上 下
39 / 116
第一章 隠遁生活

第三十七話 問題からの尖塔建造

しおりを挟む
「腹痛ですか? ポンポンしましょうねー!」

「はい。先生……お願いします!」

「ベッドに横になって。はい、ポンポン!」

 可変式ベッドにラビくんを寝かし、聴診器でお腹をポンポンと当てていく。相変わらずモフモフモチモチと柔らかいお腹だ。

「うーん、これは食べ過ぎですね。胃薬を処方しますね!」

「クサッ! それはいやです!」

 顔を背けて暴れるラビくんを左手で押さえ、顔の目の前に箸で挟んだ団子状の丸薬を持っていく。
 少し大きめだが噛まずに飲み込める胃薬だ。

「これを飲まないと痛いのがなくなりませんよ?」

「……口直しを要求します!」

「分かりました。いいでしょう!」

 ラビくんが魔力水を口に含んだことを確認し、丸薬を喉の近くに落とす。直後、素晴らしい反射神経でゴクリと飲み込まれた。

「ウゥゥウェェェーー! は、早く……」

 激マズ胃薬を飲んだラビくんから口直しの催促が来たため、即座にドロン飴を口に放りこんだ。

「う、うまぁーーー!」

「食べすぎなきゃいいのに」

「やっとお肉が食べれるようになったんだよ! 食べすぎても仕方ないでしょ!」

 ラビくんが言うとおり、ここ最近は魔物の解体を後回しにしてもいいからスキルを習得してくれというリクエストに答えて、繰り返しおもちゃで遊んでスキルを習得していた。

 習得速度が異常なほど早い気がしないでもないけど、これもモフモフ好きなアルテア様の加護のおかげだと思えば納得できなくもない。

 ちなみにスキルの習得の確認だけならタマさんが答えてくれ、ステータスを確認したいなら奉納のためにもらった【神珠】に魔力を込めれば確認できる。

 神殿や教会で確認する手順と同じだが、聖職者でない俺が確認できるのは信仰スキルとアルテア様の加護のおかげらしい。

 ありがたい限りだ。

 それと【トイストア】の固有スキルのレベルアップ条件をタマさんが教えてくれた。正直かなり気になっていたことだ。お金も無限にあるわけじゃないから、できれば計画的に使っていきたい。

 条件は二つ。

 まずは購入金額。ただしポイント払いは含まれない。次にレベルに応じた個数の当たりスキルの習得というもの。
 スキルに当たりもはずれもないと言っていたが、その中でも当たりって言ってしまいそうになるスキルなんだとか。

 レベル一の条件は三つの習得と五万フリムの使用。購入金額は達成しているから、あとは当たりスキルの習得だけでレベル二になる。

 知育玩具の種類の多さに驚いたが、そろそろ別のおもちゃも使いたいと思う。特に戦闘系のスキルが欲しい。

 絵本以外の本も読みたい。

 絵本は知識は入手できるけど、直接スキルを入手できないのだ。どちらかというとスキルの補強に使われている気がする。一冊しか読んでいないけど、何故か解読スキルのレベルが上がったのだ。レベルが上がりにくいユニークスキルなのに。

 だから今日もおもちゃで遊び、スキルを習得していこうと思う。全てはモフモフを守るために。そしてモフモフを堪能するために。

「じゃあ今日も美味しい肉を食べれるように日課を熟そう!」

「おぉーーー!」

「ガウーー!」

 ◇

 日課の内容は鬼の住処にいた頃とあまり変わっていない。

 朝は血溜まりの堀の掃除と素材採取のために森の探索をした後、ドロンの干し果実と肉料理という朝ご飯を摂る。午前中は迷宮水没とリソース提供など、迷宮関連を行ってから昼食。
 午後はおもちゃで遊んでスキルを習得した後、魔物解体や素材の処理などを行う。夕方は武術の訓練をして晩ご飯を作ったり、ドロン酒や飴などの加工食品を作ったり。
 夜は風呂に入って生産スキルを習熟した後、魔力訓練をして気絶入眠というハードスケジュールだ。

