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第三章 欲望顕現

第百一話 疫病からの逃亡作戦

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 キリが悪く少し長いです。
 次回からは戻します。


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 ジト目を向けるラビくんを愛でながら、ツルリン種族を作ったり、兵士全員を収容した後に封印したりと、時間稼ぎのための工作活動に力を入れた。

 封印は元々の術式をそのまま利用した。

 開けてもらわないと困るからだ。噂だけで実証がなければ信じないだろうし、確認に来た役人も疑われてくれれば混乱して捜索どころじゃなくなるはず。

 カーさんもタマさんに指示されたようで毒々しい植物を生やしたり、コポコポいう毒沼風の水溜まりを作ったりしている。
 水溜まりの底に空気を排出する植物を植えることで、体に悪そうな水溜まりができるのだ。

 ちなみに、水溜まりの水は特濃魔力水だから、飲むことができれば甘露のように美味しいと思う。
 もちろん、罠も設置している。
 いつ孵るか分からないけど、近くの林にあった謎の卵を入れてある。……怖いからあえて鑑定はしなかったけど。

 そして現在。

 決闘場に戻って来て王子キマイラが正式に敗北を宣言し、賭けで儲けたお金をもらったり、審判に手間賃を渡したりと片付けをしていた。

「さぁ、店主。ささっと荷造りをしてください。支度金も出しますから、手荷物だけで結構ですよ」

「い……家は……」

「気にしなくても大丈夫ですから」

 塔を持っていけば説明の手間が省けたのだが、これ以上の面倒がいやだったのだから仕方がない。
 店主一家が荷造りをしている間に、浮浪者や孤児に支度金を渡して王都に行くように勧める。理由は疫病が発生する兆しがあって、もしかしたら渡航禁止による物資不足に陥るかもしれないからだ。

 まだ内密のことだから、混乱させないように「内緒ですよ?」と言い含めて。

 半信半疑の者には遠目から王子キマイラの姿を見せてやり、皮膚疾患であることを示唆させる。

 まだ年始の寒い時期だ。
 風邪を含む毎年恒例の疫病は何かしら流行るだろうし、完全に嘘をついているわけではない。俺は疫病が発生するとしか言ってないしね。

 王子キマイラを見て皮膚疾患だと誤解した者が勝手に噂してしまっただけで、故意に混乱を起こそうとしたわけではないのだ。

『キマイリー博士! 新しい人材に鬼畜天使の計画を説明しなくていいんですか!?』

『堕天使ラビエル! 今からするところですよ!』

『ちょっと! 変な名前つけないでよっ!』

 お金の回収をしていたラビくんがリムくんを踏み台にして俺の胸に飛びつき、胸を小さなお手手でポカポカ殴っている。……可愛い。

「新入り諸君、集合っ!」

「「「はっ!」」」

 何故か酒場の店主も整列している。

「光よ、《障壁》。闇よ、《暗幕》。風よ、振動よ、《防音》」

 どれも簡単な術式で初心者でも可能ゆえ、効果が低く効率も悪いが、属性励起を行って正確に組んであるから思ったよりも効果が高いはず。

 野次馬に実力者が混じっていた場合は内容が漏れるかもしれないが、別に漏れても構わない内容しか言わないし、狼さんと熊さん以外は奴隷じゃないから裏切らないように実力を見せておく必要がある。
 塔で気絶した理由は、【九曜】とかいう化け物のせいじゃないんだよと。

「さて、店主は我が商会に来てもらうので【迷宮都市】に来てもらいたいです。他の人員は【学園都市】に行き、我が商会が出資して興す予定の商会で働いてもらいます。商品は我が商会で作った物です」

「はい」

 熊さんが挙手をする。

「どうぞ」

「つまりは委託販売をするってことですか?」

「そうですが、その他については自由にやってもらって構いませんよ。人員も二万人ほどいますし」

「――二万っ!?」

「まぁこちらでも必要ですから全員は無理ですが、商会を経営していた者もいるので戦力はありますよ。もちろん、戦闘要員もいますので御安心を。そして熊さんには新しい商会の商会長をしてもらい、狼さんは護衛隊長というか警備隊長みたいな幹部に就いていただきます」

