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第三章 欲望顕現
第九十六話 決闘からの緊急手術
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審判を務める青年の手が振り下ろされ決闘の幕が上がった。
少しフライング気味に殴りかかってくる自称王太子だが、大して早くもない大振りの拳打など当たるはずない。
「何を習ったんだか……」
「貴様程度武術を使うまでもないってことだッ!」
「その割には先ほどから一発も当たっていないですが?」
「――うるせぇ! はぁっ……はぁっ……!」
「ほらほら、息が上がってますよ? ――ふわぁ……。失礼」
手を使うことまでもなく足捌きだけで十分かわせる攻撃に、ついつい欠伸が出てしまった。
「――殺してやるッ!」
オークちゃん直伝の足捌きだが、自称王太子相手だと演舞をしている気がしてくる。
見世物としては見物料を取れるのではないか? と思っている。
ちなみに、賭けは当然のように行われており、俺に賭けている人はかなり少ない。
王都に帰らず島に滞在していたアナド商会の船乗りや、カーさんに迷惑料だと唆された酒場の店主に、耳ざとく話を聞いていた者だけだ。
当然、カーさんと狼兄弟は手持ちの現金をベットしており、ニヤニヤと悪魔のような悪い笑みを浮かべていた。
「アーク、巻きなさい!」
トロトロと遊んでいたのが飽きたのか、鬼畜天使から終わらせるように催促された。
だが、俺はラビくんと約束したのだ。
楽しいことを見せてあげると。
「――あっ! ちゃんと手加減するのよ? 人間は親分たちと違って脆いんだから!」
『……分かっていますよ』
ったく。人を何だと思っているのか……。
「――はぁっ……はぁっ……! オラッ! かかって来いよッ! ビビってんのかッ!?」
「疲れてるだけでしょう? まぁそろそろ休ませてあげますよ」
「減らず口をッ!」
向かってくる自称王太子の正面に移動し、自称王子の右フックをあえて《金剛》で受ける。ずっと殴りたそうにしていたからね。
遺恨を残さないように望みを叶え、後腐れなく奴隷になってほしい。
わざと受けたとは思わずニヤつく自称王太子の右手を左手で払い除け、払い除けた勢いそのままに前へと踏み出す。と当時に、喉元に手刀を浴びせた。
「コヒュ――ッ!」
左手で喉を押さえながら、俺を捕まえようと右手が宙を彷徨う。
膝が落ちて膝立ちになったところで、顔面に回し蹴りを浴びせ意識を刈り取る。
獣人の血を引いているせいで成長が早まり、俺の身長は現在一八〇cm近い。
膝立ちになったら殴りにくく、蹴りを繰り出すしかなかったのだ。不可抗力で気絶させてしまい、本当に申し訳なかった。
「ちょっと! ちょっと! 何やってんのよ!? チクチクと虐めて謝罪させなきゃ勝利したことにならないでしょ!?」
『失敗しちゃいましたーー』
「……怒るわよ?」
『待ってください! 謝罪させればいいんですから、少々時間をください!』
「……少しだけよ?」
『ありがとうございます!』
何で俺が謝らねばいけないのか謎だが……反抗すると後が怖いからな。仕方がない。
「あれれ? 気絶しちゃいましたね? でも勝利条件に気絶は含まれていないので、続行させていただきますね」
「――はあっ!? 卑劣なッ!」
補佐官は必死だが、契約上問題はない。
「劣勢になると卑劣と言うんですね? ご立派だ。まぁ無視しますけどね」
まずは武装解除という建前で全裸にしていく。
「……気でも狂ったのか!?」
