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第二章 一期一会
第五十一話 精霊からの酒造計画
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フィラキ大陸西部、魔の森西側深層。ここは精霊の領域であり、【商神】および森の大精霊の腹心である高位精霊の領域でもある。
南側に【武帝獣】と呼ばれる古豪の魔獣が棲んでいるが、お互いに一定の敬意を払い、領域を侵さないように取り決めている。
それは他の魔物や魔獣にも言えることだが、どこにもバカや阿呆がいるもので、最近は調子に乗ったワニが森で暴れて毒をまき散らし、精霊界隈でも問題になっていた。
「それで? その人間の坊主が毒を浄化してくれたのか?」
「そ、そうです!」
「どうやって?」
「水場で見たことしか知りませんが、水を全部持ち上げてナイフを突き刺してました! あと万能薬をまいていたような気がします! 薬草の匂いがしましたから!」
「ナイフ? 何でナイフで毒が消えるんだよ」
「それは分からないですけど、ぼくたちは見逃してもらった身ですから聞けませんでした!」
「ん? お前らはエルフと契約していたんだろ? 見えるわけないじゃん」
契約後でも契約者以外に姿をはっきり見せられるのは、上位精霊以上の格が必要である。高位精霊に報告を上げている精霊は最高でも中位精霊だから、精霊視を持っている者でも認識することは不可能だ。
「ぼくたちを認識できる兎さんがいたんですよ。しかも威圧してないはずなのに……自分が消滅する未来が見えました!」
「兎さんだけじゃないですよ! 人間の子どもの方も、魔力を広げたら異物感があったから分かったとか言い出して……。兎さんがお願いしなかったら、人間の子どもの方に本当に消滅させられてました! あれは人間じゃない! 竜種並みの魔力密度でした!」
中位精霊たちの怯えようは酷いものだが、高位精霊は実際に見たわけではないから本気にしていない。中位精霊たちにはそれがもどかしかった。
「兎ってどんな兎だ?」
「銀色の二足歩行で……人間の言葉をしゃべる兎です! 大きさは普通の兎より少し大きいかなくらいです!」
「いるわけないだろ! バカにしてんのか!?」
「バカにしてませんよ! いたんですって!」
「彼らの情報を流したら消されるみたいなことを言っていましたけど、ここの領域を治めているあなた様には報告をしようと思って……!」
「分かった分かった。ご苦労さん! 一応気をつけて様子を見てみるから心配すんな。おまえらは情報を流さなきゃいいだけなんだから簡単だろ?」
「……はい」
不安を完全に消しきれない様子の中位精霊を見送った後、高位精霊の中で何かが引っかかった。
それは東側から移り棲んでくる精霊たちのことである。もっと浅いところに棲んでいた精霊たちが、ある日を境に大群で移動してきたのだ。
当時はそこまで気にしていなかったが、竜種並みの魔力密度を有する者が近くにいるのなら移り棲む理由にはなる。
「まさか……な。……調べてみるか」
◇◇◇
親分とオークちゃんと再会してから一週間が経った。オークちゃんは鳥さんのようなアッシーくんはいないが、健脚を活かして二日に一回ペースでやってくる。反対に親分はアッシーくんがいるのに一度も来ていない。
まぁ今来られても困るのだが……。
何故なら、ドロン酒がついに尽きてしまい、呑兵衛三人組はお通夜モードだからだ。
ドロンの果実と薬草と専用鍋が必要だけど、一つもない状況ゆえ何もできない。諦めるよう言ったんだけど、目の前でドロンの干し果実を作っていたせいで反撃を喰らって泥沼状態に……。
「ラビ殿、お酒が造れればいいのか?」
「レニーさん……その通りだよ」
その名前で呼ぶなよ……。従魔になっちゃうだろ!
