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序章 貴族転生
第十一話 断罪からの食料調達
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生まれてきてからまだ一年だが、迷惑をかけているなと思った相手としては養父くらいしか思い浮かばない。
本人がどういう人物であれ、妻の不貞の子どもを家に住まわせ乳母とメイドを手配してくれているのは事実である。
貴族ゆえの体裁を守るためと言えばそこまでだが、母親の不始末なのに母親は出産直後から一度も会っていないことから、義務を放棄していることは確実だろう。
では神子はどうだろう?
俺は伯爵家の子どもではないのだから時期がくれば出て行くのだから放っておけばいい。それなのに使用人を使った嫌がらせが絶えることはない。
今回も使用人が神子の指示でボロ小屋を汚しにきた対策の結果であり、使用人にも非があるものなのだ。神子の言うことは絶対などという制度はこの世界にないことは、すでに書物を読んで知っている。
盗賊に関してなどの法律問題が気になったことから、司法制度や宗教制度に関する書物を読んでいた。そもそも聖職者ですら神子の言うことを拒否できるのだ。
伯爵家の使用人の中にも神子だから何? って考えの人もいるようで、虐めに関わる者は将来を見越したゴマすり野郎たちだけである。
それなのに我慢に我慢を重ねて、掃除の妨害に対する策を立てて実行したら悪魔呼ばわり。
もう俺の中の我慢は限界だった。ただそれだけだ。
その後、養父に事情を話してボロ小屋の前に来てもらった。証拠である使用人を助けたら、俺の一方的な過失にされかねないからだ。
「はくしゃくさま。このしようにんはじょうきゅうしようにんですよね? なぜこのようなばしょにきたのでしょうか?」
「…………何故だ?」
養父は意外にも理性的に対応してくれ、一方的に俺が悪と決めつけての折檻は行わなかった。俺はいつ暴力が飛んできてもいいように魔力で体の表面を覆い、それを固めるイメージで防御態勢を取っていたのだが、不発に終わる。
「…………」
兵士と他の使用人によって引き上げられて毛布にくるまれた暴言使用人は、養父に尋ねられるも沈黙を貫く。
「もう一度だけ聞く。答えなければ相応の処分を下す。この赤子の周辺での使用人の事件は二度目だ。処罰も前例を踏襲する。では、何故ここに来たか答えよ」
「……手伝いに来ました」
「それはない。お前の部下からの聞き取りは終わっている。部下の『掃除終了』の報告を受けた後、お前はここに来ている。本当のことを言わなければ、答えたことにはならない。罰を受けるということで良いのだな?」
「……み……神子様に……妨害しろと! 破壊はできません! せめて! せめて汚そうと思ったら……っ!」
「落とし穴に落ちたということか」
「はい……」
前例を踏襲する。つまりは犯罪奴隷として娼館送りだ。ちなみに、ここまで必死なのには理由がある。
第一に娼館の客の九割以上が男であること。第二に娼館で開催されている女性向けのショーである。
自分の想い人や家族に見られるだけで絶望するような内容で、キャストはほとんどが犯罪奴隷である。
余談だが、忠臣メイドから聞いた話によると、パパエルフみたいに絶世の美女と比較しても遜色がないほど中性的でイケメンであれば、両刀として活躍できるからショーには出ない。価値が下がるかららしい。
しかし使用人はフツメンマッチョである。出演は確実で、彼自体女性に混じってショーを見に行った口だろう。でなきゃ内容などは分かるはずもない。
それにしてもよりにもよって手伝いに来たとか、いったいどの口がそれを言うのだろうか。しかも神子の仕業と言ってしまった。ということは……。
「長い間ご苦労だった。配置転換を命ずる。それまでは謹慎処分とし外出を禁じる」
「そ……そんな……! 何故です!?」
「ノアはそんな命令は出していないと言っていた」
「嘘だ……! そんなこと……!」
仕方ないんよ。アイツこそ悪魔なんだから。でも俺もここで言っておくことがある。
「はくしゃくさま。これからもぼうはんたいさくはひつようでしょうか?」
「……杭とロープを渡す。それを使い境界を作れ。勝手に内側に入る者は処分対象とする旨を通達しておく。対処も枠内であれば許す」
