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序章 貴族転生

第二話 説明からの決意表明

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 巻き込まれの場合、異世界転生する話は多々ある。しかし、今一緒に転移してきたキラキラ勇者たちより十年も早く転生するということは、彼らはここに十年もいるということだろうか。
 某龍の珠を集める漫画の修業の部屋と言われても分からなそうな真っ白な空間に十年もとか……気が狂いそうだ。

「大丈夫よ。彼らはすぐに転移したと思っているはずだからね」

 これが神の御業というものか……。

「その通り。そもそも先ほどの天使さんは光の大精霊で、今回初めての異世界召喚の担当精霊ね。そして私はこの【エクセリク】の創造神で、名前をアルテアというの。名前でも神様でも、好きに読んでちょうだい」

 先ほど使命を告げたときの厳かな感じが消え、最初のときのような穏やかで優しいそうな声で些細な疑問にも答えてくれる。

 というか、ちょっと待て! 誰も帰ろうと思わなかったってイケメン天使が言ってたじゃないか。あれは誰も転移したことがないから、誰も帰ろうと思わなかったってことか。詐欺じゃねぇか!

 まぁとにかく言えることは、あっち側の立場じゃなくて良かった。

「いろいろと気づいたみたいだけど、詳しい話を進めるわね。ちなみに選択権はあります。転生を拒否した場合は、モフ丸くんとは別の世界で転生です」

 えっ……? どういうこと?

「何故ならば、モフ丸くんはこの度私の秘書兼癒し要員になりましたー! パチパチー!」

「わふぅ~!」

「モフ丸くんは私とこっちの世界で生活し、あなたは元の世界に戻り転生するのですよ。ねっ? 別の世界で転生になるでしょ?」

 つまり、モフ丸は天使に転生するってことか?

「素晴らしい! 大正解ー! モフ丸天使爆誕ですよー!」

「わぉぉぉーん!」

 またモフ丸と離ればなれ……。絶対ダメだっ!

 それに元々断る理由もない。
 死にかけている俺が、大好きなモフモフの王様である神獣を助けるだけで転生のチャンスがもらえるのだ。メリットしか存在しないところに、モフ丸との完全離別ときたら答えは決まったようなもの。

 やります! やらせてください!

 くしくも男の娘勇者と似たような答えになってしまったが、微塵の後悔もない。

「心は決まったみたいね。じゃあまずはその体からなんとかしないとね」

 パチッと指を鳴らす音が聞こえた後、うつ伏せで死にかけていたはずの俺の体が元の健康な状態に戻った。

「な、治った?」

「残念だけど、この空間限定で元の体の状態に戻したの。ほら、モフ丸を抱っこしたいでしょ? あとで時間作ってあげるから、とりあえず説明させてね」

「はい! ありがとうございます……!」

 今にもモフ丸に飛びつきそうな俺を優しく制しながらも、俺の方にモフ丸を押しやってくれるアルテア様に心の底から感謝する。

「まずさっきも言ったけど、モフモフの王様である神獣を捜して保護して欲しいの。その後、回復させて完全復活させるという流れね。彼は私の愛し子で【霊王】と呼ばれてるわ」

 アルテア様はモフモフの王様を愛し子と呼んだときに、悲しそうで寂しそうな表情を浮かべていた。俺はふとモフ丸を見て、アルテア様も同じなんだなと共感を覚える。

「龍脈と精霊に霊獣の管理をしてくれている必要不可欠な存在なの。彼がいなくなってしばらくした後、魔王の発生が頻発するようになったのよ」

「魔王って魔物の王ってことですよね? では魔王を討伐するために、その【霊王】様を復活させるのですか?」

「魔物の王ってところは合ってるけど、後半は違うわよ。魔王は人間たちの自業自得なんだから無視していいわ。あなたがやるべきことは霊王の完全復活だけなんだから」

 んっ? 自業自得って人間が魔王を作ってるのか? じゃあ何で勇者召喚したんだ?

「さっき異世界召喚は初めてって言ったことから分かるように、エクセリク産の勇者もいるの。魔王誕生のとき限定で神子が生まれるんだけど、彼または彼女が勇者や聖女の職業を得るのよ」

「では今回もその神子がいるのではないですか?」

「いるわよ。あなたの転生先のお兄さんが唯一の神子よ。ちなみに愛し子と神子は別物だから、一緒にしてはダメよ。神子は勇者や聖女になる可能性がある者を、見つけやすいように目印をつけた子どものことを言うのよ」

 兄か……。前世の兄や姉とはほとんど疎遠だったからな……。今回はどうだろうか……。

「ということは、兄が神子でエクセリク産の勇者ということですか?」

「違うわよ。勇者の職業に就けるのは一世代に一人だけなの。つまりはあなたのお兄さんは、長い歴史のなか唯一神子でありながら勇者になれなかった人物となるのよ。ちょっと不憫ね」

 えっ!? ちょっとじゃないよ!? 世間からフルボッコにされる案件だと思うけど……。

「今回の神子には、殺人勇者たちの案内役兼サポート役に回ってもらおうかと思ってるの。というのも、殺人勇者たちは転移前にあなたを殺そうとしたでしょ? そのような者に罰を与えるのが神の仕事なの。今回の罰は【贖罪】という称号をつけたことね。まぁ隠蔽してあるけど」

「贖罪……。罪を償う称号?」

「簡単に言うと、異世界チートで無双ハーレムを楽しんでいるだけでは史上最弱勇者にしかならないってことね。彼らに許されていることは、地獄のトレーニングに思惑ガチガチハーレムと心の底からの善行のみよ」

 どこぞの地獄みたいだ……。

 そこでふと気づく。もしかして、アイツらが巻き込まれか? 巻き込まれがチートではない珍しいパターンではないか?

 疑問を感じて訝しんでいると、アルテア様は相変わらずニコニコと微笑みながら説明してくれる。

「私は最初から【霊王】を託してもいい者を捜していたの。モフモフを心の底から愛してくれて、傷ついた心も体も癒してくれる者をね。そんなときに部下から異世界召喚の提案をされ、欲しい人材がお互い別であることもあって実行することを決めたのよ。もちろん人選は私が行ったわ」

 じゃあイケメン天使が勇者を欲したのか?

「正確には【霊王】を、私利私欲のために過去の勇者とともに封印した現在の教会が欲したのよ。【霊王】を封印したせいで被ることになった災害が、魔王誕生だろうが知ったこっちゃないわ! 自業自得よ!」

「えっ? では今も封印されているんですか?」

「いいえ。何百年もかけて封印を解いたというところまでは分かっているの。でもその先が分からなくて困っているのよね。きっと寂しい思いをしていると思うわ。……それもこれも私の信者を騙った邪教徒共のせいよ! 霊峰の資源が欲しいからと化け物呼ばわりして封印するなんて!」

 怒りが収まらないアルテア様は徐々にヒートアップしていく。しかし気持ちは痛いほど分かる。自分の愛すべきモフモフが、今まで世界に尽くしてきたモフモフが資源を独占したいがために濡れ衣を着せられるなんて……。

 このとき俺はアルテア様からの使命とか関係なく、辛い思いをしたモフモフを助けてあげたい。そのために転生するんだと。そう決意を固めたのだった。



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