59 / 116
第二章 一期一会
第五十五話 白虎からの獣神降臨
しおりを挟む
突然の襲撃者の正体は、大型の白虎だった。
「もしかして……白虎ママ……?」
「グルルルァァァァァーーー!」
返事ととっていいのかな?
「ナァーーウ!」
「グルル……グルガァァァ!」
こういうときのための通訳士ではないかな? 何してるのかな?
「ワニジャーキー美味いね! お酒が欲しくなるーー!」
「ガウーー!」
おやつ食べてる……。
一撃で大木をなぎ倒した猛獣がいるのに……のんきにおやつ食べてるとか……。大物従魔は違うな……。
「グルガァァァーー!」
「おっと! 現実逃避してる場合じゃなかった!」
絶え間なく続く攻撃を反撃せず避け続ける。俺には敵対する意志などないからだ。だから少しだけ話を聞いて欲しい。
「お子さんはこの通り無事です! すぐにママさんに返したいと思ってます! しかし、攻撃されては返せません!」
白虎ちゃんを掲げながら主張してみた。
『我が子を盾にするとは……いい度胸だな!?』
……逆効果だった。
しかも念話できるのか。それなら話ぐらい聞いてくれや。
「白虎ちゃん! ママを説得してくれ! ラビくんが食べてるものと同じものをあげるから!」
「ナウ?」
「本当だよ!」
「ナァーウ! ナウ! ナウナウ!」
「グル……?」
止まった! チャンス到来!
「ほら! ママのところにお行き!」
「ナァーウ! ナウナウナウーー!」
白虎ママの体を前足でポムポムしながら説得しているおかげで、白虎ママが落ち着き始める。俺はすぐに、のんきにおやつを貪っている通訳士を確保しに行き、白虎ママへの通訳を頼んだ。
念話ができるといっても、実際に使って話してくれるとは限らないのだ。
何故知っているかというと、親分がそうだからだ。親分も念話ができるらしいが認められていないのか、一度も使われたことはない。それゆえ、親分の言葉は《心話》スキルと《念話》スキルによる傍受で、単語くらいしか分からない。
オークちゃんは使ってくれるから分かりやすい。基本的に優しい師匠なのだ。
では、目の前の白虎ママはどうかというと、きっと親分タイプだろう。似たような空気感があるし、何より出会いが最悪すぎた。
「ぼくの名前は『ラビ』です。幻獣ですから仲間ですね!」
「ガル!?」
「幻獣です! お話ができる幻獣なのです!」
幻獣かどうかは今は良くないか? 早く誤解を解いてくれよ……。
「ガル……」
「よろしい! さて、ぼくたちはエントのレニーさんを通して、幻獣が危機に遭っていると聞いて救助に来たのです! 悪い奴らは馬車の中にいます! 報復は必ずやりますが、ここではできない上に用事もあるので移動しなければいけません! 早速移動しようと、白虎ちゃんがお礼を言いにアークに抱っこされているところにママさんが来たのです! 彼は【武帝獣】の子分で、ぼくの従魔契約者です! 悪い人間ではないので襲わないで欲しいのです!」
『【武帝獣】が人間を!?』
話の流れから察するに親分のことだよな? あれが種族につく二つ名か? カッコいい!
「そうです! この領域に侵入してまで助けに来たのは、彼との約束があったからだそうです!」
『それにシ……ラビ殿の契約者……。では、先ほどの魔力は……!?』
「アークだよ! アークはモフモフが大好きだからね! モフモフを捕まえるヤツらを許せなかったそうです!」
『モフモフとは?』
「毛皮のことです! さらに言うと毛皮持った獣のことです!」
『【武帝獣】も……?』
「まぁそうだけど、念願は叶ってないみたいだよ」
『……そうか。あの魔力はあの人間が……』
「魔力がどうしたの?」
『アレのおかげで薬から目が覚めた。魔力の発生源を辿ったおかげで息子に会えた。……危うく殺してしまうところだったか。すまないことをした。そして、息子や領域の幻獣を助けに来てくれてありがとう』
まさかのオークちゃんタイプ……。母親だからかな?
