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序章 貴族転生
第十話 掃除からの死刑宣告
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早いもので、小屋への引っ越しが決まってから三ヶ月が経った。つまりはまもなく引っ越しだ。
一年しかいなかったが、なかなか感慨深いものである。おしめストライキによる抗議デモとしてぶちまけて爆笑したり、赤ん坊の顔面を鷲掴みにして自分の胸から離そうとする必死な乳母と格闘したり、虐待使用人を爆速ハイハイで階段下に突き落としたり。
…………あれ? 三人しか来ていない。
養父は……呼び出しだったからな。うん……やっぱり三人だけだ。しかも全員他人。悲しくはないけど、モヤッとするのは何故だろう。
まぁ小屋へ引っ越した後は神子に会えるはずだから、そのうち他の家族にも会えるだろう。
決して会いたいわけではないのだが、何故か顔を見たくなってしまうのだ。血のつながりはないのに。
ちなみに神子に会える理由は、神子の部屋は二階の角部屋で、部屋からは訓練場がよく見えるのだとか。その訓練場の近くに俺の新居があるわけで、訓練場を含む周辺が俺の新たな領域になる予定だ。
そして神子は羨ましそうに訓練場を見ているようで、俺は訓練場から手を振ることを夢に見ている純粋で可愛い弟なのだ。
さて今日は引っ越しを控えた小屋の掃除をしに来ている。
俺付きの忠臣メイドは解任されて神子の妹付きに転職を果たしたのだが、この間愚痴を言いに俺の部屋にきた。
「あんたぶちまけたり乳母と格闘したりと、阿呆の子のヤバいやつだと思ってたけど、異常なくらい楽な赤ん坊だったのね。今の子はあんたより三つも上なのに、あんたより手が掛かってしょうがない。それに加えて神子様に洗脳されているおまけ付き。あんた自称無垢なガキに襲撃されるかもしれないから気をつけなさいよ!」
と言って帰っていった。
一応お礼は言った。初めて忠臣らしい忠告をくれたのだ。驚きながらもお礼は言えた。忠臣メイドは一年間楽にできたお礼だとカッコいいことを言っていたが、途中から目が据わっていき仕事に戻っていった。
できることなら忠臣メイドを継続してやりたかったが、またしても神子が邪魔をする発言をしたのだ。今度は俺を飢餓地獄に送りたいらしい。
そう、俺は料理ができないのだ。
前世ではレシピ本を見たりネット検索するのは好きだった。でもそれを彼女や母親の元に持っていき、これを作ってと言って楽をするクズ野郎だったのだ。
その結果、苦しむことなった今世。
来世があるか分からないが、今世は頑張って料理をしてみよう。何と言ってもモフモフたちに食べさせて上げたい。霊王様は何が好きかな? とか考えると時間はあっという間に過ぎ去り、寂しいとか悲しいとか全く感じている暇がないのだ。
閑話休題。
目の前には倉庫と呼ぶには小さい小屋がある。大人が二人寝られるだけのスペースしかない道具置き場のようだ。
しかも長期間使われていなかったせいか、すごく汚くて老朽化している。
「赤ん坊にこの環境の住居はダメだろ! 絶対に仕返ししてやる! あの陰険病弱雑魚勇者(笑)!」
おそらく初めてだろう。神子に対して悪態をつくのは。それほどに今回はムカついた。よって報いは受けてもらう。
とりあえず神子に対する報いの前に目の前のボロ小屋問題を片付けよう。
老朽化は怖いけど今はどうしようもないから掃除だけして、木工スキルのレベルが上がったら少しずつ修繕していこう。
そのうち拡張とかして柵側にウッドデッキ兼作業場も作りたい。森暮らしで住居を得る練習だと思えば、さほど苦だと思わない。
まずは中にある道具を全て出していくことからだが、嬉しいことに木工用の道具が揃っている。このあとどこにあるか探しに行く予定だったのだが、手間が省けたのは助かる。
ただ調合用の道具は別の保管庫に置いてあるらしく、引っ越し当日まではお預け状態である。早めに状態を確認したかったのだが、こればかりは仕方がない。
