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第二章 一期一会

閑話 期待からの職業授与

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 私の名前は、『ノア・フォン・ピュールロンヒ』。
 かの偉大な勇者『ノヴァ』の名前を基に名付けられた、今代の神子である。

 私は永らく不治の病に冒されていたが、【魔王】が我が伯爵家からいなくなった日に完治した。
 【魔王】が誕生してから何もかも上手くいかず、苦しい思いをしてきた。

 しかし【魔王】が死んでからは、《棒術》スキルを習得したり地獄のような訓練を課す叔父が王都に帰ったりと、全てが良い方向に進み始めたのだ。

 つまり、私が他の者の不幸を集め負担していたおかげで、彼らはいつも通りの日常を送れていたということである。

 神々もようやく私の苦労や善行を認めてくださり、成人の年に職業を授与することを神託で告げてきたそうだ。

 もう……私に直接言ってくれてもいいのに……。もう少し親子の時間を大切にしよう?

 下界の代理母は融通が利くけど、代理父は暴力を振るう虐待防止法違反者なんだよ? 可愛い息子をもう少し心配してくれてもいいのにな。

 まぁ職業を与えるのが遅くなってしまったから、合わせる顔がないとでも思っていそうだけどね。
 勇者よりもすごい職業を与えたくて時間を引き延ばしたことを理解しているから、そこまで気にしなくていいんだけどね。

 それにお父様も儀式のときに火属性をくれるだろうしね。

 あっ……。言葉が幼児退行しちゃった!

 普段大人っぽくしているけど、もうすぐ本当の両親に会えるんだもん。

 ……少しくらい甘えてもいいよね?

 愛してるよ。お父様、お母様!

 ◇

 今日は私の晴れ舞台だ。

 魔王は始末したから【勇者】の職業は必要ないだろう。きっとそれ以上の職業を与えられるはず。

 もしかして【現人神】とか……?

 うん、悪くない。むしろ、それ以上の職業が思い当たらないくらいしっくりくる。

「ノア、王都から大司教が来ている。失礼のないようにするんだぞ」

「父上、失礼なことをするはずないじゃないですか」

「……そうか。お前も成長したんだな」

「もちろんですよ」

 父上は本当に成長しないな。神子がすることは全て神聖な行いであり、失礼に当たるわけがない。
 逆にお礼を言って来るはず。
 さらに言わせてもらうなら、神子である私に失礼を働かないかを心配していてほしいものだ。

 まぁ今日は全てを許そう。

 私が神になる素晴らしい日になるのだ。つまらないことで水を差すこともないだろう。

 私は毎回儀式の大トリを務めている。

 今回も同様だが、何故か隣に大司教と呼ばれている爺さんがいるのだ。
 しかも、【魔王】ですら認めた素晴らしい祈り方を顔をしかめて見ている。……何と失礼なヤツだろうか。

 一言言ってやろうと思った瞬間、神像が光り輝いて私に光を当てた。
 叱責のタイミングを逃してしまったが、今は儀式の方が重要である。

 私を迎えに天から降りてくるだろうと待っているが、どちらも一向に現れない。

 もしかして……まだ気にしているのだろうか? 本当に気にしなくていいのにな。
 ほら、私の胸に飛び込んでおいでよ。仲直りしよう! 儀式の時間が許す限り、親子の時間を楽しもうよ! ねっ!

 ……あれ? おかしいな? 私の言葉は届いているはずだけどな。

「……創造神アルテアより、神子の職業を与える任を負いましたので、早速説明させていただきます」

 再度話しかけようとしたところ、天からではなく正面から声が聞こえて来た。
 お父様もお母様も代わりを寄こすなんて……。仕方がないなーー。

 親子の対面を他人が邪魔するなと思わなくもないが、お父様とお母様が寄こすくらいだから有能ではあるんだろう。

 今回はペチャパイ天使で我慢しようではないか。

「おぉ! ついに我が願いを聞き届けてくださったか! 苦節十一年……とても長い時間でしたが、努力を怠った日は一日たりともないと断言できます! さぁ、ここまでの試練を与えたのです! 素晴らしい職業を授けるためだったのでしょ?」

