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序章 貴族転生

第十三話 観察からの武術訓練

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 小屋への引っ越し初日はモフモフと会うために森へ行き、至高の果実であるドロンの果実と武術師範を発見した。

 ドロンの果実は俺の主食となり、忠臣メイドの非常食兼おやつにもなっている。毒味と干し果実のノウハウの対価として取引した結果である。
 おかげで失敗もなく、おいしい干し果実を食せている。

 そしてオークちゃんに出会って決まった武術訓練の方針である『勝手に見取り稽古』は、近くにある兵士の訓練場の観覧席に居座ってジッと観察している。
 たまに目を閉じて空想上の自分を作り、兵士の動きをトレースさせて動かしていく。修正が必要になる都度、再び目を開けてジッと観察する。

 ただ、さすがに気持ち悪すぎたのか苦情が来た。といっても当たり障りなく、「何をしているんですか?」と言った程度だったが。

 これについては俺が悪いので、素直に謝って種族特性スキルの習熟に力を入れるようにした。もちろん、最初に作ったのは棒術用の棍である。シンプルな形だが綺麗に仕上がったと思う。

 スキルの有無で仕上がりが大きく変化することが分かった。無意識で棍を作ると表面が凸凹して薪行きになってしまう。
 しかし木工スキルを意識しての加工では、同じ素材にもかかわらず滑らかな表面になる。この差はかなり大きく、以降は意識せず創作することはなくなった。

 これは調合などの他のスキルにも適用されるのだが、現在自分が持っているスキルが分からず試すことができない。
 なんとなくありそうだなと思っているものや、種族特性スキルのみ試している状態である。

 ちなみに料理は持っていないと予想している。何度となく作ってきたが、おいしくないからだ。調理前の素材のままの方がおいしいとか終わっている。

 現在の一日のスケジュールは、早朝に起床して森へ食料と薬草採取をしに行く。たまにオークちゃんが昼寝をしていた場所に行くと、オークちゃん含めて誰かしらが戦っている。

 そこは昼寝の場所ではなく、決闘場や闘技場だったようだ。もちろん素材はありがたくもらい、一日かけて持ち帰ることもある。

 午前中は干し果実を作ったり家事をしたりと昼まで過ごし、午後の前半は種族特性スキルを向上させて行く。今作っているのはオークちゃんの等身大の木像だ。材料はムンクの樹改め脅威度四のイビルプラントである。

 オークちゃんが完勝した相手でもあるし、大きいオークちゃんを作っても余裕があるほどの大木でもある。最後にポールアックスを持たせて、俺の武術訓練を見守っていてもらおうと考えている。

 午後の後半は体術と棒術の型を始め、歩法などの基礎を学んでいる。たまにこっそりと観察しに行き間違いを正すようにしている。

 そのあとは夕食を挟んで、真っ暗になる前に本を読んで魔物や魔獣の特徴を覚えていく。特に魔物版の魔術である【魔法】については、忘れないように気をつけて読み進める。

 真っ暗になってからは心の目を鍛えるトレーニングである。
 引っ越し後から頻度が減った魔力訓練も兼ねており、魔力を放出して広げていき周囲を把握する。さらに、物の形や生命活動の有無なども把握できるようにしていくことを目標としている。

 心の目の訓練は基本的に目をつむって体全体を目にするイメージで行っている。それに加えて魔力に形を持たせて動かす訓練も合わせて行い、気絶まで持っていくようにしている。

 養父の通達がきいたのかボロ小屋に対するチョッカイはなくなり、気絶訓練ができるようになったのだ。

 だが、最近怪奇現象が起こるようになった。

 とある日の夜中にトイレという名のスライム入りの縦穴に用を足しに行くと、カツンカツンという音が暗闇に響く。
 魔の森から何かが湧いたのかと思い、急いでボロ小屋に入り武装する。でもいつまで経っても何も現れることはなく、一晩中音がするだけだった。

 これが毎晩である。

 騒音被害としては訴訟問題並みの怒りだが、幸いなことに気絶しての入眠だから気にせず爆睡できている。


 このような生活を送ること二年。俺は三歳になっていた。体格は小学生の中学年並みで、言葉遣いも普通にしていても変に思われずに済んでいる。

 体術と棒術の訓練も進み、今では観察していても気味悪がられずに自由に見学できている。しまいには訓練に参加して、初めての対人戦闘訓練も経験済みである。

 今までは一人で『勝手に見取り稽古』や基礎体力の向上、型から技への流れの確認など相手がいなくてもできることをしていた。
 でも相手がいるのとそうでないのとでは全く違うため、そろそろ組手の相手を欲していたのだ。そこに参加のお誘いである。イエス以外の言葉は存在しない。