「いいんですよ。子どもを連れ去られれば誰でも敵に見えますもんね。俺もラビくんたちが連れ去られたら、疑わしいだけで殺すかもしれませんから。それより薬を使われたなら万能薬を使いますか? たくさんあるので、他に被害を受けたモフモフがいれば使ってください」
正直怖かったけど、親分の威圧を受けたことがあるから正気でいられた。それにワニさん効果もあって回避できたから怪我もない。おそらく薬のせいで鈍かったのだろうが、運も実力のうちと言うから良しとしよう。
本音を言うならモフモフに嫌われたくない。
よって、ネチネチ言わない。その分、味わった恐怖は囚人共にぶちまけさせてもらう。
『すまない。助かる』
「エントさん、ちょっと行ってくるから馬車を逆向きにしておいて」
「任された」
「ありがとう!」
なんせ俺は馬車を動かせないからね。
『こっちだ』
「ナァーウ!」
「あぁ、おやつか。はい、どうぞ。ワニジャーキーだよ! ママさんもどうです? 薬を飲んだ後の口直しに!」
『頂こう!』
「ナァーウ!」(うまぁ!)
おっ! 傍受できるようになったぞ。親密度が上がったってことか。めちゃくちゃ嬉しい。頑張ってワニを倒したかいがあるってもんだ!
帰ったら迷宮産岩塩でワニジャーキーを量産せねば……。そしてモフモフに食べてもらって仲良くなろう。
「ぼくにも追加を求む!」「ガウーー!」
「通訳お疲れ様でした。二人ともお納めください!」
「うむ。苦しゅうない!」「ガウ!」
『ここだ』
「では、少々お待ちを。白虎ママもそちらへ集まってください。回復魔術を使用しますので」
『……まとめてか?』
「はい。すでに二回ほどやりましたので大丈夫ですよ」
処刑用とは別の清潔なバケツに万能薬を入れ、特濃魔力水を少し入れる。
「《操水》」
初めて《詠唱破棄》を使ってみたが、思いの外スムーズに使えた。魔術の強度や操作性には変化はないが、発動速度が段違いだ。
「水よ、癒やしと安らぎを与え、生命を回復せよ《水龍の祝福》」
さすがに規模がデカい魔術になると出力の操作や安定化が必要で、詠唱した方が魔術を発動しやすい。でも、毎回回復魔術の度に水龍を出してたら面倒事になりそうだから、別の回復魔術を創ろうかな。
『これは……。すごいな』
「首輪がある子はいないね。よかった」
「ガァーーウ!」「ピュオ!」「ブモ!」
「みんなお礼を言っています!」
「どういたしまして! 可愛いなぁ!」
さて、この子らの親が来て悪夢を見る前に退散しよう。エントさんも待っているだろうしね。
「ではこの辺で!」
「ナァーウ!」(また遊ぼうね!)
「今度はドロンがあるときにね!」
「まったねーー!」「ガウーー!」
『必ず会いに行く!』
帰りはリムくんに乗せてもらいました。御褒美というか、ドロンの採取をしたいそうだ。諦めてなかったのか……。
「エントさん、お待たせーー!」
「早かったな。それでどういうルートで帰る?」
「確か馬車が通れる領域って、北回りだけだったよね?」
俺が初めて洞窟に行ったときの道だ。森の小道と呼んでいた場所は東側だけど、今いる場所からは北から回り込むしかないし、他は馬車が通れるような場所ではない。
「ではドロンと薬草の群生地を通りつつ、北から東へ抜ける道を辿るということでいいか?」
「お願いします!」
「うむ」
◇
道すがら白虎ママや侵入者たちが切り倒した木々を回収しては、森魔術で保護をしていく。エントさんに頼まれたということもあるが、車輪の跡がついていたりすると侵入者の道標になりそうだったからだ。
「うわぁぁぁーー! ドロンだぁぁぁ!」
ようやく群生地に辿り着いたとき、ラビくんは壊れたようにはしゃいだ。ドロン酒は熟成とかないから、材料があればすぐに飲める。
そう、材料があれば。
目の前に山のように材料がある今、ドロン酒依存症患者たちが正気を保っていられるはずないのだ。
「今はまだ無理だよ。ナイフにスキルが入っているから封印状態になっているからね。それに魔水晶タンクを作ってないからね」
「じゃあ早く帰らないとね!」
「ガウガウ!」