「違――「えぇ! 分かってます! タダで素晴らしい職業を与えられないということですね!」」

「こ、これ! まだ天使様の託宣の最中であろうがっ! 静かに待っておれ!」

 そういえばそうだった。
 何故か隣に爺さんがいたんだった。
 まさかこの神聖な空間にまでついてくるとは思わなかったけど。

 ペチャパイ天使も無能なのか?
 爺さんを連れて来るとは……。
 神子である私が許可していないのだから、下界に置いてくるのが普通だろうがっ!
 こんな簡単なことも分からないかなーー?

 もう我慢の限界だッ!

「はぁ……。やれやれ! 私は神子ですよ? 下々の民とは位が違うのですよ。あなたに許されなくとも、私には許されるのですよ! それに何故、あなたがここにいるのですか? 私の職業授与の儀式で、神子に託宣を下す場に一般人が入るでない! 出て行け! それに何故女神様ではなく、ペチャパイ天使なのだ!? 私の好みを分かっておられない! 女神よ、息子が来ましたよ! 子どもの顔を見に来て下さい!」

「――や、やめんかっ! 親は誰だ!? 何故ゆえ、このような無礼なことを許していた!? 信じられん!」

「はぁぁぁ……。ですから、母親は女神アルテア様です。父親が誰かと言えば、私を見れば分かるでしょう?」

「……分からないから聞いている」

「はぁぁぁぁぁぁぁーー! 火の大精霊様しかいないでしょう!? この赤い髪を見て分かりませんかね!?」

「分かるかぁぁぁぁぁ! それに貴殿は、獣人族ではないか! 寝言は寝て言え!」

 ボケ老人がッ! 貴様が寝ろッ! そして永遠に目覚めるなッ!

「次、ペチャパイ天使と言ったら殺す」

「「……」」

 ペチャパイ天使は静かに神子の説法を黙って聞いており、精進しようとする気持ちがあるんだなと感心していた。
 なのに、呼び方が気にいらないからと言って凄まじい殺気を放ってきたのだ。

 神子に殺気を放つとは……。

 お父様、お母様……。コイツは堕天使ですよ! きっと【魔王】の手先です! 今の内に処分することを勧めます!
 ……まぁ呼び方は一応変えてあげましょう。私は寛大ですからね。

「大司教を呼んだのは重要な報告があるからです。神子一人で理解できれば呼んでいないです。世界の人間に関わることです。ミスは許されないということを肝に銘じなさい」

「……御言葉ですが、私を馬鹿と仰るのですか?」

 このクソ天使ッ! 私を馬鹿扱いするとはッ!

「違うというのなら、【魔王】とは何か答えなさい」

「神子に害をなす存在を【魔王】と称するのです! 私のすぐ近くにいました! 討伐していれば、今頃私は神になれたことでしょう!」

「違いますね。大司教、あなたを呼んだ理由が分かりましたね。職業の授与以外は、全てあなたに対する託宣だと思って聞きなさい」

「はっ! 光栄の極みです!」

「よろしい!」

 はぁ!? 無能同士ゆえに何か通じるものでもあったのか知らないけど、【魔王】の正体を誤解したまま話を進める気か!?
 クソ天使は【魔王】の手先だから情報を撹乱しようとしているのだ。こんな簡単なことが何故分からん!