「それなら吾輩に考えがあるぞ」
「「どんな!?」」「ガウ!?」
「ドロン酒の保存は木の匂いが気になるという理由から魔水晶を瓶に加工して使用していて、ドロン酒造りには火を用いないとも聞いた。それなら魔水晶で巨大な鍋というか器を作ればいいのでは? 足をつけて、下部に栓付きの穴を開けておけば作業もしやすいではないか」
「――そうだよ! 何故今まで気づかなかったんだ! オークリームを作る必要もなかったし、鍋を買いに行く必要もないじゃないか! レニーさんは何故そんなことを思いつけたの?」
「吾輩が吸収したエルフが酒造の担当だったみたいで、エルフの村では巨大な木製のタンクを使っているらしい」
盲点だった……。材料をぶち込んで混ぜるだけなら魔水晶のタンクで十分だ。蓋をつければゴミも入らないし、何より俺が作ったものだからナイフで傷つけなくても収納できる。
「アーク! 早速造ろう!」
「……材料がないよ。特に薬草がね」
「そうだった……」
「薬草とドロンの果実なら群生地を知っている。そこに採取に行けば良かろう」
「……深層は無理ですよ?」
「深層ではない。西側だ。もっと正確に言えば西北だな。精霊と幻獣の領域に近いが、領域の境界を間違えなければ北の危険地帯や南の深層ほど危険はない。吾輩も道案内として同行するから安心されよ」
「「レニーさぁぁぁん!」」「ガウーー!」
お通夜モードが解除されるのは嬉しいが、何故ここまでしてくれるのかが謎だ。呑兵衛たちみたいにドロン酒に過剰な反応があるわけではないのに……。
「あのー……何故そこまでしてくれるんです?」
「ふむ……ドロン酒が好きだからということもあるが、魔物扱いをしないでもらったからというのが大きいな」
「え? してないですか?」
「普通の人間は魔物と交渉はしない。一方的に襲って一方的に奪い、反撃されたら勝手に恨む。服も用意しなければ、同じ屋根の下に住もうとなど言わないものだ」
「なるほど。そう言われればそうですね」
まぁ実際には一緒に住んでいないんだけどね。ペットたちがズルいと言って、無理矢理洞窟に入ろうとしたからだ。危うく洞窟が崩れるところだった。
代わりに、伯爵家で暮らしていたときみたいな小屋をペットたちの近くに造り、エルフの服を手直ししたりしてエントさんに来てもらっている。
ちなみに、《魔力圧縮》のレベルが最大値になったこともあり、迷宮の水没攻略を本格的な攻略に切り替えることにより、エントさんの仕事がなくなってしまった。木材もペットたちが大量に倒してくれたおかげで大量にあるから困っていない。まぁエントさんの素材の方が優秀で高価だが。
そこでエントさんに新しい仕事をお願いすることにした。それは侵入者の監視員だ。
スライムさんがチビスラたちを統率しており、家の周囲に放ち警戒網を敷いている。さらにハイドラさんが感知と武力制圧も担当していて、エントさんの新居近くに用意された牢屋にぶち込む。
エントさんは勝手に死なないようにすることと、反撃された場合に殺さない程度に折檻を加える役である。
万全の警備を敷いて準備をしているが、まだ一人も来ていないのが寂しい。エントさんを早めに女の子にしてあげたいのに。
「じゃあ早速行こう!」
「スライムさんたちはお留守番でしょ?」
「ズルイ」
「で、でも大きいし……」
「チイサクナレル」
「シュルルーー!」「ゲコォォーー!」
「裏切り者ーー! と言っています!」
小さくなる練習をしていたのは知っているが、スライムさんはまだ長時間の変化はできないのだ。代わりに吸収した魔物になることで小さくなれるのだが、人間形態になれないスライムさんの最小は十メートルくらいのランスバイパーとワイバーンだけ。
この場合はワイバーン一択だが、未知の領域に行くのに空から行くようなことはしたくない。精霊や幻獣を刺激していいことなどないだろう。
「人間になるか、馬や猪のように乗れるような子になるまで待って。ね!」
ムニッと、スライムさんに触りながらお願いする。
「……ガマンスル」
「ありがとう」
「ウン」
分かってるよ……。視線はしっかり受信しているから。
「ハイドラさんも我慢して欲しいな」
「シュルル~~!」
「わかった! と言っています!」
「メーテルさんもお願いね!」
「ゲコォォーー!」
「わかりました! と言っています!」
「二人ともありがとう!」
「シュルルーー!」「ゲコッ!」
もちろん、ペタッと触りながらのお願いだったよ。ヒンヤリとしていた。
「それじゃあ行ってきます」
「ウン」
「シュルー!」「ゲコ!」
◇
俺たちドロン酒の材料採取隊は、親分に連れてきてもらった巨大樹が生えている場所に来ていた。ここにも少量だが陰陽草が生えているからだ。ついでにドロンの果実も採取している。
群生地はここから北に行ったところにあるそうで、巨大樹周辺での採取が終わった後に移動して、群生地から直接帰るという計画だ。
「ふぅ……。俺だけしか採取できないのは時間がかかるね」
「仕方ないよ! 収納できるのはアークしかいないんだから!」
「ほら! 文句言わずにさっさとやりなさい!」
「……はい」
呑兵衛たちからの圧がすごい。アル中みたいに禁断症状が出ているのかと思うくらいだ。少し減らした方がいいかな?