補佐官はドン引きしているが、可愛い狼兄弟は初めて食事の手を止め決闘を見始めた。
口元はまだモグモグと動かしているけど、「うんま! これ、うんまっ!」って言うほど、食事に集中しなくなったのはいいことだ。
声が小さいうちにカーさんが声が出てることを注意してくれたが、そのうち大声で話しそうで心配していた。
まぁ本音を言えば、見てないところで可愛さを爆発させるのはやめて欲しいのだ。すごい損した気分になる。
「お次はっと! 地よ、《掘削》」
地面に風呂釜くらいの穴を開けて、自称王太子を穴に入れた。
「ま、まさか……生き埋めにするつもりか……?」
「そんなことしませんよ。謝罪させるつもりですから、楽しく見物していてくれればいいですよ」
「……楽しく……だと……?」
「えぇ」
鞄に手を入れる振りをして《ストアハウス》から肘までの手袋を取り出し、これから使う劇薬のための準備を整えた。
「まずはヘアメイクをさせていただきますね。広がらないように三つ編みを一束作ります」
遠くに座っている観客のために声に出して説明していく。
三つ編みを終えたら、風呂に入るときのように後頭部を縁において体を支えさせる。
「続いて、この薬を振りかけていきます! 体を綺麗にする薬ですよ! 水よ、《創水》」
全身が浸かるように水を足してかさ増しする。
冷たさで起きないように、ぬるま湯をイメージしてから魔術を発動していく。
「顔には薬品を染みこませた布を乗せ、頭部は三つ編みでまとめた部分以外に塗り込んでいきますね」
「――ウッ!」
一瞬起きてしまったが、《雷撃》を強めに浴びせて意識を奪う。
『もしかして……アレかな……?』
ラビくんが薬品の正体に気づいたようで、少し顔を青くさせていた。
「体についた薬品を簡単に流し、二つ目の薬剤を入れて無害化していきますね。そのあとは、しっかりと洗い流していきます」
体の一部に毛皮を持っている獣人は、水に濡れると水を吸って重くなることがあるのだが、彼は重くなかった。
何故なら、頭頂部の三つ編み以外ツルツルだからだ。
辮髪という髪型で、○ーメンマンと同じ髪型をしている。
三つ編みにしたのは一束だけを残しやすくするためで、真似したわけではない。
そもそもレニーたちに頼まれて作った物なのだが、強力すぎて一度の使用で永久脱毛できるほどの劇薬なのだ。
だから、残したいところはまとめておかないと、全て丸ごと抜け落ちることになる。
ラビくんが怯えるのも当然で、触れれば一生ハゲだ。
まぁ欠損を治す回復魔術があれば、治療できるから怯える必要はないんだけどね。
「あー! 拭く物はーーとっ!」
若干棒読み気味で自称王太子の服を使って綺麗水気を拭き取り、手袋といっしょに穴の中に入れて埋め戻した。
「あーーー! 何をするっ!?」
「えーと……汚れたから? 宿に行けばあるからいいでしょ?」
自称王太子は元々獅子の獣人だったのだが、今は頭頂部以外の毛がなくなってツルツルだ。
自慢のたてがみもなく、眉毛も鼻毛もあらゆる毛がない。
観客も「ツルツルだ……」「赤ちゃんみたい……」と、楽しんでもらえていることがうかがえる感想が聞こえてきた。
「うーん……これを借りよう!」
自称王太子の剣を借り、股間側に回り込む。
「彼は王太子という華やかな職業に就いているらしいのですが、今日から彼は宦官になります!」
「――ん? いや……待――」
「――摘出完了」
麻酔不使用でとても痛かっただろうが、《医術》スキルと《手術》スキルを使用したから一瞬で終わらせられた。……傷口はパックリと開いたままだけど。
「うがぁあっぁぁあぁーーー!」
痛みで目が覚めたようで、体を硬直させた状態で叫ぶという器用なことをしていた。