「……そんなに人員がいるなら……私はいらないのでは?」

「いえ、海軍の政策は素晴らしかったですよ。とある人物も大変評価しており、言い方は悪いですが決闘もお二方が欲しかったかららしいですよ」

「――っ!」

 絶句である。まぁ当然か……。

「優秀であったからこそ家族を助けられたのです。全てはお二方の努力の結晶です。話を戻しますが、私は《遠話》スキルを使えます。王都で荷造りや財産処分、爵位継承の手続きをした後、ピュールロンヒ辺境伯領に行ってください。詳細や商会を興す時期については部下から説明させます。店主も一度そちらで待っていただけますか?」

「一緒に行ったら駄目なのですか?」

 見た目はゴツくて口が悪そうなのに、子どもである俺にも敬語を使ってくれることに好感度が急上昇だ。新しい雇い主だと割り切っているのだろうが、できない人間の方が多いのも事実だ。

「えーと……私は【欠陥職業】持ちと言われる部類らしいのです」

「「「嘘つけっ!」」」

 惨事経験組は敬語を忘れるくらい信じられなかったようだ。

「本当ですよ。それでですね、拠点を自分で用意しないと【迷宮都市】では生活しにくいみたいです。だから先に行って準備をしておきますので、後ほど合流していただきたいのですよ。私たちの商会では食堂みたいなこともやる予定で、専属料理人として働いてもらいたいと思っています」

「……なるほど。分かりました。腕を磨いて待っています!」

「お願いします」

 ラビくんたちも満足そうに頷いている。

「おい、博士! 気になることがあるんだが?」

「……カーさん、博士はやめてくれ」

「そ、それでよ……ローワンのところの従業員に何か渡していたけど、アレは何なんだ?」

 チラリとラビくんを見ているところを見ると、堕天使の仕返しなのだろう。

「伯爵への手紙だよ。一応お世話になった人だから、国王がいない内に逃げられるようにしておいたんだよ」

 新年祭の三日目に勇者が召喚されるらしく、国王と第二王子たち王族に護衛の辺境伯を連れて【光輝神国ヘリオス】に行ったらしい。
 召還後は歓迎パーティーが開かれたり、義援金を募る会議を開いたりと、しばらく帰って来ないらしい。

 その間に、クソババアが行った蛮行や血のつながりがない神子の神薬使用問題を有耶無耶にするための行動を起こさないと、待っているのは処刑台だ。
 国王に忠誠を誓う辺境伯は【聖獣王国】最強の戦士だから殺されないだろうし、手元に置いておきたい神子を害するはずもないだろう。
 その母親は神子を産んだ母で、制御装置だから大丈夫だ。

 俺が伯爵なら自分の爵位を神子に譲って自分は隠居する。そして、鬼の居ぬ間に国外逃亡して亡命だ。

 小さい復讐としては、伯爵が保有する財産の持ち逃げと使用人の解雇くらいだろう。
 仕えていたら死ぬから、使用人もさっさと国外に逃亡するはずだ。

「それに伯爵は船を持ってるから、船が二隻になるからタマさんも喜ぶでしょ」

「……登録はどうするんだよ」

「……沈没らしいよ?」

「……誰が拾うんだよ」

 知るかっ! と叫びたい……!

「誰が沖で沈むって言ったのー? 夜の内に岸で沈没するのよ?」

『岸では沈没しませんよ?』

「この島ではするの! そしてトンテンカンしたら直るのよ! そのときには新しい魔具が装着されているのよ! 商会旗は『キング・ラブ』よー!」

『……魔具も作ってなければ、旗もまだですよ!?』

「……装着されてるのよー!」

 マジかよ……。やれってこと!?
 指示も出さないといけないのに……!?

「では、簡単に説明します。王都に帰ります! 身辺整理をします! ピュールロンヒ辺境伯領に行きます! 連絡要員と合流します! 本拠地で準備しながら待機します!」

「はい!」

「どうぞ」

「連れて行きたい者がいた場合はどうすればいいですか?」

「連れて行っても構いませんが、本拠地に連れて行くので信用第一でお願いしますね。本拠地には私と本気で組手できる者たちがいますので、裏切った場合は命の保証はしませんから」

「は、はいっ!」

 熊さんたちは大惨事を経験しているからな。
 正直言って、怒ったレニーは俺でも怖い。
 ラビペディア大先生がいないと怒りを鎮めることができないのだ。気をつけて欲しい。