「ありがとうございます」
ペコリとお辞儀をして微笑む。普通の大人なら可愛いと思う者が多いだろうが、養父は顔を歪めて去って行った。
◇
後日杭とロープが届き、早速増改築予定地を示すための場所に杭を打ち込んでいく。もちろん地魔術を使った楽々土木工事である。
落とし穴の時にも使った生活魔術の《掘削》や基礎魔術の《硬化》は、土木工事のためにある魔術と言っても過言でないほど楽ができる。
神様本当にありがとうございます。
そして入居の日。
「お世話になりました」
自室にお礼を言って屋敷の裏手にあるボロ小屋へと移動した。まだまだ冬が続くのに小屋に移される赤ん坊。あり得ないことだけど寒さと食事以外に不安はなく、ワクワクする気持ちの方が勝っていた。
「んー……激寒っ!」
三ヶ月前の養育費請求後に防寒具と布団の新調を頼んで、さらにお古でもいいから調理器具を要求した。
でも一番欲しかった暖房器具は断念。暖炉なんて高級家具は不可能だし、ボロ小屋すぎて室内で火を使うことが怖い。一歩間違えたら家なき子になってしまう。
それと照明はもらえなかった。冬の間は日が暮れるのが早く、照明は必須アイテムなのに渡されず、夜は手探りでの作業がメインとなるらしい。
「はぁ……。先が思いやられる。せめてモフモフを……。モフモフを抱かせて欲しい……」
寒さに震え、モフモフ成分の欠如による禁断症状にも震えた俺は、ふとあることを思いつく。
「森に行こう!」
まだ明るいし、晩御飯用の木の実を採取したり木材も欲しい。さらに遠目でもいいからモフモフが見たい。魔物や魔獣がいるかもしれない。
「ナイフよーし! ロープよーし! 防寒具よーし! 背負い籠よーし! 準備よし! 出発!」
戸締まりをしてすぐ裏にある柵を乗り越え森に入る。冬のせいもあって辺りは薄暗く、独特の雰囲気を醸し出している。
平時なら気持ち悪さが勝って近づきもしなかっただろうが、今はモフモフのことしか考えていなかったせいか、「モフモフワールドってこういう場所なんだ」という感想しか出なかった。
「グオォォーー……グオォォーー……」
ん? いびき?
森に入ってすぐに植物図鑑に乗っていた栄養満点な果物の群生地と、木の実の群生地を見つけて必死に採取していた。
もちろん採りすぎないように注意しながらではあるが、マンゴーに似た果実に期待し、少し採りすぎてしまった感もある。最悪余ったら干し果実に挑戦しよう。毒味はもちろん忠臣メイドである。
そして爆採りが一段落した後に聞こえてきたいびき。もしかしてモフモフ登場なのではないか? と思わずにはいられない。気配を殺して風下から近づくと、そこにいたのはモフモフ……ではなくてツルリンだった。
正確に言うのなら重武装した緑色の豚が、涅槃像姿で爆睡していた。それもなかなかの巨体である。三メートルくらいはあるんじゃないか?
もしかしてこれがオークではないかと思っていると、俺がいる場所の反対側からムンクの叫びのような顔をした歩く樹が現れた。
昼寝を邪魔された仮定オークは、横に置いてあったポールアックスを構えて戦闘態勢を整えた。
対するムンクの樹は……
「ボォォォォォォーーー!」
と口のような穴から音を発して枝と根をウネウネさせていた。こちらも戦闘態勢であるということか。
「ブモオォォォォーー!」
勇ましい雄叫びを上げた仮定オークは、見た目を裏切り力強い踏み込みをすると一瞬で懐に入る。
ポールアックスの攻撃は遠心力を使った破壊力の加増と間合いの長さなのだが、仮定オークは通常の斧のようにコンパクトに振り回して、大振りによる隙を作らないように動いていた。
その間もムンクの樹の枝による攻撃をひらりひらりとかわし、同じ場所に的確に斧の攻撃を与えていた。
結果、ムンクの樹の動きが止まり幹に大きな亀裂が生じる。これを見逃すはずもなく、持ち手の移動を瞬時に行い、遠心力の力を乗せたポールアックス本来の強力な一撃が亀裂に叩き込まれた。
勝敗は決した。仮定オークの完勝だ。
本人がどういう人物であれ、妻の不貞の子どもを家に住まわせ乳母とメイドを手配してくれているのは事実である。
貴族ゆえの体裁を守るためと言えばそこまでだが、母親の不始末なのに母親は出産直後から一度も会っていないことから、義務を放棄していることは確実だろう。
では神子はどうだろう?