ちょうど口を開けていることもあって、剣の腹に載っている二つの物体を自称王太子の口に放り込み、傷口を塞ぐための回復薬で流し込んだ。
咽せながら飲み込んだ自称王太子の股間は綺麗に治り、状態が固定されてしまった。
固定さえされなかったら吐き出させてくっつけるという方法もあったが、次の治療は切り開いて欠損を再生する回復魔術を使用する必要がある。
ドンマイ。
「「「おうぇええぇぇぇぇーーー!」」」
決闘場にいる者たち全員がもれなく嘔吐いている。鬼畜天使も同様らしく、耳元で文句を言い続けていた。
起きてしまった自称王太子を再び《雷撃》で気絶させ、自称王太子のターンを奪う。
悪いけど、ずっと俺のターンだから。
「次はうつ伏せにしまして、四肢を拘束させていただきます。四つん這いで女豹ポーズをしていると、本物の獅子に見えなくもないですね!」
「まだ続けるのか……?」
「まだ勝敗が決まっていませんので」
地面から槍を二本生やして、根元で折った槍と手持ちのロープで手足を拘束する。
「彼は変身スキルを持っているので、これからとある生物に変身します。何に変身するか想像しながら御覧ください」
鞄で偽装しながら《ストアハウス》から三節棍のような物を取り出し、一本の棒にするように組み立てていく。
先端が刃物になっているわけではなく、スキルの熟練度を上げるために作った蛇の模型だ。
ハイドラとかではなく普通の蛇で、処分に困っていた物である。
「これをこうします! ――えいっ!」
下半身に開いている穴に突き刺した。
痛くないように油を塗って滑りを良くしてあげたのだ。感謝して欲しい。
「なっ! なんてことをっ!」
「またまたーー! 普段からやってるんでしょ?」
「誰がっ!」
「だって、リゾート地に来たのに女性を同伴していないとか……ね?」
「――一緒に来ると問題になるから、後ほど合流するのだッ! おかしな言いがかりをつけるなッ!」
必死だな……。自称王太子の情報を暴露することになったが、男色と誤解されることを天秤にかけて誤解の払拭を選んだのだろう。
無駄だけどね……。
鬼畜天使に目をつけられた以上、運命は決まったも同然だ。俺ですらその運命に逆らえないのに、一般人の自称王太子が逆らえるはずもない。
そもそも俺のサポート役なのに、俺がサポートしている時点で既におかしいから。
『アーク、次は?』
念話が届いたためラビくんに視線を向けると、キラキラした表情で次の展開を待っているようだった。
良かった。楽しんでくれてるみたいだ。
「蛇の尻尾が生えてきましたね! 次は何が生えるでしょうか!?」
拠点に創らされた洞窟迷宮で出た大蝙蝠の羽根を、ロープで固定して背負い鞄式のコスプレ衣装を作っていた。
両腕と胸で固定すれば、背中から羽根が生えているように見えなくもない。
『分かった! マンティコアだ! 人面だし!』
『惜しい! もう一つ変化があるんだ!』
「……あんた酷いことするわねー!」
『タマさんには言われたくないなー!』
ラビくんと話していると、変身先を読んだタマさんが酷いと言いがかりをつけてきた。
鬼畜に言われるとは思わなかっただけに、つい言葉が強くなってしまう。
「……何? あたしが何か酷いことをしているみたいな言い方ねー?」
『…………気のせいですよ』
「ふーん……。まぁいいわー!」
く、悔しい……。アルテア様に言いつけてやる!
「――何?」
『いいえ! では、仕上げをしますので!』
俺とタマさんが話している間、カーさんや狼兄弟はというと、気配を消して巻き込まれないようにしていた。
――助けろよっ! 薄情者めっ!