「それなら、ラビくんは数株の陰陽草をプランターに詰めていってくれない? 最後に魔力水をあげれば収納できるからさ」
「はーい! 陽光樹は?」
陽光樹はドロンと違って挿し木じゃ増えなかったんだよな。だからといって栽培法は知らない。希少素材の育成法は一般公開されないからだ。
伯爵家の書斎にもなかったから、公爵家以上でないと持ってないと思われる。
「あれは若木を探している最中だから葉っぱだけでいいかな。葉っぱは馬車に積めるだけね。取りすぎないようにね!」
「はーい! 任せて! リムくんは警戒よろしくね!」
「ガウ!」
「吾輩は?」
「葉っぱの採取をお願いしようかな!」
「了解だ、ラビ殿」
俺は熟したドロンの果実を手早く採取していく。終わり次第、陰陽草の採取に移らなければいけないからだ。
果たしてこのうち何割がお酒になるのだろうか。ドロンの干し果実、特に半生に挑戦したいから全部はやめて欲しい。多数決で決めるのもやめて欲しい。絶対に勝てないから。
「よし! いいでしょう! 帰りましょう!」
「もうちょっと……!」
「また来よう! ね!」
「くぅ……!」
「ほら、早く帰ってお酒を造らないと!」
「そ、そうだね!」
ラビくんを納得させ、馬車の横について帰途につく。痕跡を消すのは忘れずやっている。というか、そのために歩いているのだから忘れるはずもない。
「帰ったら忙しくなりそうだなぁ……」
◇◇◇
「誰だぁぁぁーー! オレの領域に侵入した不届き者はっ! 好き勝手やりやがって! あの魔力の持ち主か!?」
チビ共の言うとおりだったってわけか!?
『私が言えたことではないが、勘違いはやめてもらおう! 彼らは【武帝獣】との盟約によって救助に来てくれたのだ! むしろ、責められるべきは精霊であろう!』
「白虎が何の用だ!?」
『この森のヌシを自称しておきながら、問題を放置そてきたから嫌みの一つでも言おうと思ってな。此度の侵入者に一番被害を受けたのは我ら幻獣だが、ここまで案内してきたのは精霊である。よもや、我ら幻獣と戦争をしたいわけではあるまいな!?』
「……精霊だと!?」
『あぁ。エルフにくっついて姿まで消してな。おかげで我が子は首輪までつけられた! あの人間が来なかったら助かっていなかった! この落とし前、どうつけるつもりだ!?』
「……高位精霊のオレとやるつもりか?」
『それも良いだろう!』
マジか……。霊獣ならともかく幻獣の白虎になら負けないつもりだが、それでもやるっていうってことは白虎が言ってることは本気か。
『それなら俺も白虎につこうではないか』
「【武帝獣】……っ!」
いきなり空から声が聞こえてきたと思ったら、次の瞬間には目の前にいるとか……。マジでバケモンだわ。
『俺との約束を守った子分が、約束を守ったせいで言われなき罪を負いかけている。ここで子分を守らなければ俺の名が泣くわ! 決死の覚悟でかってこい! 全身全霊をもって打ち砕いてくれる!』
この殺気だけで下位精霊が消えるぞ……?
「……誤解だ。情報が足りなかったとはいえ、試すような発言をしたのは悪かった。一部の中位精霊が騒いでいたから、精霊を害するものだと勘違いした。幻獣に対しては、こちらの過失だ。領域深くまで入ってくれていい。こちらで守ることを約束し、該当する精霊を処罰することを約束する。本当に申し訳なかった」
『白虎、どうだ?』
『結構です』
『そうか。それなら今回は大人しく引こうではないか。次はない。肝に銘じよ』
……死ぬかと思った。
そもそも、高位精霊を殺せる魔獣ってなんだよ。反則だろ……。次はないって言ってたけど……どうすれば? 会いに行く? 会いに行って味方になれば次はないよな?
「なぁ、その人間にお礼をしたいんだが、人間のところに連れてってくれ」
『残念ながら私も知らない。だが、匂いを覚えているから捜すことはできる。時間がかかってもいいなら引き受けよう』
「頼む!」
一人で会いに行ったときに【武帝獣】がいたら死ぬからな。ここは知り合いに紹介してもらうに限る。
次はありませんように……。
◇◇◇
「もしかして……白虎ママ……?」
「グルルルァァァァァーーー!」
返事ととっていいのかな?
