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第三章 欲望顕現

第百三話 遺跡からの払い戻し

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 騒ぎを起こしたくないという理由から、【精霊界】でも暗い森の中を選んで進んだ。
 それでも《精霊眼》のおかげで、様々な精霊の姿を見ることができた。可愛い精霊からカッコいい精霊まで多種多様だ。

 まぁ相変わらず距離を置かれていたけど……。

 出口側の【精霊門】を潜るまでは走って移動していたが、それでも少し時間がかかった。
 魔術の【転移門】のように一瞬で移動するわけではないが、座標指定や膨大な魔力は不要らしい。ただ、権限があるかないからしい。

 個人的には観光できるから【精霊門】の方がいい。ラビくんたちも夕食時を過ぎたせいで空腹のはずだが、観光を楽しんでいるおかげでご機嫌である。

 しかし、この観光は長く続かず、三十分くらいで出口側の門に辿り着いてしまった。
 観光満喫組である俺と狼兄弟は思わず肩を落としたほどだ。

「出口を潜ったら目的地の島に着いているから、今夜は野営して明日の朝早くから行動開始よー!」

「……また島かー。いい加減、何をするか教えてくださいよー!」

「明日になれば分かるわよ!」

 結局教えてくれないままか……。

 出口を出ると辺り一面真っ暗で、いろいろ面倒だったから地魔術でドームみたいな建物を造って拠点とし、【一の島】で売っていた串焼きを食べて寝た。
 もちろん、気絶訓練は忘れていない。

 余談だが、夜中に起きてリムくんを召喚した。
 何故ならば、体重が増えたのに変わらず顔面に乗って爆睡するラビくんに起こされたから。危うく窒息するところだった。

「あー……死ぬかと思った……」

 リムくんを召喚した後は、湯たんぽみたいに温かいラビくんを抱いているうちに寝落ちしていた。

 ◇

「――きなさい。起きなさい。起きろっ!」

「……早くないですか?」

「朝早くって言ったでしょ? 時間がないんだからっ!」

「……眠い」

「……契約を忘れたのかしら!?」

「……関係あるんですか?」

「当たり前よっ! むしろ、メインイベントよ! 決闘は突発的で、これは計画的なのっ! 重要度が分かったら早くしなさいっ!」

「へーい」

 簡単に身支度を整え、ドームを崩して周囲の魔物を片付ける。解体は後でいいか。
 全然起きる気配がないラビくんを抱いてタマさんに声を掛ける。

「準備完了しました!」

「じゃあこっちよ! ついてきなさい!」

 先導する光る板の後をついて走り、メインイベントの会場に向かう。
 ハイペースで走らされたおかげであっという間に到着したのだが、本当に着いたのかどうか疑いを持ってしまった。

 理由は簡単。ボロボロの遺跡だったからだ。

「本当に……ここ……?」

「えぇ! この中に入って魔物を殲滅すればいいのよー!」

「――まさか……迷宮……?」

「大・正・解っ!」

 え? 迷宮がメインイベント!?
 洞窟迷宮で良くないか?

「うむ……突発型迷宮かな……?」

「ラビペディア大先生、起きたんですね。おはようございます!」

「うむ。諸君、おはよう!」

 お決まりのあいさつをして起床したラビくんは、【突発型迷宮】について解説してくれた。

「通常の迷宮は、地下を通る【龍脈】の真上にできるんだ。【龍穴】が塞がっていたり詰まっていたりすると、【龍脈】に瘤ができるんだけど、それが【迷宮核】になって迷宮の心臓部になるの!」

 ふむふむ。習ったことがある気がするぞ。

「でも【突発型迷宮】は、瘴気や魔素が一ヶ所に溜まってしまうことで発生するんだ。何もないところで魔素溜まりが起これば強力な魔物が生まれておしまいだったんだけど、古代遺跡のような人間の思念が残っていそうな場所だと迷宮化してしまうんだな!」