他には農機具があったが、許可もないし農業をする暇などないため採取に必要な鍬や鎌など以外は、収納場所を変更する道具コーナーへと回す。
次に明かり採り用の小さい窓を開けて換気を行い、鼻と口を布で覆ってホコリをはたいていく。小屋は平屋造りで小さいが、赤ん坊の背丈では届かないところもある。
そこは大学生の中身を活かして全体をもれなく叩き、ホコリを箒で外に出していく。あとは水拭きするだけだ。
ここで魔術でやったらどうだろうと考えたのだが、ボロ小屋が倒壊するという最悪な予感がしたことにより断念。木箱を足場にして自力で天井から床までを磨き上げた。
この際、水魔術による楽々清掃術は使用できなかったが、穴を掘り汚水を捨てて新しい水を出すという行為は魔術のおかげで苦もなく行え、掃除という重労働を無事に済ますことができた。
あとは道具の移動である。
必要な道具はボロ小屋の隅にまとめて置き、他はボロ小屋の脇に置いてある荷車に載せて別の倉庫に持っていく。
うん。一歳児にやらせることではないな。それに一歳児ができることでもないな。十分異端児である。神子が焦る気持ちは分かるが、「アレはおかしい!」と思ってしまえば楽なのに。
まぁ俺は神子のことをおかしいと思っているから、このあとの展開も予想できる。どうせ掃除を終えたボロ小屋を壊すか汚すかすることだろう。
基本的に自分ではできない意気地なしくんだから、今回も人に任せて妨害をすることは予想できる。使用人の場合、対象がボロ小屋でも主家の財産の破壊は嫌がるだろう。つまり、汚し一択というわけだ。
それならば簡単に対策を立てることができる。
戸締まりは当然のようにする。窓と扉は一つずつしかないし、他に壊さずに入室できるところはない。
そこで扉の前に二メートルほどの縦穴を掘って落とし穴を作ることにした。もちろんそれだけであるはずはなく、仕事熱心な使用人を労るために冷水を入れた水風呂を用意してあげようと思っている。
余談だが俺の誕生月は『誕生の月』と呼ばれる月で、前世で言うところの一月である。つまり今は冬真っ盛りということだ。
それと誕生日ではなく誕生月という言い方をしたのは、誰も誕生日を教えてくれなかったからである。この世界で唯一の戸籍証明である貴族名鑑に載っていない可能性すらある。
不憫な子なんですー!
と、おちゃらけながら落とし穴を準備し荷車を引く。
普通なら動かないはずの荷車を引けているのは、ひとえに爆速ハイハイのおかげである。おそらくあの時の異常な身体能力が身体強化を行ったときの効果ではないかと推測し、現在も行使しながら荷車を引いている。
「すみませーん! どうぐのいどうにきましたー!」
「えっ? ……あぁ……。こちらです」
俺の新居であるボロ小屋とは違い、大きく新しい倉庫の前で忙しそうに作業をしている使用人に、よそ行きのたどたどしい話し方で声をかけると、目と口を大きく開けて驚いていた。
直後、事前に聞いていたことと噂話を思い出して対応したのだろうが、しきりに首を捻るところを見るとなかなか納得できないようだ。
気持ちは分かる。俺も一歳児が荷車を引いてきたら、一歳児に化けた何か別の生き物だろうと現実逃避する自信がある。
それに加えて、俺はこの伯爵家ではいろいろな意味でアンタッチャブルな存在なのだ。対応に困っても仕方がない。
「ではにぐるまをもどしてきます」
「お疲れ様でした」
荷車を返しに行くだけが目的ではないが、荷車をこれからも使うために返しに行くフリをして確保しているだけである。
「あれれー? こんなところにあながあいてるぞー? これじゃあなかにはいれないから、うめないといけないなぁ」
「だ……だ……だず……げ……で……」
「ん? なにかきこえたぞー? あっ! ひとがいる! どしたん? なにかあったん? ん?」
ガタガタ震えながら一生懸命救助を懇願している男の使用人にできるだけ無邪気そうに見え、それでいてイタズラが成功したことを喜ぶ悪ガキのような笑みを浮かべて問いかける。
すると、自分の立場が分かっていないのか使用人は暴言を問いかけの答えとし、俺に向かって吐き捨てた。
「悪……魔……!」
この言葉を聞いた俺は、俺の中にヒンヤリとする何かが表に現れるのを感じ、思わず言葉にしていたことを言ったあとに気づくのだった。
「さようなら」
一年しかいなかったが、なかなか感慨深いものである。おしめストライキによる抗議デモとしてぶちまけて爆笑したり、赤ん坊の顔面を鷲掴みにして自分の胸から離そうとする必死な乳母と格闘したり、虐待使用人を爆速ハイハイで階段下に突き落としたり。
…………あれ? 三人しか来ていない。
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まぁ小屋へ引っ越した後は神子に会えるはずだから、そのうち他の家族にも会えるだろう。
決して会いたいわけではないのだが、何故か顔を見たくなってしまうのだ。血のつながりはないのに。
ちなみに神子に会える理由は、神子の部屋は二階の角部屋で、部屋からは訓練場がよく見えるのだとか。その訓練場の近くに俺の新居があるわけで、訓練場を含む周辺が俺の新たな領域になる予定だ。
そして神子は羨ましそうに訓練場を見ているようで、俺は訓練場から手を振ることを夢に見ている純粋で可愛い弟なのだ。
さて今日は引っ越しを控えた小屋の掃除をしに来ている。
俺付きの忠臣メイドは解任されて神子の妹付きに転職を果たしたのだが、この間愚痴を言いに俺の部屋にきた。
「あんたぶちまけたり乳母と格闘したりと、阿呆の子のヤバいやつだと思ってたけど、異常なくらい楽な赤ん坊だったのね。今の子はあんたより三つも上なのに、あんたより手が掛かってしょうがない。それに加えて神子様に洗脳されているおまけ付き。あんた自称無垢なガキに襲撃されるかもしれないから気をつけなさいよ!」
と言って帰っていった。
一応お礼は言った。初めて忠臣らしい忠告をくれたのだ。驚きながらもお礼は言えた。忠臣メイドは一年間楽にできたお礼だとカッコいいことを言っていたが、途中から目が据わっていき仕事に戻っていった。
できることなら忠臣メイドを継続してやりたかったが、またしても神子が邪魔をする発言をしたのだ。今度は俺を飢餓地獄に送りたいらしい。
そう、俺は料理ができないのだ。
前世ではレシピ本を見たりネット検索するのは好きだった。でもそれを彼女や母親の元に持っていき、これを作ってと言って楽をするクズ野郎だったのだ。
その結果、苦しむことなった今世。
来世があるか分からないが、今世は頑張って料理をしてみよう。何と言ってもモフモフたちに食べさせて上げたい。霊王様は何が好きかな? とか考えると時間はあっという間に過ぎ去り、寂しいとか悲しいとか全く感じている暇がないのだ。
閑話休題。
目の前には倉庫と呼ぶには小さい小屋がある。大人が二人寝られるだけのスペースしかない道具置き場のようだ。
しかも長期間使われていなかったせいか、すごく汚くて老朽化している。
「赤ん坊にこの環境の住居はダメだろ! 絶対に仕返ししてやる! あの陰険病弱雑魚勇者(笑)!」
おそらく初めてだろう。神子に対して悪態をつくのは。それほどに今回はムカついた。よって報いは受けてもらう。
とりあえず神子に対する報いの前に目の前のボロ小屋問題を片付けよう。
老朽化は怖いけど今はどうしようもないから掃除だけして、木工スキルのレベルが上がったら少しずつ修繕していこう。
そのうち拡張とかして柵側にウッドデッキ兼作業場も作りたい。森暮らしで住居を得る練習だと思えば、さほど苦だと思わない。
まずは中にある道具を全て出していくことからだが、嬉しいことに木工用の道具が揃っている。このあとどこにあるか探しに行く予定だったのだが、手間が省けたのは助かる。
ただ調合用の道具は別の保管庫に置いてあるらしく、引っ越し当日まではお預け状態である。早めに状態を確認したかったのだが、こればかりは仕方がない。
他には農機具があったが、許可もないし農業をする暇などないため採取に必要な鍬や鎌など以外は、収納場所を変更する道具コーナーへと回す。
次に明かり採り用の小さい窓を開けて換気を行い、鼻と口を布で覆ってホコリをはたいていく。小屋は平屋造りで小さいが、赤ん坊の背丈では届かないところもある。