「ナァーーウ!」
「グルル……グルガァァァ!」
こういうときのための通訳士ではないかな? 何してるのかな?
「ワニジャーキー美味いね! お酒が欲しくなるーー!」
「ガウーー!」
おやつ食べてる……。
一撃で大木をなぎ倒した猛獣がいるのに……のんきにおやつ食べてるとか……。大物従魔は違うな……。
「グルガァァァーー!」
「おっと! 現実逃避してる場合じゃなかった!」
絶え間なく続く攻撃を反撃せず避け続ける。俺には敵対する意志などないからだ。だから少しだけ話を聞いて欲しい。
「お子さんはこの通り無事です! すぐにママさんに返したいと思ってます! しかし、攻撃されては返せません!」
白虎ちゃんを掲げながら主張してみた。
『我が子を盾にするとは……いい度胸だな!?』
……逆効果だった。
しかも念話できるのか。それなら話ぐらい聞いてくれや。
「白虎ちゃん! ママを説得してくれ! ラビくんが食べてるものと同じものをあげるから!」
「ナウ?」
「本当だよ!」
「ナァーウ! ナウ! ナウナウ!」
「グル……?」
止まった! チャンス到来!
「ほら! ママのところにお行き!」
「ナァーウ! ナウナウナウーー!」
白虎ママの体を前足でポムポムしながら説得しているおかげで、白虎ママが落ち着き始める。俺はすぐに、のんきにおやつを貪っている通訳士を確保しに行き、白虎ママへの通訳を頼んだ。
念話ができるといっても、実際に使って話してくれるとは限らないのだ。
何故知っているかというと、親分がそうだからだ。親分も念話ができるらしいが認められていないのか、一度も使われたことはない。それゆえ、親分の言葉は《心話》スキルと《念話》スキルによる傍受で、単語くらいしか分からない。
オークちゃんは使ってくれるから分かりやすい。基本的に優しい師匠なのだ。
では、目の前の白虎ママはどうかというと、きっと親分タイプだろう。似たような空気感があるし、何より出会いが最悪すぎた。
「ぼくの名前は『ラビ』です。幻獣ですから仲間ですね!」
「ガル!?」
「幻獣です! お話ができる幻獣なのです!」
幻獣かどうかは今は良くないか? 早く誤解を解いてくれよ……。
「ガル……」
「よろしい! さて、ぼくたちはエントのレニーさんを通して、幻獣が危機に遭っていると聞いて救助に来たのです! 悪い奴らは馬車の中にいます! 報復は必ずやりますが、ここではできない上に用事もあるので移動しなければいけません! 早速移動しようと、白虎ちゃんがお礼を言いにアークに抱っこされているところにママさんが来たのです! 彼は【武帝獣】の子分で、ぼくの従魔契約者です! 悪い人間ではないので襲わないで欲しいのです!」
『【武帝獣】が人間を!?』
話の流れから察するに親分のことだよな? あれが種族につく二つ名か? カッコいい!
「そうです! この領域に侵入してまで助けに来たのは、彼との約束があったからだそうです!」
『それにシ……ラビ殿の契約者……。では、先ほどの魔力は……!?』
「アークだよ! アークはモフモフが大好きだからね! モフモフを捕まえるヤツらを許せなかったそうです!」
『モフモフとは?』
「毛皮のことです! さらに言うと毛皮持った獣のことです!」
『【武帝獣】も……?』
「まぁそうだけど、念願は叶ってないみたいだよ」
『……そうか。あの魔力はあの人間が……』
「魔力がどうしたの?」
『アレのおかげで薬から目が覚めた。魔力の発生源を辿ったおかげで息子に会えた。……危うく殺してしまうところだったか。すまないことをした。そして、息子や領域の幻獣を助けに来てくれてありがとう』
まさかのオークちゃんタイプ……。母親だからかな?