「神子の職業は超級職である【守護騎士】です。現在、一日たりとも努力を欠かしたことがない神子のスキルは、種族特性の《棒術》と《体術》がそれぞれ四、ユニークスキルの《性技》が三の他に、基礎系のノーマルスキルが少々と言ったところでしょうか」

「――え? はっ? 成人ですよね? 一日も努力を欠かさなかった割りには少なくありませんか?」

「《言語》や《算術》は年相応の五はありますから御安心を」

「い……いや、そうではなく……」

「……分かるでしょう? ユニークスキルの《性技》は種族特性ではなく派生スキルなので、何を努力してきたのかということを。神々は常に見ていることを忘れないようになさい。恥ずかしげもなく、努力をしていると言う者ほど信用できません。本当に努力をしている人は、毎日とことん努力しても満足していません」

 私の心配をよそにドンドン話が進み、ついに私の職業が明かされた。
 だが、おかしいな? 今、騎士と言わなかったか? 私は神子だが?

 ちょっと待て……。そんなわけがない……。そんなわけがないッ!!!

「――はっ? ……私が……この神子である私が……たかが騎士……? 騎士など、どこにでもいるではないか! 私は神子だ! 神子なのだ! 騎士で終わる器ではない! そもそも最低でも勇者だろうがっ! そ……それが……それがぁー、何故騎士なのだ! おかしい! おかしい! おかしいだろうよぉぉぉ!」

「……大司教、話を進めます」

「え? は、はい……」

 おいッ! 聞けよぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!
 何で声が出ないんだよぉぉぉぉぉぉぉ!

「来年の新年祭の三日目に、異世界から勇者が召喚されます。勇者たちは男が二人と女が一人の三人で、全員が十六歳です。職業は三人とも超級職になります。【勇者】【賢者】【聖女】です。……何故あなたを呼んで、来年のことを話したか分かったようですね?」

「【聖女】のことですね?」

「そうです。本来神子が【勇者】をして、教会が選抜した神官を数人の【聖女】に育て上げ、その中の一人を勇者に同行させます。しかし、今回は不要になりました。本来は公募や冒険者に依頼を出して同行してもらう、【賢者】【騎士】【盗賊】の三人のうち、【賢者】以外の二人をこの世界の者で構成して、【魔王】を討伐または封印してもらいます」

 ――はっ!? 何だよ! 私以外の勇者って何だよ! どういうことだよ!

「つまり、神官から【盗賊】を選出して欲しいということですか?」

「違います。もう選出しています。総本山がある【光輝神国ヘリオス】にいる『マリア・フォン・クリュプトン』という、今年成人を迎えた女性神官が選出者です。何故か・・・彼女だけが一般職だったので、盗賊系の超級職【怪盗】に変更できました。あと一年しかありませんが、二人は光輝神国ヘリオスで習熟してもらい、異世界人たちを導く存在になってもらいましょう」

「あ……あの……超級職なのは分かりましたが……スキルは……?」

 そうだっ! スキルがあった! スキルがすごいんだろ!?

「突然の変更で迷惑をかけてしまうので、本来勇者だけの聖武具を五人分用意させます。【長剣】【長杖】【棍棒】【大盾】【短剣】です。勇者や守護騎士が盾や槍など他の武器を欲しがるなら、自分たちで用意してください」

「えっと……【大盾】? この体で?」

 おいッ! クソジジイッ!
 どういう意味だッ!?
 無駄を極限まで削り落とした素晴らしい体という意味だよな!? 悪口じゃないよな!?

「おまけで、各個人にノーマルの職業スキルを贈ります。さらに授与が遅れたお詫びとして、適性属性が無属性しかない守護騎士に光属性をあげます。結界くらいは覚えてください。以上です」

「ノーマルの職業スキルですか……。騎獣を希望された場合は……?」

 騎獣は神獣や霊獣を用意するのが基本だろ!? 最低でもフェンリルを用意しろよッ!

「自前でお願いします。――あぁ、あと『神の意志だ!』という、意味不明なことを口走って冒険者や商人など、民を蔑ろにする行為をしないように。先ほども言いましたが、見てますよ? 【魔王】に殺されるのと、【神】に殺されるのは同じですよ。両方とも同じ死ですからね。周知徹底をお願いします。その異常者の対処のついででもいいので。では、さらば!」

「そ、そんなぁぁーー!」

 ふざけんなぁぁぁぁ!
 このクソ天使がッァァァァァ!

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