「最後はコレですっ! はい、ドーンッ!」
森に出た中では珍しい魔物で、毎度空堀の罠にハマる阿呆な魔物である。
毎回死体でしか目撃できず、森のどこに棲んでいるのかすら分からない。リムくんのために捜したのだが最後まで見つける事はできなかった。
「山羊の角ぉぉぉ~!」
服を着るために邪魔な羽根とは違い、角を着ける分には困らないはずだ。
だって、髪の毛が生えているのは頭頂部だけで、他は寂しくなってしまったのだから。
「私は本来獣医なのですが、彼はもう獣に変身してしまったので、獣医の管轄になりますね! こちらを移植させていただきます!」
「――はっ!?」
補佐官の阿呆面を横目に、接着剤をつけた角を両側頭部にくっつけた。
「変身完了でーす!」
少しフライング気味に殴りかかってくる自称王太子だが、大して早くもない大振りの拳打など当たるはずない。
「何を習ったんだか……」
「貴様程度武術を使うまでもないってことだッ!」
「その割には先ほどから一発も当たっていないですが?」
「――うるせぇ! はぁっ……はぁっ……!」
「ほらほら、息が上がってますよ? ――ふわぁ……。失礼」
手を使うことまでもなく足捌きだけで十分かわせる攻撃に、ついつい欠伸が出てしまった。
「――殺してやるッ!」
オークちゃん直伝の足捌きだが、自称王太子相手だと演舞をしている気がしてくる。
見世物としては見物料を取れるのではないか? と思っている。
ちなみに、賭けは当然のように行われており、俺に賭けている人はかなり少ない。
王都に帰らず島に滞在していたアナド商会の船乗りや、カーさんに迷惑料だと唆された酒場の店主に、耳ざとく話を聞いていた者だけだ。
当然、カーさんと狼兄弟は手持ちの現金をベットしており、ニヤニヤと悪魔のような悪い笑みを浮かべていた。
「アーク、巻きなさい!」
トロトロと遊んでいたのが飽きたのか、鬼畜天使から終わらせるように催促された。
だが、俺はラビくんと約束したのだ。
楽しいことを見せてあげると。
「――あっ! ちゃんと手加減するのよ? 人間は親分たちと違って脆いんだから!」
『……分かっていますよ』
ったく。人を何だと思っているのか……。
「――はぁっ……はぁっ……! オラッ! かかって来いよッ! ビビってんのかッ!?」
「疲れてるだけでしょう? まぁそろそろ休ませてあげますよ」
「減らず口をッ!」
向かってくる自称王太子の正面に移動し、自称王子の右フックをあえて《金剛》で受ける。ずっと殴りたそうにしていたからね。
遺恨を残さないように望みを叶え、後腐れなく奴隷になってほしい。
わざと受けたとは思わずニヤつく自称王太子の右手を左手で払い除け、払い除けた勢いそのままに前へと踏み出す。と当時に、喉元に手刀を浴びせた。
「コヒュ――ッ!」
左手で喉を押さえながら、俺を捕まえようと右手が宙を彷徨う。
膝が落ちて膝立ちになったところで、顔面に回し蹴りを浴びせ意識を刈り取る。
獣人の血を引いているせいで成長が早まり、俺の身長は現在一八〇cm近い。
膝立ちになったら殴りにくく、蹴りを繰り出すしかなかったのだ。不可抗力で気絶させてしまい、本当に申し訳なかった。
「ちょっと! ちょっと! 何やってんのよ!? チクチクと虐めて謝罪させなきゃ勝利したことにならないでしょ!?」
『失敗しちゃいましたーー』
「……怒るわよ?」
『待ってください! 謝罪させればいいんですから、少々時間をください!』
「……少しだけよ?」
『ありがとうございます!』
何で俺が謝らねばいけないのか謎だが……反抗すると後が怖いからな。仕方がない。
「あれれ? 気絶しちゃいましたね? でも勝利条件に気絶は含まれていないので、続行させていただきますね」
「――はあっ!? 卑劣なッ!」
補佐官は必死だが、契約上問題はない。
「劣勢になると卑劣と言うんですね? ご立派だ。まぁ無視しますけどね」
まずは武装解除という建前で全裸にしていく。
「……気でも狂ったのか!?」