「いいんですよ。子どもを連れ去られれば誰でも敵に見えますもんね。俺もラビくんたちが連れ去られたら、疑わしいだけで殺すかもしれませんから。それより薬を使われたなら万能薬を使いますか? たくさんあるので、他に被害を受けたモフモフがいれば使ってください」
正直怖かったけど、親分の威圧を受けたことがあるから正気でいられた。それにワニさん効果もあって回避できたから怪我もない。おそらく薬のせいで鈍かったのだろうが、運も実力のうちと言うから良しとしよう。
本音を言うならモフモフに嫌われたくない。
よって、ネチネチ言わない。その分、味わった恐怖は囚人共にぶちまけさせてもらう。
『すまない。助かる』
「エントさん、ちょっと行ってくるから馬車を逆向きにしておいて」
「任された」
「ありがとう!」
なんせ俺は馬車を動かせないからね。
『こっちだ』
「ナァーウ!」
「あぁ、おやつか。はい、どうぞ。ワニジャーキーだよ! ママさんもどうです? 薬を飲んだ後の口直しに!」
『頂こう!』
「ナァーウ!」(うまぁ!)
おっ! 傍受できるようになったぞ。親密度が上がったってことか。めちゃくちゃ嬉しい。頑張ってワニを倒したかいがあるってもんだ!
帰ったら迷宮産岩塩でワニジャーキーを量産せねば……。そしてモフモフに食べてもらって仲良くなろう。
「ぼくにも追加を求む!」「ガウーー!」
「通訳お疲れ様でした。二人ともお納めください!」
「うむ。苦しゅうない!」「ガウ!」
『ここだ』
「では、少々お待ちを。白虎ママもそちらへ集まってください。回復魔術を使用しますので」
『……まとめてか?』
「はい。すでに二回ほどやりましたので大丈夫ですよ」
処刑用とは別の清潔なバケツに万能薬を入れ、特濃魔力水を少し入れる。
「《操水》」
初めて《詠唱破棄》を使ってみたが、思いの外スムーズに使えた。魔術の強度や操作性には変化はないが、発動速度が段違いだ。
「水よ、癒やしと安らぎを与え、生命を回復せよ《水龍の祝福》」
さすがに規模がデカい魔術になると出力の操作や安定化が必要で、詠唱した方が魔術を発動しやすい。でも、毎回回復魔術の度に水龍を出してたら面倒事になりそうだから、別の回復魔術を創ろうかな。
『これは……。すごいな』
「首輪がある子はいないね。よかった」
「ガァーーウ!」「ピュオ!」「ブモ!」
「みんなお礼を言っています!」
「どういたしまして! 可愛いなぁ!」
さて、この子らの親が来て悪夢を見る前に退散しよう。エントさんも待っているだろうしね。
「ではこの辺で!」
「ナァーウ!」(また遊ぼうね!)
「今度はドロンがあるときにね!」
「まったねーー!」「ガウーー!」
『必ず会いに行く!』
帰りはリムくんに乗せてもらいました。御褒美というか、ドロンの採取をしたいそうだ。諦めてなかったのか……。
「エントさん、お待たせーー!」
「早かったな。それでどういうルートで帰る?」
「確か馬車が通れる領域って、北回りだけだったよね?」
俺が初めて洞窟に行ったときの道だ。森の小道と呼んでいた場所は東側だけど、今いる場所からは北から回り込むしかないし、他は馬車が通れるような場所ではない。
「ではドロンと薬草の群生地を通りつつ、北から東へ抜ける道を辿るということでいいか?」
「お願いします!」
「うむ」
◇
道すがら白虎ママや侵入者たちが切り倒した木々を回収しては、森魔術で保護をしていく。エントさんに頼まれたということもあるが、車輪の跡がついていたりすると侵入者の道標になりそうだったからだ。
「うわぁぁぁーー! ドロンだぁぁぁ!」
ようやく群生地に辿り着いたとき、ラビくんは壊れたようにはしゃいだ。ドロン酒は熟成とかないから、材料があればすぐに飲める。
そう、材料があれば。
目の前に山のように材料がある今、ドロン酒依存症患者たちが正気を保っていられるはずないのだ。