「そうそう。酒量を減らしたら地獄の鍛練メニューにするから!」
……さすが天使。全て筒抜けみたいだ。
「そんなことしませんよ。モフモフに嫌われそうですし……」
「き、嫌うなんて……。口きかないだけだよ!」
「ガウ!」
「十分嫌だわ!」
俺たちが酒量について話し合っている最中、エントさんは巨大樹に触れて目を閉じていた。真剣な表情をしていたから、パワースポットでパワーを分けてもらうような感じではないと思う。
「……予定を変更したい」
「どうしました?」
「精霊と幻獣の領域に侵入者だ」
「もしかして……この先の進入禁止領域ですか?」
「そうだ。精霊というよりも幻獣を捕獲しているようだ。親を眠らせて子どもだけを攫っている」
親分との約束を守るときが来た。
この先に侵入者入ったら排除しろという約束だ。俺の中ではドロン酒よりも優先順位が高い。
「親分との約束です! 行きます!」
「すまない」
「謝る必要はありません! むしろ教えてくれてありがとうございます!」
「レニーさん! 早くリムくんに乗って!」
「あんたは走りなさい! 身体スキルを意識するのよ! 救助が最優先で、次いで捕縛よ! 魔力による防御はやめず気配だけ消すのよ? 魔境で生きる基本を学びなさい!」
「タマさんが師匠に見える!」
俺が思ったことをラビくんが代わりに言ってくれたけど、かなり難しいことを言う師匠だ。
まぁやるけど!
「しゅっぱぁぁつ!」
ラビくんの号令とともに一気に駆け出した。
南側に【武帝獣】と呼ばれる古豪の魔獣が棲んでいるが、お互いに一定の敬意を払い、領域を侵さないように取り決めている。
それは他の魔物や魔獣にも言えることだが、どこにもバカや阿呆がいるもので、最近は調子に乗ったワニが森で暴れて毒をまき散らし、精霊界隈でも問題になっていた。
「それで? その人間の坊主が毒を浄化してくれたのか?」
「そ、そうです!」
「どうやって?」
「水場で見たことしか知りませんが、水を全部持ち上げてナイフを突き刺してました! あと万能薬をまいていたような気がします! 薬草の匂いがしましたから!」
「ナイフ? 何でナイフで毒が消えるんだよ」
「それは分からないですけど、ぼくたちは見逃してもらった身ですから聞けませんでした!」
「ん? お前らはエルフと契約していたんだろ? 見えるわけないじゃん」
契約後でも契約者以外に姿をはっきり見せられるのは、上位精霊以上の格が必要である。高位精霊に報告を上げている精霊は最高でも中位精霊だから、精霊視を持っている者でも認識することは不可能だ。
「ぼくたちを認識できる兎さんがいたんですよ。しかも威圧してないはずなのに……自分が消滅する未来が見えました!」
「兎さんだけじゃないですよ! 人間の子どもの方も、魔力を広げたら異物感があったから分かったとか言い出して……。兎さんがお願いしなかったら、人間の子どもの方に本当に消滅させられてました! あれは人間じゃない! 竜種並みの魔力密度でした!」
中位精霊たちの怯えようは酷いものだが、高位精霊は実際に見たわけではないから本気にしていない。中位精霊たちにはそれがもどかしかった。
「兎ってどんな兎だ?」
「銀色の二足歩行で……人間の言葉をしゃべる兎です! 大きさは普通の兎より少し大きいかなくらいです!」
「いるわけないだろ! バカにしてんのか!?」
「バカにしてませんよ! いたんですって!」
「彼らの情報を流したら消されるみたいなことを言っていましたけど、ここの領域を治めているあなた様には報告をしようと思って……!」
「分かった分かった。ご苦労さん! 一応気をつけて様子を見てみるから心配すんな。おまえらは情報を流さなきゃいいだけなんだから簡単だろ?」
「……はい」
不安を完全に消しきれない様子の中位精霊を見送った後、高位精霊の中で何かが引っかかった。