 基本的に何か起こらない限り、毎日同じような日々を繰り返している。そのせいで、不名誉な呼称をつけられそうになった。

 その名も『ドM魔童』。

 以前からドMらしさはあった。気絶訓練愛好家と呼んでもいいほどに気絶を繰り返していれば、ドMと呼ばれないはずはない。

 気絶という症状は人間の体に異常が起こったときに発生するが、気絶は物凄く怖いことだ。自分の意志とは関係なく意識をなくすことは、まるで死んだように感じられるからで、年齢関係なく気絶する前の兆候で体の限界を悟るはず。

 その兆候を無視した先にあるのが気絶だ。

 記憶持ちの転生者だから気絶訓練ができるんだろ? と思う者が多いだろうが、気絶訓練に関しては記憶がない方がやりやすいと思う。

 俺は前世に病気の影響で気絶したことがあるが、怖すぎて二度と気絶したくないと思ったし、気絶しないようにするためには何をしたらいいかと神経質な性格にもなってしまった。

 まぁ今世は恐怖を乗り越えたというよりも、欲望が恐怖を上回ったことで気絶を繰り返すようになったのだが。

 魔力の化け物と子どもを意味する童に、魔王の韻を踏んだ呼び名ができてしまった。

 こんなセンスがいい名前を考えてくれたのは呑兵衛三人組である。お礼に禁酒というプレゼントを贈ったところ、悲鳴をあげるほど喜んでくれた。


 そんなこんなで毎日を送っているのだが、熊親分もオークちゃんも全く来ないのだ。以前は一週間に一度のペースで決闘場に通っていたし、いろいろ教えてくれていたのだが、拠点確保の翌日に熊親分が来てから一度も来ていない。

 お酒も完成して奉納したから、親分たちにも是非飲んで欲しいんだけどな。

 それと気になることがあるから親分に事情を聞けたらいいなとも思っている。
 この気になることを放置した場合、毎日洞窟周辺に範囲魔術を放たなければならないという面倒事に繋がる気がする。

 今まで日中は洞窟の周辺に魔物は来なかったのだが、最近深層がある南西の方角で何かがあったのか、毎日のように魔物が森から溢れてきて対処を迫られているのだ。

 深層近くにいた魔物が群れとなって来ているから実戦訓練としては役に立つが、毎回地獄を味わっている。最悪堀まで誘導して柵越しで魔術を浴びせるというセコい方法を取ったり、リムくんも参戦したりとスケジュール通りに生活できなくなっていた。

 ちなみにラビくんは、リムくんの背中に乗って指示を出しながら狩りを楽しんでいた。

「本当に何が起きているんだ? 毎日キツいんだけど……」

「師匠としてはありがたい環境だけどねー。あんた迷宮の攻略を水没で済ませているから武術訓練できないし」

「迷宮は魔力圧縮ができたら採掘もしたいので普通に攻略しますよ。でもその前に剣術スキルが欲しいなって……」

「は? 地属性の迷宮に初心者の剣術で挑む気? 相性悪すぎよ?」

「武器強化のスキルも伸ばしたいし、狭い洞窟の中で長柄の棒術は相性悪くないですか?」

 まぁメイスがあるのは知っている。ただロマンを求めてしまっているだけだ。初めての迷宮なのだから、剣を携えて挑戦してみたいじゃないか。当然ロマンが理由だということは天使であるタマさんにはお見通しだろうが、建前と御布施を用意したら納得してくれるかなと淡い期待を抱いている。

「……まぁいいでしょう。確かにいろんな武器を使えるようになってもらわなきゃいけなかったし、魔力圧縮ができるようになればできることも増えるしねー。熊さんナイスってことねー」