「今はまだ無理だよ。ナイフにスキルが入っているから封印状態になっているからね。それに魔水晶タンクを作ってないからね」
「じゃあ早く帰らないとね!」
「ガウガウ!」
「それなら、ラビくんは数株の陰陽草をプランターに詰めていってくれない? 最後に魔力水をあげれば収納できるからさ」
「はーい! 陽光樹は?」
陽光樹はドロンと違って挿し木じゃ増えなかったんだよな。だからといって栽培法は知らない。希少素材の育成法は一般公開されないからだ。
伯爵家の書斎にもなかったから、公爵家以上でないと持ってないと思われる。
「あれは若木を探している最中だから葉っぱだけでいいかな。葉っぱは馬車に積めるだけね。取りすぎないようにね!」
「はーい! 任せて! リムくんは警戒よろしくね!」
「ガウ!」
「吾輩は?」
「葉っぱの採取をお願いしようかな!」
「了解だ、ラビ殿」
俺は熟したドロンの果実を手早く採取していく。終わり次第、陰陽草の採取に移らなければいけないからだ。
果たしてこのうち何割がお酒になるのだろうか。ドロンの干し果実、特に半生に挑戦したいから全部はやめて欲しい。多数決で決めるのもやめて欲しい。絶対に勝てないから。
「よし! いいでしょう! 帰りましょう!」
「もうちょっと……!」
「また来よう! ね!」
「くぅ……!」
「ほら、早く帰ってお酒を造らないと!」
「そ、そうだね!」
ラビくんを納得させ、馬車の横について帰途につく。痕跡を消すのは忘れずやっている。というか、そのために歩いているのだから忘れるはずもない。
「帰ったら忙しくなりそうだなぁ……」
◇◇◇
「誰だぁぁぁーー! オレの領域に侵入した不届き者はっ! 好き勝手やりやがって! あの魔力の持ち主か!?」
チビ共の言うとおりだったってわけか!?
『私が言えたことではないが、勘違いはやめてもらおう! 彼らは【武帝獣】との盟約によって救助に来てくれたのだ! むしろ、責められるべきは精霊であろう!』
「白虎が何の用だ!?」
『この森のヌシを自称しておきながら、問題を放置そてきたから嫌みの一つでも言おうと思ってな。此度の侵入者に一番被害を受けたのは我ら幻獣だが、ここまで案内してきたのは精霊である。よもや、我ら幻獣と戦争をしたいわけではあるまいな!?』
「……精霊だと!?」
『あぁ。エルフにくっついて姿まで消してな。おかげで我が子は首輪までつけられた! あの人間が来なかったら助かっていなかった! この落とし前、どうつけるつもりだ!?』
「……高位精霊のオレとやるつもりか?」
『それも良いだろう!』
マジか……。霊獣ならともかく幻獣の白虎になら負けないつもりだが、それでもやるっていうってことは白虎が言ってることは本気か。
『それなら俺も白虎につこうではないか』
「【武帝獣】……っ!」
いきなり空から声が聞こえてきたと思ったら、次の瞬間には目の前にいるとか……。マジでバケモンだわ。
『俺との約束を守った子分が、約束を守ったせいで言われなき罪を負いかけている。ここで子分を守らなければ俺の名が泣くわ! 決死の覚悟でかってこい! 全身全霊をもって打ち砕いてくれる!』
この殺気だけで下位精霊が消えるぞ……?
「……誤解だ。情報が足りなかったとはいえ、試すような発言をしたのは悪かった。一部の中位精霊が騒いでいたから、精霊を害するものだと勘違いした。幻獣に対しては、こちらの過失だ。領域深くまで入ってくれていい。こちらで守ることを約束し、該当する精霊を処罰することを約束する。本当に申し訳なかった」
『白虎、どうだ?』
『結構です』
『そうか。それなら今回は大人しく引こうではないか。次はない。肝に銘じよ』
……死ぬかと思った。
そもそも、高位精霊を殺せる魔獣ってなんだよ。反則だろ……。次はないって言ってたけど……どうすれば? 会いに行く? 会いに行って味方になれば次はないよな?