それは東側から移り棲んでくる精霊たちのことである。もっと浅いところに棲んでいた精霊たちが、ある日を境に大群で移動してきたのだ。
当時はそこまで気にしていなかったが、竜種並みの魔力密度を有する者が近くにいるのなら移り棲む理由にはなる。
「まさか……な。……調べてみるか」
◇◇◇
親分とオークちゃんと再会してから一週間が経った。オークちゃんは鳥さんのようなアッシーくんはいないが、健脚を活かして二日に一回ペースでやってくる。反対に親分はアッシーくんがいるのに一度も来ていない。
まぁ今来られても困るのだが……。
何故なら、ドロン酒がついに尽きてしまい、呑兵衛三人組はお通夜モードだからだ。
ドロンの果実と薬草と専用鍋が必要だけど、一つもない状況ゆえ何もできない。諦めるよう言ったんだけど、目の前でドロンの干し果実を作っていたせいで反撃を喰らって泥沼状態に……。
「ラビ殿、お酒が造れればいいのか?」
「レニーさん……その通りだよ」
その名前で呼ぶなよ……。従魔になっちゃうだろ!
「それなら吾輩に考えがあるぞ」
「「どんな!?」」「ガウ!?」
「ドロン酒の保存は木の匂いが気になるという理由から魔水晶を瓶に加工して使用していて、ドロン酒造りには火を用いないとも聞いた。それなら魔水晶で巨大な鍋というか器を作ればいいのでは? 足をつけて、下部に栓付きの穴を開けておけば作業もしやすいではないか」
「――そうだよ! 何故今まで気づかなかったんだ! オークリームを作る必要もなかったし、鍋を買いに行く必要もないじゃないか! レニーさんは何故そんなことを思いつけたの?」
「吾輩が吸収したエルフが酒造の担当だったみたいで、エルフの村では巨大な木製のタンクを使っているらしい」
盲点だった……。材料をぶち込んで混ぜるだけなら魔水晶のタンクで十分だ。蓋をつければゴミも入らないし、何より俺が作ったものだからナイフで傷つけなくても収納できる。
「アーク! 早速造ろう!」
「……材料がないよ。特に薬草がね」
「そうだった……」
「薬草とドロンの果実なら群生地を知っている。そこに採取に行けば良かろう」
「……深層は無理ですよ?」
「深層ではない。西側だ。もっと正確に言えば西北だな。精霊と幻獣の領域に近いが、領域の境界を間違えなければ北の危険地帯や南の深層ほど危険はない。吾輩も道案内として同行するから安心されよ」
「「レニーさぁぁぁん!」」「ガウーー!」
お通夜モードが解除されるのは嬉しいが、何故ここまでしてくれるのかが謎だ。呑兵衛たちみたいにドロン酒に過剰な反応があるわけではないのに……。
「あのー……何故そこまでしてくれるんです?」
「ふむ……ドロン酒が好きだからということもあるが、魔物扱いをしないでもらったからというのが大きいな」
「え? してないですか?」
「普通の人間は魔物と交渉はしない。一方的に襲って一方的に奪い、反撃されたら勝手に恨む。服も用意しなければ、同じ屋根の下に住もうとなど言わないものだ」
「なるほど。そう言われればそうですね」
まぁ実際には一緒に住んでいないんだけどね。ペットたちがズルいと言って、無理矢理洞窟に入ろうとしたからだ。危うく洞窟が崩れるところだった。
代わりに、伯爵家で暮らしていたときみたいな小屋をペットたちの近くに造り、エルフの服を手直ししたりしてエントさんに来てもらっている。
ちなみに、《魔力圧縮》のレベルが最大値になったこともあり、迷宮の水没攻略を本格的な攻略に切り替えることにより、エントさんの仕事がなくなってしまった。木材もペットたちが大量に倒してくれたおかげで大量にあるから困っていない。まぁエントさんの素材の方が優秀で高価だが。
そこでエントさんに新しい仕事をお願いすることにした。それは侵入者の監視員だ。
スライムさんがチビスラたちを統率しており、家の周囲に放ち警戒網を敷いている。さらにハイドラさんが感知と武力制圧も担当していて、エントさんの新居近くに用意された牢屋にぶち込む。
