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序章 貴族転生

第八話 成長からの屋敷追放

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 えっと……救助すべき?

 悩んだ末、一応の恩人だと思い様子を見に行くことに決めた。だけど、その前にやるべき事がある。

「おっぎゃぁぁぁぁぁーーー!」

 力いっぱい泣き叫ぶことだ。ハイハイはともかく階段を降りたら濡れ衣を着せられそうだし、異端児扱いされるのは困る。
 もう手遅れかもしれないが、無駄な抵抗をしてみても損はないだろう。

「なに? 騒々しいわね!」

 いつものメイドだ。この棟の一番近くに部屋があるため、何か起きたら責任を負わなければならないという建前が存在する。
 所詮建前だろうが仕事だ。来ないわけにはいかず、こうして俺の呼びかけに応じて馳せ参じたわけである。

 忠臣よ、ご苦労である。

 階段は目の前で、メイドは後ろから向かって来ている。つまり、あの階段は普段使われていないのだ。人目を忍んで虐待しに来る者には好都合というわけである。

「だぁ!」

「はぁ!? あんたの親じゃないから分からないわよ!」

 いや……親も分からないと思うぞ。

「んーーだぁー!」

 腕を畳んで階段の方へパンチ!

「はぁ!? 暇じゃないのよ? ……もしかして、向こうでぶちまけたの!?」

 前回のが余程堪えたようで、メイドは階段に向かって急いで歩き出す。そこでようやく気づいたようだ。

「た、大変!」

「んだんだ!」

「あんたじゃないでしょうね!? あの人は虐待の常習者だったから」

 知ってたなら止めろや!

「ぶぅーーー!」

「まぁそんなわけないか。トイレも分からない阿呆の子だもんね」

「あぅ?」

 目指せ阿呆の子を実行中だが、トイレは分かるぞと言ってやりたかった。

「とにかく証拠のカーテンはそのままにして、あんたを戻して人を呼んでくるか」

 なるほど。カーテンを踏んづけて転落した説にしようってことか。完全な事故として迷宮入りとなるわけだ。

 忠臣よ、素晴らしいじゃないか。褒めてつかわす。

「いい? 大人しくしてんのよ?」

「だぁーう!」

「旦那様ー、旦那様ー!」

 俺の返事を聞くと、んっんっと咳払いした後、声の高さを数オクターブ上げて人を呼びに行った。

 赤ん坊ながらに女って怖いと思う。


 ◇◇◇


 時は経ち、あれから三ヶ月がすぎて生後七ヶ月になった。この頃には言語スキルの効果もあって言葉を話せるようになり、普通に歩き回れるようにもなっていた。
 少し早すぎる気がしないでもないが、前世より二ヶ月少ないのだから案外普通かもしれない。

 だが、良くない傾向が一つある。

 食事の回数が少ない割りに元気に育ち早く成長している俺に、尋常ならざる危機感を募らせている人物がいる。

 そう、神子である。

 彼は食事も薬も十全に整えられて病弱なのだ。焦る気持ちも分からないではない。でも俺の場合は中身が大学生だから、食事の回数を減らされたのならば、相手の事情関係なく痛がるまで吸い続けて、無理矢理にでも栄養を補給していただけだ。

 つまりは普通の赤ん坊だったらとっくに死んでいるということだ。

 それとここまで神子しか嫌がらせをしていないように見えるかもしれないが、当然父親もやることやっている。

 パパエルフは就業一日目でナンバーワンになったほど稼いでいるが、そのお金が来たことはない。食事も衣服も増えない始末である。
 これでは育児をさせる以前の話だぞと思うが、海より広い心を持つ俺は許している。

 あっ! そうだ。虐待使用人がどうなったかというと、パパエルフの職場仲間になりました。

 理由はいくつかあって、まずは膝が壊れて動きづらくなったということ。次に俺の部屋のカーテンを持っていたことを追求されて神子の命令だと密告。これを聞いて黙っていられなかったのが第二夫人である。その結果、伯爵家の物を盗み出して売却しようとした罪で犯罪奴隷となりました。

 このようにいろいろと茶々が入る生活を送っているが、放置されているおかげで平和な毎日を送れていた。あの無職の神子が余計なことを言うまでは。

 あいつは幽霊くんのくせに、居候を一年も屋敷に住まわせたのだから、村の中での生活の練習をさせるべきでは? と養父に提案しやがったのだ。

 まだ一年経っていません。毎日勉強する時間があるのに、六年経っても計算もできないのですか? それに仮に一年経っていても、一年で放逐するとか馬鹿なのですか?

