白虎じゃなくて縞柄白狐だな」

 しかも今回は平原だから武器がない。
 こんなことなら氷の槍を持って来ればよかった。

 ――《心眼》

 ――《存在察知》

 ――《領域》

 ――《閃駆》

 肉弾戦を警戒して死角をなくし、白狐の位置を常に把握しておく。間合いに入った瞬間、《閃駆》で魔術攻撃の距離まで離脱する。

「地よ、金属よ、雷獣の霊魂宿りし千刃の槍剣が地を朱に染め、我が敵を穿て《雷爪剣雨》」

 ――《必中》

 上空より生まれし千の刃は雷撃の効果をはらみ、落雷のごとく白狐目掛けて落下していく。
 ただでさえ避ける隙間もないほどの数が襲いかかっているのに、《必中》の効果が加わることで運命が決した。

 お金に変わった音が聞こえると同時に、ラビくんたちが入室してくる気配がする。

「アークーー! 無事ぃーーー!?」

「ラビくん、入れないの?」

「そうだよ! 戦ってる間は扉がなくなるの!」

「なるほど!」

「そ、それでお怪我はない!?」

「パチモンの白狐だったから怪我なんかしないよーー! 白虎ママに殺されかけた恐怖は今でも忘れないからね! じゃあ、ここもよろしくねー!」

 新しい荷車も出たし、次会うときはゴーレムの追加も必要かな。

「う、うん……。いってらっしゃい」

「いってきまーす!」

 回収組との合流でモフモフタイムがあるのは地味に嬉しい。心が安まるし癒される。
 三体の個性豊かなモフモフは、それぞれ手を幸せにしてくれるから大好きだ。しかも、パチモンとの戦闘でも心配してくれるとは……。

 本当に本物の天使だったんだね。

「次は龍かな? それとも朱雀かな? ――はい、朱雀でしたーー!」

 うーん……鶏かな……。ちょっと可愛いかも。

「お金の代わりに有精卵を落としてくれないかな。尻尾が蛇じゃないところも良い!」

 祭壇の上に鎮座している丸々とした鶏は、息を思いっきり吸い込む仕草をする。

咆哮ブレスかっ!」

 ――《閃駆》

「グアッ」

 鶏の口から吐かれた攻撃は想像していたような火炎放射ではなくて、炎を伴う炎弾だった。しかも地面に当たると、着弾したところとその周囲から火柱が上がるのだ。
 紙一重で避けてはダメだということだが、予備動作があるから分かりやすくはある。

「是非モフモフしたい!」

 モフモフに関してだけ言えば、デブ専と言っても過言ではない。……口が裂けても言えないけど。

 目の前の鶏は魅力的なお腹をしており、討伐する前に一度触っておきたいと思っている。

 ということで、今回は接近格闘術で討伐しようと思う。

 ――《心眼》

 ――《存在察知》

 ――《領域》

 ――《並列思考》

 ――《身体練成》

 ――《属性纏鎧:水》

 ――《武霊術》

 死角をなくすことは基本中の基本。攻撃を受けないことこそ最強の防御だからだ。
 慣れていないスキルに気を取られて隙を作ることは許されないため、《並列思考》でスキルの使用を補助する。
 身体強化の最上位スキルで防御を固め、水属性の魔力を付与した魔力の鎧を纏う。

 【魔力闘技】で使用するよりも魔力を多く消費して圧縮するため、《属性纏衣》を使用した場合は不可視攻撃ができない。
 代わりに属性魔力を付与できるから、準魔術みたいな攻撃ができるスキルだ。
 魔術職が習得しやすい防御系のスキルだが、エクストラスキルであることは変わらない。

 つまり、魔術職には喉から手が出るほど欲しいスキルだが、習得が難しいということだ。戦士職は知らない可能性もある。

 それはさておき、種族特性ゆえ水と地系統の属性は得意で、今回の相手は火を使うということで水属性の魔力を纏っている。

 腰を軽く落として構える。

 ――《閃駆》

「鬼畜天使流格闘術――水龍掌打」

 通常の掌打とは違い、指を曲げて牙を象り、掌打の瞬間に手首を捻る。
 当たり前だが、踏み込みの力を一切無駄にすることなく繰り出すことで、強く踏み込むほど威力が高まる。

 ただ、今回が初めての実戦使用だったため、加減が分からず討伐することになってしまった。

「……もうちょっと頑張ってくれよ!」

 それにしても……タマさんの技……すごいな。
 うん……怒らせないようにしよう。

「アークーー! 大丈夫ぅーーー!?」

「一撃で死んじゃった……。モフモフしたかったのに……」

「――えっ!? モフモフ……?」

「そう……。フカフカの鶏さんだったんだよ?」

「そ、そう……」

 鶏のお腹を触れなかった悲しみを、我が家のモフモフたちで癒している。
 カーさんの「早く拾えよ」という視線が痛いから、ゴーレムを六体追加してさっさと次に行くことにした。

「やっと最後だーー! では、行ってきます!」

「気をつけるんだよっ!」

「ありがとうっ!」

 最後の部屋に向かうのだが、行かずとも何がいるかは分かっている。

 どうせ青龍もどきだろ。

「――チェンジで」

 何故……何故俺は気づかなかったのか……。
 青龍もどきだった場合、間違いなく蛇一択だろうがっ!

 青い体に白い毛が生えている。
 角はなく手もない。
 せめて顔を整形してこい!

「シャァァァーーーー!!!」

「蛇じゃねぇかぁぁぁーーー!!!」

 手加減一切なしで瞬殺しよう!

「吼えろ、【玄冥】」

 ――《領域》

 ――《必中》

 ――《打突》

「鬼畜天使流格闘術――玄拳連撃」

 スキルで必ず当たるように補正をした正拳の連撃だ。命尽き果てるまで殴り倒してくれる。

 一心不乱に殴り続けたせいで、何発目で討伐したかは分からない。お金の音がするまで続けたら、討伐していただけのことだ。

「アークぅぅぅーー! お疲れ様ぁぁぁ!」

「ラビ本部長! 任務完了しました!」

 胸に飛び込んできたラビくんに、右手で敬礼しながら任務完了の報告をする。

「――うむ! 大義であった!」

 上目遣いで労ってくれるモフモフを再度抱きしめ、褒美のモフモフを楽しむ。

「二台目の荷車も外に行かせたからね!」

「ありがとっ!」

 蛇のストレスを癒していると、カーさんからの視線が突き刺さる。さすがに「俺は討伐組だから」なんて言葉は言えない。

「今行くよーー!」

 木箱にお金を入れているときに気づいたことがある。それはカーさんの腰につけられた小袋のことだ。

「カーさん、もしかしてくすねた?」

「――なにを?」

「コレ」

 俺の質問の意味が分からないと答えたカーさんに対して、ネーさんが小袋のことを聞いていると教えてあげていた。

「あー……いなかったもんな! これには四部屋とキルゾーンで一枚ずつ手に入るコインが入っていてな、タマさんが保管しておけってすごい剣幕で言うもんだからさ」

 といって見せてくれたコインは、記念硬貨みたいに豪華な彫刻が施されていた。

「これで何するの?」

「鍵なんだと」

「え!? 終わりじゃないの!?」

「そもそも払い戻しは口実だろ? 他の目的があるんだよ。何かは知らないけどな」

 鬼畜天使のタマさんがメインイベントと言うほどの何かがあるということだ。怖くてしょうがない。

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