「じゃあ普通に攻略すればいいのかな?」

「ダメなんだな!」

「ダメなの!?」

 というか、変なしゃべり方も気になる。

「【突発型迷宮】で怖いのは制限時間があるところなんだな! 一定時間がすぎると、迷宮の入口が閉じて引きずり込まれるんだな! 迷宮核の破壊は即死亡コースなんだな!」

「……入りたくない」

「ただぁし! 人を惹きつけるほど魅力的な報酬が得られることは確定しているんだな! 魔物も雑魚が多いんだな! 人間側の理性のコントロールを試す迷宮なんだな!」

「条件は……?」

「ん?」

「制限時間だけじゃないでしょ……。罠があるんじゃ……?」

 早く入れと言っていたタマさんが黙って説明させている時点で既に怪しい。

「モフモフの言葉でも鵜呑みにしないのねー!」

「えぇ。どこぞの堕天使たちにはめられすぎているもので!」

「えーー! 誰かなぁーー? ねっ! タマさん!」

 ウサ耳の堕天使と鬼畜天使だよ!
 同時に睨まれたから、文句を言うのは心の中だけで我慢しとこう。

「はぁ……。仕方がないわね。簡単に説明するから、しっかり聞いているのよ!」

 入らないって選択肢はないらしい。

「魔素溜まりの場合は強力な魔物、【突発型迷宮】の場合は雑魚魔物の代わりに面倒な条件や状況というのが一般的よ。今回は面倒な条件の方で、報酬の持ち出しがリスクに合わないかもしれないわねー!」

「……帰ろう」

「今回は単一素材型の一つで、単一報酬型に分類されるわねー! お金しか落ちない迷宮よー!」

 無視かよ……。

「お金なら解体も売却もしなくてもいいから楽ですね」

「楽だけど、条件がクソよ? 『そもそも竜種が出ました。まとめて持ち帰ってオークションに出しました。億フリム以上が確定しています。でも固定報酬の場合は十万程度です。解体なくて楽だー!』って思う?」

「……詐欺だ」

「でしょ? 大してお金にならないゴブリンとかを倒してお金を手に入れるなら楽でいいけど、魔物によるわよ?」

「でも今回は竜種は出ないんでしょ?」

「ほとんどね!」

 不安な言い方……。

「問題の条件なんだけど、《ストアハウス》の使用不可ね」

「はっ!? 狙い撃ち!?」

「そうじゃなくて収納系の魔術やスキルを持つ者、魔具を持つ者は使用不可になっているのよー!」

「じゃあ袋に入れて背負うの!?」

「そうじゃなくて、魔物を倒すとお金か木箱が落ちるのよ。それに入れるのよ」

「……木箱を担ぎながら移動するんですか?」

「隠し部屋かキルゾーンかボス部屋に荷車があるわ。それに載せるのよ-!」

 いや、どっちにしろ移動しにくいでしょ!?

「欲張りには攻略できないのよ! 信頼できる仲間を連れて行かないと攻略できないの! 戦う側は持ち逃げされたら困るし、運搬役は守ってもらわないと困るでしょ? まぁ荷車を使うことから分かるように階段はないし、一人でも攻略できなくはないわよ。欲を出さなきゃ!」

「出さないから帰りましょう!」

「あんたは攻略する義務があるの!」

「何で!?」

「あんたが買ったおもちゃのお金のほとんどは、ここ含む全ての単一報酬型迷宮に放り込まれているからよ! 払い戻してあげるんだから感謝して回収に行くべきよー!」

 無茶苦茶だ……。

「へいへい……」

「返事は『はい』! 回数は一回だけよ! 【大老】との差は何なのー!?」

「……日頃の行い」

「ったく! 失礼しちゃうわー!」

 聞く気ゼロかよ!