俺は伯爵家の子どもではないのだから時期がくれば出て行くのだから放っておけばいい。それなのに使用人を使った嫌がらせが絶えることはない。
今回も使用人が神子の指示でボロ小屋を汚しにきた対策の結果であり、使用人にも非があるものなのだ。神子の言うことは絶対などという制度はこの世界にないことは、すでに書物を読んで知っている。
盗賊に関してなどの法律問題が気になったことから、司法制度や宗教制度に関する書物を読んでいた。そもそも聖職者ですら神子の言うことを拒否できるのだ。
伯爵家の使用人の中にも神子だから何? って考えの人もいるようで、虐めに関わる者は将来を見越したゴマすり野郎たちだけである。
それなのに我慢に我慢を重ねて、掃除の妨害に対する策を立てて実行したら悪魔呼ばわり。
もう俺の中の我慢は限界だった。ただそれだけだ。
その後、養父に事情を話してボロ小屋の前に来てもらった。証拠である使用人を助けたら、俺の一方的な過失にされかねないからだ。
「はくしゃくさま。このしようにんはじょうきゅうしようにんですよね? なぜこのようなばしょにきたのでしょうか?」
「…………何故だ?」
養父は意外にも理性的に対応してくれ、一方的に俺が悪と決めつけての折檻は行わなかった。俺はいつ暴力が飛んできてもいいように魔力で体の表面を覆い、それを固めるイメージで防御態勢を取っていたのだが、不発に終わる。
「…………」
兵士と他の使用人によって引き上げられて毛布にくるまれた暴言使用人は、養父に尋ねられるも沈黙を貫く。
「もう一度だけ聞く。答えなければ相応の処分を下す。この赤子の周辺での使用人の事件は二度目だ。処罰も前例を踏襲する。では、何故ここに来たか答えよ」
「……手伝いに来ました」
「それはない。お前の部下からの聞き取りは終わっている。部下の『掃除終了』の報告を受けた後、お前はここに来ている。本当のことを言わなければ、答えたことにはならない。罰を受けるということで良いのだな?」
「……み……神子様に……妨害しろと! 破壊はできません! せめて! せめて汚そうと思ったら……っ!」
「落とし穴に落ちたということか」
「はい……」
前例を踏襲する。つまりは犯罪奴隷として娼館送りだ。ちなみに、ここまで必死なのには理由がある。
第一に娼館の客の九割以上が男であること。第二に娼館で開催されている女性向けのショーである。
自分の想い人や家族に見られるだけで絶望するような内容で、キャストはほとんどが犯罪奴隷である。
余談だが、忠臣メイドから聞いた話によると、パパエルフみたいに絶世の美女と比較しても遜色がないほど中性的でイケメンであれば、両刀として活躍できるからショーには出ない。価値が下がるかららしい。
しかし使用人はフツメンマッチョである。出演は確実で、彼自体女性に混じってショーを見に行った口だろう。でなきゃ内容などは分かるはずもない。
それにしてもよりにもよって手伝いに来たとか、いったいどの口がそれを言うのだろうか。しかも神子の仕業と言ってしまった。ということは……。
「長い間ご苦労だった。配置転換を命ずる。それまでは謹慎処分とし外出を禁じる」
「そ……そんな……! 何故です!?」
「ノアはそんな命令は出していないと言っていた」
「嘘だ……! そんなこと……!」
仕方ないんよ。アイツこそ悪魔なんだから。でも俺もここで言っておくことがある。
「はくしゃくさま。これからもぼうはんたいさくはひつようでしょうか?」
「……杭とロープを渡す。それを使い境界を作れ。勝手に内側に入る者は処分対象とする旨を通達しておく。対処も枠内であれば許す」
「ありがとうございます」
ペコリとお辞儀をして微笑む。普通の大人なら可愛いと思う者が多いだろうが、養父は顔を歪めて去って行った。
◇