そこは大学生の中身を活かして全体をもれなく叩き、ホコリを箒で外に出していく。あとは水拭きするだけだ。
ここで魔術でやったらどうだろうと考えたのだが、ボロ小屋が倒壊するという最悪な予感がしたことにより断念。木箱を足場にして自力で天井から床までを磨き上げた。
この際、水魔術による楽々清掃術は使用できなかったが、穴を掘り汚水を捨てて新しい水を出すという行為は魔術のおかげで苦もなく行え、掃除という重労働を無事に済ますことができた。
あとは道具の移動である。
必要な道具はボロ小屋の隅にまとめて置き、他はボロ小屋の脇に置いてある荷車に載せて別の倉庫に持っていく。
うん。一歳児にやらせることではないな。それに一歳児ができることでもないな。十分異端児である。神子が焦る気持ちは分かるが、「アレはおかしい!」と思ってしまえば楽なのに。
まぁ俺は神子のことをおかしいと思っているから、このあとの展開も予想できる。どうせ掃除を終えたボロ小屋を壊すか汚すかすることだろう。
基本的に自分ではできない意気地なしくんだから、今回も人に任せて妨害をすることは予想できる。使用人の場合、対象がボロ小屋でも主家の財産の破壊は嫌がるだろう。つまり、汚し一択というわけだ。
それならば簡単に対策を立てることができる。
戸締まりは当然のようにする。窓と扉は一つずつしかないし、他に壊さずに入室できるところはない。
そこで扉の前に二メートルほどの縦穴を掘って落とし穴を作ることにした。もちろんそれだけであるはずはなく、仕事熱心な使用人を労るために冷水を入れた水風呂を用意してあげようと思っている。
余談だが俺の誕生月は『誕生の月』と呼ばれる月で、前世で言うところの一月である。つまり今は冬真っ盛りということだ。
それと誕生日ではなく誕生月という言い方をしたのは、誰も誕生日を教えてくれなかったからである。この世界で唯一の戸籍証明である貴族名鑑に載っていない可能性すらある。
不憫な子なんですー!
と、おちゃらけながら落とし穴を準備し荷車を引く。
普通なら動かないはずの荷車を引けているのは、ひとえに爆速ハイハイのおかげである。おそらくあの時の異常な身体能力が身体強化を行ったときの効果ではないかと推測し、現在も行使しながら荷車を引いている。
「すみませーん! どうぐのいどうにきましたー!」
「えっ? ……あぁ……。こちらです」
俺の新居であるボロ小屋とは違い、大きく新しい倉庫の前で忙しそうに作業をしている使用人に、よそ行きのたどたどしい話し方で声をかけると、目と口を大きく開けて驚いていた。
直後、事前に聞いていたことと噂話を思い出して対応したのだろうが、しきりに首を捻るところを見るとなかなか納得できないようだ。
気持ちは分かる。俺も一歳児が荷車を引いてきたら、一歳児に化けた何か別の生き物だろうと現実逃避する自信がある。
それに加えて、俺はこの伯爵家ではいろいろな意味でアンタッチャブルな存在なのだ。対応に困っても仕方がない。
「ではにぐるまをもどしてきます」
「お疲れ様でした」
荷車を返しに行くだけが目的ではないが、荷車をこれからも使うために返しに行くフリをして確保しているだけである。
「あれれー? こんなところにあながあいてるぞー? これじゃあなかにはいれないから、うめないといけないなぁ」
「だ……だ……だず……げ……で……」
「ん? なにかきこえたぞー? あっ! ひとがいる! どしたん? なにかあったん? ん?」
ガタガタ震えながら一生懸命救助を懇願している男の使用人にできるだけ無邪気そうに見え、それでいてイタズラが成功したことを喜ぶ悪ガキのような笑みを浮かべて問いかける。
すると、自分の立場が分かっていないのか使用人は暴言を問いかけの答えとし、俺に向かって吐き捨てた。
「悪……魔……!」
この言葉を聞いた俺は、俺の中にヒンヤリとする何かが表に現れるのを感じ、思わず言葉にしていたことを言ったあとに気づくのだった。
「さようなら」
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