 訓練初日は楽しくて仕方がなく、本来の目的である『勝手に見取り稽古』や動きの差異などを確認できなかった。
 後日当初の目的を達成し終えた結果、訓練内容の方向性に間違いはなく、このまま継続して行うことを決めた。

 その際、神子派兵士が俺に絡んできて模擬戦を行うことになったのだが、これを撃退し高みの見物をしているであろう場所に向かってお辞儀をしてやった。
 もちろん、予定していた満面の笑みを浮かべて手を振るということもしてみたが、カーテンが激しく動いた以外は何も起こらなかった。

 神子が焦るのも分かるんよ。だって、もう九歳だもんね。毎年職業授与の儀式に参加する常連さんだけど、未だ無職の神子さまだ。

 それに十歳は一つの節目である。

 この世界には誕生日を祝う習慣はないけど、五歳の職業授与の儀式、十歳の社会活動開始、十五歳の成人の儀式の三つの節目があり、それぞれお祝いをするのが慣習となっている。

 そんな中、あと一年しか猶予がない神子(笑)は引きこもり生活を送っている。
 病気の療養は引きこもり生活ではないと俺は思っているが、他人を虐める元気がある者を病人とは言わない。

 実際ちょっと離れた教会にも行けているし、広い屋敷の中を自分の足で歩いて小言を言って回っているらしい。
 忠臣メイドがムカつく度合では他の追随を許さないって言っていたし、俺のぶちまけが可愛いレベルだとも言っていた。

 余談だが、俺に絡んで撃退された兵士は他の兵士から口撃された上、教官に訓練不足を指摘され降格処分を受けるはめに。

 でも仕方がないんだ。

 彼は何故か剣に拘っていて、棒術の間合いに入り込めなくてイライラしているところを、足払いからの振り下ろしで気絶してしまったのだ。
 足払いだけでも転んで頭を打っていたのに、流れで追撃してしまいクリーンヒット。それも頭に。

 兵士の中に数人だが剣に拘っている者が存在するが、もれなく神子派の兵士で、神子の従者として勇者一行に加わるために剣を選んでいるらしい。

 ……言いたい。彼らに言ってしまいたい。

 神子は歴代の神子で唯一勇者になれない不憫な神子なのだと。
 それにたとえ勇者だとしても、同行者である従者には別の戦闘手段を使って欲しいと俺は思うのだが……。神子はお揃いが好きなのかな?

 とにもかくにも、武術訓練は大きく進展することになったのだ。これはかなり嬉しいことである。

 当然だが、武術訓練以外のことも大きく進展している。

 まずは種族特性スキルの木工スキルは、オークちゃんの木像と女神様の木像が完成して、現在は玄関の守り神であるモフ神様を作っている。

 迫力満点で作れば、イタズラする気も失せるかなと思ってのことだ。
 ちなみにモフ神様の名前は図鑑に載っておらず不明であるが、角付きの熊さんである。決闘場でオーガと戦って圧勝した猛者で、まさかの格闘術を使ってのフルボッコ。

 その瞬間、角付き熊さんは俺の体術の師範に就任し、俺も雑用係に就任したのだった。同時に角付き熊さんから熊親分に転職を果たす。

 俺の定位置である観客席に視線を送り、処分しておけとでも言っているのか「グォ」と一鳴きして去って行ったのだ。

 オーガは薬や革鎧などにする分には優秀な魔物なのだが、肉は硬くて筋張っているらしく食べれない。骨も使えないことはないけど、骨から大量の肉を削ぎ落としてでも使いたいものではない。

 結果、ほとんどがゴミなのだ。

 人間からすれば脅威度四の魔物を倒した報酬としては少なく感じるだろう。俺はごっつぁん要員だから、全てありがたくもらって帰っている。
 ただオーガの骨肉は地魔術の《掘削》を使って穴を掘り、近場から捕まえてきたスライムをぶち込み処分した。

 何故ならば、決闘場を荒らしたり汚したりしてはならないからだ。と、勝手に思い込んでいる。

 続いて調合スキルについて。これは思いの外簡単に上達していき、娼館で使われている特殊な興奮剤の製作の手伝いをして小銭を稼いでいる。

 忠臣メイドに痛み止めの薬を作ってあげたら養父から提案されたのだ。お小遣い稼ぎのようなもので、ノルマはないという。
 様々な理由をつけてかなり天引きされているだろうが、小遣いくらいにはなっているから嘘ではない。

 最後に魔力訓練だが、無属性魔術の研究も合わせて行っているため武術訓練ほど進展はない。反復練習の日々である。

 果たして平和な日々が続いていたのだった。
 
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