「なぁ、その人間にお礼をしたいんだが、人間のところに連れてってくれ」
『残念ながら私も知らない。だが、匂いを覚えているから捜すことはできる。時間がかかってもいいなら引き受けよう』
「頼む!」
一人で会いに行ったときに【武帝獣】がいたら死ぬからな。ここは知り合いに紹介してもらうに限る。
次はありませんように……。
◇◇◇
0
お気に入りに追加
193
あなたにおすすめの小説
一人だけ竜が宿っていた説。~異世界召喚されてすぐに逃げました~
十本スイ
ファンタジー
ある日、異世界に召喚された主人公――大森星馬は、自身の中に何かが宿っていることに気づく。驚くことにその正体は神とも呼ばれた竜だった。そのせいか絶大な力を持つことになった星馬は、召喚した者たちに好き勝手に使われるのが嫌で、自由を求めて一人その場から逃げたのである。そうして異世界を満喫しようと、自分に憑依した竜と楽しく会話しつつ旅をする。しかし世の中は乱世を迎えており、星馬も徐々に巻き込まれていくが……。
女神様から同情された結果こうなった
回復師
ファンタジー
どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。
暇つぶし転生~お使いしながらぶらり旅~
暇人太一
ファンタジー
仲良し3人組の高校生とともに勇者召喚に巻き込まれた、30歳の病人。
ラノベの召喚もののテンプレのごとく、おっさんで病人はお呼びでない。
結局雑魚スキルを渡され、3人組のパシリとして扱われ、最後は儀式の生贄として3人組に殺されることに……。
そんなおっさんの前に厳ついおっさんが登場。果たして病人のおっさんはどうなる!?
この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。
辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~
Lunaire
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。
辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。
しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。
他作品の詳細はこちら:
『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』
【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】
『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】
『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』
【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】
クラス転移で神様に?
空見 大
ファンタジー
集団転移に巻き込まれ、クラスごと異世界へと転移することになった主人公晴人はこれといって特徴のない平均的な学生であった。
異世界の神から能力獲得について詳しく教えられる中で、晴人は自らの能力欄獲得可能欄に他人とは違う機能があることに気が付く。
そこに隠されていた能力は龍神から始まり魔神、邪神、妖精神、鍛冶神、盗神の六つの神の称号といくつかの特殊な能力。
異世界での安泰を確かなものとして受け入れ転移を待つ晴人であったが、神の能力を手に入れたことが原因なのか転移魔法の不発によりあろうことか異世界へと転生してしまうこととなる。
龍人の母親と英雄の父、これ以上ない程に恵まれた環境で新たな生を得た晴人は新たな名前をエルピスとしてこの世界を生きていくのだった。
現在設定調整中につき最新話更新遅れます2022/09/11~2022/09/17まで予定
レベルカンストとユニークスキルで異世界満喫致します
風白春音
ファンタジー
俺、猫屋敷出雲《ねこやしきいずも》は新卒で入社した会社がブラック過ぎてある日自宅で意識を失い倒れてしまう。誰も見舞いなど来てくれずそのまま孤独死という悲惨な死を遂げる。
そんな悲惨な死に方に女神は同情したのか、頼んでもいないのに俺、猫屋敷出雲《ねこやしきいずも》を勝手に転生させる。転生後の世界はレベルという概念がある世界だった。
しかし女神の手違いか俺のレベルはカンスト状態であった。さらに唯一無二のユニークスキル視認強奪《ストック》というチートスキルを持って転生する。
これはレベルの概念を超越しさらにはユニークスキルを持って転生した少年の物語である。
※俺TUEEEEEEEE要素、ハーレム要素、チート要素、ロリ要素などテンプレ満載です。
※小説家になろうでも投稿しています。
転生したら赤ん坊だった 奴隷だったお母さんと何とか幸せになっていきます
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
転生したら奴隷の赤ん坊だった
お母さんと離れ離れになりそうだったけど、何とか強くなって帰ってくることができました。
全力でお母さんと幸せを手に入れます
ーーー
カムイイムカです
今製作中の話ではないのですが前に作った話を投稿いたします
少しいいことがありましたので投稿したくなってしまいました^^
最後まで行かないシリーズですのでご了承ください
23話でおしまいになります
完結【進】ご都合主義で生きてます。-通販サイトで異世界スローライフのはずが?!-
ジェルミ
ファンタジー
32歳でこの世を去った相川涼香は、異世界の女神ゼクシーにより転移を誘われる。
断ると今度生まれ変わる時は、虫やダニかもしれないと脅され転移を選んだ。
彼女は女神に不便を感じない様に通販サイトの能力と、しばらく暮らせるだけのお金が欲しい、と願った。
通販サイトなんて知らない女神は、知っている振りをして安易に了承する。そして授かったのは、町のスーパーレベルの能力だった。
お惣菜お安いですよ?いかがです?
物語はまったり、のんびりと進みます。
※本作はカクヨム様にも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる