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序章 貴族転生

第一話 天誅からの異世界転生

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 体が痛い。それとお湯に浸かってるみたいに温かい感じがする。近くで何かを言い合っている声が聞こえるが、何を言っているのかよく聞き取れない。何があったんだっけ?

 まず始めに愛犬のモフ丸ロスから立ち直るべく、いつもの散歩コースをモフ丸の姿を思い出しながら歩いてみたんだっけ。そしたら前から高校生三人組が歩いてきて……。

 そうだ! 突き飛ばされたんだ! 

 いきなり「天誅!」とか言って突き飛ばされて、そのまま車道に飛ばされたんだった。
 ということは、俺はあの後すぐ事故に遭ったのか。じゃあ近くで喚いているのは、高校生三人組と事故の加害者か。まぁある意味では被害者と同じだろうけど。

「若者が昼間から歩いているから天罰が落ちるのよ!」

 吐き捨てるように言った言葉が上から聞こえた。声は女性だったから、高校生三人組の中の女子だろう。既に体の自由がきかないせいで振り向くことも言い返すこともできず、心の中で「お前もな!」と言い返すことでなんとか溜飲を下げる。

 そんなとき周囲がわずかに光って見えた。俺もついにモフ丸のところに行くときが来たんだなと思い、この粋な演出をしてくれた神様に感謝した。

 だが次の瞬間には違うことが判明し、驚愕と不安が入り混じった感情が俺の中で爆発する。肉体が無事なら絶叫していただろうほどには混乱していたと思う。

 何故かって? そりゃあ高校生三人組が一緒に天国に来たからだよ。

 本当に天罰が落ちたの? それとも地獄に来てしまったのか? とかいろいろ考えたけど、真っ白の空間にイケメン天使が立っているのを見た瞬間に悟った。

 まさかの異世界転移だってね。

「ようこそ、勇者諸君」

 ほらね。イケメン天使の発言で確信を持ってしまった。さらにもう一つ判明したことがある。それは俺は巻き込まれだと。
 なんせ半分死んでる人間だからさ。これで勇者やれって言われたら、イケメン天使もイケメン悪魔に転生することになるかもしれない。

 そして俺が勝手に分析している間にもイケメン天使の説明が続いて行く。

「我が世界は未曾有の危機が迫っている。そこで異世界から勇者を召喚して助力を願おうと決まったのだが、受けてもらえるだろうか?」

「僕たちが力になれるでしょうか? 戦いとは無縁の場所で暮らしていたのです」

 小柄な男の娘と言われても通用しそうな男子がイケメン天使に質問するも、表情は期待に満ちて嬉しそうだ。きっと異世界ものが好きなんだろう。

「もちろんです。そのための準備は整えてありますよ」

「じゃあやってもいいかなって思うけど……二人ともどう思う?」

「えーー! 帰るっていう選択肢はないの?」

 ドキドキワクワクが止まらない男の娘に対して、リア充生活を送っているだろうロリ巨乳な女子高生が帰還を要求する。

「申し訳ありませんが、帰還の方法はございません。というよりも、誰も帰ろうと思わなかったため方法を研究していないのです」

「それほど素晴らしい世界ということですね!」

「その通りです。ですから、素晴らしい我が世界を危機から救っていただきたいのです」

「是非! 救わせてください!」

 ロリ巨乳女子高生のわがままも冷静な態度でさらりとかわし、楽しみで仕方がない男の娘を味方につけ逃げ道をふさいでいる。

「むぅーー! 仕方ないなぁー!」

皇帝ネロはどう思う?」

「オレ様は煌羅キラと一緒に行くって決めてるぜ!」

 おい! ネロとかキラって……名前かよ! 

 初めてキラキラネーム持ちを見たよ。でも異世界転移するなら、キラキラネームの方が世界に馴染みそうで良いかも。まぁ俺は嫌だけど。

「ありがとう! 二人ならそう言ってくれると思ったよ!」

「私からも感謝を申し上げます。では、移動しますのでついてきてください」

「分かりました! 皇帝、天使ラブ行こう!」

「おう!」 「わかったー」

 ――えっ? 俺は? 置いてかれるの? 一緒に戦えと言われるのは嫌だけど、放置されても困るよ? だって血まみれで動けないからね。

 どうしようもなくうつ伏せのまま途方に暮れていると、わずかに見える範囲にこちらに向かって歩いてくる二種類の足が現れた。
 片方は女性もののおしゃれなサンダルを履いた人間のような足で、もう片方は犬のような四足歩行動物の足だった。真っ白でポテポテ歩く姿はモフ丸並みに可愛い。

「やっといなくなったわぁ。モフ丸くんがいたから良かったものの。本当に待ちくたびれたわね」

「モ……!」

 モフ丸!? 声が出なかったが、十分に驚いている。まさかモフ丸と同じ場所に来れたなんて……。神様、ありがとう。

「どういたしまして。でもお礼ならモフ丸くんに言わないと意味がないわよ? あなたを助けるように一生懸命訴えたのは、他ならぬモフ丸くんなんだからね」

「わふぅ~」

 モフ丸は、いつもみたいに俺を励ますように優しくペロペロと顔を舐める。モフ丸との思い出がふつふつと湧いてきて、俺は知らず知らずのうちに涙を流していた。

「感動の再会ね……。うっぐぅ……。私のモフモフも元気にしてるかな……」

「わふぅ~」

「あら、私も慰めてくれるの?」

「わふっ!」

「ありがとう!」

 見えないが、おそらく声の感じから女神様らしき方がモフ丸を連れてきてくれたんだろう。しかも女神様にもモフモフがいるようだ。モフ丸が慰めていることから、現在は心配する状況にいるのかもしれない。

「さて、話しづらいだろうから後でまとめて聞いてあげるから、とりあえず聞いてちょうだい」

 心の中で「分かりました」と言い、女神様の次の言葉を待つ。

「あなたにはモフモフの王様である神獣の捜索と完全復活を手伝ってもらうため、殺人勇者たちよりも十年早く転生してもらいます」

 えっ? 転生? 十年早く? などいろいろと疑問が湧くが、女神様はニッコリと笑うだけだった。つまり、冗談ではないということだ。

 ……えぇぇぇぇぇーー!!!


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