補佐官はドン引きしているが、可愛い狼兄弟は初めて食事の手を止め決闘を見始めた。
口元はまだモグモグと動かしているけど、「うんま! これ、うんまっ!」って言うほど、食事に集中しなくなったのはいいことだ。
声が小さいうちにカーさんが声が出てることを注意してくれたが、そのうち大声で話しそうで心配していた。
まぁ本音を言えば、見てないところで可愛さを爆発させるのはやめて欲しいのだ。すごい損した気分になる。
「お次はっと! 地よ、《掘削》」
地面に風呂釜くらいの穴を開けて、自称王太子を穴に入れた。
「ま、まさか……生き埋めにするつもりか……?」
「そんなことしませんよ。謝罪させるつもりですから、楽しく見物していてくれればいいですよ」
「……楽しく……だと……?」
「えぇ」
鞄に手を入れる振りをして《ストアハウス》から肘までの手袋を取り出し、これから使う劇薬のための準備を整えた。
「まずはヘアメイクをさせていただきますね。広がらないように三つ編みを一束作ります」
遠くに座っている観客のために声に出して説明していく。
三つ編みを終えたら、風呂に入るときのように後頭部を縁において体を支えさせる。
「続いて、この薬を振りかけていきます! 体を綺麗にする薬ですよ! 水よ、《創水》」
全身が浸かるように水を足してかさ増しする。
冷たさで起きないように、ぬるま湯をイメージしてから魔術を発動していく。
「顔には薬品を染みこませた布を乗せ、頭部は三つ編みでまとめた部分以外に塗り込んでいきますね」
「――ウッ!」
一瞬起きてしまったが、《雷撃》を強めに浴びせて意識を奪う。
『もしかして……アレかな……?』
ラビくんが薬品の正体に気づいたようで、少し顔を青くさせていた。
「体についた薬品を簡単に流し、二つ目の薬剤を入れて無害化していきますね。そのあとは、しっかりと洗い流していきます」
体の一部に毛皮を持っている獣人は、水に濡れると水を吸って重くなることがあるのだが、彼は重くなかった。
何故なら、頭頂部の三つ編み以外ツルツルだからだ。
辮髪という髪型で、○ーメンマンと同じ髪型をしている。
三つ編みにしたのは一束だけを残しやすくするためで、真似したわけではない。
そもそもレニーたちに頼まれて作った物なのだが、強力すぎて一度の使用で永久脱毛できるほどの劇薬なのだ。
だから、残したいところはまとめておかないと、全て丸ごと抜け落ちることになる。
ラビくんが怯えるのも当然で、触れれば一生ハゲだ。
まぁ欠損を治す回復魔術があれば、治療できるから怯える必要はないんだけどね。
「あー! 拭く物はーーとっ!」
若干棒読み気味で自称王太子の服を使って綺麗水気を拭き取り、手袋といっしょに穴の中に入れて埋め戻した。
「あーーー! 何をするっ!?」
「えーと……汚れたから? 宿に行けばあるからいいでしょ?」
自称王太子は元々獅子の獣人だったのだが、今は頭頂部以外の毛がなくなってツルツルだ。
自慢のたてがみもなく、眉毛も鼻毛もあらゆる毛がない。
観客も「ツルツルだ……」「赤ちゃんみたい……」と、楽しんでもらえていることがうかがえる感想が聞こえてきた。
「うーん……これを借りよう!」
自称王太子の剣を借り、股間側に回り込む。
「彼は王太子という華やかな職業に就いているらしいのですが、今日から彼は宦官になります!」
「――ん? いや……待――」
「――摘出完了」
麻酔不使用でとても痛かっただろうが、《医術》スキルと《手術》スキルを使用したから一瞬で終わらせられた。……傷口はパックリと開いたままだけど。
「うがぁあっぁぁあぁーーー!」
痛みで目が覚めたようで、体を硬直させた状態で叫ぶという器用なことをしていた。
ちょうど口を開けていることもあって、剣の腹に載っている二つの物体を自称王太子の口に放り込み、傷口を塞ぐための回復薬で流し込んだ。
咽せながら飲み込んだ自称王太子の股間は綺麗に治り、状態が固定されてしまった。
固定さえされなかったら吐き出させてくっつけるという方法もあったが、次の治療は切り開いて欠損を再生する回復魔術を使用する必要がある。