「見た目で判断しない。種族差別をしない。モフモフや魔物を虐めない。本拠地周辺の魔物や魔獣を無闇に害さない。これらは厳守してください」

「はい!」

 塔に閉じ込められていた狐みたいな人が手を挙げた。

「どうぞ」

「魔物や魔獣は討伐対象ですが?」

「はぁ……。あなた方を心配しての発言だったのですがね……」

 むっとした表情で怒りを表しているのを惨事経験組が驚愕の表情で見つめている。

「行けば分かると思いますが、魔境の中層域なんですよ。あんなチョロい術式の封印塔すら出て来れないような貧弱な者は瞬殺されますよ? 中層域の魔物や魔獣は知能が高い者が多いんですよ。こちらからチョッカイを出さない限りは、相手すらされないことが普通です。あんた一人が手を出して一人で死ぬなら勝手にしろと言うけど、他を巻き込むことになるからやめろって言ってるんだよ。少しは考えろ」

 話しているうちにイライラしてきた。

「ち……知能が高いなら、私だけを攻撃するのでは!?」

「……コイツ、いる?」

 タマさんへの質問と同時に殺気が漏れてしまった。

「……こんなに空気が読めないヤツとはねー。自分が逃げたことで被害が拡大するとか、考えられることは山ほどあるだろうにねー。……いらないなー!」

「死ぬのとツルリン種族への転生のどちらを選ぶ?」

「――はっ!? 私は常識的なことを――」

「常識ね……。常識的だったら、あんたらはまだ塔の中だよ」

 ――《魔力変化》

 ――《刺突》

「樹根槍」

 放出した魔力を細く固め、戦技スキルで口に叩き込む。プライドを傷つけられた愚者は面倒事を起こす。
 本拠地を言った以上、口封じは必須である。

「――他は? 気が乗らないなら【神前契約】をしてから塔へ戻れ。いくらでも戻してやるが、あの塔には【九曜】がいるらしいから気をつけろ。ほら、答えろ。優しくしてやる時間は終了したぞ?」

『落ち着いて。ぼくのお腹をタプタプすれば不思議なほど早く落ち着くよ? ぶーちゃんもそうだったんだから! ねっ!』

 顔面にお腹を押しつけてくるラビくん。

『アークの気持ちは分かるよ! あの場所を守りたいんだよね! ぶーちゃんやオークちゃんに迷惑をかけたくないんだもんね!』

 足元ではリムくんがスリスリと体を擦りつけている。

「……いないようですね。王都か辺境伯領でイグニス・フルリオ・ピュールロンヒ伯爵が逃げようとしていたら、教会に連れて行って後で用意する契約書に逃げる者全員分のサインを書いてもらい、連絡要員に手渡してください。それでは店主、家を運びますから離れててください」

 ついでに死体にツルリン薬液をかけておく。

「あぁ……」

「忘れ物はないですよね?」

「あぁ……」

 怖がらせたことは悪いと思うが、いい見せしめになったと思っている。
 惨事経験組以外の視線からは少なからず侮りの感情が見えていた。あからさまな態度を取らないだけで、機会があれば裏切りそうだったからだ。

 本人たちは【神前契約】ということ自体を嘘と思っているのだろう。

「あ……あの……」

 熊さんから声がかかり手を止める。

「何か?」

「教会で【神前契約】をすると立会人に情報が漏れますよ? 御布施も大量に使いますし、神国との通信手段もありますから国王が帰って来るかもしれません」

「……密室の部屋は?」

「ありますが……噂では隠し窓があるとか……」

『タマさん、どうするの!?』

「教会のくせに腐ってやがるわね! 仕方がないわねー! 根回ししておくから、例のエルフ村近くの湖に行くようにしなさい! そこに祭壇があるから、綺麗に掃除する代わりに一時的な聖域にしてもらうから!」

「……辺境伯領に湖があるんですが、あとで契約書と一緒に渡す地図に記した場所にある祭壇を掃除すれば、一時的に使用できるようにしておきます」

「……え?」

「お願いしますね。地よ、《大地隆起》」

 ――《魔力変化》

 ――《切断》

 ――《収納》

 酒場兼住居を地面ごと持ち上げ、手刀を一閃して地面と切り離し《ストアハウス》に収納する。

「《掘削》」

 持ち上げた地面に穴を開け、薬液を洗い流した死体を放り込んでおく。王子キマイラと一緒に連れ帰ってもらい、疫病の発生源になってもらう予定だ。

 ふぅ……次は船か……。疲れた……。

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