 よし。御布施を三人に渡したことが功を奏したようだ。呑兵衛三人組は同盟でも結んでいるのか、功績や報酬を三人で分け与えるから喧嘩が起きない。いいことだけども怪しいと感じてしまう。

「それで熊さんが来ないから南のことが不明って言ってたけど、南のことなんか知ってどうするの?」

「正確に言えば南西です。西に行ってドロンの果実を採取しないと酒に回す量がないんです」

「「はあぁぁーー!?」」「ガウゥーー!?」

「状況を理解していただき感謝します。お酒は嗜好品ですので基本的に後回しにしますから、ドロンの果実の量次第では生産を停止せざるを得ないのです」

「ま、まだある分は……?」

「熊親分たちの取り分ですよ」

 タマさんの光る板から光が消えた。おそらく絶望しているのだろう。ラビくんとリムくんの耳も垂れているから予想できる。

「ドロンの果実を主食にしている俺が、ドロンの果実を食べれないのは看過できないことだから、これから準備をして採取に向かいます!」

 宣言の直後、光が再び板に灯りラビくんとリムくんの耳も上に伸びた。

 絶望からの復活だ。

「本当?」

「もちろんだよ! ついでに様子も見てこようね」

「やったーー!」「ガウーー!」

 俺も心の中でガッツポーズをする。モフモフが抱きついて来てくれたからね。

「じゃあさっさと準備しなさい」

 タマさんは相変わらず酒が関わると指示が厳しくなる。モフモフを切り上げさせようとするなんて鬼だ。

「まずは堀の改造ですね」

「なんでよ?」

「今は少ないですけど、たまに飛行可能な魔物がやってくることと、今回みたいに何かあったときに確認できるように尖塔みたいなものが欲しいなって思ったからです」

「ふーん。まぁ早く終わらせてくれれば何でもいいわよ」

「かしこまりました」

 堀の側面に柵を設置して空いた角のスペースの内、北東と北西に南東の角に一つずつ、合計三つの尖塔を建てる予定だ。

 モデルは絵本に載っていた三体の始原竜で、それぞれの尻尾を洞窟の外周の柵の中に入るように設置する。尻尾を階段に利用できるし、洞窟との行き来も楽になるという設計だ。

 尻尾とは逆の方向に顔を向け、尖塔も兼ねた石像の土台はそれぞれを象徴する形の拒馬槍のようにもなっている。

 モデルの【始原竜】は世界創世の折、神族や霊王たちと一緒に『エクセリク』に降り立った原初の種族らしい。三体だけ生み出された始原竜は最強の生物というお目付役を担い、神族が起こした争いの調停役であったという。

 のちに増えたが、他を寄せつけない圧倒的な力を持つのが【天空竜】【大地竜】【溟海竜】の三体で、今回は絵本に載っていたこの三体の石像兼尖塔を設置した。

「ふ~。なんとかできた」

 黒っぽい石の色でカラフルではないけど、渋くてカッコいいと思う。絵本も全体像が分かる程度で色は黒っぽかったし、実物を見たわけではないから分からないのだ。

「……アーク……、尖塔って言ったじゃん」

「頭の上に乗るんだよ。竜の頭の上なんて滅多に乗れないから、石像で体験してみるっていうのも面白そうじゃない?」

「ここでそれはやめた方がいいんじゃないかな……」

「何で?」

 魔境に始原竜の石像を設置すると不都合でもあるのか?