ドンマイ。
「「「おうぇええぇぇぇぇーーー!」」」
決闘場にいる者たち全員がもれなく嘔吐いている。鬼畜天使も同様らしく、耳元で文句を言い続けていた。
起きてしまった自称王太子を再び《雷撃》で気絶させ、自称王太子のターンを奪う。
悪いけど、ずっと俺のターンだから。
「次はうつ伏せにしまして、四肢を拘束させていただきます。四つん這いで女豹ポーズをしていると、本物の獅子に見えなくもないですね!」
「まだ続けるのか……?」
「まだ勝敗が決まっていませんので」
地面から槍を二本生やして、根元で折った槍と手持ちのロープで手足を拘束する。
「彼は変身スキルを持っているので、これからとある生物に変身します。何に変身するか想像しながら御覧ください」
鞄で偽装しながら《ストアハウス》から三節棍のような物を取り出し、一本の棒にするように組み立てていく。
先端が刃物になっているわけではなく、スキルの熟練度を上げるために作った蛇の模型だ。
ハイドラとかではなく普通の蛇で、処分に困っていた物である。
「これをこうします! ――えいっ!」
下半身に開いている穴に突き刺した。
痛くないように油を塗って滑りを良くしてあげたのだ。感謝して欲しい。
「なっ! なんてことをっ!」
「またまたーー! 普段からやってるんでしょ?」
「誰がっ!」
「だって、リゾート地に来たのに女性を同伴していないとか……ね?」
「――一緒に来ると問題になるから、後ほど合流するのだッ! おかしな言いがかりをつけるなッ!」
必死だな……。自称王太子の情報を暴露することになったが、男色と誤解されることを天秤にかけて誤解の払拭を選んだのだろう。
無駄だけどね……。
鬼畜天使に目をつけられた以上、運命は決まったも同然だ。俺ですらその運命に逆らえないのに、一般人の自称王太子が逆らえるはずもない。
そもそも俺のサポート役なのに、俺がサポートしている時点で既におかしいから。
『アーク、次は?』
念話が届いたためラビくんに視線を向けると、キラキラした表情で次の展開を待っているようだった。
良かった。楽しんでくれてるみたいだ。
「蛇の尻尾が生えてきましたね! 次は何が生えるでしょうか!?」
拠点に創らされた洞窟迷宮で出た大蝙蝠の羽根を、ロープで固定して背負い鞄式のコスプレ衣装を作っていた。
両腕と胸で固定すれば、背中から羽根が生えているように見えなくもない。
『分かった! マンティコアだ! 人面だし!』
『惜しい! もう一つ変化があるんだ!』
「……あんた酷いことするわねー!」
『タマさんには言われたくないなー!』
ラビくんと話していると、変身先を読んだタマさんが酷いと言いがかりをつけてきた。
鬼畜に言われるとは思わなかっただけに、つい言葉が強くなってしまう。
「……何? あたしが何か酷いことをしているみたいな言い方ねー?」
『…………気のせいですよ』
「ふーん……。まぁいいわー!」
く、悔しい……。アルテア様に言いつけてやる!
「――何?」
『いいえ! では、仕上げをしますので!』
俺とタマさんが話している間、カーさんや狼兄弟はというと、気配を消して巻き込まれないようにしていた。
――助けろよっ! 薄情者めっ!
「最後はコレですっ! はい、ドーンッ!」
森に出た中では珍しい魔物で、毎度空堀の罠にハマる阿呆な魔物である。
毎回死体でしか目撃できず、森のどこに棲んでいるのかすら分からない。リムくんのために捜したのだが最後まで見つける事はできなかった。
「山羊の角ぉぉぉ~!」
服を着るために邪魔な羽根とは違い、角を着ける分には困らないはずだ。
だって、髪の毛が生えているのは頭頂部だけで、他は寂しくなってしまったのだから。
「私は本来獣医なのですが、彼はもう獣に変身してしまったので、獣医の管轄になりますね! こちらを移植させていただきます!」
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