後日杭とロープが届き、早速増改築予定地を示すための場所に杭を打ち込んでいく。もちろん地魔術を使った楽々土木工事である。
落とし穴の時にも使った生活魔術の《掘削》や基礎魔術の《硬化》は、土木工事のためにある魔術と言っても過言でないほど楽ができる。
神様本当にありがとうございます。
そして入居の日。
「お世話になりました」
自室にお礼を言って屋敷の裏手にあるボロ小屋へと移動した。まだまだ冬が続くのに小屋に移される赤ん坊。あり得ないことだけど寒さと食事以外に不安はなく、ワクワクする気持ちの方が勝っていた。
「んー……激寒っ!」
三ヶ月前の養育費請求後に防寒具と布団の新調を頼んで、さらにお古でもいいから調理器具を要求した。
でも一番欲しかった暖房器具は断念。暖炉なんて高級家具は不可能だし、ボロ小屋すぎて室内で火を使うことが怖い。一歩間違えたら家なき子になってしまう。
それと照明はもらえなかった。冬の間は日が暮れるのが早く、照明は必須アイテムなのに渡されず、夜は手探りでの作業がメインとなるらしい。
「はぁ……。先が思いやられる。せめてモフモフを……。モフモフを抱かせて欲しい……」
寒さに震え、モフモフ成分の欠如による禁断症状にも震えた俺は、ふとあることを思いつく。
「森に行こう!」
まだ明るいし、晩御飯用の木の実を採取したり木材も欲しい。さらに遠目でもいいからモフモフが見たい。魔物や魔獣がいるかもしれない。
「ナイフよーし! ロープよーし! 防寒具よーし! 背負い籠よーし! 準備よし! 出発!」
戸締まりをしてすぐ裏にある柵を乗り越え森に入る。冬のせいもあって辺りは薄暗く、独特の雰囲気を醸し出している。
平時なら気持ち悪さが勝って近づきもしなかっただろうが、今はモフモフのことしか考えていなかったせいか、「モフモフワールドってこういう場所なんだ」という感想しか出なかった。
「グオォォーー……グオォォーー……」
ん? いびき?
森に入ってすぐに植物図鑑に乗っていた栄養満点な果物の群生地と、木の実の群生地を見つけて必死に採取していた。
もちろん採りすぎないように注意しながらではあるが、マンゴーに似た果実に期待し、少し採りすぎてしまった感もある。最悪余ったら干し果実に挑戦しよう。毒味はもちろん忠臣メイドである。
そして爆採りが一段落した後に聞こえてきたいびき。もしかしてモフモフ登場なのではないか? と思わずにはいられない。気配を殺して風下から近づくと、そこにいたのはモフモフ……ではなくてツルリンだった。
正確に言うのなら重武装した緑色の豚が、涅槃像姿で爆睡していた。それもなかなかの巨体である。三メートルくらいはあるんじゃないか?
もしかしてこれがオークではないかと思っていると、俺がいる場所の反対側からムンクの叫びのような顔をした歩く樹が現れた。
昼寝を邪魔された仮定オークは、横に置いてあったポールアックスを構えて戦闘態勢を整えた。
対するムンクの樹は……
「ボォォォォォォーーー!」
と口のような穴から音を発して枝と根をウネウネさせていた。こちらも戦闘態勢であるということか。
「ブモオォォォォーー!」
勇ましい雄叫びを上げた仮定オークは、見た目を裏切り力強い踏み込みをすると一瞬で懐に入る。
ポールアックスの攻撃は遠心力を使った破壊力の加増と間合いの長さなのだが、仮定オークは通常の斧のようにコンパクトに振り回して、大振りによる隙を作らないように動いていた。
その間もムンクの樹の枝による攻撃をひらりひらりとかわし、同じ場所に的確に斧の攻撃を与えていた。
結果、ムンクの樹の動きが止まり幹に大きな亀裂が生じる。これを見逃すはずもなく、持ち手の移動を瞬時に行い、遠心力の力を乗せたポールアックス本来の強力な一撃が亀裂に叩き込まれた。
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