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第二章 一期一会

第七十三話 救助からの注文販売

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 走り出してすぐに《魔力探知》《気配探知》《生物探査》を発動する。そして気づく。

「……モフモフじゃない」

「モフモフだよ! 獣人だもん!」

「……」

「アーク! もっと早く走れることを知ってるんだよ?! 全速力で走らないと怖い師匠たちに怒られるよ!?」

 言わなきゃいいじゃんという言葉を飲み込み、全速力で走る。

 ――《疾駆》で駆け出し。
 ――《瞬発》で地を蹴り。
 ――《縮地》で前方に跳ぶ。

 常に《身体強化》を行い、スキルの多重起動で移動する。ジャガーくんの速度に対応するために開発したものを、何故ラビくんが知っているのだろうか。

 不思議なことが多いラビくんは、俺の後頭部にプヨプヨモチモチのお腹を押しつけてはしゃいでいる。

「リムくんとは違った楽しさだね!」

「……馬車が見えるよ」

「馬車の前に出て、馬車を止めよう!」

「……ラジャー」

「ほら! やる気出して!」

 やる気はある。後始末が面倒だと思っただけで、助けようという気持ちは持っている。

 どうやって止めようかなと思いながら、馬車を追い越して前に出る。声が届く範囲に立ち止まり、お馬さんに向かって声をかけた。

「お馬さんや止まってくれるかな?」

「あぁ? 何だアイツ?」

「構わん! 引いちまえ!」

止まれ・・・と言っている」

 少しだけ《威圧》を込めた言葉に馬が反応したため、馬車が急停止する。

「おい! 何で止めた!」

「知らん! 勝手に止まったんだ!」

「クソッ! おい、小僧! 今なら見逃してやる! どけっ!」

「見逃さなくて結構です。――外にいるのは四人か。後ろに一人と、上に一人ね。御者台には二人か」

「おい! 俺が始末したらすぐに出せ!」

「分かったよ!」

 リーダー風の短剣使いが降りてくる。

「カッコいい正義感を持ったがために早死にするんだ。来世では大人しくすることだな」

「……騙されただけなんだけどね」

『ごめんって!』

『怒ってないよ。でもあとでモチモチの刑だからね!』

『仕方がない! 甘んじて受け入れよう!』

「ビビってんのか? すぐに楽にしてやる! 安心しろ!」

「いえ、全く」

 三年で《手探り》から昇格した《念動》で、リーダーの足元にある石を動かす。死角からアッパーのように打ち出された石をアゴで当て、何もさせず一撃で倒す。

「安心させてくれるんじゃなかったのかよ。……指揮官は潰しておくか。リスクは減らすに限る!」

 リーダーに近づき、首の骨を踏み折った。こっそりと神器を使い、《短剣術》を回収するのも忘れない。

「マジか……マジか……。やられちまった……!」

「次はあなたの番です。お馬さんも動かないでね」

「「ブルルッ……」」

 御者台の男に近づくと、頭上から矢が放たれる。《身体硬化》を発動した手で払い、石を《投擲》と《狙撃》を使用して投げつける。

 弓を放てないように肩を狙い、あわよくば屋根から落ちてくれないかなとも思っていた。

「ウギャッ――」

「ゴブリンの従魔?」

『……人間だよ』

『だって声が……』

『叫び声だよ! 痛かったんだよ!』

『……なるほど』

 痛がっているなら、とりあえずは放置しておこう。それよりも御者台の男と、被害者を盾にしようとしている馬車の後ろにいる男か。……後ろが先だな。

 ――《瞬発》
 ――《縮地》

「は? お前……前にいたんじゃ……」

「いました」

 と言いつつ、蹴り飛ばして転がしておく。最後に御者台の男を片付ければ、制圧完了である。

「御者台の方、投降すれば痛くないですが、抵抗するなら股間を潰します。三秒で決めな!」

『何それ?』

『とあるおばさんのオマージュだよ』

『漫画ある?』

『買っとくね!』

『よろしくーー!』

「投降する! た……助けてくれ!」

「よろしい。御者台から降りて地面に座っていてください。逃げたら足を飛ばします」

「うぅぅ……何でこんなことに……」

 馬車の後ろに行き被害者を出してあげようとするも、扉には鍵付きの鎖が巻き付けてあった。

「うーん……面倒だな」

 鍵を探すのが面倒で、そのまま掴んで引きちぎった。

『……ついに、人間やめちゃったんだね……。ぼくは悲しいよ!』

『失礼な。やめてないよ! スキルを使ったに決まってるじゃん! 技名もあるんだよ!』

『……なんて言うの?』

『《ベアクロウ》』

『だと思った!』

 分かっていても付き合ってくれるラビくんに感謝しつつ、馬車の後部扉を開ける。あらかじめ感知していたとおり、三人の女性がいた。

「助けに来ました。一人ずつゆっくり降りてください」

「ほ……本当に……?」

 ん? どこかで見たことがある顔だけど、どこだっけな?