 そして一番困るのは魔導書問題だ。これから読み込めると思っていたから、養育費問題も広い心で見逃してきたというのに……。貴様にも爆速ハイハイを喰らわすぞ!

 まぁ少しだけ希望もある。

 忠臣のメイドによると、神子は王家に神子として届け出ていないのだ。出生届けは提出して、貴族名鑑にも「ノア・フォン・ピュールロンヒ」として記載されている。
 しかし教会にも金を掴ませて口止めをして、存在を可能な限り隠匿しているのだ。

 理由は病弱で無職の神子だ。

 武門の一族で現当主で祖父は国王の近衛として王城暮らし。父の弟たちも諜報員や武術指南役として王城暮らし。そこに俺たち兄弟の長男が王子の側近候補として王都に行っているという、エリート一族である。

 そのエリート一族に俺より立場が弱い者がいる。本来は兄の予備として、武術スキルの習熟度を上げて学園に行っているはずの神子だ。
 治れば神子として一族の役には立つが、治らなければ差別の被害を一身に受けなければいけない。何故なら唯一勇者になれない無職の神子だから。

 獣人は迫害されていた期間があり、各種族の心や歴史にもまだまだ残り続けている。そこに獣人が神子になったから勇者になれなかったという話が広がったら、被害は伯爵家だけの問題ではなくなるのだ。

 それゆえ慎重に扱い、最悪俺がノアくんになる可能性も十分にあり得る。

 さらにこの神子問題もあって村にいるというのだが、それは本当かどうか分からない。
 この村から少し北に行った場所に港が設置された町があるそうだ。そこが本来の領都であり、この村は分家の屋敷らしい。

 分家は文官よりの家系らしく、領地運営が得意だからと代官として住居を取り替えたというのが忠臣の説明だった。だいたいは本当なのだろうが、一部違うところあると思う。

 それは娼館だ。

 メイドや使用人たちの話し声に聞き耳を立てていると、かなりの種族や人数がいるだろうことが話から分かる。
 魔の森近くの辺境の村規模の娼館に大人数は必要ないし、働きに来る者も犯罪奴隷も少ないはずだ。どうやって人数を確保しているのか謎なくらいのバリエーションらしい。
 しかも一定周期で入れ替わるという。怪しい商売をしていることが明らかだ。
 それをやるための村住まいである可能性がかなり高い。

 武門の一族だけど脳筋ではないおかげで、感情論に引っ張られることなく利を取ってくれると信じている。

 その結果、言い渡されたのは屋敷敷地内にある倉庫兼小屋への移動である。それも職業授与の儀式までの仮処分だとか。

 じゃあ放逐決定だ。

 おかしな職業をもらうことは決定しているのだから。でも決定したのなら準備をしておく必要があるだろうから、こちらも少々ごねてみることにした。

「では、よういくひをください。なんばーわんなんでしょ? エルフ」

「…………」

 父、沈黙。

「がいぶんをきにして、はたらくようにしたってききました。おかねもじかんもどうぐもなければ、おいだすのとおなじってききました。がいぶんがわるいのではないですか?」

「…………誰に?」

「おにいさまです」

 知ってるんよ。神子を大切にしてるのは。

「エルフにちょくせつもらいにいっても、いいですか?」

「……時間は三ヶ月やる。一年経ってからの移動だ。道具は屋敷にあるものは使っても良い。金はその都度、何を買うか聞いてから許可を出す」

「ありがとうございます」

「ふんっ!」

 ふっふっふっ。魔導書の使用許可をもらったぜ。あとは木工と調合の道具と教本や図鑑を借りよう。小屋でひたすらレベル上げだ。自由に動き回れるようになった今、これほど楽しみなことはない。

 神子よ、ありがとう。そして思惑通りに行かなくてざまぁー。

 というか我が家で一番話が分かるのは養父だな。忠臣は基本的に愚痴を言うのとサボりに来るために、俺の部屋に来るからな。俺の方で話をまとめながら組み立てないといけないから面倒くさいんだよ。

 まぁおかげで放逐の情報を早く入手できて、準備が捗ったから良しとしよう。とりあえず魔導書だ。

 レッツ! 魔術ーー!

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