エントさんは勝手に死なないようにすることと、反撃された場合に殺さない程度に折檻を加える役である。
万全の警備を敷いて準備をしているが、まだ一人も来ていないのが寂しい。エントさんを早めに女の子にしてあげたいのに。
「じゃあ早速行こう!」
「スライムさんたちはお留守番でしょ?」
「ズルイ」
「で、でも大きいし……」
「チイサクナレル」
「シュルルーー!」「ゲコォォーー!」
「裏切り者ーー! と言っています!」
小さくなる練習をしていたのは知っているが、スライムさんはまだ長時間の変化はできないのだ。代わりに吸収した魔物になることで小さくなれるのだが、人間形態になれないスライムさんの最小は十メートルくらいのランスバイパーとワイバーンだけ。
この場合はワイバーン一択だが、未知の領域に行くのに空から行くようなことはしたくない。精霊や幻獣を刺激していいことなどないだろう。
「人間になるか、馬や猪のように乗れるような子になるまで待って。ね!」
ムニッと、スライムさんに触りながらお願いする。
「……ガマンスル」
「ありがとう」
「ウン」
分かってるよ……。視線はしっかり受信しているから。
「ハイドラさんも我慢して欲しいな」
「シュルル~~!」
「わかった! と言っています!」
「メーテルさんもお願いね!」
「ゲコォォーー!」
「わかりました! と言っています!」
「二人ともありがとう!」
「シュルルーー!」「ゲコッ!」
もちろん、ペタッと触りながらのお願いだったよ。ヒンヤリとしていた。
「それじゃあ行ってきます」
「ウン」
「シュルー!」「ゲコ!」
◇
俺たちドロン酒の材料採取隊は、親分に連れてきてもらった巨大樹が生えている場所に来ていた。ここにも少量だが陰陽草が生えているからだ。ついでにドロンの果実も採取している。
群生地はここから北に行ったところにあるそうで、巨大樹周辺での採取が終わった後に移動して、群生地から直接帰るという計画だ。
「ふぅ……。俺だけしか採取できないのは時間がかかるね」
「仕方ないよ! 収納できるのはアークしかいないんだから!」
「ほら! 文句言わずにさっさとやりなさい!」
「……はい」
呑兵衛たちからの圧がすごい。アル中みたいに禁断症状が出ているのかと思うくらいだ。少し減らした方がいいかな?
「そうそう。酒量を減らしたら地獄の鍛練メニューにするから!」
……さすが天使。全て筒抜けみたいだ。
「そんなことしませんよ。モフモフに嫌われそうですし……」
「き、嫌うなんて……。口きかないだけだよ!」
「ガウ!」
「十分嫌だわ!」
俺たちが酒量について話し合っている最中、エントさんは巨大樹に触れて目を閉じていた。真剣な表情をしていたから、パワースポットでパワーを分けてもらうような感じではないと思う。
「……予定を変更したい」
「どうしました?」
「精霊と幻獣の領域に侵入者だ」
「もしかして……この先の進入禁止領域ですか?」
「そうだ。精霊というよりも幻獣を捕獲しているようだ。親を眠らせて子どもだけを攫っている」
親分との約束を守るときが来た。
この先に侵入者入ったら排除しろという約束だ。俺の中ではドロン酒よりも優先順位が高い。
「親分との約束です! 行きます!」
「すまない」
「謝る必要はありません! むしろ教えてくれてありがとうございます!」
「レニーさん! 早くリムくんに乗って!」
「あんたは走りなさい! 身体スキルを意識するのよ! 救助が最優先で、次いで捕縛よ! 魔力による防御はやめず気配だけ消すのよ? 魔境で生きる基本を学びなさい!」
「タマさんが師匠に見える!」
俺が思ったことをラビくんが代わりに言ってくれたけど、かなり難しいことを言う師匠だ。
まぁやるけど!
「しゅっぱぁぁつ!」
ラビくんの号令とともに一気に駆け出した。
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