「本当ですよ。四人の男は制圧しました」

「お嬢様」

「えぇ……」

 ……面倒の予感。お嬢様と呼ばれた女の子が最初に馬車から降りた。やることがあるがあるから、お嬢様に声をかける。

「お嬢様、その首輪に触ってもよろしいですか?」

「えっ? これは隷属の首輪で……」

「えぇ、知ってます。今取りますので、動かないでくださいね」

「――えっ? なんて――」

 魔核に圧縮した魔力を付与して砕き、首輪を外していく。二人目のお嬢様と呼んでいたメイドにも同じ事をし、救出任務を終了する。

 え? 三人目はどうしたかって?

 まだ馬車の中にいる。人狩りの女首領だから。誰も被害者を装った首領がいるとは思わないだろうから、よく考えられていると感心してしまった。

「えっと……あたいは?」

「あたいさんは、自分の馬車なんだからゆっくり寛いでください。首輪の魔核も魔力切れですから、効果はありませんしね」

「ちょっ……ちょっと! あたいが人狩りだって言うの? あり得ないんだけど!」

「あり得ないと言うのなら、証拠をお見せしましょう! 御者のおじさん、あたいさんの首輪を外してください!」

「はっ!? あんたができるんだから、あんたがやればいいでしょ?」

「誰も鍵を使うなんて言ってないでしょ? 鍵を使わずに外そうとすると、電撃が体を走る仕組みになっているんでしょ? その痛みは気を失うほど痛いそうですね。そこで彼が、あたいさんの首輪を無理矢理外そうとします。あたいさんは気を失い、見事に潔白を証明できるというわけです。……首輪が本物ならば」

「――クソがっ! 死ね!」

 図星を突かれてキレたあたいさんは隠し持っていたナイフを出して、そのまま突進してきた。

「さようなら」

 今更体当たりくらいで慌てるはずもなく、馬車の扉を閉めて盾にする。あたいさんはなすすべなく扉にぶつかり、扉を開けたときには気を失っていた。

 武装解除という名の全裸にし、周囲の護衛や死体と一緒に、人狩りの服で作った即席ロープで拘束して、馬車に放り込んでおく。証拠の首輪と武器や所持品は、同じように作った即席収納袋に入れて御者台に置く。

 馬車の扉には鎖を巻いておいた。引きちぎったから鍵はないけど、中からは開けることはできまい。

「あ……あの……」

「メイドさん、馬車は動かせますね? 二人で御者台に乗って町に戻ってください。西に行けば今日中には着きます」

「あ……あの……」

「では、失礼します」

『アーク、呼んでるよ?』

『……知ってるよ』

『え? 無視? 美少女の呼びかけを無視するの?』

『チッチッチ! 美少女じゃなくて貴族の呼びかけだよ!』

『……勝手に《鑑定》するのはよくないと思うよ!』

『隠す気ないから大丈夫だと思うよ! 木っ端貴族ならまだしも、公爵家は無理だ。今関わっては、この九年が無駄になる!』

『でも逃げられないと思うんだ!』

 何で? と聞こうと思ったら、服を握られていた。逃げられないように……。

「どうしましたか? 急がないと危のうございますよ」

『どうしたの?』

『子どもが一生懸命敬語を使っている風に演技しているんだよ!』

『なるほど! 新作コントだね!』

『違うわ!』

「助けていただき、本当にありがとうございました!」

「痛み入ります」

『ふっ……!』

 ラビくんの娯楽になってしまっているが、無難に答えて素早く立ち去りたいのだ。多少笑われるくらい我慢しよう!

『紫……もっと濃いから紫紺色の巨乳兎美少女だね! 瞳も紫なんて珍しいなーー!』

『……仲間だね!』

『酷いよ! ぼくは、お・お・か・み!』

 後頭部をペシペシと叩き抗議をするラビくん。

『美少女だとは思うけど、俺は胸にこだわりはないんだよ。それぞれ個性があっていいと思う!』

『災害級の喧嘩を怖がって自分を変える必要はないんだよ?!』

『本当だから! 胸フェチじゃないし!』

『じゃあどこ?』

『今はいいでしょ?!』

「あの……お店の男の子ですよね?」

 あぁ……どこかで見たと思ったら、最後の方に来たお客さんだ。ぬいぐるみと蛙石のアクセサリーを買うかどうか迷って、最終的に買わなかった人たちだ。

「はい。お店に来て下さいましたよね」

「はい。えっと……あの……」

「お嬢様、頑張って!」

「お……大きいぬいぐるみはありますか?」

「――え? あぁ……、あの羊を着た熊が最大の大きさです」

「そ……そうですか……」

 絵に描いたようにションボリしてしまった。ラビくんみたいに耳がへにょりと垂らし、肩をガックリと落とす姿がなんか笑える。ラビくんも腹をプルプルさせて、笑いを堪えているようだった。

「……どのようなぬいぐるみが欲しいのですか?」

「え? えっと羊を被った熊さんが欲しいです!」

 親分風の熊さんに羊を被せた力作ね。……デフォルメしたのに、怖い顔を再現したから全く売れなかったヤツね。白虎ちゃんには受けたのにな……。

「二倍の大きさなら売れます」

「本当ですか!?」

「えぇ。ただ、今出してもどうやって運ぶんですか?」

「ダリアがいます!」

「……収納持ちですか? なら大丈夫そうですね。羊の色は何色にしますか?」

「選べるんですか?」

「えぇ。好きな色を言ってみてください」

「む……紫がいいです!」

「お嬢様……」

 何故か悲しそうな顔をするメイドさん。ドM勇者が嫌いなのかな?

「濃い紫ですか? 淡い紫ですか? それとも鮮やかな紫ですか?」

「えーと……」

「淡い紫が可愛いと思いますよ。元々は白い毛ですからね」

「じゃあそうします!」

「次に何色の熊さんがいいですか?」

「――え!?」

 その後、馬車を動かしながらフルオーダーのぬいぐるみを作製していった。お嬢様は羊が脱着できると聞くと大いに喜び、羊の上から着れる鎧みたいなものはないかとも要望を出し始めた。

 この間、俺は犯罪者の逃亡を警戒して歩いているわけだが、何故かお嬢様も歩いている。視線は常にラビくんに向いており、ずっと触りたそうにしていた。

 最終的に、紫紺色の熊に淡い紫の羊を被せた戦士を創った。王子も騎士も興味がなく、戦士がいいと言っていたのには何かしら理由があるかもしれない。しかし、詮索はタブーである。

 どうやって創ったかというと、《セクション》がレベル二になり《ワークショップ》が使用可能になった。

 これは《カタログ》で商品を選択した後、価格次第で仕様変更が可能になるのだ。その他に、修復可能なおもちゃや本を修理改造してくれる。

 ぬいぐるみの色や姿はここで変更した。

 次に、レベル三になって使用可能になった《エクスチェンジ》だ。価格次第で素材変更や大きさ変更が可能になる《セクション》である。

 つまりお嬢様に売るぬいぐるみは、異世界初の【トイストア】製のおもちゃというわけだ。

 身の丈以上の木製のハルバードを持った、二メートルのぬいぐるみが木箱の中に立っている。スキルで創ったぬいぐるみは、モフモフフワフワの極上品である。

 仕様変更は項目一つにつき+一万である。今回は色を二回変えただけだから二万フリムである。
 自作したことがあるおもちゃは《カタログ》に追加されるらしいが、スキルの習得はできない。しかし、今回みたいなときには助かる機能である。

 大きさ変更は会計直前しかできない。大きさを変えたら仕様変更は不可能になるが、仕様変更までにかかった金額の一.五倍の追加で二倍の大きさになる。

 今回はぬいぐるみ自体が十万で仕様変更が二万、合計で十八万フリムになる。これが仕入れ価格になるわけだから、六十万フリムで売ろうかと思っている。

 何故なら、【トイストア】製のおもちゃは劣化防止の付与並みに長持ちするからだ。それにオーダーメイドだしね。公爵家なら安いと感じるかもしれないけど、メイドさんに高いと流布されても困る。

「ハルバートを立て掛ける器具もついております。さらに多少なら立ちます。足が短いですからね。劣化防止の付与がついていますが、定期的な浄化をオススメします。金額は金貨六枚になります」

「買います!」

「お買い上げありがとうございます」

 力作が初めて売れて大満足である。

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