「アーク、早く行くんだなっ!」

 変なしゃべり方はハイテンションの影響か……。
 可愛いからいいけど、連日地獄の刑務作業をやらされる身にもなってほしい。

 はぁ……。嫌な予感する……。

 同じ顔をしている作業仲間のカーさんと一緒に、やる気満々の狼兄弟に促されて遺跡の中へ。

 ◇

 全面石造りの建物内は薄暗く、馬車が余裕で行き違えるほど広く天井が高い通路が、奥まで一直線に続いているようだ。

 ――《存在察知》

 ――《空間知覚》

 ――《探知眼》

 ――《図化》

 ――《転写》

 魔物を含む生物の位置を把握し、薄暗い空間を把握する。ついでに罠や隠し部屋の見落としがないことも確認していく。
 最後に《図化》スキルで情報をまとめ、《製紙》スキルで作った紙に写す。

「あんたがいると迷宮攻略が捗るわねー!」

「あの……思いついたんだけど、水没はダメなんですか?」

「ダメに決まってるでしょ! 階段も坂もないんだから水が溢れるでしょ!」

 それもそうか。

「じゃあカーさんたちはお金拾いね」

「……やっぱりか。もしかして……荷車もオレ?」

「それはゴーレム。満杯になった荷車は護衛をつけて順次外へ向かわせ、そのまま護衛させる予定かな」

「よかったー!」

「ぼくは?」

 作業仲間と担当を決めていると、刑務所長も手伝いたいと言ってきた。

「ラビくんたちもお金拾いかな」

「はーい! 任せてー!」

 可愛い。

 お金回収組に手渡したスコップみたいなものを掲げてはしゃいでいる姿は、砂場で遊ぶ子どものように見える。

「じゃああんた一人で殲滅するのー?」

「そうですね。赤ちゃんの時から考えていた技術がようやく完成したので、実戦訓練として利用しようかと思いまして」

「鯨に使えばよかったのにー!」

「雑魚にしか使えないんです。鯨は雑魚ではないのです!」

「ふーん……どんなの? あたしが知らない技術だったら、対価なしで簡単な質問に答えてあげるわよ?」

「マジで!? 【霊王】様のことも!?」

「……それは簡単な質問じゃないわよー」

 チッ! ダメか……!

「では僭越ながら、説明させていただきます」

「分かりやすくねー!」

「簡単に言えば、《身体強化》の応用です。《身体強化》は魔術が使えない者や魔力量が少ない者でも、《魔力操作》ができれば誰でも習得できるスキルです」

「知ってるわよ!」

「属性は全員が持ってる無属性で、体の表面を薄く覆っている。大人も子どもも変わりませんよね?」

「そうねー!」

 声色が「だから何?」って言ってるみたいで怖い。……巻こう。

「無属性は、《魔力圧縮》と《魔力重複》を使用して具現魔術に変化させないと体から離したり、形を変えたりできないとされています」

「そうね」

「でもそれは間違いなのです」

「――はぁ!?」

「確かに体から離すと魔力を供給できず、あっという間に消滅します。しかし、一部でも繋がっていれば形を変えることができ、形次第では部分的に離すこともできます。全てはイメージ力です。子どもと大人の体の表面を薄く覆っているのですよ? 既に形は変わっています」

「それもそうね……。でもそれなら具現魔術を使うか、もっと簡単な魔術を使えば良くない?」

「今話したのは前提です。これで何ができるかというと、不可視の攻撃ができるのです」

「――はぁーー?」

 あれ? お解りでない?

「仮に見えにくい風魔術を使うとしましょう。感知や察知系のスキルがあれば、魔術の使用に気づけるでしょう。具現魔術も同様に知られてしまいます。ですが、形を変えた無属性の魔力を動かした場合は、魔術だと判別されないどころか周囲の魔素と判別がつきにくいのです。魔視や魔眼持ちが気づく程度でしょうね。膨大な魔力の有効な使い方ですね!」

「何それっ! 無敵じゃない!」

「いえ、バレない程度の魔力しか込められないので、雑魚や対人戦にしか使えません。親分に使ったら飴細工のごとく簡単に砕かれましたからね。……まぁ面白いって褒めてくれましたけど」

 圧縮しすぎて固めると具現魔術になってしまい、特有の金色の属性色の術式が出現してしまう。
 体の表面を覆う魔力を《魔力変化》を使って刃へと形を変え、《魔力支配》で自在に操ることで、指先一つ動かさなくても雑魚魔物を殲滅できるのだ。
 戦技スキルとも相性が良く、併用することで武器なしでも戦技スキルが発動する。

「どうでしょう?」

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