「それはね、この島の大陸を挟んだ反対側が竜の生息地だからよ。【始原竜】の頭に乗ったところを見られたら殺されるわよ?」

「……肩にまでにします」

 いくら大陸を挟むと言っても、竜は空を飛べるのだ。つまりは距離は関係ない。

 最悪始原竜ではないと言い張るつもりだけど、怒っている竜に言葉が通じるかという不安がある。できればもっと早く知りたかった。

「あまり変わらない気がするけどねー」

「……あまり乗らないようにします。とりあえず竜の問題は放置して、早速ドロンの果実を採取しに森に向かいましょう」

「「おぉぉぉーー!」」「ガウゥゥゥーー!」

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

一人だけ竜が宿っていた説。~異世界召喚されてすぐに逃げました~

十本スイ
ファンタジー
ある日、異世界に召喚された主人公――大森星馬は、自身の中に何かが宿っていることに気づく。驚くことにその正体は神とも呼ばれた竜だった。そのせいか絶大な力を持つことになった星馬は、召喚した者たちに好き勝手に使われるのが嫌で、自由を求めて一人その場から逃げたのである。そうして異世界を満喫しようと、自分に憑依した竜と楽しく会話しつつ旅をする。しかし世の中は乱世を迎えており、星馬も徐々に巻き込まれていくが……。

女神様から同情された結果こうなった

回復師
ファンタジー
 どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。

暇つぶし転生~お使いしながらぶらり旅~

暇人太一
ファンタジー
 仲良し3人組の高校生とともに勇者召喚に巻き込まれた、30歳の病人。  ラノベの召喚もののテンプレのごとく、おっさんで病人はお呼びでない。  結局雑魚スキルを渡され、3人組のパシリとして扱われ、最後は儀式の生贄として3人組に殺されることに……。  そんなおっさんの前に厳ついおっさんが登場。果たして病人のおっさんはどうなる!?  この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。

辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~

Lunaire
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。 他作品の詳細はこちら: 『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】 『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】 『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】

クラス転移で神様に?

空見 大
ファンタジー
集団転移に巻き込まれ、クラスごと異世界へと転移することになった主人公晴人はこれといって特徴のない平均的な学生であった。 異世界の神から能力獲得について詳しく教えられる中で、晴人は自らの能力欄獲得可能欄に他人とは違う機能があることに気が付く。 そこに隠されていた能力は龍神から始まり魔神、邪神、妖精神、鍛冶神、盗神の六つの神の称号といくつかの特殊な能力。 異世界での安泰を確かなものとして受け入れ転移を待つ晴人であったが、神の能力を手に入れたことが原因なのか転移魔法の不発によりあろうことか異世界へと転生してしまうこととなる。 龍人の母親と英雄の父、これ以上ない程に恵まれた環境で新たな生を得た晴人は新たな名前をエルピスとしてこの世界を生きていくのだった。 現在設定調整中につき最新話更新遅れます2022/09/11~2022/09/17まで予定

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

レベルカンストとユニークスキルで異世界満喫致します

風白春音
ファンタジー
俺、猫屋敷出雲《ねこやしきいずも》は新卒で入社した会社がブラック過ぎてある日自宅で意識を失い倒れてしまう。誰も見舞いなど来てくれずそのまま孤独死という悲惨な死を遂げる。 そんな悲惨な死に方に女神は同情したのか、頼んでもいないのに俺、猫屋敷出雲《ねこやしきいずも》を勝手に転生させる。転生後の世界はレベルという概念がある世界だった。 しかし女神の手違いか俺のレベルはカンスト状態であった。さらに唯一無二のユニークスキル視認強奪《ストック》というチートスキルを持って転生する。 これはレベルの概念を超越しさらにはユニークスキルを持って転生した少年の物語である。 ※俺TUEEEEEEEE要素、ハーレム要素、チート要素、ロリ要素などテンプレ満載です。 ※小説家になろうでも投稿しています。

転生したら赤ん坊だった 奴隷だったお母さんと何とか幸せになっていきます

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
転生したら奴隷の赤ん坊だった お母さんと離れ離れになりそうだったけど、何とか強くなって帰ってくることができました。 全力でお母さんと幸せを手に入れます ーーー カムイイムカです 今製作中の話ではないのですが前に作った話を投稿いたします 少しいいことがありましたので投稿したくなってしまいました^^ 最後まで行かないシリーズですのでご了承ください 23話でおしまいになります

処理中です...